生きる、食べる

千田 陽斗(せんだ はると)

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ことばひとつ

ナツミとマサキ 三

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マサキは胸ポケットに常備してある筆記用具わ取りだし、ナツミに命ぜられるがままに、"嫁"と言う漢字を書いてみた。
 マサキが表記した文字を指差しながらナツミはすこし強気に講釈を垂れた。
「"嫁"って漢字は女が家にいるって書きますよね?」
「は、はぁ…」
「これはつまり、女に専業主婦でいることを強いて家父長制を固定化させようとする発想です」
「よ、よくわかんないけど、フェミ…ニズムみたいな?」
「そうです。私は大学のときにフェミニズムの本を読み漁ったんです。それでなくてもあまりお互いのことも知らないのに"お嫁さん"だなんて…」
 ナツミのマウントを取りに行くような態度に煽られて、マサキの口調もかたくなになってしまった。
「仕方ないだろ。俺は農村みたいなとこで生まれ育ったんだよ。"お嫁さんに来てくんろ"なんて日常語だから、つい…」
「もういいです」
 けっきょくナツミは自分のお会計分を、マサキに投げるように渡すと先に出ていった。
 言葉ひとつで、アラサー男性とアラサー女性のお食事デートは台無しになってしまった。
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