非合法正義

千田 陽斗(せんだ はると)

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第一章

絶対ってある?

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 板垣ユキと盛田ウタコの因縁は五年まえから続いている。
 最初の出会いはもちろんゲーム大会だ。
 サムライの大会の準々決勝までトーナメントで勝ち上がった二人は、お互いにお互いのことは気にかけてはいなかった。
 しかし、一回戦っただけで二人はお互いに相手の底力を認め合わざるを得ないようになった。
 翌朝、ユキはルナの携帯に電話した。時計の針は七時をさしていた。
 ルナが電話に出るまで五コールかかった。その間にホテルの部屋の窓越しに見えた地方都市は街全体が工業的無機質さに覆われているように見えた。
「ドイツの町並みだってここまで無機質じゃないぞ」
 ユキがそう独語した瞬間にルナが携帯電話の画面をタップしたので、ルナは朝一番で「ドイツの町並みだってここまで無機質じゃないぞ」などと言うぼやきを耳にすることになった。
「着信音から察するに板垣氏ですか?朝から何事ですか?」
 彼女に悪気はないのだが、板垣ユキの常日頃の癖である舌打ちの音がスピーカーに伝わってきた。
「舌打ちは相手によっては不快な印象を与えますよ。直せるなら直したほうがよいと思います」
「ごめん、直せない。ルナ久しぶりだな。話せて嬉しいよ。ウタコとも話したいんたが寝てるか?」
 舌打ちする癖は直せないなどと口ではそういったが、ユキはこんどは舌打ちしなかった。ルナの嗜める言い方には妙にしなやかな説得力があるのだ。まるで古寺のお坊さんみたいに。
 ウタコは昨日は深酒をしてしまったし、今日も非番なので昼まで起きないと伝えた。
「ウタコは絶対に昼まで起きない?保証はある?」
「からかわないでくださいよ。この世に絶対なんてありません。こうやって電話してる声で起きるかもしれませんし」 
 絶対。このフレーズを聞くと二人は新渡戸アキコを思い出す。
 人呼んで、絶対あるかないか論争。
 新渡戸アキコはルナのゲーマーとしてのライバルであり哲学的な論争の相手でもある。
 「絶対なものはこの世にある」
 そう言って譲らない新渡戸は、「絶対なんてない」と言うルナの信念に対して「絶対なものなんて絶対にない、君はそう強く信じている。それが絶対と言うものだ」などと反論してみせた。
 その論争を横で聞いていたウタコは、「ややこしい話はやめて明日の飯のことでも考えておけ」とあきれていた。
 新渡戸アキコは二足のわらじをはいている。今はゲーマー兼漫画家として台湾に拠点を移して活動しているのだった。
 新渡戸アキコはこうも言う。
 「日本が未だに閉鎖的なのは、サムライのせいだ。いやサムライにも美点はある。しかしサムライが狭い島国でいばってばかりいるから可能性の芽が切り捨てられる」 サムライの心を内に秘めて進化の可能性を海外に探す我らが好敵手の話を少ししてユキとルナは通話を終了した。
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