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九賢者、平和への誓い
九賢者の旅立ち
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永世中立国ワイドランドの首都トゥーキオウは、背の低い建物が並ぶかわいらしい街だった。七時間にもおよぶ平和会議を終えた翌朝、九賢者たちはボックス港に集い、旅立ちの前の最後の時間を惜しんでいた。
「夢のような、それでいて有意義な時を過ごせたよ。平和に向けて互いにがんばろう」
平和会議において、議長役をつとめたマティユーが涼しげな眼に嬉しさを滲ませながら言った。
「ピエール殿も、なかなか面白いことを考えるものだ。生まれも職も違う人間がこうして同じ円卓を囲んで語り合える。まさしくこれぞ希望ではないか
」
老練の召喚士、ウィルヘルムが顎に蓄えた白髭を撫でながら感嘆に浸る。
「まさか、マティユー殿やウィルヘルム殿と言った雲の上の方にまで、お会いできるとは…。身に余る光栄でございます」
小柄な体でぴょこぴょことお辞儀をしながら謙遜するこのもの好きな男こそがこの平和会議の発案者、ピエールである。
ドイツ出身のかれは好事家である。骨董品などの収集から、パントマイムや人形劇などの芸事にまで通ずる剽軽な人間であったが、家族はみな戦争で亡くしている。
彼が法学者のマティユーや召喚士のウィルヘルムを「雲の上の存在」と言うのも無理はない。幼くして家族を亡くした彼は独学で覚えた芸やアイテムの売買で、なんとかその日暮らしをしてきたのである。
彼を本格的に平和主義に駆り立てたのは医師で孤児院も営むカルロとの出会いだ。
ピエールは、幼なじみであり王宮の軍人を辞めたばかりのオーウェル、ふたりの共通の友人で、里を追われ人間界で育ったドワーフ族のダーフィットと共に、なけなしの財産をはたいてぼろ船をチャーターしてワイドランドを訪れた。
戦争と言うものの暗部を軍人のオーウェルも人間の世界で育ったダーフィットも、いやと言うほど見てきた。
一度、永世中立国と言うものを見ておきたかったのである。
貧乏な三人の旅である。目的地について一泊したら旅費が尽きてしまった。
なんとかして、帰りの船代くらいは捻出したい。その一心でピエールは得意の人形劇を披露する場を探した。
ワイドランドは国全体として鎖国状態で閉鎖的な国でもあった。
外国から訪れた珍妙な集団に取り合ってくれる所はなかなか見つからなかった。
人形劇の上演について十三件の交渉をした。十四件めでようやく話を聞いてくれたのがトット孤児院、医師でもあるカルロが営む孤児院だった。
ワイドランドが永世中立国として歩みはじめたのはつい最近のことである。し烈を極めたミドルーン国との戦争に敗退、戦争を遂行したマルクマン政権が責任を取り総辞職、戦後の混乱の最中に成立したヨシダ・キジューロ政権はミドルーン国への賠償と永世中立路線への転換を決めた。
その路線転換がわずかに七年まえの出来事で、多くの戦災孤児が残されていた。
トット孤児院には戦争で親を亡くした孤児が五十人ほど身を寄せていた。
規模の小さなこの施設でこれだけの子供の面倒を見るのは大変なことであった。職員たちはみなきりきり舞いになっていた。
「あなたたち、どうせならここにしばらくいなさいよ」
所長であるクロロ・テッサの鶴の一声でピエールたちはここで、しばらくのあいだ住込みで働くことになった。
ピエールが上演したオリジナルの人形劇「うっかりいかだ島」は、いかだのように大海を漂流する小さな島の住民たちが主役の喜劇で、この愉快な人形劇を見た孤児たちはみな幾分かは明るさを取り戻したようだった。
戦争の犠牲者である子らと接するうちに、いつからかピエールの内に平和主義者の芽が顔を出した。
ピエールに平和会議の構想を聞いたカルロは二つ返事で協力を申し出て、知己であるストリーネ在住のマティユーと、幻獣と旅をするウィルヘルムに手紙を送った。
マティユーは親友のゲルハルトを、ウィルヘルムは弟子のナターリエと、エルフ界に住むドロテアを伴ってやってきた。
九人の平和主義者たちの集まりに九賢者と名付けたのはマティユーだった。
「夢のような、それでいて有意義な時を過ごせたよ。平和に向けて互いにがんばろう」
平和会議において、議長役をつとめたマティユーが涼しげな眼に嬉しさを滲ませながら言った。
「ピエール殿も、なかなか面白いことを考えるものだ。生まれも職も違う人間がこうして同じ円卓を囲んで語り合える。まさしくこれぞ希望ではないか
」
老練の召喚士、ウィルヘルムが顎に蓄えた白髭を撫でながら感嘆に浸る。
「まさか、マティユー殿やウィルヘルム殿と言った雲の上の方にまで、お会いできるとは…。身に余る光栄でございます」
小柄な体でぴょこぴょことお辞儀をしながら謙遜するこのもの好きな男こそがこの平和会議の発案者、ピエールである。
ドイツ出身のかれは好事家である。骨董品などの収集から、パントマイムや人形劇などの芸事にまで通ずる剽軽な人間であったが、家族はみな戦争で亡くしている。
彼が法学者のマティユーや召喚士のウィルヘルムを「雲の上の存在」と言うのも無理はない。幼くして家族を亡くした彼は独学で覚えた芸やアイテムの売買で、なんとかその日暮らしをしてきたのである。
彼を本格的に平和主義に駆り立てたのは医師で孤児院も営むカルロとの出会いだ。
ピエールは、幼なじみであり王宮の軍人を辞めたばかりのオーウェル、ふたりの共通の友人で、里を追われ人間界で育ったドワーフ族のダーフィットと共に、なけなしの財産をはたいてぼろ船をチャーターしてワイドランドを訪れた。
戦争と言うものの暗部を軍人のオーウェルも人間の世界で育ったダーフィットも、いやと言うほど見てきた。
一度、永世中立国と言うものを見ておきたかったのである。
貧乏な三人の旅である。目的地について一泊したら旅費が尽きてしまった。
なんとかして、帰りの船代くらいは捻出したい。その一心でピエールは得意の人形劇を披露する場を探した。
ワイドランドは国全体として鎖国状態で閉鎖的な国でもあった。
外国から訪れた珍妙な集団に取り合ってくれる所はなかなか見つからなかった。
人形劇の上演について十三件の交渉をした。十四件めでようやく話を聞いてくれたのがトット孤児院、医師でもあるカルロが営む孤児院だった。
ワイドランドが永世中立国として歩みはじめたのはつい最近のことである。し烈を極めたミドルーン国との戦争に敗退、戦争を遂行したマルクマン政権が責任を取り総辞職、戦後の混乱の最中に成立したヨシダ・キジューロ政権はミドルーン国への賠償と永世中立路線への転換を決めた。
その路線転換がわずかに七年まえの出来事で、多くの戦災孤児が残されていた。
トット孤児院には戦争で親を亡くした孤児が五十人ほど身を寄せていた。
規模の小さなこの施設でこれだけの子供の面倒を見るのは大変なことであった。職員たちはみなきりきり舞いになっていた。
「あなたたち、どうせならここにしばらくいなさいよ」
所長であるクロロ・テッサの鶴の一声でピエールたちはここで、しばらくのあいだ住込みで働くことになった。
ピエールが上演したオリジナルの人形劇「うっかりいかだ島」は、いかだのように大海を漂流する小さな島の住民たちが主役の喜劇で、この愉快な人形劇を見た孤児たちはみな幾分かは明るさを取り戻したようだった。
戦争の犠牲者である子らと接するうちに、いつからかピエールの内に平和主義者の芽が顔を出した。
ピエールに平和会議の構想を聞いたカルロは二つ返事で協力を申し出て、知己であるストリーネ在住のマティユーと、幻獣と旅をするウィルヘルムに手紙を送った。
マティユーは親友のゲルハルトを、ウィルヘルムは弟子のナターリエと、エルフ界に住むドロテアを伴ってやってきた。
九人の平和主義者たちの集まりに九賢者と名付けたのはマティユーだった。
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