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九賢者、平和への誓い

それぞれの道へ

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 九人の賢者たちは、九年後に同じ場所で再会することを誓い、
世界中に散った。
 「みなさん、お元気で」
 ナターリエが生まれたデンファー国はビエント帝国との戦争に負け併合されたため、もうない。
 彼女はピエールと同じく戦争で家族を亡くした。以降はさまざまな国を転々としていた。 
 師であるウィルヘルムとはフランスで出会い魔法を伝授された。その魔法と、もともと得意な武術を活かして魔法戦士として技を磨いた。
 ナターリエは新しく成立したレイサーン共和国で、平和への試みを考えていた。
 レイサーンの民が国を築いたレイサーン大陸は広大で誰も手をつけていない土地があると言われていた。
 「待てよ、ナターリエ。おれも同じ船で行くぞ」
 ゲルハルトはこの未開の土地に新たな街を作り、そこを平和の拠点とする構想を立てて、胸を膨らませていた。
 マティユーはストリーネに戻り法学者の立場から平和研究をしようと考えていた。
 マティユーは、ピエールとダーフィットとオーウェルに手紙を託した。
「きみたちはフランスに行くといい。フランスにはわたしの知り合いのルソーと言う面白い男がいるから一緒に平和研究をしてみるといい。そいつにこの手紙を渡してくれれば話は通じる」
 好奇心の塊であるピエールは、マティユーの薦める道に喜んで乗った。ダーフィットも自身のアイテム生成術を平和研究に活かしたいと思った。
 オーウェルだけが、気乗りしなかった。
「申し訳ないが、わたしは一介の剣士だ。研究などと大それたことは…」

 ウィルヘルムは召喚術で呼び出した幻獣の背に乗り、空高く舞い上がった。彼が呼び出したのは巨大な怪鳥、ロック鳥で、その姿は道行く人を驚かせた。
 前日、ウィルヘルムは賢者たちひとりひとりに魔石を託した。それはエルフであるドロテアや召喚士の魔法の伝言メッセージを受け取れるアイテムだった。
「もしなにかあったら、わしやドロテアから精霊力により、その魔石にメッセージが届く。そのときは魔石が虹色に光るから忘れるなよ」
 ドロテアは精霊力で皆の魔石を光らせて別れの合図し、エルフ界へ帰って行った。
 カルロは引き続きワイドランドにおいて、病院と孤児院の運営を続けていくと宣言した。

 去り際にマティユーがオーウェルに声をかけた。 
「そうだ。剣士であるきみにぴったりな頼みごとを思いついたよ」
 オーウェルがはっと顔を上げた。
「それは大変ありがたい。マティユー殿、わたしはあなたの頼みとあらば、剣士としてできることは何でもいたしますぞ」 
「うむ。ときにきみは勝利の剣について聞いたことはあるか」
「はい。たしかケルト国の伝承にある、意思を持ち、持ち主を自ら選ぶ剣…」
「そう。その剣を野望に燃えた帝国の人間たちが探し回っているらしい。あの強力な武器が戦争屋の手に渡ったら危険だ…」
「その剣を、わたしに?」
「そうだ。戦争屋の手に渡る前にきみに見つけてほしいんだ」
「わかりました。このオーウェル、その勝利の剣を戦争屋たちよりもはやく手にいれてみせましょう」
 
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