さまざまな時評 ~映画からニュースまで

千田 陽斗(せんだ はると)

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時評Ⅰ

アイ・トーニャという毒親映画

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 『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』
 すこし前に話題になりましたが、やっと観れました。
 
 優秀なフィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングの波乱万丈の半生を描いた作品
 欲を言えばトーニャのライバルであるナンシーに関する描写ももっとあればよかったとは思いますが、ノンフィクションの再現ものは色々と難しいのでしょう。
 あと、トーニャの母親による虐待も誇張されている可能性はあります。
 それを踏まえてもこれは、毒親映画と評していいでしょう。
 のちにナンシー襲撃事件を起こすなど、トーニャの人生に影を落とす旦那の存在も興味深いですが、暴力的な性格を秘めた彼をトーニャは拒めない。
 暴力の怖さもあるけど、これは愛情欠乏の可能性もあるでしょう。
 映画の内容に沿って話すと、トーニャは母親に優秀なフィギュアスケート選手になるべく理想を押し付けられ、日常的にも虐待を受けます。
 母親はこの映画では一度も笑顔を見せません。
 そんなトーニャですが、彼女は五輪選手を目指すにあたって審査員のひとりから、こんな話をオフレコで聞かされます。
「五輪選手は国の代表。アメリカの完璧なファミリーのイメージがいるが、君にはそれが欠けている」
 まさか、フィギュアスケートで高みを目指していく過程でも、そのような毒親が子供に押し付けるようなイメージを押し付けられるとは!
 それでもトーニャはフィギュアスケートしか生きる道がない(と思い込んでいる)。
 夫が裁判で司法取引に応じたため、トーニャは裁判上は襲撃事件の罪を認めたことになり、フィギュアスケート界から追放されてしまいます。
 ちなみに映画で描かれたストーリーのとおりならば、トーニャは襲撃事件に直接的には関与していません。

 でもトーニャは案外はやく立ち直ります。
「暴力は慣れっこ」とボクサーに転向してしまうのです。
 映画のトーニャはさらにこのような内容を語ります。
「この国は、仲間を求め、そして敵を求める」のだと。
 敵となることを引き受けたトーニャは、盛大にぶん殴られて、本編は終わります。
 トーニャが暴れ馬系なら、ナンシーはたぶん優等生のイメージでしょうか?
 ナンシーも、五輪選手としてアメリカの完璧なファミリーのイメージを引き受けるべく頑張り、結果を手にしました。
 しかし表彰台の彼女は浮かない顔。
 トーニャはその表情をやゆします。
 表舞台で勝っても暗い顔のナンシー。
 表舞台で負けても、自分の道を見つけて水を得た魚のようなトーニャ。
 何者かから勝手なイメージを押し付けられても、人はもがいてみるべきなのかもしれません。
 

 
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