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迷路
迷路街コン開催
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豆蒔町は迷路みいに入り組んでいる。五〇〇年まえの戦国時代に合戦の場となったこの町は、敵の侵入を防ぐために複雑な作りになり、いまもその名残を残している。
文政時代から続く醤油倉は木造で瓦屋根を乗せ、石壁が迷路の道沿いに走っていて、まるで江戸時代にでもタイムスリップした気分を味合わせてくれる。
この町がこんなに昔ながらの風情を保持できているのは、この町が本土から少し離れた茶碗島にあるからであった。
距離自体は数キロとさほど離れてはいないが、本土と島を結ぶ連絡船は一日数本で人の行き来も少ない。
その上に頑固な地元住民が固くなにこの島の観光地化に反対し続けてきた。
いわく、この町は戦国時代に一度、敵であった藩の甘言に弄され、目の前の富と引き換えに滅ぼされかけた。
戦国時代の終わりとともに敵方の藩も立つ瀬がなくなり、そんな藩に媚びる必要もなくなったため、そこからこの町は清貧と永世中立の精神を守ってきたという。
だから来客をもてなすような宿泊施設もほとんどなく、観光地として他所に紹介されることもなかったために、堂々たる風格を保ってきた。ここまで来ると立派である。
しかしその頑固な世代も退場しはじめると、下の世代からは"柔軟な"意見も出てくる。
この少子高齢化の時代に、この人口減の時代にただ頑固に拒み引きこもり続けては、誰も町の守り手がいなくなる。
戦国時代なら籠城を強いられているようなものではないか。
反観光地派と開国派ならぬ開"町"派の議論から生まれた折衷案は街コンだった。
「この町で若い男女に出会ってもらい、この町を好きになってもらい、この町に住んでもらう」
豆蒔町の街コンはそんなコンセプトのもとに開催された。
街コンのメインイベントは「豆蒔町のときめき探し、恋の大迷路」と銘打ったもので、これは複雑な豆蒔町全体を迷路に見立て、男女でペアを組んでもらって町中でスタンプを集めてもらうものだった。
時間内に集めたスタンプの数に応じて様々な景品が貰えると言う次第だ。
「それでは時間になりました!みなさんペアは組みましたか?豆蒔町のときめき探し、恋の大迷路、スタートです!」
司会者が告げると総勢四十名の参加者が、それぞれペアになって町に繰り出した。
しかし残念ながら、参加者の男女比がどうしても均等にならず何名かの男性が溢れた。
恥ずかしそうに初対面の人とペアを組む成人たち、不満そうな溢れた男性。
休憩所に、皆と行動をともにせずにそれぞれの動きを楽しそうに観察する女性がいた。
彼女は頭に日よけのスカーフをかぶり、色の薄いサングラスをかけ、優雅にレモネードを飲みながら人々の行動を眺めている。
「うふふ」
この街コンの主催者は、中村七男(なかむらななお)と言う男性だった。
丹念に準備してきたイベントも無事に開催され荷が下りたので、一人で様子を見に歩いていた。
七男は自販機で炭酸飲料を買って休憩所のテントに入った。七男の目に女性の姿が飛び込む。胸に街コン参加者用の花と名札をつけていた。彼女も参加者らしい。
「あ、あの、すいません。どうかされましたか?」
主催者としては一声かけないわけにはいかなった。
「いや別になんでもないんですけどー」
女性は首を動かさずに返事だけした。
「私、いちおうこの街コンの主催者でして、ペアが作れなかったとか、具合が悪いとか、なにかありましたらスタッフに対応させますが……」
「ペア?作れなかったのではなく作りませんでした。体調も悪くありませんけど」
休憩所に溢れた男性たちも入ってきた。
男性たちは休憩所に備えてあるテレビの電源を入れた。
テレビの向こうではアナウンサーが政治ニュースを読み上げる。
「続いては、カケソバ問題です。はたしてカケソバを奢られた大物政治家の忖度はあったのか?カケソバは何人で食べたのか?政治部からの報告です」
溢れた男性たちはテレビに向かって「カケソバ問題飽きた」だの「与党が野党が」などと文句をぶーぶー叫び出す。
その様子を離れて見ていた女性は思わず口を押さえる。笑いをこらえているようだ。
「カケソバ問題ですか?お好きなんですか?」
「ふふふ、お蕎麦よりうどんが好きよ。うどん県出身だし」
女性ははじめて自己を開示した。
「政治って大変ですよー。この街コンだって異論反対を納得させて、ようやく開催に漕ぎ着けたんですから。ある意味こういうのも政治だなーって思うんですよね」
「ん?何。あなたはその苦労を慮って私もあの迷路探索に参加しろと仰るのですか?
」
「い、いえ。そこまで忖度していただく必要はありません。楽しみたいように楽しんでください」
七男はこの女性に何かを試されているような感じがした。だからと言って何かできるわけでもないが。
「楽しみたいように楽しんでください、か。私の楽しみは何かわかりますか?」
挑戦的に七男をにらみながら女性が尋ねる。
「う~ん。なんだろう。人の不幸は蜜の味みたいな?なんかそんな意地の悪さを感じますね。いや嫌いじゃないですよ、そういうの。僕も仕事柄色んな人の話聞きますし」
「ふぅん。案外人を見る目ありますね」
女性は無駄のない所作で名刺入れから名刺を取り出して七男に渡した。
名刺には、「邦東日日新聞 社会部 杏羊子(あんずようこ)」とあった。
「ぜひこの街コンについて詳しくお話を聞かせてください」
文政時代から続く醤油倉は木造で瓦屋根を乗せ、石壁が迷路の道沿いに走っていて、まるで江戸時代にでもタイムスリップした気分を味合わせてくれる。
この町がこんなに昔ながらの風情を保持できているのは、この町が本土から少し離れた茶碗島にあるからであった。
距離自体は数キロとさほど離れてはいないが、本土と島を結ぶ連絡船は一日数本で人の行き来も少ない。
その上に頑固な地元住民が固くなにこの島の観光地化に反対し続けてきた。
いわく、この町は戦国時代に一度、敵であった藩の甘言に弄され、目の前の富と引き換えに滅ぼされかけた。
戦国時代の終わりとともに敵方の藩も立つ瀬がなくなり、そんな藩に媚びる必要もなくなったため、そこからこの町は清貧と永世中立の精神を守ってきたという。
だから来客をもてなすような宿泊施設もほとんどなく、観光地として他所に紹介されることもなかったために、堂々たる風格を保ってきた。ここまで来ると立派である。
しかしその頑固な世代も退場しはじめると、下の世代からは"柔軟な"意見も出てくる。
この少子高齢化の時代に、この人口減の時代にただ頑固に拒み引きこもり続けては、誰も町の守り手がいなくなる。
戦国時代なら籠城を強いられているようなものではないか。
反観光地派と開国派ならぬ開"町"派の議論から生まれた折衷案は街コンだった。
「この町で若い男女に出会ってもらい、この町を好きになってもらい、この町に住んでもらう」
豆蒔町の街コンはそんなコンセプトのもとに開催された。
街コンのメインイベントは「豆蒔町のときめき探し、恋の大迷路」と銘打ったもので、これは複雑な豆蒔町全体を迷路に見立て、男女でペアを組んでもらって町中でスタンプを集めてもらうものだった。
時間内に集めたスタンプの数に応じて様々な景品が貰えると言う次第だ。
「それでは時間になりました!みなさんペアは組みましたか?豆蒔町のときめき探し、恋の大迷路、スタートです!」
司会者が告げると総勢四十名の参加者が、それぞれペアになって町に繰り出した。
しかし残念ながら、参加者の男女比がどうしても均等にならず何名かの男性が溢れた。
恥ずかしそうに初対面の人とペアを組む成人たち、不満そうな溢れた男性。
休憩所に、皆と行動をともにせずにそれぞれの動きを楽しそうに観察する女性がいた。
彼女は頭に日よけのスカーフをかぶり、色の薄いサングラスをかけ、優雅にレモネードを飲みながら人々の行動を眺めている。
「うふふ」
この街コンの主催者は、中村七男(なかむらななお)と言う男性だった。
丹念に準備してきたイベントも無事に開催され荷が下りたので、一人で様子を見に歩いていた。
七男は自販機で炭酸飲料を買って休憩所のテントに入った。七男の目に女性の姿が飛び込む。胸に街コン参加者用の花と名札をつけていた。彼女も参加者らしい。
「あ、あの、すいません。どうかされましたか?」
主催者としては一声かけないわけにはいかなった。
「いや別になんでもないんですけどー」
女性は首を動かさずに返事だけした。
「私、いちおうこの街コンの主催者でして、ペアが作れなかったとか、具合が悪いとか、なにかありましたらスタッフに対応させますが……」
「ペア?作れなかったのではなく作りませんでした。体調も悪くありませんけど」
休憩所に溢れた男性たちも入ってきた。
男性たちは休憩所に備えてあるテレビの電源を入れた。
テレビの向こうではアナウンサーが政治ニュースを読み上げる。
「続いては、カケソバ問題です。はたしてカケソバを奢られた大物政治家の忖度はあったのか?カケソバは何人で食べたのか?政治部からの報告です」
溢れた男性たちはテレビに向かって「カケソバ問題飽きた」だの「与党が野党が」などと文句をぶーぶー叫び出す。
その様子を離れて見ていた女性は思わず口を押さえる。笑いをこらえているようだ。
「カケソバ問題ですか?お好きなんですか?」
「ふふふ、お蕎麦よりうどんが好きよ。うどん県出身だし」
女性ははじめて自己を開示した。
「政治って大変ですよー。この街コンだって異論反対を納得させて、ようやく開催に漕ぎ着けたんですから。ある意味こういうのも政治だなーって思うんですよね」
「ん?何。あなたはその苦労を慮って私もあの迷路探索に参加しろと仰るのですか?
」
「い、いえ。そこまで忖度していただく必要はありません。楽しみたいように楽しんでください」
七男はこの女性に何かを試されているような感じがした。だからと言って何かできるわけでもないが。
「楽しみたいように楽しんでください、か。私の楽しみは何かわかりますか?」
挑戦的に七男をにらみながら女性が尋ねる。
「う~ん。なんだろう。人の不幸は蜜の味みたいな?なんかそんな意地の悪さを感じますね。いや嫌いじゃないですよ、そういうの。僕も仕事柄色んな人の話聞きますし」
「ふぅん。案外人を見る目ありますね」
女性は無駄のない所作で名刺入れから名刺を取り出して七男に渡した。
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