吉田の三題話、短編のじかんです

千田 陽斗(せんだ はると)

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短編集

侍の末裔のギャル (ギャル、刀、炎の三題)

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 九〇年代、この町のコギャルというものは、強いエネルギーをもっていたという。
 そのありあまるエネルギーは、なんにでも向けられていた。
 プリクラやたまごっちだけじゃない。
 先生の説教臭い態度に反発したかと思えば、学校に迷いこんだタヌキを保護してみたり、消費増税に憤ってみたかと思えば、学校に子供向けの塗り絵本を持ち込んでみたり。
 あるいは、普段なら興味も持たないような科学の授業に興味を示したり。
「すげー!火って赤だけじゃなくて緑や紫もあるんだ!やべー!ちょっとビジュアル系?」
「ビジュアル系ってなんだよ。意味ふめー」
「だからさ、ビジュアル系の人たちもがんばって髪の毛赤とか緑とか紫にしてんじゃん。メラメラしてるかんじ?」
「ギャハハハ、やべー、やべー!」
 炎色反応というものがある。特定の金属イオンにガスバーナーなどで点火すると炎の色が変わるというものだ。
 たとえばリチウムなら赤、銅なら緑、カリウムなら紫といった具合に。
 コギャルたちは、授業中にこの炎色反応に突然感動して大声で語りはじめたのだ。
初老の科学教師は騒ぐコギャルたちを諭そうとした。
「科学の不思議さに驚いてくれるのはいいけど、授業中は静かにね」
 コギャルたちは大声で返事をした。
 
 コギャルたちにはリーダー格の存在がいた。
 その名は宮本エリサ。
 張りのあるハスキー・ヴォイスで「カラオケ行くよ!」と叫べば、落ち着きのないギャルたちがすぐに着いてくる。
 宮本エリサはカリスマだった。
 正義感もあった。
「あたしんち、日本刀あるんだけど」
 この一言でいじめっこの男子を黙らせたこともあるが、本当に彼女の家には日本刀がある。
 彼女は武士の末裔なのだ。

 夏休み目前に宮本エリサに子分のコギャルたちが提案した。
「炎色反応の実験しないっすか?」
「は?実験?だりーよ」
 「いや、あたしたち調べたんすけど、花火が色んな色を出すのは炎色反応なんですよねー。こないだの科学の授業以来それにハマっちゃって」
「お前ら真面目かよ。でも花火はいいな。今夜やるべ」
 ちなみになぜか炎色反応にハマってしまったコギャルは、後に地元初の女性花火師としてちょっとした有名人になる。
 
 その晩はスパークした。
 他校のライバルのコギャルたちが夜の公園を陣取っていたのだった。
「佐々木アミ?あいつ、昔あたしに剣道でぼろ負けしたやつじゃん!」
 佐々木アミは宮本エリサの幼なじみでありライバルだった。
 
 もはや一触即発。
 二人とも幼いころから剣道を習っていたのだが、どこからか二人分の竹刀が調達され、夜の公園は現代の巌流島となった。
 戦いの炎はどんな花火より派手に燃えたという。
 おまけに近頃この付近に出没していた下着泥棒まで捕まったという。
 彼女たちは燃えたぎっていた。

 



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