99%のサイエンス

千田 陽斗(せんだ はると)

文字の大きさ
1 / 5
被災地のユーレイに会いにいこう

エミィのおねがい

しおりを挟む
 R県Z市、未曾有の大震災から三年経っても、この街の傷は癒えていない。
 マグニチュード九の大震災は海沿いの広範な地域に影響をおよぼし、海に面したこの街には、震度七の揺れと、十メートルに達する津波が襲い、ある地区は集落ごと流され更地と化した。
 
 大宮ノリカはオカルト雑誌である月刊オーラの編集者である。 
 以前に雑誌の取材であったある人物がZ市に住んでいて、会ってくれないかと数年ぶりに連絡があったのだ。
 大宮ノリカは活発で好奇心旺盛だ。陽気な性格で霊感の類いはない。
 じつを言うとオカルト雑誌の編集者をしているのは、彼女の希望ではないのだが、いちばんに彼女が希望したファッション誌の編集部の人員がオーバー、かわりに慢性的な人員不足に悩まされているオカルト雑誌の編集部に回されたのだ。 
 しかし彼女は割りと、境遇を嘆いてはいない。UFOだのオーパーツだのツチノコだのを案外おもしろがって取材していた。
 今回、ノリカとコンタクトを取った人物は、彼女と同世代の女性で、本人は「ユーレイ研究家」と名乗っている。
 "幽霊"ではなく"ユーレイ"とカタカナで表記するのが彼女のこだわりだ。
 彼女はエミィと名乗っているが本名や詳しい素性は不明。派手にアップした金髪、つり上がった目、不機嫌そうにへの時に曲げた口元。
 一見すると変わり者なのだが、今回の震災に合ってからは地元のボランティアに積極的に参加している。
 意外にも地元のおばあちゃんたちから「エミィちゃん」と呼ばれて可愛がられているようだ。
 エミィとノリカは、丘の上からなにもなくなった浜辺を見下ろしていた。
「本当になにもないんだね」 
「そうだよ。目に見えるものはなにもない」
 エミィはかばんからファイルを取り出した。
 ファイルには何枚もの写真が閉じられている。
「これは、この街の写真だね。震災の爪痕を残してるの?」  
 ノリカがそう訊くと、エミィはまぶたを伏せた。
「よく見て。人が、この街に"住んでいた"人が写ってるのよ」  
 すべてが流された集落の写真、瓦礫で埋まった浜辺の写真。よく見ると確かに人が写っていた。
 それは生者ではなく死者の姿だった。俗に言ってしまえばそれは「心霊写真」のファイルだ。
 エミィはそのファイルをノリカに託した。
「震災から三年が経ったわ。これから震災が、震災で亡くなった人たちが、忘れられてゆくことになっていくと思うの。でも"彼ら"はまださ迷っているの」
 エミィはノリカに、被災地の霊の姿を雑誌に掲載してほしいと依頼した。その気持ちは切実そのものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

処理中です...