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被災地のユーレイに会いにいこう
エミィのおねがい
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R県Z市、未曾有の大震災から三年経っても、この街の傷は癒えていない。
マグニチュード九の大震災は海沿いの広範な地域に影響をおよぼし、海に面したこの街には、震度七の揺れと、十メートルに達する津波が襲い、ある地区は集落ごと流され更地と化した。
大宮ノリカはオカルト雑誌である月刊オーラの編集者である。
以前に雑誌の取材であったある人物がZ市に住んでいて、会ってくれないかと数年ぶりに連絡があったのだ。
大宮ノリカは活発で好奇心旺盛だ。陽気な性格で霊感の類いはない。
じつを言うとオカルト雑誌の編集者をしているのは、彼女の希望ではないのだが、いちばんに彼女が希望したファッション誌の編集部の人員がオーバー、かわりに慢性的な人員不足に悩まされているオカルト雑誌の編集部に回されたのだ。
しかし彼女は割りと、境遇を嘆いてはいない。UFOだのオーパーツだのツチノコだのを案外おもしろがって取材していた。
今回、ノリカとコンタクトを取った人物は、彼女と同世代の女性で、本人は「ユーレイ研究家」と名乗っている。
"幽霊"ではなく"ユーレイ"とカタカナで表記するのが彼女のこだわりだ。
彼女はエミィと名乗っているが本名や詳しい素性は不明。派手にアップした金髪、つり上がった目、不機嫌そうにへの時に曲げた口元。
一見すると変わり者なのだが、今回の震災に合ってからは地元のボランティアに積極的に参加している。
意外にも地元のおばあちゃんたちから「エミィちゃん」と呼ばれて可愛がられているようだ。
エミィとノリカは、丘の上からなにもなくなった浜辺を見下ろしていた。
「本当になにもないんだね」
「そうだよ。目に見えるものはなにもない」
エミィはかばんからファイルを取り出した。
ファイルには何枚もの写真が閉じられている。
「これは、この街の写真だね。震災の爪痕を残してるの?」
ノリカがそう訊くと、エミィはまぶたを伏せた。
「よく見て。人が、この街に"住んでいた"人が写ってるのよ」
すべてが流された集落の写真、瓦礫で埋まった浜辺の写真。よく見ると確かに人が写っていた。
それは生者ではなく死者の姿だった。俗に言ってしまえばそれは「心霊写真」のファイルだ。
エミィはそのファイルをノリカに託した。
「震災から三年が経ったわ。これから震災が、震災で亡くなった人たちが、忘れられてゆくことになっていくと思うの。でも"彼ら"はまださ迷っているの」
エミィはノリカに、被災地の霊の姿を雑誌に掲載してほしいと依頼した。その気持ちは切実そのものだった。
マグニチュード九の大震災は海沿いの広範な地域に影響をおよぼし、海に面したこの街には、震度七の揺れと、十メートルに達する津波が襲い、ある地区は集落ごと流され更地と化した。
大宮ノリカはオカルト雑誌である月刊オーラの編集者である。
以前に雑誌の取材であったある人物がZ市に住んでいて、会ってくれないかと数年ぶりに連絡があったのだ。
大宮ノリカは活発で好奇心旺盛だ。陽気な性格で霊感の類いはない。
じつを言うとオカルト雑誌の編集者をしているのは、彼女の希望ではないのだが、いちばんに彼女が希望したファッション誌の編集部の人員がオーバー、かわりに慢性的な人員不足に悩まされているオカルト雑誌の編集部に回されたのだ。
しかし彼女は割りと、境遇を嘆いてはいない。UFOだのオーパーツだのツチノコだのを案外おもしろがって取材していた。
今回、ノリカとコンタクトを取った人物は、彼女と同世代の女性で、本人は「ユーレイ研究家」と名乗っている。
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彼女はエミィと名乗っているが本名や詳しい素性は不明。派手にアップした金髪、つり上がった目、不機嫌そうにへの時に曲げた口元。
一見すると変わり者なのだが、今回の震災に合ってからは地元のボランティアに積極的に参加している。
意外にも地元のおばあちゃんたちから「エミィちゃん」と呼ばれて可愛がられているようだ。
エミィとノリカは、丘の上からなにもなくなった浜辺を見下ろしていた。
「本当になにもないんだね」
「そうだよ。目に見えるものはなにもない」
エミィはかばんからファイルを取り出した。
ファイルには何枚もの写真が閉じられている。
「これは、この街の写真だね。震災の爪痕を残してるの?」
ノリカがそう訊くと、エミィはまぶたを伏せた。
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すべてが流された集落の写真、瓦礫で埋まった浜辺の写真。よく見ると確かに人が写っていた。
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「震災から三年が経ったわ。これから震災が、震災で亡くなった人たちが、忘れられてゆくことになっていくと思うの。でも"彼ら"はまださ迷っているの」
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