忖度しな

千田 陽斗(せんだ はると)

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忖度論

違法献金疑惑 

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 中野ユキ子は、リヴィングの冷えたフローリングの床に愕然として座り込んだ。
 壁掛けの時計は彼の趣味でシンプルなデザイン。 
「これうちの会社にあるのに似てて嫌だ」なんて冗談を飛ばしたこともあった。
 暖房器具は、お金を節約しようとして、リサイクルショップで買った小さめのファンヒーター。
「ストーブを中古で買うの?どっか壊れてるかもしんないじゃん。それで使ってる途中で煙でも出て使えなくなったら?この冬ずっと地獄だよ」
 変なとこでケチケチする彼の癖は可笑しくもあり、たまに苛つきもした。
 それでいて、必要性があるかどうか判然としないものにはお金をかけてしまうのが彼でありユキ子だった。
 例えば二人用のソファー。鮮やかで情熱的な紅い色の大きなそれは、二人のノイローゼじみた情欲を掻き立てることには役立った。
 でもすべてが冷えきった今では、深紅に染まったソファーは雪が降る前に散りそびれた紅葉みたいで、なんか場違いだ。
「ほらぁ、やっぱりこうなるじゃん。コウヘイ、私の今の気持ちわかる?忖度しな?」
 彼の名はコウヘイ、山田コウヘイ。
「忖度?今それで問題になってるじゃん。ニュースでもやってる」 
「そうじゃねえよ」
 ユキ子は立ち上がった。左手にもった彼のスマホを投げつけてやりたくなったが、最悪傷害罪になりかねないのでやめた。
「コウヘイさ、あんた、金の使い方おかしいでしょ?汚職とかする政治家以下だよ」
「記憶にございません」
「ごまかすな、ごまかすな。そりゃ単に生活費の問題なら話し合ってなんとかするわよ。でもこれはなに?」
 ユキ子はコウヘイから無理矢理に取り上げたスマホの画面を見せつけた。
 そこにはコウヘイの"違法献金"の証拠がしっかり残っていた。
 コウヘイはユキ子以外の女性にお金を貢いでいたのだ。しかもSNSのやり取りからは、コウヘイがその女性と良からぬ関係にありそうなことまで窺える。
 浮気や不倫が一概に良くないとは言わないまでも、今回のコウヘイの件に関してはユキ子に対する背信行為に当たることは、ほぼ疑いようがなかったのだった。
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