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誕生
ラウの誕生
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人里から離れた森の奥に、高い高い土と岩の壁がある、崖だ。崖は木の背丈を一回りも二回りも大きく越してそびえ立っていて、あるところに一つ、木のより少し大きいくらいの洞窟があった。その洞窟を囲むように大きな藁と葉と木でできた寝床がいくつかあり、それ一つで人が十人は軽く寝られそうなサイズだった。そしてまた、その寝床を囲うように、太い丸太で作られた柵が、洞窟と寝床を守るように立てられていた。
洞窟の前に、一人、いや、一体のオークが立っている。背丈は三メートルくらいの体躯で、薄暗い緑のような皮膚。顔は目から下がやたらと大きく、牙も生えていて、筋肉質な体が、藁の肩掛けと腰巻きの隙間から覗いている。
そのオークは、どうやら落ち着かない様子で、洞窟の入り口を塞ぐように立っている。しばらくすると、洞窟の中から別のオークが現れて、何かを伝えていた。その何かが嬉しい事だったようで、入り口に立っていたオークは、柵の外を何度も走り回った。
洞窟の中では数体のオークが、一体の小柄な、性別で言えば女性のようなオークの周りに座っていた。女性のようなオークは寝床に横になって胸元に小さなものを抱えていた。どうやら、オークの赤ん坊だ。女のオークの白い瞳の眼差しが、抱き抱えた赤ん坊を優しく見守っている。
「サラ……赤ん坊をよく見せてくれ」
オークの中でも一番体の大きい者が言った。サラと呼ばれる女のオークとの雰囲気から察するに、どうやら夫婦と呼ばれる関係のようだ。
「はい、優しく抱いてあげて、優しくよ」
「わかっている、任せろ」
サラの手から離れた赤子は、ゆりかごに入れられる様に、大柄のオークの手に渡った。柔らかい肌の感触が、硬く大きい手のひらに転がった。
「小さいな」
「ドウ、ごめんなさい。やっぱり私の小さな体では、大きな子は生めなかった」
でも、とサラは続けた。
「その子は、私達の子よ」
「ああ、サラ、見てみろ。目元の『表れ』なんかおまえそっくりじゃないか、きっと美しい子に育つ」
ドウと呼ばれる大柄のオークと、サラの優しい眼差しが、ゆっくりとした時間のなかで赤ん坊に注がれた。ドウは何か決心した面持ちで、口を開いた。
「名付けよう、この子に。名は、『ラウ(小さく強い者)』だ」
こうして、一つのオークの集落に、ラウという小さなオークが誕生した。
洞窟の前に、一人、いや、一体のオークが立っている。背丈は三メートルくらいの体躯で、薄暗い緑のような皮膚。顔は目から下がやたらと大きく、牙も生えていて、筋肉質な体が、藁の肩掛けと腰巻きの隙間から覗いている。
そのオークは、どうやら落ち着かない様子で、洞窟の入り口を塞ぐように立っている。しばらくすると、洞窟の中から別のオークが現れて、何かを伝えていた。その何かが嬉しい事だったようで、入り口に立っていたオークは、柵の外を何度も走り回った。
洞窟の中では数体のオークが、一体の小柄な、性別で言えば女性のようなオークの周りに座っていた。女性のようなオークは寝床に横になって胸元に小さなものを抱えていた。どうやら、オークの赤ん坊だ。女のオークの白い瞳の眼差しが、抱き抱えた赤ん坊を優しく見守っている。
「サラ……赤ん坊をよく見せてくれ」
オークの中でも一番体の大きい者が言った。サラと呼ばれる女のオークとの雰囲気から察するに、どうやら夫婦と呼ばれる関係のようだ。
「はい、優しく抱いてあげて、優しくよ」
「わかっている、任せろ」
サラの手から離れた赤子は、ゆりかごに入れられる様に、大柄のオークの手に渡った。柔らかい肌の感触が、硬く大きい手のひらに転がった。
「小さいな」
「ドウ、ごめんなさい。やっぱり私の小さな体では、大きな子は生めなかった」
でも、とサラは続けた。
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「ああ、サラ、見てみろ。目元の『表れ』なんかおまえそっくりじゃないか、きっと美しい子に育つ」
ドウと呼ばれる大柄のオークと、サラの優しい眼差しが、ゆっくりとした時間のなかで赤ん坊に注がれた。ドウは何か決心した面持ちで、口を開いた。
「名付けよう、この子に。名は、『ラウ(小さく強い者)』だ」
こうして、一つのオークの集落に、ラウという小さなオークが誕生した。
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