愛し合って殺し合った私達は、何故か異世界転移したようですよ

ミクリ21 (新)

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1◆パール視点

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勇者と魔王。

勇者とは、魔を倒すべく選ばれし者。

魔王とは、魔を統べる人間の敵対者。

魔とは、魔族や魔物という存在。

人間と魔は相容れぬ存在で、食うか食われるかで、殺るか殺られるかで、共存はできないのだ。

だから戦う。

お互いがお互いの正義と生存をかけて………。

人間と魔に、友情も愛情も生まれない。

………生まれてはいけない。

何故なら、魔は人間を食べて、人間は魔を食べるから。

だから、相容れぬ存在なのだ。

だから、敵対するのだ。



だから………魔王を愛してしまった私は、勇者としては異端なのだ。



私の名はパール・シャルル。

シャルル子爵家の次男で、勇者として選ばれし者。

年齢は18歳で、ちょうど成人になったばかり。

私は、その日に勇者になったんだ。

成人の誕生日に左手の甲に勇者の紋章が現れたから、私は勇者になってしまった………。

勇者になり家族に祝福されて、国王や民衆に期待されて、とても光栄なことだ……そう思えたら良かったのに………。

私には、愛し合っている方がいたから喜べなかった。

それは、人間が愛してはならない存在……魔を統べる王のことを私は愛していたんだ。

魔王も私を愛してくれている。

これは、バレてはいけない密やかな愛。

けれど勇者は、魔王を倒す者。

愛している魔王を、私が倒す者として選ばれてしまった。

人間を裏切れば、私の大切な家族が見せしめに殺されてもおかしくない。

平民でも、貴族でも、王族でも、魔と仲良くすることは人間全てへの裏切りなのだ。

それは、勇者も例外ではない。

………裏切りは許されない。

私は、魔王と………魔王ラグリット(男)と、殺し合わなくてはならない。



愛する者に刃を向けて、愛する者に刃を向けられて、私達はお互いの愛を傷つけよう。

身体の痛みに隠れた心の痛みに血を流し、涙を隠して睨み合おう。

そして、互いの胸を互いの刃が貫いた。



どうして私達は、こんな醜い世界に生まれてしまったのだろうね。

人間と魔が敵対する関係じゃなかったら良かったのにね。

私が勇者になんかならなければ、愛するラグリットを殺さなくても良かったのに………。

私が勇者になんかならなければ、愛するラグリットに私を殺させなくて良かったのに………。



薄れゆく意識の中、私はラグリットを抱き寄せる。

最期にどうか、抱きしめさせてくれ。

キスが許されなくても、どうかせめてと冷えゆく身体を抱きしめた。

………もう、ラグリットの意識はないみたい。

口にできない愛を心の中でラグリットに捧げて、私の意識も途切れてしまった。



目を覚ましたら、私とラグリットは一緒に見知らぬ草原で寝ていて、私はビックリしたから飛び起きる。

「あれ?私達、生きてませんか!?」

私達の身体の怪我はなくなり、衣類は綺麗になっていて、まるで………お昼寝してただけみたいに戦いの跡がない。

これは、一体何が起きたのだろうか………?
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