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階段前、出会いの場所
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「どうしたの?なにか悲しいことでもあった?」
少女が放った言葉に、エレットは顔を上げた。知らない少女が目の前にいる。知らない少女が自分を気にかけている……?傍から見れば少しデリカシーのない言葉のようにも感じられるが、エレットにとっては、曇天の切れ間から差す陽の光にすら思えた。
「い、いえ、なんでもございません」
しかし、エレットは見知らぬ少女に弱みを見せる訳にはいかない、と思い、ぷいっと横を向いた。エレットの前に立つ少女――ライリーは、なんだか不思議な子、と思いながら、次の言葉をかけた。
「ねぇ、あなたがエレットさん?」
思いもよらず名前を呼ばれたエレットは、その言葉に小さく二回頷いた。
「え、えぇ。わたくしがエレットですが……」
予想通りの回答に、ライリーは目を煌めかせる。
「やっぱり!わたし、ライリー・ブレイバー。今日からあなたの友達になる人!」
困惑していたエレットは、ようやく状況を飲み込み、ライリーと目を合わせた。
「あ、あぁ、あなたが……」
しかし、エレットは言葉と共に目線を右下に下ろし、震え始めてしまった。
「えっ、え?あれ?わたし、なんか変なことしちゃったかな?」
その様子にライリーも困惑する。エレットは、目の前の少女がこれから何をするのか分からずに混乱してしまっているのだ。
「こ、困ったなぁ」
実情として、ライリーはエレットに危害を加えるつもりは一切なかった。攻撃をしたところでこの状況がさらに悪化するだけだろうし、そもそも初対面の子をいきなり突き放すだなんてことできないし。
「とりあえずわたしのお部屋に行かない?いいでしょ?」
ライリーは埒が明かないと思い、エレットの手をゆったりと引いて自らの部屋に入れた。
「お帰りなさいませライリー様……って、え!?王女様!?なぜ王女様がここに!?」
部屋に入るなり、いきなりエイドが驚嘆の声を上げる。
「なにバカなこと言っているのよ!!わたしは『お友達係』なんだから、部屋に入れることくらいあるでしょ!同じ建物に住んでいるんだし!」
「た、たしかに……」
エイドは動揺を残しながらも、自らの仕事を果たそうとする。
「ら、ライリー様、王女様。お茶をお入れしましょうか」
まるで回答によってはお茶を淹れない選択肢があるような訊き方だが、エイドは既にお湯を沸かしはじめていた。
「ええ、おねがいするわ。エレットさんはどうなさる?」
エレットは相変わらず震えたままだ。エイドはその様子を覗き込み、ライリーに質問する。
「王女様はどうされたのです?」
「先程から震えてばかりなのよ。まるで何かに怯えたように、こう……ぷるぷると」
ライリーは、エレットが強い緊張を感じていると察した。そして、座れば少しは気が楽になるだろうと考え、部屋の中央に置かれたソファーへと誘う。
「エレットさん。立っていてもなんだし、一緒に座ろうか」
エレットはその言葉を聞き、小さく一回頷いた。ライリーが先に座り、それに追随するようにエレットが座る。
「あ、えっと……エレットさん?そんなに気負わなくても良いのよ?」
ライリーはエレットの緊張をほぐそうと試みるが、どうも上手くいかない。どうしたら心を開いてくれるのか、と考えていると、突然エレットが顔を上げ、泣きそうな顔で言葉を発する。
「ご……ごめんなさい。わたくし、上手くお話することもできずに……」
ライリーは、エレットの表情に衝撃を受けた。改めて対等な位置から見た王女の顔は、言葉で表しきれないほど流麗であった。それはもう思わず笑みが零れてしまうほどで、実際にライリーの口元は僅かながらも上がっていた。突然笑みをこぼしたライリーに、エレットは疑問を持つ。
「わ、わたくし、なにかおかしなことを申しましたか?」
目を潤ませながら首を傾げる王女の姿に、さらに笑顔がこぼれる。
「いや、すごくかわいいな、と思って」
思いもよらない回答に、エレットの目からは涙が吹き飛び、耳は真っ赤に染まる。「かわいい」なんて言葉は、両親以外から言われたことがない。ましてや、この場で初めて出会った少女にそんなことを言われることなど、彼女自身の想定には全くなかったのだ。
「紅茶が入りましたよ」
エレットが恥ずかしがる横で、エイドが淹れた紅茶を持ってきた。エレットは、目の前のテーブルに置かれた紅茶をすぐにとり、誤魔化すように一口飲んだ。
「熱っ……!!」
入ったばかりの紅茶は、もちろん熱い状態で出てくる。紅茶を美味しく抽出するのに適した温度は、摂氏九十五度以上だと言われている。この紅茶も例に漏れず、かなり高い温度で出されている。エレットはマナーなど気にしている場合ではない、といわんばかりにティーカップをテーブルに置き、火傷寸前まで温度の上がった唇を冷まそうとする。
「お水お持ちしますね!」
エイドは急いで水を別のカップに入れ、エレットの目の前に差し出す。エレットは一つ礼を入れてから、冷たい水で唇と舌を冷やしていく。ライリーは、そんなエレットを心配する。
「だ、大丈夫?」
「え、ええ……」
エレットは水を口に含み、ゆすぐように動かしたが、その弾みで水滴が喉へと入り、反射的にむせこんでしまう。
「ケホッケホッ……!」
「ほ、ほんとに大丈夫!?」
「――ケホッ。だ、大丈夫ですわ」
ライリーは、エレットの醸し出す王女様らしからぬ雰囲気に、やはり笑みをこぼした。
「……ほんと、かわいいね。王女様は」
その一言に、エレットはもう一度赤面した。
少女が放った言葉に、エレットは顔を上げた。知らない少女が目の前にいる。知らない少女が自分を気にかけている……?傍から見れば少しデリカシーのない言葉のようにも感じられるが、エレットにとっては、曇天の切れ間から差す陽の光にすら思えた。
「い、いえ、なんでもございません」
しかし、エレットは見知らぬ少女に弱みを見せる訳にはいかない、と思い、ぷいっと横を向いた。エレットの前に立つ少女――ライリーは、なんだか不思議な子、と思いながら、次の言葉をかけた。
「ねぇ、あなたがエレットさん?」
思いもよらず名前を呼ばれたエレットは、その言葉に小さく二回頷いた。
「え、えぇ。わたくしがエレットですが……」
予想通りの回答に、ライリーは目を煌めかせる。
「やっぱり!わたし、ライリー・ブレイバー。今日からあなたの友達になる人!」
困惑していたエレットは、ようやく状況を飲み込み、ライリーと目を合わせた。
「あ、あぁ、あなたが……」
しかし、エレットは言葉と共に目線を右下に下ろし、震え始めてしまった。
「えっ、え?あれ?わたし、なんか変なことしちゃったかな?」
その様子にライリーも困惑する。エレットは、目の前の少女がこれから何をするのか分からずに混乱してしまっているのだ。
「こ、困ったなぁ」
実情として、ライリーはエレットに危害を加えるつもりは一切なかった。攻撃をしたところでこの状況がさらに悪化するだけだろうし、そもそも初対面の子をいきなり突き放すだなんてことできないし。
「とりあえずわたしのお部屋に行かない?いいでしょ?」
ライリーは埒が明かないと思い、エレットの手をゆったりと引いて自らの部屋に入れた。
「お帰りなさいませライリー様……って、え!?王女様!?なぜ王女様がここに!?」
部屋に入るなり、いきなりエイドが驚嘆の声を上げる。
「なにバカなこと言っているのよ!!わたしは『お友達係』なんだから、部屋に入れることくらいあるでしょ!同じ建物に住んでいるんだし!」
「た、たしかに……」
エイドは動揺を残しながらも、自らの仕事を果たそうとする。
「ら、ライリー様、王女様。お茶をお入れしましょうか」
まるで回答によってはお茶を淹れない選択肢があるような訊き方だが、エイドは既にお湯を沸かしはじめていた。
「ええ、おねがいするわ。エレットさんはどうなさる?」
エレットは相変わらず震えたままだ。エイドはその様子を覗き込み、ライリーに質問する。
「王女様はどうされたのです?」
「先程から震えてばかりなのよ。まるで何かに怯えたように、こう……ぷるぷると」
ライリーは、エレットが強い緊張を感じていると察した。そして、座れば少しは気が楽になるだろうと考え、部屋の中央に置かれたソファーへと誘う。
「エレットさん。立っていてもなんだし、一緒に座ろうか」
エレットはその言葉を聞き、小さく一回頷いた。ライリーが先に座り、それに追随するようにエレットが座る。
「あ、えっと……エレットさん?そんなに気負わなくても良いのよ?」
ライリーはエレットの緊張をほぐそうと試みるが、どうも上手くいかない。どうしたら心を開いてくれるのか、と考えていると、突然エレットが顔を上げ、泣きそうな顔で言葉を発する。
「ご……ごめんなさい。わたくし、上手くお話することもできずに……」
ライリーは、エレットの表情に衝撃を受けた。改めて対等な位置から見た王女の顔は、言葉で表しきれないほど流麗であった。それはもう思わず笑みが零れてしまうほどで、実際にライリーの口元は僅かながらも上がっていた。突然笑みをこぼしたライリーに、エレットは疑問を持つ。
「わ、わたくし、なにかおかしなことを申しましたか?」
目を潤ませながら首を傾げる王女の姿に、さらに笑顔がこぼれる。
「いや、すごくかわいいな、と思って」
思いもよらない回答に、エレットの目からは涙が吹き飛び、耳は真っ赤に染まる。「かわいい」なんて言葉は、両親以外から言われたことがない。ましてや、この場で初めて出会った少女にそんなことを言われることなど、彼女自身の想定には全くなかったのだ。
「紅茶が入りましたよ」
エレットが恥ずかしがる横で、エイドが淹れた紅茶を持ってきた。エレットは、目の前のテーブルに置かれた紅茶をすぐにとり、誤魔化すように一口飲んだ。
「熱っ……!!」
入ったばかりの紅茶は、もちろん熱い状態で出てくる。紅茶を美味しく抽出するのに適した温度は、摂氏九十五度以上だと言われている。この紅茶も例に漏れず、かなり高い温度で出されている。エレットはマナーなど気にしている場合ではない、といわんばかりにティーカップをテーブルに置き、火傷寸前まで温度の上がった唇を冷まそうとする。
「お水お持ちしますね!」
エイドは急いで水を別のカップに入れ、エレットの目の前に差し出す。エレットは一つ礼を入れてから、冷たい水で唇と舌を冷やしていく。ライリーは、そんなエレットを心配する。
「だ、大丈夫?」
「え、ええ……」
エレットは水を口に含み、ゆすぐように動かしたが、その弾みで水滴が喉へと入り、反射的にむせこんでしまう。
「ケホッケホッ……!」
「ほ、ほんとに大丈夫!?」
「――ケホッ。だ、大丈夫ですわ」
ライリーは、エレットの醸し出す王女様らしからぬ雰囲気に、やはり笑みをこぼした。
「……ほんと、かわいいね。王女様は」
その一言に、エレットはもう一度赤面した。
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