1 / 3
1.
しおりを挟む
美しく整えられたボブカットに、大きな目を中心とした整った顔、大きめの胸に健康的な脚……。俺の彼女である咲良さんは、ハッキリ言って自慢の彼女だ。
そんな彼女が、なにもかもが平均値の俺と付き合っている理由。それは、少し特殊なものだった。
「いいから、とっとと吸わせなさいよ……」
咲良さんは、顔を赤らめながら言葉を紡ぐ。その口元には、キバが細々と煌めいている。
「──!? 学校ではまずいでしょ」
「吸いたくなっちゃったんだもん……」
そう言って、赤い瞳をした咲良さんは俺を校舎裏に連れ出し、首筋に「かぷり」と噛み付いた。
「……ぢゅーっ」
そう。咲良さんは吸血鬼なのだ。そして俺は、生まれつき血の生産が早い上に、味もとても良い……らしい。だから、咲良さんはそんな俺を求めているってことだ。
「ぷはっ……」
「本当に俺の血って美味いの?」
「──美味しいわけないでしょ」
口ではこう言っているが、実際には「美味しい」と思っていることを俺は知っている。なぜなら、咲良さんはことあるごとに俺の血を求めているのだ。本当に「不味い」と思っているなら、何度も吸うことなんてないはず。つまり、彼女は俺の血を求めている。
そして、俺が咲良さんの本音を知っている理由はこれだけではない。
「血が吸えたからもう満足した。じゃあね」
赤目の咲良さんは素っ気なくそう言った。しかし、その場から離れるわけではない。咲良さんは目をつぶっただけで、その他の動きはしなかった。
「──あれ、急に呼び出されちゃった」
咲良さんがそう言って目を開けると、瞳の色が黄色に変わっていた。咲良さんの本音が知れる理由……それは、ここにある。
「ボク、もうちょっと休んでたかったのになぁ」
「まあまあ、赤の咲良さんは気まぐれだから……」
咲良さんは吸血鬼なだけではない。多重人格なのだ。だから、俺の血の美味さも、『別の咲良さん』から聞くことが出来るってことだ。
「休みたいから寝るねー。こうたーい」
咲良さんは再び目をギュッとつぶり、足元を少しだけふらつかせてから瞳の色を紫色に変えた。
「──あら? なんで急にわたしの番に……? 柊真くん、何か聞いてる?」
「なんか、黄色の咲良さんが『めんどくさい』って言ってたよ」
「もう、気まぐれなのは相変わらずね。まあいいわ。早く教室に戻りましょう?」
俺はそう言われ、既に授業開始まであと僅かという時間まで迫っていることに気づいた。ヤバい……急がないと!
◇ ◇ ◇
咲良さんは成績も優秀だった。授業中に難しい問題が出されても難なく解くし、実技も得意。こんな優秀な彼女がいる俺は幸せ者だ。しかし、体質というアドバンテージはあるにしても、俺に咲良さんは勿体ないような気もする。
「柊真くんっ」
咲良さんが教科書を持って近づいてきた。瞳の色は青。つまり、四人目の人格だ。咲良さんは俺の身長に合わせるように背伸びをして、耳打ちでつぶやいてきた。
「ねぇ……あした、ふたりで出かけない? 新しい服屋さんに行ってみたいんだ」
「いいけど……俺は服選びのセンスとかないよ……?」
「──柊真くんと出かけられるなら……それだけで満足だから」
青い目の咲良さんは、さっきほどではないにしても顔を赤くして言った。
「わかった、明日の十時に駅前でね」
「──うん」
咲良さんは小さく頷くと、スカートをパパっと整えてから自分が所属する女子グループの中に戻っていった。
血を吸われる、ということは、自分が生み出したものが彼女の生命を維持するためのエネルギーになることに等しい。なんなら、彼女の健康的な身体の構成要素の一部になる。超美人な彼女の身体を、一部とはいえ俺が支えている。そう考えると、心臓がズキリとする。
それがなに由来の痛みなのか、イマイチ分からない。血が減ったからなのか、恋心なのか、それとも別の何かが刺さっているのか。そのどれかなのは間違いないが、それを探ることはしなかった。そして今はただ、明日のデートのことだけを頭に浮かべた。
そんな彼女が、なにもかもが平均値の俺と付き合っている理由。それは、少し特殊なものだった。
「いいから、とっとと吸わせなさいよ……」
咲良さんは、顔を赤らめながら言葉を紡ぐ。その口元には、キバが細々と煌めいている。
「──!? 学校ではまずいでしょ」
「吸いたくなっちゃったんだもん……」
そう言って、赤い瞳をした咲良さんは俺を校舎裏に連れ出し、首筋に「かぷり」と噛み付いた。
「……ぢゅーっ」
そう。咲良さんは吸血鬼なのだ。そして俺は、生まれつき血の生産が早い上に、味もとても良い……らしい。だから、咲良さんはそんな俺を求めているってことだ。
「ぷはっ……」
「本当に俺の血って美味いの?」
「──美味しいわけないでしょ」
口ではこう言っているが、実際には「美味しい」と思っていることを俺は知っている。なぜなら、咲良さんはことあるごとに俺の血を求めているのだ。本当に「不味い」と思っているなら、何度も吸うことなんてないはず。つまり、彼女は俺の血を求めている。
そして、俺が咲良さんの本音を知っている理由はこれだけではない。
「血が吸えたからもう満足した。じゃあね」
赤目の咲良さんは素っ気なくそう言った。しかし、その場から離れるわけではない。咲良さんは目をつぶっただけで、その他の動きはしなかった。
「──あれ、急に呼び出されちゃった」
咲良さんがそう言って目を開けると、瞳の色が黄色に変わっていた。咲良さんの本音が知れる理由……それは、ここにある。
「ボク、もうちょっと休んでたかったのになぁ」
「まあまあ、赤の咲良さんは気まぐれだから……」
咲良さんは吸血鬼なだけではない。多重人格なのだ。だから、俺の血の美味さも、『別の咲良さん』から聞くことが出来るってことだ。
「休みたいから寝るねー。こうたーい」
咲良さんは再び目をギュッとつぶり、足元を少しだけふらつかせてから瞳の色を紫色に変えた。
「──あら? なんで急にわたしの番に……? 柊真くん、何か聞いてる?」
「なんか、黄色の咲良さんが『めんどくさい』って言ってたよ」
「もう、気まぐれなのは相変わらずね。まあいいわ。早く教室に戻りましょう?」
俺はそう言われ、既に授業開始まであと僅かという時間まで迫っていることに気づいた。ヤバい……急がないと!
◇ ◇ ◇
咲良さんは成績も優秀だった。授業中に難しい問題が出されても難なく解くし、実技も得意。こんな優秀な彼女がいる俺は幸せ者だ。しかし、体質というアドバンテージはあるにしても、俺に咲良さんは勿体ないような気もする。
「柊真くんっ」
咲良さんが教科書を持って近づいてきた。瞳の色は青。つまり、四人目の人格だ。咲良さんは俺の身長に合わせるように背伸びをして、耳打ちでつぶやいてきた。
「ねぇ……あした、ふたりで出かけない? 新しい服屋さんに行ってみたいんだ」
「いいけど……俺は服選びのセンスとかないよ……?」
「──柊真くんと出かけられるなら……それだけで満足だから」
青い目の咲良さんは、さっきほどではないにしても顔を赤くして言った。
「わかった、明日の十時に駅前でね」
「──うん」
咲良さんは小さく頷くと、スカートをパパっと整えてから自分が所属する女子グループの中に戻っていった。
血を吸われる、ということは、自分が生み出したものが彼女の生命を維持するためのエネルギーになることに等しい。なんなら、彼女の健康的な身体の構成要素の一部になる。超美人な彼女の身体を、一部とはいえ俺が支えている。そう考えると、心臓がズキリとする。
それがなに由来の痛みなのか、イマイチ分からない。血が減ったからなのか、恋心なのか、それとも別の何かが刺さっているのか。そのどれかなのは間違いないが、それを探ることはしなかった。そして今はただ、明日のデートのことだけを頭に浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
やり直しの王太子、全力で逃げる
雨野千潤
恋愛
婚約者が男爵令嬢を酷く苛めたという理由で婚約破棄宣言の途中だった。
僕は、気が付けば十歳に戻っていた。
婚約前に全力で逃げるアルフレッドと全力で追いかけるグレン嬢。
果たしてその結末は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる