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さらば友よ

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「クビだと!!!!!???」  
「ウケる」

 男が咆哮に近い叫び声をあげた後、少女が静かにウケた。  
 酒場のテーブルには今、三人の男女がいた。大声をあげた男は筋骨隆々がまず目につく風体で、それと比べれば少女はまるで別の生き物のようだ。  
 そして、そのある種異質な組み合わせの中でただただ霞んでいる男が、何を隠そうこの俺である。

「クビというのはなんだ、つまりその……クビということか!!??」

 巨大筋肉がジョッキを飲み干し、再び叫ぶ。  
 なんだこいつらは? と、このテーブルを一見した他の客などは思うかもしれない。だが、このあたりで冒険者をやっている人間が見れば気がつくはずだ。  
 このデカい筋肉男があの“竜号殺し”の称号を持つマルタ・ブラウンであり、小さいながらも凛然とした少女が“火口巨砲”としてその名を馳せる魔女、イザベラ・デュボンであることに。  
 そして、その名声値高いテーブルでただただ霞んでいる男こと俺は――たぶん誰が見てもわからないと思うから紹介の必要があるだろう。彼らと同じ、かの大ギルド、“ルーツ”所属のルカ・フレンセンだ。  
 まあ、今日、その大ギルド所属という立ち位置も失ったわけだが……。

「そう、つまりは、クビだ」  
「なんでだよぉぉぉぉ!!!」

 首肯すると、ようやく事実を理解したらしいマルタが泣き崩れた。非常にうるさいのでちょっとやめてほしいが、ここまで悲しんで貰えるのはありがたい話だ。少なくとも、ただウケている奴よりは情を感じる。

「で、クビの原因は?」

 ひとしきりウケ終わったイザベラがそう訊いてくるが、俺は肩をすくめた。

「さっき呼び出されて、とつぜん契約解除されたから分からん」  
「ふうん。心当たりは?」  
「ない」  
「けど、ある程度予想はつく。でしょ?」

 イザベラが、まるで古い言い伝えの魔女のように俺の内心を当ててくる。ちらり、と横目でマルタの方を見ると、なんと泣き疲れて突っ伏したまま寝入っていた。クソデカ赤ちゃんだ……。

「まあ、マルタと俺のどっちがいらないかって言ったら、そりゃ答えは出てるだろ」  
「……こいつの膂力はたしかに驚異的だけど、でもそれはあんたが――」  
「だから、これからは、イザベラに任せる」  
「…………」

 イザベラはテーブルに視線を落とし、ため息を吐いて席を立った。

「バカの相手はとても面倒」  
「それは――」  
「でも、今から抗議してくる。あんたがどんなふうに前線を張って、どれだけこのギルドの戦果に貢献してきたか」

 魔女は振り返らずに一方的に言った。

「だから、まだここにいて」

 チリン、とドアにかけられたベルが鳴る。外気との温度差に白く曇る窓の外で、走っていく彼女の姿が見えた。思いがけないイザベラの行動に、ほんのりと胸を暖かくさせられながら、そうか、そうだよな、と俺は一人で納得する。

「短いようでいて、長い付き合い、だったよな。俺たちは……」

 ひとつ息をついて、ジョッキの中身を喉に流し込む。もうちょっとしんみりとしていたかったが、そろそろ出発の時間だ。  
 ポケットの中に手を入れ、それを取り出す。  
 鈍く光る、銅色の鍵。

「じゃあな。マルタ、イザベラ」

 俺は席を立って、歩き出した。
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