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第2章 「『冒険者』エイリアス」
第十三話 「剣劇」
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弾丸のように滑空し、吸い込まれるようにナナさんのお腹に突き刺さって血を吐き出す剣。
ナナさんは、腹部に異物を抱えたまま、暫く呆然と立ち尽くし──やがて、糸の切れたマリオネットのように崩れて堕ちた。
魔法が来るのが遅いと思っていた。
そして、来たら不味いと察知した。
彼女の周りに、可視化するほど高密度の、稲妻のように周囲に拡散する魔力反応が見えたからだ。
三流はもちろん、一流の魔法使いですらそのような現象は引き起こさない。
限りなく高出力の魔力が魔法という事象に変革され、僕を襲うことが容易に分かった。
故に、来る直前に潰しておいた。道理だろう。
あと数秒、持ちこたえられていればあれが発動し、負けていただろうけど。
「…………あと、一人ですね」
「………………!!」
刀を正眼に構え、警戒を強くしたアヤトさんが視線で応える。
剣をぶん投げた以上、僕の手には何も残っておらず、徒手空拳で戦わねばならない。
が、問題ないだろう。
十年間、僕は限りなく広く鍛錬を積んできた。
まだ、見せていない範囲で反魔法などのような小技を二十二、相手を本当に殺しかねないために封印している大技が三つほど存在している。
その過程で、武器を失うという状況を想定しないわけがない。
当然、徒手空拳もそれなりに習熟している。
相手が天才とはいえ、負けない程度には。
左手を腰の横に、右手を眼前に構え、迎撃の準備をする。
「…………剣を」
「え?」
「剣を持ってくれ、エイリアスさん。俺は、全力であんたと打ち合いたい」
……意外、と言ったら彼に失礼だろうか。
真剣な表情をしてそういうアヤトさんに、僕がたいそう驚いたのは事実だが。
「……わかりました。でも、抜きに行くのも手間ですし、ね」
何も強力なものを作るわけでもないし、これで勝とうなんて思っちゃいない。
本当にただの、手間の省略。
十年ぶりだが、上手く使えるだろうか。
頭の中で構築する。先ほどまで持っていた、あのひと振りを。
只の剣。魔力からすべてを作り出してもそう魔力は食わないだろう。
「…………再構築」
ぼそり、と詠唱。
手が俄かに発光し、光が晴れるとそこには先ほどの剣と全く同一のそれが握られていた。
「…………やりますか」
「ははっ、んだよそれ…………いいね、やろう」
思わず口角が上がる。
一対一。
それを日本風に──あるいは、彼らの風習に合わせて。言うなら、そう。
「いざ、尋常に────」
「────勝負ッ!!!」
アヤトさんが呼応する。
走る体。疾る剣閃。
死合いがここに、幕を開けた──!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
火花が散る。
腕を振るい、鉄と鉄がかち合う。
びり、と電のような衝撃が腕を伝う。
閃光。
そう比喩すべき一撃の応酬。
高速で振るわれる刀に追いつこうと眼球はめまぐるしく廻る。
音は消え、色も消え、ただ体を動かす感覚だけが残留する。
打ち下ろし。防がれる。
勢いのまま振りぬき、そのまま脇に剣を構えて刀を防ぐ。
瞬時に逆手に持ち替え、刀身を上に弾き飛ばし、隙を作る。
が、アヤトさんは素早くステップで後退し、その隙を突かせない。
──強い。
まさしく、今目の前で刀を振るう彼は天才だった。
剣と刀が触れるたび。
一合打ち合うごとに急速に成長し、未だ技術で勝る僕に追いすがらんとしている!!
一振りごとにブレが修正され、違和感が掻き消える。
最適な角度、最適な力で、筋の通った生きた一撃が降り注ぐ。
「っ、ははっ……!!」
思わず、笑ってしまう。
僕がここまで至るのにどれだけかかっただろう、そう自嘲して。
同時に。
彼と共に演じるこの剣劇。
共に駆け抜けるこの刹那が、あんまりに楽しくて!!
水平に剣を振るう。狙うは脇腹。
アヤトさんは腹だけを引いて体を残す体術で紙一重にそれを躱す。
意趣返しと言わんばかりに刀を振るい、水平に刀身が向かってくる。
足に力を籠め前進することで懐に潜り込み、腕を直に掴んでその攻撃を留める。
戻した剣を至近距離で振るうが、身を切り裂く前にアヤトさんが僕の腹部を力の限り蹴り飛ばした。
反動で数歩後退し、距離が出来る。
睨みあい、牽制し合う。
──次が最後の打ち合いだろう、と。
なんとなく、そんな気がしていた。
「…………エイリアスさん、あんた最高だ……俺の故郷にもここまで出来るのは居なかった!!」
「ハァッ……! それは、ありがとうございます。僕も、とても嬉しい。貴方と……やりあえて」
御互い息を切らしながら、それでも笑い合う。
「……次が、最後だ。なんとなく、分かるんだよ」
「ええ。僕にも、なんとなく」
「────だから、俺も全開でいく。あんたも全てを出し尽くせ!!」
アヤトさんが叫び、刀を鞘に納める。
「────夜をも覆い尽くす漆黒──!! 【ドウジマ】ァァァァァァ!!!」
居合の如く刀を振りぬく。
刀は黒く、闇色に染まる。
──東方の、【真銘解放】。
今迄は確実に出来るレベルじゃなかった!
成長して、会得したのか。今、この刹那のうちに!!
「行くぜ……いや。来いよ、エイリアス。──エイリアス・シーダン・ナインハイトォォォォ!!!」
彼が吼える。獣のように。
僕はそれに誘われるように地面を蹴った。
ナナさんは、腹部に異物を抱えたまま、暫く呆然と立ち尽くし──やがて、糸の切れたマリオネットのように崩れて堕ちた。
魔法が来るのが遅いと思っていた。
そして、来たら不味いと察知した。
彼女の周りに、可視化するほど高密度の、稲妻のように周囲に拡散する魔力反応が見えたからだ。
三流はもちろん、一流の魔法使いですらそのような現象は引き起こさない。
限りなく高出力の魔力が魔法という事象に変革され、僕を襲うことが容易に分かった。
故に、来る直前に潰しておいた。道理だろう。
あと数秒、持ちこたえられていればあれが発動し、負けていただろうけど。
「…………あと、一人ですね」
「………………!!」
刀を正眼に構え、警戒を強くしたアヤトさんが視線で応える。
剣をぶん投げた以上、僕の手には何も残っておらず、徒手空拳で戦わねばならない。
が、問題ないだろう。
十年間、僕は限りなく広く鍛錬を積んできた。
まだ、見せていない範囲で反魔法などのような小技を二十二、相手を本当に殺しかねないために封印している大技が三つほど存在している。
その過程で、武器を失うという状況を想定しないわけがない。
当然、徒手空拳もそれなりに習熟している。
相手が天才とはいえ、負けない程度には。
左手を腰の横に、右手を眼前に構え、迎撃の準備をする。
「…………剣を」
「え?」
「剣を持ってくれ、エイリアスさん。俺は、全力であんたと打ち合いたい」
……意外、と言ったら彼に失礼だろうか。
真剣な表情をしてそういうアヤトさんに、僕がたいそう驚いたのは事実だが。
「……わかりました。でも、抜きに行くのも手間ですし、ね」
何も強力なものを作るわけでもないし、これで勝とうなんて思っちゃいない。
本当にただの、手間の省略。
十年ぶりだが、上手く使えるだろうか。
頭の中で構築する。先ほどまで持っていた、あのひと振りを。
只の剣。魔力からすべてを作り出してもそう魔力は食わないだろう。
「…………再構築」
ぼそり、と詠唱。
手が俄かに発光し、光が晴れるとそこには先ほどの剣と全く同一のそれが握られていた。
「…………やりますか」
「ははっ、んだよそれ…………いいね、やろう」
思わず口角が上がる。
一対一。
それを日本風に──あるいは、彼らの風習に合わせて。言うなら、そう。
「いざ、尋常に────」
「────勝負ッ!!!」
アヤトさんが呼応する。
走る体。疾る剣閃。
死合いがここに、幕を開けた──!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
火花が散る。
腕を振るい、鉄と鉄がかち合う。
びり、と電のような衝撃が腕を伝う。
閃光。
そう比喩すべき一撃の応酬。
高速で振るわれる刀に追いつこうと眼球はめまぐるしく廻る。
音は消え、色も消え、ただ体を動かす感覚だけが残留する。
打ち下ろし。防がれる。
勢いのまま振りぬき、そのまま脇に剣を構えて刀を防ぐ。
瞬時に逆手に持ち替え、刀身を上に弾き飛ばし、隙を作る。
が、アヤトさんは素早くステップで後退し、その隙を突かせない。
──強い。
まさしく、今目の前で刀を振るう彼は天才だった。
剣と刀が触れるたび。
一合打ち合うごとに急速に成長し、未だ技術で勝る僕に追いすがらんとしている!!
一振りごとにブレが修正され、違和感が掻き消える。
最適な角度、最適な力で、筋の通った生きた一撃が降り注ぐ。
「っ、ははっ……!!」
思わず、笑ってしまう。
僕がここまで至るのにどれだけかかっただろう、そう自嘲して。
同時に。
彼と共に演じるこの剣劇。
共に駆け抜けるこの刹那が、あんまりに楽しくて!!
水平に剣を振るう。狙うは脇腹。
アヤトさんは腹だけを引いて体を残す体術で紙一重にそれを躱す。
意趣返しと言わんばかりに刀を振るい、水平に刀身が向かってくる。
足に力を籠め前進することで懐に潜り込み、腕を直に掴んでその攻撃を留める。
戻した剣を至近距離で振るうが、身を切り裂く前にアヤトさんが僕の腹部を力の限り蹴り飛ばした。
反動で数歩後退し、距離が出来る。
睨みあい、牽制し合う。
──次が最後の打ち合いだろう、と。
なんとなく、そんな気がしていた。
「…………エイリアスさん、あんた最高だ……俺の故郷にもここまで出来るのは居なかった!!」
「ハァッ……! それは、ありがとうございます。僕も、とても嬉しい。貴方と……やりあえて」
御互い息を切らしながら、それでも笑い合う。
「……次が、最後だ。なんとなく、分かるんだよ」
「ええ。僕にも、なんとなく」
「────だから、俺も全開でいく。あんたも全てを出し尽くせ!!」
アヤトさんが叫び、刀を鞘に納める。
「────夜をも覆い尽くす漆黒──!! 【ドウジマ】ァァァァァァ!!!」
居合の如く刀を振りぬく。
刀は黒く、闇色に染まる。
──東方の、【真銘解放】。
今迄は確実に出来るレベルじゃなかった!
成長して、会得したのか。今、この刹那のうちに!!
「行くぜ……いや。来いよ、エイリアス。──エイリアス・シーダン・ナインハイトォォォォ!!!」
彼が吼える。獣のように。
僕はそれに誘われるように地面を蹴った。
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