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第4章 「エイリアスくん、胃が痛い」
第十二話 「霧散」
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その、声に似合わない叫び声を聞いた瞬間、僕は考えるよりも先に足を動かした。
次いで、屋根の上にて恐らく既に交戦している──と、察する。
事は一刻を争う。僕よりも実力においては数段遅れをとるメメルさんでは、その正体不明の敵と渡り合うにはまず間違い無く力不足。メメルさんは回避に長けているが、攻撃に転じれば回避行動に支障をきたす事も、体力が一般的な『銀』クラス冒険者の水準より少し劣る程度しか有していない事も、対ゴブリン戦でのたった一度の共闘で僕は既に気づいていた。
まず僕は手近な家の壁へと全力で走り、その勢いのまま、足を上げて壁を思い切り蹴る。同時に【ガームイェン流流砕術】を発動。疾走の勢いを100%斜め上向きの運動エネルギーに変換し、屋根の上へと高く跳躍する!
「【纏う暴風】」
空中で魔法を発動。指向性をもつ風が僕の身を護るように纏われる。
跳躍の勢い余って硬い屋根に墜落するが、身を纏う暴風が衝撃を和らげ、更にゴロゴロと転がって見せる事でダメージを軽減。
先ほどの咆哮の方に視線を向けると、メメルさんが短刀と布を巧みに扱って相対する靄のような敵の繰り出す攻撃を上手く捌き、いなしている。見えているのは背中だが、その動きには余裕があるように見えて、その実全くそんな余裕はない事を、僕は理解していた。
「メメルさん! しゃがんで!!」
屋根の上を駆け、攻撃が届く間合いまで近づいてから僕は力の限り叫び、メメルさんの背中越しに靄に向かって横薙ぎの一閃を見舞う。メメルさんは素早くそれを察知し、その場にしゃがんで見せた。
僕が落ちた屋根は、幸いにしてメメルさんの背中側。背中越しに繰り出した見えない斬撃は靄にダメージこそ与えないまでも、回避行動に移るか防御を固めるかという選択をとらせるに十分。その隙に立ち位置をスイッチし、一先ずメメルさんを逃す──そんな魂胆は、次の一瞬で粉々に打ち砕かれた。
刀身がその靄を捉えた、その刹那。
靄が霧散し、跡形もなく消え去ったからである。
「なっ……!?」
思わず呆気に取られ、絶え間なく続けていた集中に細い切れ目が生じる。それは、冒険者が戦場において決して晒してはならない致命的な隙だった。
視界の端、自分の真横に消えたはずの靄が再発する。太い異形の腕も健在で、その腕が僕に向けて振るわれる。
絶望的な状況。反応できたのは、メメルさんだけだった。
メメルさんは、どうやったのか僕よりも早く靄の再発を察知すると、しゃがんだ状態から足を思い切り伸ばし、その勢いで僕を突き飛ばした。
靄から生える腕は、僕を捉えることに失敗し、代わりに──メメルさんの脇腹を、深く深く抉って、その鋭い爪を鮮血で朱に染め上げた。
「メメルさん!!!」
次いで、屋根の上にて恐らく既に交戦している──と、察する。
事は一刻を争う。僕よりも実力においては数段遅れをとるメメルさんでは、その正体不明の敵と渡り合うにはまず間違い無く力不足。メメルさんは回避に長けているが、攻撃に転じれば回避行動に支障をきたす事も、体力が一般的な『銀』クラス冒険者の水準より少し劣る程度しか有していない事も、対ゴブリン戦でのたった一度の共闘で僕は既に気づいていた。
まず僕は手近な家の壁へと全力で走り、その勢いのまま、足を上げて壁を思い切り蹴る。同時に【ガームイェン流流砕術】を発動。疾走の勢いを100%斜め上向きの運動エネルギーに変換し、屋根の上へと高く跳躍する!
「【纏う暴風】」
空中で魔法を発動。指向性をもつ風が僕の身を護るように纏われる。
跳躍の勢い余って硬い屋根に墜落するが、身を纏う暴風が衝撃を和らげ、更にゴロゴロと転がって見せる事でダメージを軽減。
先ほどの咆哮の方に視線を向けると、メメルさんが短刀と布を巧みに扱って相対する靄のような敵の繰り出す攻撃を上手く捌き、いなしている。見えているのは背中だが、その動きには余裕があるように見えて、その実全くそんな余裕はない事を、僕は理解していた。
「メメルさん! しゃがんで!!」
屋根の上を駆け、攻撃が届く間合いまで近づいてから僕は力の限り叫び、メメルさんの背中越しに靄に向かって横薙ぎの一閃を見舞う。メメルさんは素早くそれを察知し、その場にしゃがんで見せた。
僕が落ちた屋根は、幸いにしてメメルさんの背中側。背中越しに繰り出した見えない斬撃は靄にダメージこそ与えないまでも、回避行動に移るか防御を固めるかという選択をとらせるに十分。その隙に立ち位置をスイッチし、一先ずメメルさんを逃す──そんな魂胆は、次の一瞬で粉々に打ち砕かれた。
刀身がその靄を捉えた、その刹那。
靄が霧散し、跡形もなく消え去ったからである。
「なっ……!?」
思わず呆気に取られ、絶え間なく続けていた集中に細い切れ目が生じる。それは、冒険者が戦場において決して晒してはならない致命的な隙だった。
視界の端、自分の真横に消えたはずの靄が再発する。太い異形の腕も健在で、その腕が僕に向けて振るわれる。
絶望的な状況。反応できたのは、メメルさんだけだった。
メメルさんは、どうやったのか僕よりも早く靄の再発を察知すると、しゃがんだ状態から足を思い切り伸ばし、その勢いで僕を突き飛ばした。
靄から生える腕は、僕を捉えることに失敗し、代わりに──メメルさんの脇腹を、深く深く抉って、その鋭い爪を鮮血で朱に染め上げた。
「メメルさん!!!」
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