『欠片の軌跡』おまけ短編集

ねぎ(塩ダレ)

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五章おまけ

つがい ☆

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シルクは酔っているせいか、機嫌良く鼻唄混じりに歩いていた。
するすると木々の間を躍りながら歩く。
世明かりと木々の生む影が陰影をつけてそれを演出していた。
俺は腕を伸ばして、その体を捕まえた。

「ふふふ…捕まっちゃった。」

酔いの冷めきらない顔が、腕の中から俺を見上げる。
夜の中、影の色が濃いせいか、軽く開かれた口の赤さが目を引いた。

「ん……っ。」

軽く口を吸う。
シルクはしなやかに腕を絡めてきた。

「もっとして?」

求められて執拗に応える。
濡れた音が悩ましく耳に響く。

「あ……気持ちいい……。」

キスの合間に漏れた声は欲情を誘う。
お前が気持ちいいかどうかは、半ばどうでもいい。
ただ、このいやらしく濡れる口の中を貪りたかった。

「ギル……今日…激しくて…凄い……っ。」

「…嫌か?」

「もっと…溶かして……。」

そう言って、自分から食らいついてくる。
気を抜いたら食われてしまいそうだ。
さんざんお互いを貪り合った後、顔を離す。
絡め合った唾液が糸を引いた。
シルクの顔は、欲情していた。
さっきまで舌を絡めていた口から、甘い吐息を吐き出す。

「ギル…抱いて?ここで……。」

俺は黙って服を脱ごうとした。
しかしそれをシルクが止める。

「脱がないで。発情しちゃうから……。」

「どういう事だ…?」

「今日は、発情しないで抱かれたい……。」

「シルク?」

「性欲がないのに、欲情してる主を見て思った……。俺、発情に流されてるだけなんじゃないかって……。そう思ったら、少し怖くなった……。」

「何が怖いんだ?」

「ギルの事、ちゃんと好きなのか……ギルが、ちゃんと俺を好きなのか……わかんなくて怖かった……。」

腕の中で伏し目がちにそう呟くシルクを、俺は抱き締めた。
そんな事をシルクが不安がるとは、思っても見なかった。
そっとつむじにキスをした。
シルクは性欲に対して開放的だ。
だからしたい事はする。
気持ちが良ければする。
それに迷いなんてないと思っていた。

「シルク、こっちを見ろ。」

俺はそう言って、自分を見てきたシルクの目を真っ直ぐ見つめた。
問いには答えなかった。

「ん……っ。」

ただ口付けて、そのまま深く愛した。
ゆっくり、丁寧に。

「あ……ん……んん…っ。」

シルクははじめ、少し抵抗したが、やがて体の力を抜いた。
身を俺に預け、腕を背に回す。
シルクの体を近くの木に寄りかからせ、下から手を入れて、胸をまさぐった。

「……あっ!!」

突起を指で押し潰すと高い声を上げた。
そのまま思うようにこねくりまわす。
シルクの体が欲情に震えた。

「どうだ?今日は気持ち良くないのか?」

「…………。」

シルクは赤くなって答えなかった。
いつもはあんなに大胆な事を言い続けるのに、少し意外だった。
俺は顔を寄せ、耳の中まで舌を這わせた。

「んっ!!……んんん……っ!!」

何故か必死に声まで堪えている。
俺は意地悪く笑って囁いた。

「いつものエロい言葉は演技か?」

「ち…違う……。」

「なら、何で今日は言わない?気持ち良くないのか?」

「……き…っ、気持ちいい…よ……。」

「声もあげないな?発情してないから、声をあげるほど感じないのか?」

「感じ…てる……。ちゃんと……。」

本当はわかっていたが言わせたかった。
シルクはただ、野外なせいか発情していないからか、恥ずかしくて言えないだけだ。
俺は少しばかり性格が悪いらしい。
サークに拗らせて歪んでいると言われた事を思い出す。
ああ、なるほど、確かに俺は歪んでいる。
そう思ったらおかしくて、ククッと喉の奥から笑いが漏れた。
シルクが羞恥に体を震わせる。

「何がおかしいんだよ…!?」

「ん?可愛いと思っただけだ。」

「どこが!?」

「気持ち良くて感じてるのに、恥ずかしくて仕方がないお前が可愛い……。もっと辱しめてやりたくなる……。」

「…ギルって、歪んでる……。」

シルクにまでそれを言われた。
だがどうでも良かった。

「んっ!?んんんっ!?」

俺はまた、シルクの口を貪った。
歪んでいると言われたそのままの野心を、シルクにぶつけた。

「ああ…っ!!…好きっ!!ギルのそう言うところが凄い好き……っ!!」

乱暴に欲望をぶつけた俺に、シルクは高まって叫んだ。
俺は少し驚いてシルクの顔を覗き込む。
欲情に濡れたシルクの目が俺を見据える。

「ギルのその、歪んだ愛情表現……俺、凄い好き……。俺の事どうでもいいみたいなくらい激しく求められると……めちゃくちゃにされる感じがして気持ちいい……。」

その時、急に俺はわかった。
シルクが俺のつがいなのだと。

俺はシルクに対して発情するわけではない。
ただ、その匂いを感じられるだけだ。
だから気持ちのどこかに、いつか他にもこの匂いを感じる奴が現れ、シルクはそいつとも性交するだろうという思いがあった。
シルクは俺が唯一の相手だと言った。
別にそれを疑っていた訳ではない。
ただ、どこかでそう思っていた。

だが、シルクは違う。
俺の歪んだ愛情さえも求め、愛している。
こんな拗れた俺を愛せる人間はおそらくシルクだけだ。

「シルク……。」

俺は高まった想いのまま、強くシルクを抱き締めた。

「ギル…?」

「お前のつがいは俺だ。発情は関係ない…。」

「俺が好き?」

「好きだ。愛している。」

シルクがぎゅっと俺を抱き締め返した。

「俺も……ギルが好きだよ……他の人にこんなことされても、こんなに欲しいなんて思わない……。酷いことされて凄く気持ちいいのは……ギルがちゃんと俺を愛してくれてるってわかってるからだよ……。ギルが本当は俺の事、大事に抱きたいのもわかってる……。その上で、押さえられなくてめちゃくちゃにされるから気持ちいいんだ……。」

「……めちゃくちゃにするのは、お前が煽るからだろ…。」

「だって……めちゃくちゃにされたい……ギルにぐちゃぐちゃにされたい……。ぐちゃぐちゃに溶けて壊されて、ひとつになりたい……。」

「ああ…、俺もそんなイカれたお前が好きだよ……。」

「嬉しい……。」

確かにつがいなのだと思った。
シルクはギルが、ギルはシルクが、唯一の相手だとはっきりと認識した。

「ぐちゃぐちゃになりたいか?」

「うん……ぐちゃぐちゃにして……ギル……。」

唇が重なる。
夜明かりの中、ふたりの影は、確かにひとつになっていた。
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