欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

お茶会と甘い誘惑

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お茶に誘ったのは義父さんなのだが、お店はウィルがお薦めの茶葉専門店に入った。

上階に併設されている喫茶店はとても雰囲気がよく、そこまでお茶に拘りがない俺でも美味しいと思ったような店だ。
ただしそれ相応のお値段なので、ウィルも自分へのご褒美的に特別な時に通ってる店だ。

何度か一緒にも来たが、どちらかと言うとここはウィルが自分の時間を楽しむのに使っているので、本人から誘われない限り俺はここには来なかった。

「……なのに……するっと義父さんは連れてくるんだ……。」

「何を拗ねてるんだい??サク??」

ムスッと行儀悪く頬杖をついている俺を見て、義父さんはたっぷりのクリームとジャムを乗せたスコーンを頬張りながら小首を傾げた。
だから!それ!禁止だからっ!!
もっきゅもっきゅとスコーンを頬張って幸せそうににこにこ笑い、綺麗な所作で紅茶を飲む義父さんを眺める。

………………。

何か、いつも俺が無自覚とか食べてる所が可愛いとか言われるのって、こういう感じなのだろうか??
もしもそうなら、今後は気をつけよう……。
たしかにこれは誰が見てもちょっとマズいかもしれない。

「……………。本当、親子だよね……。」

ウィルがため息まじりにみじみとそう言った。

なるほど……やはり俺は傍から見るとこう見える時があるのか……。
マジで気をつけよう……。

俺は少し慎重になりながら、ベーコンキッシュをナイフで切って口に入れた。
頬張らないように小さめに切ったから、何か物足りない。
それを見て、ウィルがプッとふき出した。

「サークも少しは自覚したんだ。」

「いや……まぁ……うん……。」

「でもいいよ、俺がいる時はいつも通りでさ。そんなちまちま食べてるサークなんて見たくないな。」

ウィルはそう言うと、クッキーを摘んで俺の口元に差し出してきた。
悪戯な笑みを浮かべていて可愛い。
俺は遠慮なく口を開け、それを食べさせてもらった。

「おや、仲良しさん。」

「お義父さん、こう言うのはラブラブって言うんですよ。」

「へぇ!そうなのかい?ならウィル君とサクはラブラブなんだね~。」

ウィルに教えられ、義父さんは早速言い直した。
ただし、意味をちゃんとわかっているのか不安は残るが……。
まぁ、にこにこ楽しそうたから良いけどさ。

「嬉しいなぁ。こんな素敵な紳士にしてもらった上、喫茶店で紅茶とスコーンを頂けるなんて……。小説の主人公にでもなった気分だよ。ありがとう。サク、ウィル君。」

義父さんはそう言って笑った。
改めてお礼を言われると何だか照れくさい。

「そんな……大したことじゃないし……。」

「お義父さんは服装がどうであれ、素敵な紳士です。そうやって小さな事でも心を込めてお礼を言って下さって、こちらも本当に嬉しくなります。」

「うん。俺も何かしてもらったらお礼を言ってるつもりだったけど、義父さんに比べたらまだまだだなぁって思った。気づいていない所で周りにはたくさん助けてもらってるんだし、だからこそ気づいた事にはたくさんありがとうを伝えないとなぁって思ったよ。」

俺は南の国との一件を思い出していた。
ギル達や第三別宮警備隊、魔術本部の皆、マダム達やギルドの皆、外壁警備隊の皆、そしてこの街の人達。

それまで普通に暮らしていると思っていた自分が、どんなに周りに大切にしてもらっていたか理解した。

だから、俺も大事にしたい。
ありがとうと伝えたい。

そしてそれは、何の因果か持つ事になった領地の民の皆にもそうやって接していきたいと思った。

「ふふふ……。」

「え?何??」

「そんな風に言ってもらえる人に自分がなるなんて、思ってなかったからね。」

義父さんはそう言って懐かしそうに笑った。
意味がわからず、俺とウィルは顔を見合わせた。

「義父さん、昔は「すみません」ばかり言っていたんだよ。」

「え?!義父さんが?!」

「うん。あんまりにもすみませんすみませんって言っていたから、周りに何というか……下に見られている部分もあってね。そんな頃ある時に会った神様が「お前はこの国を背負って立つほどの能力がありながら!何だ!その様はっ!!」って凄く怒ってね。今後むやみにすみませんって言って自分を卑下する様な真似をしたら、その都度、罰を与えるって言ってね~。」

「……罰、ですか?何かされたんですか?」

「うん。ふふふ、口癖のようにすみませんって思わず言うと、頭から水をかぶるようになったんだよ。」

「へっ?!何それ?!」

「大丈夫だったんですか?!それは?!」

びっくりする俺達をよそに、義父さんはその頃を思い出したのか一人でけらけらとひとしきり笑うと、いつも通りののんびりした感じで言った。

「面白かったよ~。ブブー!バシャン!!って感じで何もない所から水をぶちまけられるんだよ。あの頃はしょっちゅう一人でびしょ濡れになっていて、周りも笑ってたよ~。でも困ってねぇ~。だって、すみませんって何かしてもらって申し訳ないなって思った時に出る言葉だったからね。で、悩んだ挙句、すみませんではなくてありがとうって言えばいいんだと思って、ありがとうって言うようにしたんだ。そうしたらいつの間にか水を被らなくなったし、周りからも違う目で見られるようになったし、ありがとうと言うようになったら仲良くできるようになった人がたくさんいて、あぁ、もっと早くこうすれば良かったなぁって思ったよ。」

しんみりとそう言って義父さんは紅茶を飲んだ。
ウィルが空いたティーカップに新しくお茶を注ぐ。

「ありがとう、ウィル君。」

ウィルにお礼を言って義父さんはカップにミルクを注いで混ぜた。
ぐるぐる回さず、抹茶を立てるようにスプーンを縦にゆっくり動かす。
よく知らないが、これが正しいマナーらしい。
俺ははじめぐるぐる回してウィルに注意されてしまったのに、義父さんは自然とそれをやってのけていた。

「意外でした。お義父さんははじめからありがとうと言っていたのかと思ってました。」

「ふふふ、実は神様からの強制指導の賜物なんだよ~。……それよりサク、そのカップケーキ、もらってもいいかい??」

「良いけど、義父さん食べ過ぎじゃない??」

義父さんは俺の分のカップケーキを目をキラキラさせながら見ている。
昼食も遅かったから、流石にアフタヌーンティーセットは厳しく、各自ティーセットを頼んだのだ。
義父さんはスコーンのセット、俺はキッシュのセット、ウィルはお腹は空いていないとお茶だけ頼んだら、クッキーが付いてきた。
セットにはクッキーじゃなくてプチカップケーキだった。
俺はそれを義父さんに渡す。
義父さんはにっこにこになって嬉しそうだ。

「甘いものは別腹なんだよ~。サク~。」

「乙女ですか、義父さんは。」

「サーク、お義父さんは旅行で来てるんだから、いつもより食べたっていいじゃないか。お義父さん、気にせずたくさん食べて中央王国を楽しんで下さいね。」

「ありがとう、ウィル君。でも食べ過ぎたら、せっかくジュナさんが作ってくれるスーツが合わなくなってしまうね!美味しいからって食べすぎないように気をつけないといけないね。」

そしてムムムッとカップケーキを睨みつける。
いや、でも絶対、食べるよね?義父さん??
案の定しばらく睨んだ後、結局食べた。

何なの……何なのその無駄な動作……。
我が親ながらちょっと可愛いんですけど、この人……。

「可愛い……お義父さん……。」

横でウィルがぽ~とカップケーキを頬張る義父さんに見惚れている。
待って!だから!ウィルは俺の奥さんなの!!
いくら俺の義父さんでも、心移りはしたら駄目なのっ!!
俺は慌ててクイクイっとウィルの服の裾を引っ張った。

「……ヤキモチ??」

「ウィルは俺のなのに~っ。」

「う~ん。お義父さんがこっちに来てくれてよかったなぁ~。」

「何で?!」

「ん~?だって、俺がいつもサークに抱えてる気持ちを、サークに知らしめる事ができたからさ。」

にっこり笑いかけられ、俺は言葉に詰まった。
いやでも多分、俺はあそこまで無自覚に可愛いを振りまいてたりはしないと思うし、第一、俺は可愛いキャラじゃない。
俺を可愛いとか言う奴は一部の変人のみだ。

食べてるのが可愛いと言うのは……う~ん……。
人の好みもあるだろうが、確かにあんな感じに見えるなら、あまり頬張って夢中で食べないように気をつける……。

ウィルにヤキモチを焼かせるような事なんて……??
あ…、レオンハルドさんの事かな……。
あれは……う~ん……。
レオンハルドさんが完璧でお茶目で可愛くてカッコ良すぎるからいけないんだ……。
ファザコンは置いておいて、レオンハルドさんはしかないだろう……あんな完璧でチョイ悪で素敵なナイスダンディー、好きにならないはずないじゃないか~。
しかも声がいい……。
あの声で大人の色気でからかわれたら、キュンとするだろ?!するはずだ!!

でも、いくら永遠の憧れの人とは言え、一番大事な人を不安にさせるのは良くないから今後は気をつけます……。
ちょっとしゅんとしながらウィルの服の裾を摘んでいると、クスッと笑ってウィルが俺の頬にキスしてくれた。

可愛い顔が俺に向けられる。
普段皆の前では基本男前なのに、俺にはこんなに可愛い顔を向けてくれるウィルが本当、大好きだ。
ちゃんとウィルに愛されてるって実感できる。

それがわかると途端にデレッと顔が崩れて、俺もチュッと返す。
ウィルは笑って俺の手を握ってくれた。

「ふふ。何か、素敵だね。」

「えっ?!何が?!」

ちょっと義父さんがいることを忘れて二人の世界に入りかけていた俺は慌てて姿勢を正した。
ウィルはおかしそうにクスクス笑っている。

「ちゃんと二人は二人だけの深い絆を育んでいるんだなぁって思ってね。この子達は夫婦になるんだなぁとしみじみ思ったんだよ。サクもウィル君にだけ見せる顔があるんだなぁ~。何か可愛いね。」

「かっ?!可愛い?!俺が?!」

「うん。ウィル君にだけ見せてる顔は、多分、凄く可愛いんだろうね~。」

「ふふふ、はい。凄く可愛いです。」

「ちょっと待って?!俺が?!俺が可愛いの?!ウィルが可愛いんじゃなくて?!」

「ウィル君も可愛いよ?でも何でも自分で決めてやってしまうサクが、ウィル君の前だと自分で決められなくて、ウィル君に頼りきってるのは……意外というか……何か可愛いなぁ~と思ってね。」

「ふぇっ?!」

「だから放っておけないんです。俺だけのサークだから……とても大切なんです……。」

ウィルはそう言うと、赤らんだ目で俺を見つめた。
ヤダ、ちょっと待って?!
そんな可愛い顔、ここでされると俺、困るんだけど?!
二人きりの時にしてよ!!ここじゃ何もできないよ!!

話の流れはよくわからないけれど、ウィルが凄く俺を愛してくれてるのはわかる。
そして俺がウィルを他の誰よりも特別に思ってる事をわかってくれてるのもわかる。

あ~もう~!!
めちゃくちゃキスしたい!!
そんでもって、めちゃくちゃ愛し合いたい!!

そんな俺を窘めるように、ウィルがツンっと額を押した。

「サーク、そんな顔するな。外出中な上、お義父さんの前だぞ??」

「だって~。」

「ふふふ、本当にサークは甘えん坊なんだね~。」

義父さんは朗らかに笑って紅茶を飲んでいた。
ちょっと照れくさいけど、義父さんの前だからいいや。

そう、俺はウィルには甘えん坊で優柔不断で、ちゃんと俺を見ててくれないと不安で寂しくて死んじゃうの!!
あ~めちゃくちゃウィルに甘えたい~!
めちゃくちゃ甘やかされたい~!!

「……明日の夜、楽しみにしてる。」

そんな俺の耳元に、ウィルはそう囁いた。
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