欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

天然危険物

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ファビアンさんが経営している街角食堂ルパパに行くと、何故か俺がウィルと一緒に義父さんを連れて来る事が既に知られていて妙な歓迎を受けた。

時間的にパエリアやリゾットは間に合わないけど、ビフストロガノフならできるわよ、と声をかけてくれた。
そんな訳で、ビフストロガノフと日替わりランチとラザニアランチセットを頼み、取皿を借りてシェアして食べた。

ランチだと一口程のデザートがつくのだが、ファビアンさんは「アタシたちからのサービスよ♡」と彫りの深い髭面で可愛くウインクして、俺とウィルの結婚前提の引っ越し祝い&義父さんの訪問歓迎と言う事で、可愛らしく飾られたデザートプレートを持ってきてくれた。
女性ボディービルダーをしている奥さんのデビーさんは、何故か恥ずかしがって柱の影からこちらを覗き見ている。

「こんなに良くして頂いて……本当にありがとうございます。」

素で感動した義父さんは、物凄く自然に立ち上がって二人に頭を下げた。
俺とウィルも慌てて立ち上がりお礼を言う。
こんなに丁寧にお礼を言われると思っていなかったファビアンさん達はめちゃくちゃ萎縮してあわあわしていた。

「可愛らしい飾り付けですね。奥様のご提案ですか?」

「そうなのよ!家内は気が利くでしょ?!うふふ、作ったのはアタシだけど、こういう細かい気配りが出来るのはやっぱり女の子よね~。アタシはそこまで気が回らないもの。」

「お互いを補い合って、素敵なご夫婦ですね。」

「あら?あらあらあら!そうなのよ!わかって下さる?!お父さん!!アタシの可愛いハニーの良さをわかってくれるなんて嬉しいわっ!!」

ファビアンさんは髭面を赤らめ、くねくねと喜んでいた。
奥さんのデビーさんは恥ずかしさが限度を超えたらしく、奥に隠れてしまっている。
義父さんはそれをにこにこ見つめていた。

「あらやだ、アタシったらお客様を立たせたままで!座ってて!今、コーヒーを持ってくるから!!」

ファビアンさんがそう言って慌ててキッチンの方に行くと、スッとコーヒーの乗ったトレーが出てくる。
多分、デビーさんが用意してくれてあったのだろう。
デビーさんもボディービル大会の時はあんなに堂々としてるのに、普段は本当、照れ屋さんと言うか引っ込み思案なんだよね。

ランチのラストオーダーに入ったので、俺達が昼の最後の客だった。
食事を終え俺は会計をする為にレジに向かい、ウィルは伝書を出す為に先に店を出ていたので、義父さんが一人で席に座っている。
何かしてるなとは思っていたのだが、何をしているかはわからなかった。

「義父さん、大丈夫?」

会計が終わりそう声をかけると、義父さんはいつものようににっこり笑って立ち上がった。

「うん。ご馳走様でした。とても美味しかったです。」

義父さんはこちらに来てそう言うと、ファビアンさんの手に何かを乗せた。
折り鶴だった。
しかもただの折り鶴じゃなくて、大きいのと小さいの、中ぐらいのと手を繋ぐ様に3つが繋がった形のものだった。

「あら嬉しい!凄く綺麗だし、可愛いわ!!ハニー、可愛い物が大好きだからとても喜ぶわ!!レジ前に飾ってても良いかしら?!」

「もちろんです。ご夫婦を模して作らせて頂いたので。」

そう言われ、俺とファビアンさんは折り鶴を見る。
折り鶴は大中小と三羽いる。
親の間に小さな子どもがいるような、そんな折り鶴だ。

「あら~?未来のアタシ達かしら??うち、まだ子供はいないのよね~。」

「そうなのですか??それは失礼致しました。こちらのかまど神様がしきりに赤ちゃんの話をされていたのでてっきり……。」

ファビアンさんは何を言われているのかわからない顔をしたが、ふんわり微笑む義父さんの顔を見て何かを感じたのだろう、いきなり店の奥に走って行った。

「ハニー?!ちょっと大事な話があるんだけどぉ~?!」

俺は呆気に取られてぽかんとしてしまった。
え??かまど神って何??
ピザ窯にもかまど神ってつくの??

「ご夫婦はとてもこのお店を大事にされてるんだね。さ、行こうか、サク。」

「え??あ、うん……。」

俺はよくわからず、のほほんと店を出ていく義父さんと店内を交互に見た。
気になって魔力探査を軽くかけると、奥のピザ窯に小さなサラマンダーがいて、俺にウインクしてきた。
あ~、そういう事か。
俺はくすっと笑って、入り口のドアにcloseのプレートを引っ掛け、店を後にしたのだった。










ウィルとは仕立て屋のジュナさんの店で落ち合う事になっていた。

三人でアパートに泊まるのは無理だから、義父さんとウィルは今日から新しい家に泊まるのだ。
客間のベッドは備え付けだから、家具が多少なくても泊まるぐらいはできると思う。
駄目ならアウトドアグッズもあるし、なんとかする。
その為に不動産紹介のおじさんと修繕の管理をしてくれていたガスパーに、ウィルから連絡を入れてもらったのだ。

ジュナさんの店に義父さんを連れてきたのは、せっかくだから中央王国に来た記念に義父さんに服を作ってあげようと思ったのだ。

東の国でも年中無休で皆、着物を着ている訳じゃない。
でも、礼服や畏まった訪問着といえば、一般的にはほぼ着物だ。
国政に関与している様な貴族等は洋服の礼服や訪問着も持っているが、一般的ではない。

だから、東の国で洋服の訪問着などを買おうとすると、恐ろしく高いのだ。
義父さんは神仕えの格付けの中ではそれなりに上の方にいるらしく、その為、お偉方さんの所に出向く事がある。
だから洋服のしっかりした訪問着が1つや2つあっても良いかなと思ったのだ。

事情を説明したジュナさんはハキハキと義父さんの寸法を取り、作り置いてあったジャケットやズボンなどを義父さんに履かせてはまち針で止めたり、図ったりしている。

「どう?進み具合は?」

カランと店のドアが開くとウィルが戻ってきた。
俺はお疲れ様と労って、肩を抱き寄せる。

「いい感じ。見て?意外に似合うよね?」

ジュナさんとお針子さんたちに囲まれてマネキンになっている義父さんを見る。
にこにこ笑ってジュナさんたちの指示通りにしていて、たまにくすぐったいのかけらけら笑う。
ジュナさんやお針子さんたちもそれが面白くて一緒に笑っていた。
ウィルは目を丸くする。

「え?!似合うっていうか……めちゃくちゃジェントルマンな感じじゃないか?!」

「うん、何か意外に格好良くて、俺もびっくりしてる。」

ぴっちりした紳士風スーツを着せられた義父さんは、生まれながらのジェントルマンみたいな雰囲気だった。
まぁ東の国の人だから、ここの人達に比べたらちょっとちっこいけど。

「サーク!アンタ、ウィルちゃんといい、お父さんといい、何で私を焚き付けるようないい人材を連れてくるのよ!!素晴らしいわ!!本当、素敵!!久々に腕が鳴るわ!!」

ジュナさんも義父さんの素材の良さに目が爛々としている。
それは初めてウィルを連れてきた時を彷彿とさせ、俺は笑ってしまった。
まぁ、素朴な初老のおじさんが、着せてみたらこんなジェントルマンに化けるとは思わないよな?
俺も思わなかったし。

「……良いな~。義父さん、格好いい……。」

思わずボソリと呟くと、ウィルがちょっと変な顔で俺を見た。
何だろうと顔を覗き込むと、何故かムッとしている。

「え??どうしたの??」

「……サークが何で年配の男性に弱いかわかった。サークってファザコンなんだね。」

「ふぁっ?!ファザコン?!」

「やっとわかった。サークはお義父さん大好き過ぎて、憧れを懐き過ぎて、同年代の男性にも同じ感情を持ってるんだよ。」

「ふえぇぇぇぇっ?!そんな事ないよ?!確かに義父さんは好きだけど?!そう言うんじゃないからっ!!」

「うん、無自覚なファザコンなんだよね。」

「違うよ~っ!!」

待ってくれ、何でそうなるんだ?!
だいたい、義父さんとだって、もう10年近く会ってなかったんだよ?!
なのにファザコンなの?!俺?!

あわあわする俺をウィルがムスッとした顔で見てきて、両ほっぺをギリギリとつねられた。
何で?!
なんでそうなるの?!
俺!ファザコンじゃないよ?!
違うのに~っ!!
そんな様子をシュナさん達がけらけら笑って見ている。

「そうか~、サクはお義父さん子なんだね~。嬉しいな~。」

義父さんは相変わらず空気を読まず、のほほんとそう言った。
ちょっと!義父さん!!
ファザコンの意味わかってないよね?!
わかってないで変な事言わないで?!
相変わらず天然炸裂で本当、質が悪い。

結局、ジュナさんの熱い情熱に押し切られ一着作ってもらう事になり、その場に作り置いてあった一着をジュナさんとお針子さん達が物凄い熱意で仕立て直してくれて、買う事になった。
仕立て直してもらった三揃えのスーツを着込んだ義父さんは、本当に紳士みたいだった。
鏡の前でちょっと子供のように微笑ってご満悦だ。

「凄いね!私じゃないみたいだ!」

「とてもお似合いです!お父さん!!」

「素敵!」

「可愛い!!」

ジュナさんやお針子さん達が口々に褒める。
それを嬉しそうに義父さんは笑う。

「ジュナさん、皆さん、本当にありがとう。こんな私でも、皆さんのお陰で素敵な紳士になれました。」

「そんな!もったいない!お父さんの素敵な部分を引き出せて!私も仕立て屋冥利につきます!!」

「ところで……こちらも頂きたいのですが、宜しいでしょうか??」

義父さんはそう言うと、棚に飾ってあった帽子を一つ手に取った。
ジュナさんがどうぞと言うと、それをちょっと斜めにかぶる。
その途端、紳士の中に小粋さがプラスされ、その場にいた全員のハートを撃ち抜いた。

「どうかな?サク??義父さん、格好いいかい??」

にっこり笑ってそんな事を言う。

いやもう…格好いいですよ……義父さん……。

流石に俺もこれにはちょっとクラっとして、これはウィルにファザコンと言われても否定しきれないと思ってしまった。

「か、格好いいデス……良クオ似合イデス……。」

「……なんでそんな抑揚がないんだい?サク??」

義父さんは不思議そうに小首を傾げた。
それにお針子さんの一人がやられた。
ズギューン!バターン!とばかりにふらりと倒れ込む。

こ、この!!天然!天然危険物め!!

そんな周りの事など理解できず、義父さんは鏡の前でうふふ~と自分を見直してる。
そしてはたとウィルに顔を向けた。
向けられたウィルはビクッと無意識に緊張したが、義父さんは少しいたずらっ子のような無邪気な笑顔を見せる。

「では、ウィル君。買い物につき合わせてしまったお詫びに、お茶でもいかがですか??」

そう言って腕を差し伸べる。
完璧なまでの所作でお茶に誘われたウィルは、ぽ~と固まってしまった。

何なんだ?!このジェントルマンは?!
え?!俺ののほほん義父さんはどこに行った?!

誰も何も答えないので、義父さんは困ったように俺の顔を見てきた。

「あれ??こちらの紳士はこうやってお茶にお誘いすると聞いたんだけど、義父さん何か間違えたかい??」

そして困り顔で小首を傾げる。
義父さ~~んっ!!
それ!迂闊に人前でやったらダメ~っ!!
お針子さんがまた一人、ノックアウトされた。

「いえ、間違ってません。お義父さん。あまりに所作が素敵だったので、びっくりしてしまっただけです。」

ウィルが気を取り戻し、にっこり笑う。
それにハッとしたジュナさんたちも口々に言う。

「本当!生まれながらの紳士の様でしたよ!お父さん!!」

「誘われたのが自分じゃないのに、ドキドキしました~!!」

「そうですか?それは良かった。本などで読んで、ちょっと憧れていたんですよ~。紳士的な振る舞いに~。」

「完璧でした!ばっちり紳士でした!!」

「素敵です!私も誘って欲しい!!」

お針子さん達がキャッキャしている。
え?!何?!
義父さんて天然な上、無自覚キラーなの?!
そんな事を思っている俺の肩を、ぽんとウィルが叩いた。

「……流石はサークのお義父さんだね……。生みの親より育ての親とは言うけれど……そっくり……。」

「へっ?!」

「サークがファザコンなのもこれは許す……と言うか、俺も義ファザコンになるかも……。」

「ええぇっ?!ちょっとウィルっ?!」

ぎょっとした俺をそのままに、ウィルはするりと動くと差し出された義父さんの腕に手を添えた。

「お誘いありがとうございます。ぜひ、ご一緒させて下さい。お義父さん。」

「あはは、こんなおじさんに合わせてくれてありがとう。ウィル君。」

「そんな事を言わないで下さい。お義父さんはとても素敵な紳士ですよ?誘って頂けて嬉しいです。」

「本当かい?ありがとう、ウィル君。」

ちょっと待って?!
これって嫁入りする婿と義父の会話だよね?!
義父さんは純粋に息子の嫁さんと腕を組めて嬉しそうだけど、ウィルはどうなの?!そんな可愛い顔、義父さんに向けないでよっ!!

ショックで言葉を失う俺とは対象的に、店の中はキャーキャー黄色い悲鳴に溢れている。

ちょっと待って?!
ウィルは俺の嫁さんだからっ!!

そりゃ義父さんと仲良くして欲しいけど!!
そこまで仲良くしなくていいからぁ~っ!!

仲良く腕を組んで店を出ていく義父さんとウィルを、俺は色々なショックを受けて見つめていた。
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