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第九章「海神編」
住み慣れた街角
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「あははっ。凄いねぇ!ヴィオ君!!」
俺とウィルは顔を見合わせ唖然としていた。
中央王国に行く為にヴィオールに乗せた義父さんが、楽しそうに笑っているのだ。
いやそりゃ怖がらなければならないと言うルールはない。
ルールはないが、なぜここまで平然と笑っているのか?!
「義父さん、怖くないの?!」
「怖いといえば怖いよ~。でも、神様なんてこんなものだよ~。いきなり人を雲の上まで有無を言わさず連れてってふざけて落としてきたり、人が水の中では息ができないのを知らないで一緒に遊びたくて引き込んでしまったりね~。その点、ヴィオ君はこちらに気を使ってくれてるからね~。」
そうだった。
義父さんは神仕えだ。
悪気あるなしに関わらず、日頃から加減も知らない訳のわからんもんに訳のわからない目に合わされ慣れてる……。
それに比べたら、こちらに気を使いながら飛んでくれるヴィオールなんて全然へっちゃらだろう。
それがいい事なのか悪い事なのかわかんないけど。
義父さんが全然平気そうなのでウィルは安心したのか、ならもう少し早く飛びますね~と言ってゆっくり安全運転のお客様モードから通常モードに切り替えた。
まぁ出掛け、子どもたちや兄ちゃん夫妻、神保さんやお手伝いさん達が名残を惜しんでくれてなかなか出かけられなかった上、大きくなったヴィオールに大興奮だったので出発が遅れたからなぁ。
あのままだと到着が日暮れ近くになりそうだったが、この分ならランチのラストオーダーに何とか間に合いそうだ。
義父さんはというと、うひゃーという感じの声を出しながらげらげら笑っている。
自分も含め、ヴィオールに初めて乗った時は怖いものだと思っていたので、何か拍子抜けしてしまった。
王国都市についたのは14時過ぎぐらいだった。
これなら3時までランチタイムのお店に間に合うなぁなんて呑気に思う。
ライルとサムの結婚式で初めてヴィオールを飛ばせた丘に降り立ち、まず先に俺が降りた。
「お義父さん、立てますか?」
「ありがとうウィル君。すまないね、手を借りて。意外と体に力が入っていたみたいで何かガチガチだよ。」
「いえ、初めてで長時間乗られたんですから、無理ないですよ。」
ウィルが義父さんを手助けしながら鞍から立たせる。
それを支えながらゆっくり降ろし、今度は下から俺が義父さんを支えた。
「ありがとう、サク。ヴィオ君もお疲れ様。ありがとうね。」
義父さんはそう言いながら、ヴィオールの首元を撫でた。
そうされたヴィオールは嬉しそうに鼻を鳴らす。
やっぱり精霊の扱いは慣れてるよな~なんて思った。
「あ?あれ??」
そんな和やかな雰囲気の中、急に義父さんがヴィオールの首元に手をついたまま、動かなくなった。
よく見ると、足が産まれたての子鹿の様にぷるぷるしている。
そしてそのまま、カクンと地べたにへたり込んだ。
「義父さん?!」
「あ、あはは……何か今更、腰が抜けたよ……。」
「義父さ~~んっ?!」
笑顔のまま青い顔をしてへたり込む義父さんに、俺は大声を上げてしまった。
ヴィオールも首を曲げてその様子を伺い、あわあわとしている。
「いや、すまないね~。あはは……。」
「怖かったなら怖かったって言って?!めちゃくちゃ笑ってたから大丈夫なのかと思ったじゃんっ!!」
「いや~、大丈夫だと思ったんだけど~??」
「義父さ~んっ!!」
鞍を外して降りてきたウィルは笑いながらへたり込む義父さんとあわあわする俺とヴィオールを見て苦笑い。
「サーク、お義父さんを支えて上げて。ヴィオールを小さくするから。」
「う、うん!」
俺がしゃがみ込んで義父さんを支えるとヴィオールは小さい姿になり、迷い無くひしっと義父さんに抱きついてピーピー鳴いた。
「おやおや、大丈夫だよ、ヴィオ君。君のせいではないからね?大丈夫。ね??」
「義父さん……それは立てるようになってから言ってください……。説得力が皆無です……。」
「それもそうか、あはは!」
「だから!怖かったなら笑わなくて良いから!!」
「……たまにいますよね、怖いと余計に笑っちゃうタイプの人。」
いるけど、まさか義父さんがそう言うタイプだとは思わなかった。
ウィルが優しく笑いながら義父さんの背中を擦り、その膝の上で自分のせいで義父さんが腰を抜かしたとピーピー鳴くヴィオールをなだめていた。
粗方なだめるとヴィオールを胸の中にしまう。
義父さんは大丈夫、大丈夫と言うけれど立ち上がれず、結局、背負って行く事になった。
手荷物等も全部鞍と一緒に俺の異空間付きバックにしまい、ウィルが持ってくれる。
「いやあ、老いて子に背負われるとは言うけれど、まさかここで体験するとは思わなかったよ~。」
背負った義父さんはのほほんとそんな事を言う。
本当にこの人は……。
「義父さん……そう言うのは、足の震えが治まってから言ってください……。」
俺の言葉に、ウィルがくすっと笑った。
いやもう、義父さんがド天然なのはわかっていたけれど、よもやギャグ要素も兼ね備えていたとは思わなかった。
産まれたての子鹿の様なぷるぷるを生で見る日が来るとは……。
あんな見事なお約束展開をされるとは、我が義父でなければ、俺は爆笑してたと思う。
ウィル、よく笑わないで寄り添ってくれたよな~。
本当、いい嫁さんに巡り会えたと思う。
丘を抜けて商店街に出る頃には義父さんの足の震えも治まり、まだちょっとふらつくので肩を支えながら歩く。
それを見た商店街の皆が珍しそうに声をかけてきた。
「あら?サーク、どうしたの??」
「あ、義父さんが長旅で足がつっちゃって……。」
「お義父さん?!サークのお義父さんかい?!」
「どうもはじめまして。お見苦しい状況で申し訳ありません。息子がお世話になっております。」
「ヤダ!!サークそっくり!!」
「え??そっくり??」
そう言われて俺と義父さんは顔を見合わせた。
凄く嬉しい言葉だがちょっと複雑だ。
何しろ義父さんと俺は血が繋がっていない。
見てくれもお世辞にも似ているとは言えないのは自分が一番わかっている。
俺の義父さんだと聞いて、その辺の店の皆がわらわら集まってきた。
そして口々に似てると言うのだ。
「顔は全然似てないけど、何ていうのか……。」
「雰囲気!雰囲気が似てるのよ!!」
「そうそう!サークが歳を取ったらこんな感じになるだろって!!」
「え?!俺、こんな天然じゃないですよ?!」
「サク、義父さんの事、天然だと思っていたのかい??」
「いや、自覚がないみたいだけど、サーク結構天然だよ。天然ていうか、何事も無自覚っていうか……。」
「あ~そう言う親子か~。何かわかる~。そんな雰囲気~。」
「いや待って?!俺、天然じゃないから!!」
「ウンウン、無自覚なんだね~。」
「……よくわからないけれど、うちの息子が皆さんに大事にして頂いているのはとても良くわかりました。本当にありがとうございます。」
慌てる俺とは対象的に、義父さんはにこにこしている。
プッとウィルが小さく吹き出した。
それを合図に皆もどっと笑う。
義父さんはそれを不思議そうにして、俺は真っ赤になってしまった。
「もう!義父さんは!!」
「??」
「可愛いお父さんね!サーク!!」
「どこに行くんだい??まだ引っ越してなかったんだっけ??」
「引っ越しは明日完了する予定です。とりあえず時間も時間なので、ルパパに食事に行こうと思っていて。」
「あぁ!ファビアンとこのランチならまだ間に合うな?」
「お父さん、あそこはラザニアが絶品よ!!」
「いやいや!ランチなら日替わりだろ?!量もサービス満点だし!今日はポトフとバーガーだった!旨いよ!!」
「でもサークのお父さんなら東の国の方でしょ?パエリアとかの方が良くないかしら??」
皆が口々に言うものだから、俺とウィルは顔を見合わせて笑う。
何か本当、この街に住めて良かったなと思う。
そしてそれを義父さんにも見てもらえて良かったと。
義父さん、俺、ちゃんと幸せに暮らしてたんだよ?
東の国を飛び出したけど、こんな良い人たちに囲まれて、ちゃんと幸せに暮らしてたんだよ?
足の震えが治まった義父さんは俺から離れると、微笑んだまま、スッと皆に頭を下げた。
ワイワイと盛り上がっていた皆も、ちょっとびっくりして固まった。
「本当に……本当に、この子を温かく見守って下さりありがとうございます。皆さんを見て、息子がここでどれだけ幸せに暮らしていたかわかりました。感謝致します。」
そんな義父さんを見て、俺はちょっと喉が詰まり、目頭が痛くなった。
ウィルが何も言わず寄り添ってくれる。
「……ヤダ!お父さん!!そんなかしこまらないで下さいよ!!」
「そうそう!俺達は別にたいした事なんてしてないし!!早く行かないと、ランチが終わっちまうぞ!サーク!!」
皆は照れてあわあわしている。
そんな笑顔が俺は好きだった。
来たばかりで引きこもり気味だった時もそれとなく声を掛けてくれて、だからと言って踏み込んできたり陰口を言ったりもせず、気長に俺が慣れるのを待ってくれた。
あの頃も今も変わりなく声を掛けてくれる。
考えてみれば、俺が不信感を抱かずに周囲と普通に話せるのは、ここの人達がいたからだ。
他所から来た移民の引きこもりの若者に、あまり偏見を持たずに接してくれた。
普通なら煙たがられてヒソヒソ遠巻きにされてもおかしくなかった。
でも、この街角の小さな商店街はそうじゃなかった。
声はかけるが必要以上に興味を持たない。
放っておかないが、放っておく人達。
その声に答えれば受け入れてくれる。
「義父さん、俺、東の国を出てても、ちゃんと幸せに暮らしてたんだ。」
「うん。凄く良くわかるよ。連れてきてくれてありがとう、サク。」
そう言葉を交した俺達親子を、皆はちょっと涙ぐみながら見ていた。
あの頃は何も意識してなかったし、ただ、自分の希望の金額で希望に合った条件の賃貸がたまたまここにあったってだけだった。
特に何か意識していた訳じゃない。
でも、東の国を飛び出した俺は、偶然か必然か、この街に辿り着いた。
今更だけど、これも巡りだったのかもしれない。
俺が俺である為の、ターニングポイントの一つだったのかもしれない。
そしてここで幸せに過ごした。
それを義父さんに見せれて良かったと思った。
俺達は皆にお礼を言って別れ、食事をしに向かったのだった。
俺とウィルは顔を見合わせ唖然としていた。
中央王国に行く為にヴィオールに乗せた義父さんが、楽しそうに笑っているのだ。
いやそりゃ怖がらなければならないと言うルールはない。
ルールはないが、なぜここまで平然と笑っているのか?!
「義父さん、怖くないの?!」
「怖いといえば怖いよ~。でも、神様なんてこんなものだよ~。いきなり人を雲の上まで有無を言わさず連れてってふざけて落としてきたり、人が水の中では息ができないのを知らないで一緒に遊びたくて引き込んでしまったりね~。その点、ヴィオ君はこちらに気を使ってくれてるからね~。」
そうだった。
義父さんは神仕えだ。
悪気あるなしに関わらず、日頃から加減も知らない訳のわからんもんに訳のわからない目に合わされ慣れてる……。
それに比べたら、こちらに気を使いながら飛んでくれるヴィオールなんて全然へっちゃらだろう。
それがいい事なのか悪い事なのかわかんないけど。
義父さんが全然平気そうなのでウィルは安心したのか、ならもう少し早く飛びますね~と言ってゆっくり安全運転のお客様モードから通常モードに切り替えた。
まぁ出掛け、子どもたちや兄ちゃん夫妻、神保さんやお手伝いさん達が名残を惜しんでくれてなかなか出かけられなかった上、大きくなったヴィオールに大興奮だったので出発が遅れたからなぁ。
あのままだと到着が日暮れ近くになりそうだったが、この分ならランチのラストオーダーに何とか間に合いそうだ。
義父さんはというと、うひゃーという感じの声を出しながらげらげら笑っている。
自分も含め、ヴィオールに初めて乗った時は怖いものだと思っていたので、何か拍子抜けしてしまった。
王国都市についたのは14時過ぎぐらいだった。
これなら3時までランチタイムのお店に間に合うなぁなんて呑気に思う。
ライルとサムの結婚式で初めてヴィオールを飛ばせた丘に降り立ち、まず先に俺が降りた。
「お義父さん、立てますか?」
「ありがとうウィル君。すまないね、手を借りて。意外と体に力が入っていたみたいで何かガチガチだよ。」
「いえ、初めてで長時間乗られたんですから、無理ないですよ。」
ウィルが義父さんを手助けしながら鞍から立たせる。
それを支えながらゆっくり降ろし、今度は下から俺が義父さんを支えた。
「ありがとう、サク。ヴィオ君もお疲れ様。ありがとうね。」
義父さんはそう言いながら、ヴィオールの首元を撫でた。
そうされたヴィオールは嬉しそうに鼻を鳴らす。
やっぱり精霊の扱いは慣れてるよな~なんて思った。
「あ?あれ??」
そんな和やかな雰囲気の中、急に義父さんがヴィオールの首元に手をついたまま、動かなくなった。
よく見ると、足が産まれたての子鹿の様にぷるぷるしている。
そしてそのまま、カクンと地べたにへたり込んだ。
「義父さん?!」
「あ、あはは……何か今更、腰が抜けたよ……。」
「義父さ~~んっ?!」
笑顔のまま青い顔をしてへたり込む義父さんに、俺は大声を上げてしまった。
ヴィオールも首を曲げてその様子を伺い、あわあわとしている。
「いや、すまないね~。あはは……。」
「怖かったなら怖かったって言って?!めちゃくちゃ笑ってたから大丈夫なのかと思ったじゃんっ!!」
「いや~、大丈夫だと思ったんだけど~??」
「義父さ~んっ!!」
鞍を外して降りてきたウィルは笑いながらへたり込む義父さんとあわあわする俺とヴィオールを見て苦笑い。
「サーク、お義父さんを支えて上げて。ヴィオールを小さくするから。」
「う、うん!」
俺がしゃがみ込んで義父さんを支えるとヴィオールは小さい姿になり、迷い無くひしっと義父さんに抱きついてピーピー鳴いた。
「おやおや、大丈夫だよ、ヴィオ君。君のせいではないからね?大丈夫。ね??」
「義父さん……それは立てるようになってから言ってください……。説得力が皆無です……。」
「それもそうか、あはは!」
「だから!怖かったなら笑わなくて良いから!!」
「……たまにいますよね、怖いと余計に笑っちゃうタイプの人。」
いるけど、まさか義父さんがそう言うタイプだとは思わなかった。
ウィルが優しく笑いながら義父さんの背中を擦り、その膝の上で自分のせいで義父さんが腰を抜かしたとピーピー鳴くヴィオールをなだめていた。
粗方なだめるとヴィオールを胸の中にしまう。
義父さんは大丈夫、大丈夫と言うけれど立ち上がれず、結局、背負って行く事になった。
手荷物等も全部鞍と一緒に俺の異空間付きバックにしまい、ウィルが持ってくれる。
「いやあ、老いて子に背負われるとは言うけれど、まさかここで体験するとは思わなかったよ~。」
背負った義父さんはのほほんとそんな事を言う。
本当にこの人は……。
「義父さん……そう言うのは、足の震えが治まってから言ってください……。」
俺の言葉に、ウィルがくすっと笑った。
いやもう、義父さんがド天然なのはわかっていたけれど、よもやギャグ要素も兼ね備えていたとは思わなかった。
産まれたての子鹿の様なぷるぷるを生で見る日が来るとは……。
あんな見事なお約束展開をされるとは、我が義父でなければ、俺は爆笑してたと思う。
ウィル、よく笑わないで寄り添ってくれたよな~。
本当、いい嫁さんに巡り会えたと思う。
丘を抜けて商店街に出る頃には義父さんの足の震えも治まり、まだちょっとふらつくので肩を支えながら歩く。
それを見た商店街の皆が珍しそうに声をかけてきた。
「あら?サーク、どうしたの??」
「あ、義父さんが長旅で足がつっちゃって……。」
「お義父さん?!サークのお義父さんかい?!」
「どうもはじめまして。お見苦しい状況で申し訳ありません。息子がお世話になっております。」
「ヤダ!!サークそっくり!!」
「え??そっくり??」
そう言われて俺と義父さんは顔を見合わせた。
凄く嬉しい言葉だがちょっと複雑だ。
何しろ義父さんと俺は血が繋がっていない。
見てくれもお世辞にも似ているとは言えないのは自分が一番わかっている。
俺の義父さんだと聞いて、その辺の店の皆がわらわら集まってきた。
そして口々に似てると言うのだ。
「顔は全然似てないけど、何ていうのか……。」
「雰囲気!雰囲気が似てるのよ!!」
「そうそう!サークが歳を取ったらこんな感じになるだろって!!」
「え?!俺、こんな天然じゃないですよ?!」
「サク、義父さんの事、天然だと思っていたのかい??」
「いや、自覚がないみたいだけど、サーク結構天然だよ。天然ていうか、何事も無自覚っていうか……。」
「あ~そう言う親子か~。何かわかる~。そんな雰囲気~。」
「いや待って?!俺、天然じゃないから!!」
「ウンウン、無自覚なんだね~。」
「……よくわからないけれど、うちの息子が皆さんに大事にして頂いているのはとても良くわかりました。本当にありがとうございます。」
慌てる俺とは対象的に、義父さんはにこにこしている。
プッとウィルが小さく吹き出した。
それを合図に皆もどっと笑う。
義父さんはそれを不思議そうにして、俺は真っ赤になってしまった。
「もう!義父さんは!!」
「??」
「可愛いお父さんね!サーク!!」
「どこに行くんだい??まだ引っ越してなかったんだっけ??」
「引っ越しは明日完了する予定です。とりあえず時間も時間なので、ルパパに食事に行こうと思っていて。」
「あぁ!ファビアンとこのランチならまだ間に合うな?」
「お父さん、あそこはラザニアが絶品よ!!」
「いやいや!ランチなら日替わりだろ?!量もサービス満点だし!今日はポトフとバーガーだった!旨いよ!!」
「でもサークのお父さんなら東の国の方でしょ?パエリアとかの方が良くないかしら??」
皆が口々に言うものだから、俺とウィルは顔を見合わせて笑う。
何か本当、この街に住めて良かったなと思う。
そしてそれを義父さんにも見てもらえて良かったと。
義父さん、俺、ちゃんと幸せに暮らしてたんだよ?
東の国を飛び出したけど、こんな良い人たちに囲まれて、ちゃんと幸せに暮らしてたんだよ?
足の震えが治まった義父さんは俺から離れると、微笑んだまま、スッと皆に頭を下げた。
ワイワイと盛り上がっていた皆も、ちょっとびっくりして固まった。
「本当に……本当に、この子を温かく見守って下さりありがとうございます。皆さんを見て、息子がここでどれだけ幸せに暮らしていたかわかりました。感謝致します。」
そんな義父さんを見て、俺はちょっと喉が詰まり、目頭が痛くなった。
ウィルが何も言わず寄り添ってくれる。
「……ヤダ!お父さん!!そんなかしこまらないで下さいよ!!」
「そうそう!俺達は別にたいした事なんてしてないし!!早く行かないと、ランチが終わっちまうぞ!サーク!!」
皆は照れてあわあわしている。
そんな笑顔が俺は好きだった。
来たばかりで引きこもり気味だった時もそれとなく声を掛けてくれて、だからと言って踏み込んできたり陰口を言ったりもせず、気長に俺が慣れるのを待ってくれた。
あの頃も今も変わりなく声を掛けてくれる。
考えてみれば、俺が不信感を抱かずに周囲と普通に話せるのは、ここの人達がいたからだ。
他所から来た移民の引きこもりの若者に、あまり偏見を持たずに接してくれた。
普通なら煙たがられてヒソヒソ遠巻きにされてもおかしくなかった。
でも、この街角の小さな商店街はそうじゃなかった。
声はかけるが必要以上に興味を持たない。
放っておかないが、放っておく人達。
その声に答えれば受け入れてくれる。
「義父さん、俺、東の国を出てても、ちゃんと幸せに暮らしてたんだ。」
「うん。凄く良くわかるよ。連れてきてくれてありがとう、サク。」
そう言葉を交した俺達親子を、皆はちょっと涙ぐみながら見ていた。
あの頃は何も意識してなかったし、ただ、自分の希望の金額で希望に合った条件の賃貸がたまたまここにあったってだけだった。
特に何か意識していた訳じゃない。
でも、東の国を飛び出した俺は、偶然か必然か、この街に辿り着いた。
今更だけど、これも巡りだったのかもしれない。
俺が俺である為の、ターニングポイントの一つだったのかもしれない。
そしてここで幸せに過ごした。
それを義父さんに見せれて良かったと思った。
俺達は皆にお礼を言って別れ、食事をしに向かったのだった。
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