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第九章「海神編」
伝えたい言葉
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ここはどこだったっけ??
俺はぼんやりと切り出された丸太に座っていた。
なんだか懐かしいと言うか、昔から知っている場所みたいで安心する。
変だな?東の国の教会の森にこんなところはなかったと思うんだけど??
「やぁ、準備は終わったかい?」
俺がそんな事を考えていると、側に煙草パイプを片手に白髭をたくわえたおじいさんが立っていた。
何を聞かれているのかわからなかったが、何故かそれが引っ越しの事だと思った。
「はい。終わりました。」
「そうかそうか、それは良かった。」
おじいさんはそう言うと、俺の隣に腰を下ろした。
そしてぷかぷかとパイプをふかす。
「長い事、色々見てきたが、お前さんほど面白いのは初めてだったよ。」
「??」
「まぁ、人の人生は皆面白い。同じものなど一つとしてないからね。」
「……はい。」
「まぁ、ワシも後どれぐらいそれを見れるのかはわからんのだが、会えて楽しかったよ。」
「……はい。」
「次行くところもなかなか良さそうだ。きっとお前さんを守ってくれる。」
「はい……。」
「大事にしてやりなさい。きっと応えてくれる。」
「はい。」
「さて、ワシもそろそろ新しい準備をしないとな。ほれ、これを返そう。」
おじいさんはそう言うと、俺の手に何かを乗せた。
それが何かはわからなかった。
「……あのっ!」
俺は訳もなく声を上げた。
何か言わなければと思ったのだ。
けれどおじいさんは静かに立ち上がり、ぽんぽんと俺の頭を撫でた。
「達者でな。お前さんの人生の一部に立ち会えて、楽しかったよ。そいじゃな……。」
おじいさんがそう言うと、あたりは霧がかかったようにぼやけていった。
「荷物、これで最後ですか?!」
「はい、お願いします。」
荷運びの人が俺にそう声をかけた。
慌ただしく階段を人が降りていく。
俺は部屋を振り返った。
そしてこの部屋で眠って最後に見た夢を思い出していた。
長く人に大事にされたものには意志が宿る。
東の国で言われる事だが、それは別に東の国に限った話ではないのだ。
俺は魔術を使い、最後に部屋を隅々まで掃除した。
そして備え付けの物以外なくなった部屋に深く頭を下げる。
「ありがとうございました……っ!!」
夢の中で言えなかった言葉。
今度はちゃんと言う事ができた。
「お世話になりました!!」
鍵を返し俺が頭を下げると、バケット夫妻はちょっと涙目になって頷いてくれた。
「あのサークがねぇ……!騎士になったと思ったら!貴族になるなんて……っ!!」
「貴族って大げさな……。何か無理やりそうなっちゃっただけだよ。引っ越すのはどちらかと言うと結婚するからだし。」
「ウィルちゃんねぇ!ハンサムで目の保養になったのよ~あの子~。大事にしなさいよ!!」
「うん、大事な人だから大事にするよ。居なくなられたら、俺、多分死んじゃうし。」
「あら、ごちそうさま。」
奥さんはころころ元気よく笑った。
おじさんの方は何だか難しい顔をしている。
「あのサークがなぁ……来た時は根暗で閉じ篭ってて、大丈夫かこいつはと思ってたのによぉ~。」
「うん、色々ごめんね。」
「それがこんなに立派になってよぉ~。嫁さんと暮らすって、引っ越す日が来るとは……っ!!」
「あらやだ、あんた、泣いてるの?!」
「泣いてねぇよ!でも何か感慨深いだろ?!」
「本当、バケット夫妻にはお世話になりました。ありがとうございました。」
俺はあらためてお礼を言って頭を下げた。
二人はニコニコ笑って顔を見合わせる。
「でね?サーク。これを持って行って欲しいのよ。」
「引越し祝いって事でな。」
バケット夫妻はそう言うと、自分達の雑貨屋の中から、箱を持ってきて渡してくれた。
お礼を言って受け取って、中を見ていいかと聞いて開けてみると、美しいステンドグラスのランプが入っていた。
「………っ!!これ!気に入ってるから、絶対に売らないって言って飾っていたランプじゃないですか?!」
そう二人がくれたのは、気に入っているから売らないと言って雑貨屋に飾っていたランプだった。
びっくりして二人を見ると、ただにこにこしている。
「そう!コイツは売る気はない。だからサークにあげようと思ってな。」
「でも……っ!!」
「気に入ってたから売ってくれって言われても渋ってたけど、そこまで高いものでもないのよ?中古品だし。」
「値段じゃないです!気に入ってたのに!!」
「だからかな??」
「そう、だからこそなのよねぇ~。」
焦る俺をよそに、バケット夫妻は悩ましくため息をついた。
「サークが引っ越すって聞いた時、あ、このランプをあげようって思ったのよ。」
「そうそう。こんな事を言うとおかしな奴らだと思われるかもしれんが、私達はずっと物を売ってきた。新品の物もあれば中古の物もある。その中でな、たまに不思議と、これはこの人が買うものだってわかる事があるんだよ。それは必ずその人が買っていったり、誰かに贈られたり、回り回ってその人のところに行く。」
「物と人の縁て言うのかしら??サークが引っ越すって聞いた時、ぽんってこのランプが浮かんだの。聞いたらこの人もだって言うから、ああ、これはもうそう言う縁なんだなって思ったのよ。」
「私達がこのランプを売らずにずっと持っていたのも、そう言う事なんだと思う。もちろん、お前の門出に良い物を上げたかったってのもある。」
「そうそう。気に入っていたランプだからこそ、サークに持って行って欲しいのよ。」
「おじさん、おばさん……。」
「もらってくれるかい?サーク?」
「……もちろんです。ありがとうございました!!」
俺は夫妻に深く頭を下げた。
そして建物の全体を見渡す。
1階が雑貨屋兼バケット夫妻の住居で、2階が借りていた賃貸の部屋と、店の倉庫、俺が来る以前までは仕入れをしている息子さんの部屋だったという夫妻の2階部屋がある。
2階建ての長屋みたいな、ちょっと変わった建物。
そこにあったちょっと変わった賃貸アパート。
ここを選んだのは何もかも偶然だったんだけど、今にして思うと、風変わりだった俺にここより合う家はなかっただろう。
「巡りだったんだろうなぁ……。」
よくわからなかった巡りと言うものが、最近何となく自分の中に馴染んできた気がする。
後付理論といえばそうなんだけど、今の俺があるのは確かにここに俺がいたからだ。
この家に、この場所に、この街に。
東の国を飛び出してきた俺に、何も言わずに寄り添ってくれた場所。
だからこそ今の俺がある。
卑屈で閉じ篭っていた俺がもう一度歩き出すのに、きっとここが必要だったのだ。
不思議ともう寂しい気持ちはなかった。
俺はもう一度、夫妻とこの家に頭を下げた。
新しい家につき、荷物を運び入れ始める。
前日にだいたいのものの位置を決めてくれていたのだろう。
ウィルが指示を出して、運んでもらっていた。
まぁ、荷物って言ってもたいした量でもないんだけど。
俺はもらったランプの箱を抱えながら、それを見ていた。
「……サク?その持っているものは何だい??」
同じように作業の邪魔にならないようにそれを見ていた義父さんがそう言った。
ちょっと不思議な顔つきで俺の抱えている箱を見ている。
「あ、バケット夫妻が引越し祝いにってくれたんです。凄く綺麗なランプですよ。」
「……ランプ、か……。」
作業が落ち着いたら出そうと思って抱えている箱を、義父さんはまじまじと眺めている。
どうしたんだろう??
「義父さん??」
「うん。サク、それ、小さい神様が宿ってるよ。」
「え?!えええええぇぇっ?!」
「それにその神様、ここに縁がある神様だよ。帰って来られたんだねぇ~。」
「えええええぇぇっ?!」
俺はびっくりしてしまった。
長く大切にされた物は意志をもつ、つまり神様が宿る。
それは東の国の教会育ちの俺には自然と刷り込まれた考えなのだけれども、それを中央王国でほいほい出されても何か馴染みがなくてしっくりこない。
そんな俺の事は気に求めず、義父さんはきょろきょろと周りを見渡していた。
本当、マイペースって言うか天然というか……。
義父さんだなぁと思う。
「……あ、ここだここだ。サク、それをここに置いて?」
義父さんは玄関フロアの柱の出っ張りのところに立って、俺を手招きした。
スリッパか何かを入れておくラックなのか何なのか、備え付けの小さなラックの上に空きスペースがある。
多分、玄関を飾る花などを置く場所だと思われるそこに、義父さんがランプを置けと言った。
ちょうど荷入れ作業が終わって、荷運び乗せた人達が帰る所だったので、俺は慌ててお礼を言って頭を下げだ。
代金を支払ってお見送りをしたウィルが、ゴソゴソやっている俺と義父さんの所にやってきた。
「どうしたんだ?サーク??」
「うん。バケット夫妻に引越し祝いにランプをもらったんだけど、義父さんがそれに何かここに縁がある精霊がついてるって言うんだ。」
「え?!精霊?!」
「うん。小さい神様がついてるんだけどね、眠っていらっしゃるんだ。だから元あった場所に置けば、目を覚まされるんじゃないかなぁと思ったんだよ。」
「元って言っても、この家、内装ほぼ新品になっちゃってるからね。」
俺は箱から中身を出して、傷つかないように包んである紙を外した。
「あ、綺麗……。」
「うん、バケット夫妻のお気に入りのランプだよ。」
「そんな大事なランプ、もらって良かったのか?!」
「うん。大事なランプだから俺にもらって欲しいって言ってくれたんだ。……そうだ、そう言えばバケット夫妻も、このランプは何か俺と縁がありそうだって言ってた。」
「ふふふ、長く物に携わっていると、そういうものを感じる事も多いんだろうね。確かにこのランプはお前との縁を頼って、ここに帰って来られたんだよ。」
「以前、住んでた人が飾ってたランプって事??」
「さぁ?そこまではわからないけど、おそらくそうなんだろうね。そしてとても大切にしてもらっていたんだろうね。」
俺が箱の上にランプを綺麗に出すと、義父さんはうんうんと頷き、ポケットからハンカチを出した。
それにふっと息を吹きかける。
そのハンカチで台を拭き、パンパンと柏手を打つ。
そしてもう一度ハンカチに息を吹きかけるとランプにかけ、ハンカチがかかったままランプをそこに置いた。
そして軽く一礼する。
「祓え給え、清め給え。神ながら守り給え、幸へ給え。」
そして二礼二拍一礼。
俺は義父さんがしめ縄なんかをつける時もいつもやるのであまり気にしなかったが、初めて見たウィルはびっくりしたみたいで固まっていた。
「え?!え?!」
「気にしなくていいよ。軽く場を浄めただけだから。」
「え??浄めた??」
「う~ん。こういうのはお国柄だからなぁ。何ていうのか……精霊が居やすくした??みたいな??」
「……そう、なんだ??」
ウィルはわかった様なわからない様なと言った顔で首を傾げていた。
ちょっと可愛い。
義父さんも癖みたいな感じでやっていたので、そこまで深い意味はなかったんだと思う。
しかし義父さんがハンカチを外した瞬間、何もしていないランプが、ぱぁっと淡く輝き出した。
「え?!」
「あ、神様がお目覚めになったよ。良かったね、サク。」
「ええぇっ?!それって良かったの?!」
のほほんと言う義父さんに対して、俺とウィルはびっくりしてしまってあわあわする。
え?!神様が目を覚ましたって何?!
どうすればいいの?!
慌てる俺達は置いてけぼりで、ランプはどんどん光り輝いていく。
「義父さん!!これ!どうすればいいの?!」
「どうもしないよ??神様が元いた場所に帰って来られただけだから、別に何もする事はないよ??」
「ちょっと待って?!もっとちゃんと説明してよっ!!」
慌てふためいていると、ランプから光の粒の塊がふわりと出てきた。
ウィルの胸からヴィオールが出てくるのの小さいバージョンだ。
本当にランプから精霊が出てきたので、俺とウィルは驚きすぎて絶句してしまっていた。
「おや、可視化する神様みたいだね??」
「義父さ~ん!!何でそんなに平然としてるの?!」
「え??だって神様じゃないか??何をそんなに慌てているんだい??二人とも??」
「普通の人は精霊なんて見慣れてないっての!!東の国ならまだしも!ここ!中央王国だからっ!!」
「神様に国なんて関係ないじゃないか??」
「義父さ~~んっ!!」
あくまでも能天気でマイペースな義父さんに、俺達は動揺を隠せなかった。
待って?!本当?!
魔術師をしてるからある程度知識はあるけど!
精霊とかおいそれと出てこられても対応に困るってのっ!!
そんなドタバタな俺達をよそに、光の粒の塊はふわりと1つの形にまとまった。
それは女性の姿を模していた。
「………え……ここは……。」
女性はふと目を開き、あたりを見渡した。
そしてじっと家の中を見つめている。
「……旦那様……奥様……。いえ……ここは違う……いえ……違わない………??」
精霊の方もどうも状況が飲み込めないようだ。
俺とウィルは驚きすぎて言葉が出なかったが、流石は神仕えというか、義父さんはにっこり笑って頭を下げた。
「突然のご挨拶で失礼致します。私は東の国で神仕えをしている者です。ご縁がありまして、あなた様のご帰還に立ち会わさせて頂きました。」
「……ここは……私のお家ですか……?見た所……何か変わってしまったような……同じような……。」
「あなた様がここに居られたのは、おそらく随分、前の事でしょう。その間、お眠りになっていた様ですね。」
「……そう……旦那様と奥様が……居なくなられて……私はこの家から切り離されてしまって……悲しくて……悲しくて……。あぁ、私のお家……私のお家だわ……ママ……。」
女性を模した精霊は、独り言の様に呟いて、あたりを見渡す。
そしてぽろぽろと涙を溢した。
動揺していた俺とウィルも、涙を流す精霊をも見て、冷静さを取り戻す。
「あなた様はどうやら、この家の意志の子供の様ですね。」
「ママ……ママ……良かった……ママの所に帰って来れた……。凄く不安だったの……。壊れてしまうかと思ったわ……。」
「小さな意志の結晶は、大元の意志から離れると壊れやすい。消えてしまう前にお戻りになる事が出来て良かったです。」
「ありがとう……でも……旦那様と奥様は……?」
「……残念ながら、神々と人との時の流れは違うのです。もう、あなた様の言う旦那様と奥様は、命の流れの中に還られたのでしょう。」
「……そう……ですか……。」
精霊はしょんぼりと俯いた。
物に意志が宿るほど大切にしてもらったのだ。
物もその相手を覚えているのだろう。
だがその時間の流れは違う。
会いたいと願っても、それは難しい事だろう。
「あなた様の旦那様と奥様に会わせて差し上げられないのはとても残念です。ですが、あなた様はここに帰って来られた。この家も見ての通り、新しい歩みを歩き始めました。」
その言葉を受け、精霊は目を閉じた。
家とリンクして新しい情報を取り入れているみたいだった。
そして目を開くと、俺とウィルをまっすぐ見つめた。
「……新しい……旦那様と奥様……。」
そしてふわりと笑った。
泣いて赤くした目で、安心したようにふわっと笑ったのだ。
その瞬間、俺とウィルはズキュンときた。
その無垢な笑顔に、激しくズキュンときてしまったのだ!
「うわあぁぁ!何だろう?!この気持ち!!あ!あれだ!リリとムクに感じてるヤツ!!」
「か、可愛い……守ってあげたい……どうしよう……サーク、この子、守ってあげたい……。」
ウィルはそう言うと、魅入られたみたいにふらっと精霊の側に寄った。
精霊はそれにスカートの裾を摘んで挨拶すると、無邪気に笑った。
「守ってあげたいだなんて、おかしいですわ、奥様。私は家守り、お守りするのは私の方でございます。」
「ん~~っ!!可愛いっ!!サーク!!この子可愛いっ!!どうしよう!!可愛いっ!!」
そう言って俺の胸ぐらを掴んでブンブン振り回す。
いや、気持ちはわかる!
俺も同じ気持ちだから!!
でもわかるが落ち着いてくれっ!!
俺は振り回されながらなんとかウィルをなだめて、精霊に向き合った。
精霊は俺とウィルの掛け合いが面白かったようで、くすくすと笑っている。
可愛い……。
「ええと……ランプについていた精霊さん??」
「はい、何でしょうか?旦那様??」
「精霊さんは……この家の……つまりこれから俺達が住むこの家の、家守りの精霊さんって事だよね??」
「はい!これから私がこの家をお守り致します!」
嬉しそうににっこり笑う顔を見て、俺はちょっとほっとした。
義父さんが精霊の目を覚まさせた時はどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだ。
「……こう言うのって、どうしたらいいの?義父さん??」
ただ、家守りの精霊がいる家なんて聞いた事もないし、そこに住むとなるとどうしていいのかわからない。
俺は義父さんの顔を伺った。
「どうって……普通に暮せばいいだろう??神様は見えようと見えまいと、常に私達の隣にいるものなんだから??」
義父さんは何を聞かれているのかわからない感じで小首を傾げた。
いや、そうなんだけどさ??
神仕えの義父さんと違って、俺達はいざ見えるとなると何をどうして良いのかわからないよ……。
「あの、精霊さんは名前があるの?あったら教えてもらっても大丈夫??」
ウィルが精霊にそう聞いた。
流石は竜の谷の民だけあって、竜に名前をつけてはいけないのと同じで、精霊の名前の重要性を理解している。
名は個を縛る。
皆、誰もが当たり前に持っている名前だけど、名をつける、名を知られるのは、それに縛られ操られる危険をはらんでいるのだ。
だから神仕えの義父さんは名前を持たない。
厄介な神と関わらないとならない時、名前を持っていると利用される可能性があるからだ。
ただ、名前がないと普通に生活するのは不便だから、名前がない神仕えは東の国に義父さん一人だ。
じゃないと名前がない誰それって、結局、名前みたいなのがついてしまうから、古くから名前のない神仕えは一人だけと教会で決まっている。
「名はございません。以前の旦那様と奥様は幽霊メイドさんとお呼びになっていました。」
「幽霊メイドって……ちょっと酷いな……。」
俺は苦笑した。
確かに精霊さんは半透明で、普通の人から見たら幽霊みたいに見える。
「義父さん、名前ってつけたらまずいのかな??」
名を持たせる事の意味を理解しつつ、俺は義父さんに訪ねた。
義父さんはう~んと考えて、家を見渡し、それから言った。
「それはこの家とこの方がどう受け取るかにもよるね。ただ勝手に他人がそう呼んでいるだけだと思うならそこまで縛られないけれど、それを自分の名だと認識すれば、神様を縛る楔になるだろうし。」
「なら……やめた方がいいか……。」
「でも、この家の守り神として定着させる事も出来るだろうね。その代わり、この家に縛られる事になるけど……。」
なるほど、名前をつける事でこの精霊さんをランプについた不安定な家守りから、ママであるこの家に繋がった家守りにする事はできるのか。
でもそうするとこの家から離れる事は出来なくなって、今は良くてもずっとずっと後になってこの家が朽ちた時、家付きの怨霊になりかねないのか……難しいな……。
「この家に繋げてください!旦那様!」
「え?!」
「もう、ひとりぼっちで不安なのは嫌です!ママと一緒に居たいです!」
「でも……ここから離れられなくなるよ?今は良くても、この家に誰も住まなくなって朽ちた時、それでもここに縛られる事になるんだよ??」
「それでもいいです!!ママが無に帰るなら、その時、一緒に帰ります!!引き離されて、一人で不安な状態で壊れていくのを待つのは嫌です!お願いします!旦那様!!」
精霊さんの泣きそうな顔を見て、俺は義父さんとウィルの顔を見た。
義父さんは任せるよと言うように微笑み、ウィルは強く頷いた。
「わかった。なら君に、この家の家守りとしての名を与える。それでいいね?」
「はい!ありがとうございます!!」
精霊さんは力強く頷いた。
う~ん、でもどうしよう……。
名前をつけるって言われてもなぁ……。
「……ちょっと、待っててくれる??」
俺はそう言ってウィルを引っ張って、少し場を離れた。
「どうしよう?!ウィル?!名前?!」
「いざつけるとなると悩むね?!あの子可愛いし!!ピッタリの名前をつけてあげたい!!」
何だかすっかり、娘に名前をつける親みたいな心境になって、俺達は悩んだ。
きっとライルとサムもこんな感じで悩んだんだろうなぁ。
「得意の古い言葉とか何かないのか?!サーク?!」
「ええぇっ?!う~ん、灯りって意味なら……リュミエールとかルーチェとか……。」
「それも可愛いね!!星とかの輝きはシュトラールとかも言うよね?!」
「月光って意味でルアルって言葉があった気がする!」
「星はエトワールとかあるよね?!」
「ウィルも詳しいじゃん。流石、読書家!!」
「あぁ!どうしよう!!どれも可愛い!!」
「ほのかちゃんとかどうかな??」
めちゃくちゃ悩む俺達の会話に、ヒョイッと違う声が交じる。
顔を上げると義父さんがにこにこ笑っていた。
「ちょっと義父さん!!混ざらないでよ!!」
「えぇ~?!義父さんも混ぜてよ~。孫の名前つけてるみたいで、義父さんも参加したいよ~!」
「わがまま言わない!!」
「いや待って!サーク!ホノカは悪くないと思う!あの子の柔らかいイメージに合うし!」
ウィルはいつになく真剣で、義父さんの言葉にも俊敏に反応していた。
そして物凄く真剣に考えた後、言った。
「……お義父さん、東の国の言葉で愛らしいって他に言い方ありますか?!」
それを聞いた義父さんはきょとんとした後、こう言った。
「そうだねぇ~。可憐……カレンって言葉があるよ。」
「……それだっ!!意味もぴったりだっ!!」
ウィルはガバッと顔を起こすと、止める間もなく精霊さんの所にすっ飛んでいった。
「カレンっ!!君の名前はカレンにするよ!!」
「本当ですか?!奥様っ!!私、カレンですねっ?!」
抱きしめんばかりに側によってウィルが告げると、精霊さんの体がまた、ぱぁっと輝いた。
異変に気づいた義父さんがすぐ様、祝詞を唱えだす。
「掛けまくも畏き水の大神、地の大神……」
「ウィル、大丈夫だからこっちに来て。」
「うん……カレン、どうしたの?」
「名前を得て精霊としての形が変化し始めたんだ。義父さんがその固定の手伝いをしてるんだよ。大丈夫、すぐ終わるから。」
「大丈夫なのか……?」
「うん。義父さんはああ見えて神仕えの中でもトップクラスの人だよ。カレンはランプ付きの不安な家守りから、この家の守護精霊……つまり家守りになったんだ。その固定がきちんとうまくできるように、義父さんが手伝ってる。だから大丈夫だよ。」
「うん……。」
ウィルは思わず興奮して軽率な行動を取ってしまったとちょっと落ち込んでいたが、輝いていたカレンがだんだんとハッキリした姿になってくると嬉しそうに目を輝かした。
カレンはそれまでの半透明でよく見えない姿形ではなく、はっきりとした形になった。
メイト服を着た、可愛い10代後半くらいの女の子の姿でそこに立っていた。
「……あれ?私……??」
カレンは目をぱちくりさせる。
自分の手を見て、握ったり開いたり……。
「……え??もしかして、実体化してる?!」
「そうみたいだね?」
「ウソ?!実体化って!かなり力のある精霊しかできないんじゃなかったの?!」
「う~ん。どうやら、お前の影響を受けてしまったみたいだねぇ~。」
「ふぁ?!」
「どうも固定化する時に、お前からあふれ出している力を取り込んでしまったみたいだ。」
「あふれ出している力?!」
「うん。やっぱり魂につけてた封が取れてしまっていると、神様に与える影響力が強いねぇ~。」
「……それって大丈夫なの?!俺、もう一度封をしなくて大丈夫?!」
「大丈夫だよ。と言うかそれがなかったらお前、竜の血の呪いと2度も張り合って無事な訳がないじゃないか。」
「えええええぇぇっ?!俺が呪いとやり合って何とか無事だったのって!そういう影響だったの?!」
「そうだよ??普通の人間が神様の呪いに耐えられる訳がないじゃないか??」
「えええええぇぇっ!!」
何か、こんな所でそんな重大な種明かしをされるとは思わなかった……。
て言うか、そんな重要な事なら、先に話しておいてよ…義父さん……。
あまりの事に混乱する俺を、義父さんはきょとんと見ている。
あぁ、そうなんだよね……この人にとったら当たり前の事で、あえて話す必要性を感じてなかったんだよね……。
「……義父さん……今後は俺が普通の人と違う時は教えて下さい……。俺、自分で自分の事、あんまりよくわかってないから……。」
「そうなのかい??」
「うん……。」
俺と義父さんがそんな話をしている横で、ウィルはカレンとハグを交わしていた。
初めて人に抱きしめられたカレンは驚き、そして嬉しそうに笑っていた。
「旦那様!奥様にハグして頂きました!!ハグって温かいんですねっ!!」
そして俺にもしてくれと言わんばかりに両手を広げて駆け寄ってくる。
可愛い……うちの子、可愛い……。
リリとムクといい、カレンといい、うちの家についてくれる精霊はどうして皆、可愛いんだろう?!
ぎゅっとハグすると、無邪気に今度は義父さんのところにも向かって行く。
「大旦那様もハグして下さい!!」
「え?えぇっ?!……サク?!ハグって義父さんがしてもいいものなのかい?!」
東の国にはハグの習慣はないから、義父さんはあわあわと戸惑っている。
それを不思議そうにするカレンに、ウィルが義父さんが東の国の人だと説明していた。
若い娘さんにハグを求められてあわあわする義父さんもちょっと面白い。
俺は笑いながら言った。
「大丈夫でしょ??孫娘みたいなもんだし。」
「……何か……犯罪とか言われないかい?!昨日読んだ雑誌に、若い女性にそういう事をすると訴えられるって書いてあったんだけど?!」
「言われないよ!!て言うか?何を読んだの?!義父さん?!だいたい義父さんが言われるなら!俺も言われるからっ!!」
「えぇっ?!息子が犯罪者?!教会会議にかけられちゃうよ!!」
「だから!!犯罪者じゃないから~っ!!」
何故かよくわからない方に思考が飛ぶ義父さんに振り回される。
それを明るくウィルとカレンが笑う。
予想外の展開だったが、うちにはカレンと言う家守りの精霊がついた。
そんな事もあって、何だかうちは明るい家になりそうだなぁなんて思う。
そして気づいた。
あぁ俺、今日はここが自分の家だってわかる。
あの時おじいさんが渡してくれたものは、たぶん今はこの家にある。
そんな事を思って、俺は誰にともなくありがとうと呟いたのだった。
俺はぼんやりと切り出された丸太に座っていた。
なんだか懐かしいと言うか、昔から知っている場所みたいで安心する。
変だな?東の国の教会の森にこんなところはなかったと思うんだけど??
「やぁ、準備は終わったかい?」
俺がそんな事を考えていると、側に煙草パイプを片手に白髭をたくわえたおじいさんが立っていた。
何を聞かれているのかわからなかったが、何故かそれが引っ越しの事だと思った。
「はい。終わりました。」
「そうかそうか、それは良かった。」
おじいさんはそう言うと、俺の隣に腰を下ろした。
そしてぷかぷかとパイプをふかす。
「長い事、色々見てきたが、お前さんほど面白いのは初めてだったよ。」
「??」
「まぁ、人の人生は皆面白い。同じものなど一つとしてないからね。」
「……はい。」
「まぁ、ワシも後どれぐらいそれを見れるのかはわからんのだが、会えて楽しかったよ。」
「……はい。」
「次行くところもなかなか良さそうだ。きっとお前さんを守ってくれる。」
「はい……。」
「大事にしてやりなさい。きっと応えてくれる。」
「はい。」
「さて、ワシもそろそろ新しい準備をしないとな。ほれ、これを返そう。」
おじいさんはそう言うと、俺の手に何かを乗せた。
それが何かはわからなかった。
「……あのっ!」
俺は訳もなく声を上げた。
何か言わなければと思ったのだ。
けれどおじいさんは静かに立ち上がり、ぽんぽんと俺の頭を撫でた。
「達者でな。お前さんの人生の一部に立ち会えて、楽しかったよ。そいじゃな……。」
おじいさんがそう言うと、あたりは霧がかかったようにぼやけていった。
「荷物、これで最後ですか?!」
「はい、お願いします。」
荷運びの人が俺にそう声をかけた。
慌ただしく階段を人が降りていく。
俺は部屋を振り返った。
そしてこの部屋で眠って最後に見た夢を思い出していた。
長く人に大事にされたものには意志が宿る。
東の国で言われる事だが、それは別に東の国に限った話ではないのだ。
俺は魔術を使い、最後に部屋を隅々まで掃除した。
そして備え付けの物以外なくなった部屋に深く頭を下げる。
「ありがとうございました……っ!!」
夢の中で言えなかった言葉。
今度はちゃんと言う事ができた。
「お世話になりました!!」
鍵を返し俺が頭を下げると、バケット夫妻はちょっと涙目になって頷いてくれた。
「あのサークがねぇ……!騎士になったと思ったら!貴族になるなんて……っ!!」
「貴族って大げさな……。何か無理やりそうなっちゃっただけだよ。引っ越すのはどちらかと言うと結婚するからだし。」
「ウィルちゃんねぇ!ハンサムで目の保養になったのよ~あの子~。大事にしなさいよ!!」
「うん、大事な人だから大事にするよ。居なくなられたら、俺、多分死んじゃうし。」
「あら、ごちそうさま。」
奥さんはころころ元気よく笑った。
おじさんの方は何だか難しい顔をしている。
「あのサークがなぁ……来た時は根暗で閉じ篭ってて、大丈夫かこいつはと思ってたのによぉ~。」
「うん、色々ごめんね。」
「それがこんなに立派になってよぉ~。嫁さんと暮らすって、引っ越す日が来るとは……っ!!」
「あらやだ、あんた、泣いてるの?!」
「泣いてねぇよ!でも何か感慨深いだろ?!」
「本当、バケット夫妻にはお世話になりました。ありがとうございました。」
俺はあらためてお礼を言って頭を下げた。
二人はニコニコ笑って顔を見合わせる。
「でね?サーク。これを持って行って欲しいのよ。」
「引越し祝いって事でな。」
バケット夫妻はそう言うと、自分達の雑貨屋の中から、箱を持ってきて渡してくれた。
お礼を言って受け取って、中を見ていいかと聞いて開けてみると、美しいステンドグラスのランプが入っていた。
「………っ!!これ!気に入ってるから、絶対に売らないって言って飾っていたランプじゃないですか?!」
そう二人がくれたのは、気に入っているから売らないと言って雑貨屋に飾っていたランプだった。
びっくりして二人を見ると、ただにこにこしている。
「そう!コイツは売る気はない。だからサークにあげようと思ってな。」
「でも……っ!!」
「気に入ってたから売ってくれって言われても渋ってたけど、そこまで高いものでもないのよ?中古品だし。」
「値段じゃないです!気に入ってたのに!!」
「だからかな??」
「そう、だからこそなのよねぇ~。」
焦る俺をよそに、バケット夫妻は悩ましくため息をついた。
「サークが引っ越すって聞いた時、あ、このランプをあげようって思ったのよ。」
「そうそう。こんな事を言うとおかしな奴らだと思われるかもしれんが、私達はずっと物を売ってきた。新品の物もあれば中古の物もある。その中でな、たまに不思議と、これはこの人が買うものだってわかる事があるんだよ。それは必ずその人が買っていったり、誰かに贈られたり、回り回ってその人のところに行く。」
「物と人の縁て言うのかしら??サークが引っ越すって聞いた時、ぽんってこのランプが浮かんだの。聞いたらこの人もだって言うから、ああ、これはもうそう言う縁なんだなって思ったのよ。」
「私達がこのランプを売らずにずっと持っていたのも、そう言う事なんだと思う。もちろん、お前の門出に良い物を上げたかったってのもある。」
「そうそう。気に入っていたランプだからこそ、サークに持って行って欲しいのよ。」
「おじさん、おばさん……。」
「もらってくれるかい?サーク?」
「……もちろんです。ありがとうございました!!」
俺は夫妻に深く頭を下げた。
そして建物の全体を見渡す。
1階が雑貨屋兼バケット夫妻の住居で、2階が借りていた賃貸の部屋と、店の倉庫、俺が来る以前までは仕入れをしている息子さんの部屋だったという夫妻の2階部屋がある。
2階建ての長屋みたいな、ちょっと変わった建物。
そこにあったちょっと変わった賃貸アパート。
ここを選んだのは何もかも偶然だったんだけど、今にして思うと、風変わりだった俺にここより合う家はなかっただろう。
「巡りだったんだろうなぁ……。」
よくわからなかった巡りと言うものが、最近何となく自分の中に馴染んできた気がする。
後付理論といえばそうなんだけど、今の俺があるのは確かにここに俺がいたからだ。
この家に、この場所に、この街に。
東の国を飛び出してきた俺に、何も言わずに寄り添ってくれた場所。
だからこそ今の俺がある。
卑屈で閉じ篭っていた俺がもう一度歩き出すのに、きっとここが必要だったのだ。
不思議ともう寂しい気持ちはなかった。
俺はもう一度、夫妻とこの家に頭を下げた。
新しい家につき、荷物を運び入れ始める。
前日にだいたいのものの位置を決めてくれていたのだろう。
ウィルが指示を出して、運んでもらっていた。
まぁ、荷物って言ってもたいした量でもないんだけど。
俺はもらったランプの箱を抱えながら、それを見ていた。
「……サク?その持っているものは何だい??」
同じように作業の邪魔にならないようにそれを見ていた義父さんがそう言った。
ちょっと不思議な顔つきで俺の抱えている箱を見ている。
「あ、バケット夫妻が引越し祝いにってくれたんです。凄く綺麗なランプですよ。」
「……ランプ、か……。」
作業が落ち着いたら出そうと思って抱えている箱を、義父さんはまじまじと眺めている。
どうしたんだろう??
「義父さん??」
「うん。サク、それ、小さい神様が宿ってるよ。」
「え?!えええええぇぇっ?!」
「それにその神様、ここに縁がある神様だよ。帰って来られたんだねぇ~。」
「えええええぇぇっ?!」
俺はびっくりしてしまった。
長く大切にされた物は意志をもつ、つまり神様が宿る。
それは東の国の教会育ちの俺には自然と刷り込まれた考えなのだけれども、それを中央王国でほいほい出されても何か馴染みがなくてしっくりこない。
そんな俺の事は気に求めず、義父さんはきょろきょろと周りを見渡していた。
本当、マイペースって言うか天然というか……。
義父さんだなぁと思う。
「……あ、ここだここだ。サク、それをここに置いて?」
義父さんは玄関フロアの柱の出っ張りのところに立って、俺を手招きした。
スリッパか何かを入れておくラックなのか何なのか、備え付けの小さなラックの上に空きスペースがある。
多分、玄関を飾る花などを置く場所だと思われるそこに、義父さんがランプを置けと言った。
ちょうど荷入れ作業が終わって、荷運び乗せた人達が帰る所だったので、俺は慌ててお礼を言って頭を下げだ。
代金を支払ってお見送りをしたウィルが、ゴソゴソやっている俺と義父さんの所にやってきた。
「どうしたんだ?サーク??」
「うん。バケット夫妻に引越し祝いにランプをもらったんだけど、義父さんがそれに何かここに縁がある精霊がついてるって言うんだ。」
「え?!精霊?!」
「うん。小さい神様がついてるんだけどね、眠っていらっしゃるんだ。だから元あった場所に置けば、目を覚まされるんじゃないかなぁと思ったんだよ。」
「元って言っても、この家、内装ほぼ新品になっちゃってるからね。」
俺は箱から中身を出して、傷つかないように包んである紙を外した。
「あ、綺麗……。」
「うん、バケット夫妻のお気に入りのランプだよ。」
「そんな大事なランプ、もらって良かったのか?!」
「うん。大事なランプだから俺にもらって欲しいって言ってくれたんだ。……そうだ、そう言えばバケット夫妻も、このランプは何か俺と縁がありそうだって言ってた。」
「ふふふ、長く物に携わっていると、そういうものを感じる事も多いんだろうね。確かにこのランプはお前との縁を頼って、ここに帰って来られたんだよ。」
「以前、住んでた人が飾ってたランプって事??」
「さぁ?そこまではわからないけど、おそらくそうなんだろうね。そしてとても大切にしてもらっていたんだろうね。」
俺が箱の上にランプを綺麗に出すと、義父さんはうんうんと頷き、ポケットからハンカチを出した。
それにふっと息を吹きかける。
そのハンカチで台を拭き、パンパンと柏手を打つ。
そしてもう一度ハンカチに息を吹きかけるとランプにかけ、ハンカチがかかったままランプをそこに置いた。
そして軽く一礼する。
「祓え給え、清め給え。神ながら守り給え、幸へ給え。」
そして二礼二拍一礼。
俺は義父さんがしめ縄なんかをつける時もいつもやるのであまり気にしなかったが、初めて見たウィルはびっくりしたみたいで固まっていた。
「え?!え?!」
「気にしなくていいよ。軽く場を浄めただけだから。」
「え??浄めた??」
「う~ん。こういうのはお国柄だからなぁ。何ていうのか……精霊が居やすくした??みたいな??」
「……そう、なんだ??」
ウィルはわかった様なわからない様なと言った顔で首を傾げていた。
ちょっと可愛い。
義父さんも癖みたいな感じでやっていたので、そこまで深い意味はなかったんだと思う。
しかし義父さんがハンカチを外した瞬間、何もしていないランプが、ぱぁっと淡く輝き出した。
「え?!」
「あ、神様がお目覚めになったよ。良かったね、サク。」
「ええぇっ?!それって良かったの?!」
のほほんと言う義父さんに対して、俺とウィルはびっくりしてしまってあわあわする。
え?!神様が目を覚ましたって何?!
どうすればいいの?!
慌てる俺達は置いてけぼりで、ランプはどんどん光り輝いていく。
「義父さん!!これ!どうすればいいの?!」
「どうもしないよ??神様が元いた場所に帰って来られただけだから、別に何もする事はないよ??」
「ちょっと待って?!もっとちゃんと説明してよっ!!」
慌てふためいていると、ランプから光の粒の塊がふわりと出てきた。
ウィルの胸からヴィオールが出てくるのの小さいバージョンだ。
本当にランプから精霊が出てきたので、俺とウィルは驚きすぎて絶句してしまっていた。
「おや、可視化する神様みたいだね??」
「義父さ~ん!!何でそんなに平然としてるの?!」
「え??だって神様じゃないか??何をそんなに慌てているんだい??二人とも??」
「普通の人は精霊なんて見慣れてないっての!!東の国ならまだしも!ここ!中央王国だからっ!!」
「神様に国なんて関係ないじゃないか??」
「義父さ~~んっ!!」
あくまでも能天気でマイペースな義父さんに、俺達は動揺を隠せなかった。
待って?!本当?!
魔術師をしてるからある程度知識はあるけど!
精霊とかおいそれと出てこられても対応に困るってのっ!!
そんなドタバタな俺達をよそに、光の粒の塊はふわりと1つの形にまとまった。
それは女性の姿を模していた。
「………え……ここは……。」
女性はふと目を開き、あたりを見渡した。
そしてじっと家の中を見つめている。
「……旦那様……奥様……。いえ……ここは違う……いえ……違わない………??」
精霊の方もどうも状況が飲み込めないようだ。
俺とウィルは驚きすぎて言葉が出なかったが、流石は神仕えというか、義父さんはにっこり笑って頭を下げた。
「突然のご挨拶で失礼致します。私は東の国で神仕えをしている者です。ご縁がありまして、あなた様のご帰還に立ち会わさせて頂きました。」
「……ここは……私のお家ですか……?見た所……何か変わってしまったような……同じような……。」
「あなた様がここに居られたのは、おそらく随分、前の事でしょう。その間、お眠りになっていた様ですね。」
「……そう……旦那様と奥様が……居なくなられて……私はこの家から切り離されてしまって……悲しくて……悲しくて……。あぁ、私のお家……私のお家だわ……ママ……。」
女性を模した精霊は、独り言の様に呟いて、あたりを見渡す。
そしてぽろぽろと涙を溢した。
動揺していた俺とウィルも、涙を流す精霊をも見て、冷静さを取り戻す。
「あなた様はどうやら、この家の意志の子供の様ですね。」
「ママ……ママ……良かった……ママの所に帰って来れた……。凄く不安だったの……。壊れてしまうかと思ったわ……。」
「小さな意志の結晶は、大元の意志から離れると壊れやすい。消えてしまう前にお戻りになる事が出来て良かったです。」
「ありがとう……でも……旦那様と奥様は……?」
「……残念ながら、神々と人との時の流れは違うのです。もう、あなた様の言う旦那様と奥様は、命の流れの中に還られたのでしょう。」
「……そう……ですか……。」
精霊はしょんぼりと俯いた。
物に意志が宿るほど大切にしてもらったのだ。
物もその相手を覚えているのだろう。
だがその時間の流れは違う。
会いたいと願っても、それは難しい事だろう。
「あなた様の旦那様と奥様に会わせて差し上げられないのはとても残念です。ですが、あなた様はここに帰って来られた。この家も見ての通り、新しい歩みを歩き始めました。」
その言葉を受け、精霊は目を閉じた。
家とリンクして新しい情報を取り入れているみたいだった。
そして目を開くと、俺とウィルをまっすぐ見つめた。
「……新しい……旦那様と奥様……。」
そしてふわりと笑った。
泣いて赤くした目で、安心したようにふわっと笑ったのだ。
その瞬間、俺とウィルはズキュンときた。
その無垢な笑顔に、激しくズキュンときてしまったのだ!
「うわあぁぁ!何だろう?!この気持ち!!あ!あれだ!リリとムクに感じてるヤツ!!」
「か、可愛い……守ってあげたい……どうしよう……サーク、この子、守ってあげたい……。」
ウィルはそう言うと、魅入られたみたいにふらっと精霊の側に寄った。
精霊はそれにスカートの裾を摘んで挨拶すると、無邪気に笑った。
「守ってあげたいだなんて、おかしいですわ、奥様。私は家守り、お守りするのは私の方でございます。」
「ん~~っ!!可愛いっ!!サーク!!この子可愛いっ!!どうしよう!!可愛いっ!!」
そう言って俺の胸ぐらを掴んでブンブン振り回す。
いや、気持ちはわかる!
俺も同じ気持ちだから!!
でもわかるが落ち着いてくれっ!!
俺は振り回されながらなんとかウィルをなだめて、精霊に向き合った。
精霊は俺とウィルの掛け合いが面白かったようで、くすくすと笑っている。
可愛い……。
「ええと……ランプについていた精霊さん??」
「はい、何でしょうか?旦那様??」
「精霊さんは……この家の……つまりこれから俺達が住むこの家の、家守りの精霊さんって事だよね??」
「はい!これから私がこの家をお守り致します!」
嬉しそうににっこり笑う顔を見て、俺はちょっとほっとした。
義父さんが精霊の目を覚まさせた時はどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだ。
「……こう言うのって、どうしたらいいの?義父さん??」
ただ、家守りの精霊がいる家なんて聞いた事もないし、そこに住むとなるとどうしていいのかわからない。
俺は義父さんの顔を伺った。
「どうって……普通に暮せばいいだろう??神様は見えようと見えまいと、常に私達の隣にいるものなんだから??」
義父さんは何を聞かれているのかわからない感じで小首を傾げた。
いや、そうなんだけどさ??
神仕えの義父さんと違って、俺達はいざ見えるとなると何をどうして良いのかわからないよ……。
「あの、精霊さんは名前があるの?あったら教えてもらっても大丈夫??」
ウィルが精霊にそう聞いた。
流石は竜の谷の民だけあって、竜に名前をつけてはいけないのと同じで、精霊の名前の重要性を理解している。
名は個を縛る。
皆、誰もが当たり前に持っている名前だけど、名をつける、名を知られるのは、それに縛られ操られる危険をはらんでいるのだ。
だから神仕えの義父さんは名前を持たない。
厄介な神と関わらないとならない時、名前を持っていると利用される可能性があるからだ。
ただ、名前がないと普通に生活するのは不便だから、名前がない神仕えは東の国に義父さん一人だ。
じゃないと名前がない誰それって、結局、名前みたいなのがついてしまうから、古くから名前のない神仕えは一人だけと教会で決まっている。
「名はございません。以前の旦那様と奥様は幽霊メイドさんとお呼びになっていました。」
「幽霊メイドって……ちょっと酷いな……。」
俺は苦笑した。
確かに精霊さんは半透明で、普通の人から見たら幽霊みたいに見える。
「義父さん、名前ってつけたらまずいのかな??」
名を持たせる事の意味を理解しつつ、俺は義父さんに訪ねた。
義父さんはう~んと考えて、家を見渡し、それから言った。
「それはこの家とこの方がどう受け取るかにもよるね。ただ勝手に他人がそう呼んでいるだけだと思うならそこまで縛られないけれど、それを自分の名だと認識すれば、神様を縛る楔になるだろうし。」
「なら……やめた方がいいか……。」
「でも、この家の守り神として定着させる事も出来るだろうね。その代わり、この家に縛られる事になるけど……。」
なるほど、名前をつける事でこの精霊さんをランプについた不安定な家守りから、ママであるこの家に繋がった家守りにする事はできるのか。
でもそうするとこの家から離れる事は出来なくなって、今は良くてもずっとずっと後になってこの家が朽ちた時、家付きの怨霊になりかねないのか……難しいな……。
「この家に繋げてください!旦那様!」
「え?!」
「もう、ひとりぼっちで不安なのは嫌です!ママと一緒に居たいです!」
「でも……ここから離れられなくなるよ?今は良くても、この家に誰も住まなくなって朽ちた時、それでもここに縛られる事になるんだよ??」
「それでもいいです!!ママが無に帰るなら、その時、一緒に帰ります!!引き離されて、一人で不安な状態で壊れていくのを待つのは嫌です!お願いします!旦那様!!」
精霊さんの泣きそうな顔を見て、俺は義父さんとウィルの顔を見た。
義父さんは任せるよと言うように微笑み、ウィルは強く頷いた。
「わかった。なら君に、この家の家守りとしての名を与える。それでいいね?」
「はい!ありがとうございます!!」
精霊さんは力強く頷いた。
う~ん、でもどうしよう……。
名前をつけるって言われてもなぁ……。
「……ちょっと、待っててくれる??」
俺はそう言ってウィルを引っ張って、少し場を離れた。
「どうしよう?!ウィル?!名前?!」
「いざつけるとなると悩むね?!あの子可愛いし!!ピッタリの名前をつけてあげたい!!」
何だかすっかり、娘に名前をつける親みたいな心境になって、俺達は悩んだ。
きっとライルとサムもこんな感じで悩んだんだろうなぁ。
「得意の古い言葉とか何かないのか?!サーク?!」
「ええぇっ?!う~ん、灯りって意味なら……リュミエールとかルーチェとか……。」
「それも可愛いね!!星とかの輝きはシュトラールとかも言うよね?!」
「月光って意味でルアルって言葉があった気がする!」
「星はエトワールとかあるよね?!」
「ウィルも詳しいじゃん。流石、読書家!!」
「あぁ!どうしよう!!どれも可愛い!!」
「ほのかちゃんとかどうかな??」
めちゃくちゃ悩む俺達の会話に、ヒョイッと違う声が交じる。
顔を上げると義父さんがにこにこ笑っていた。
「ちょっと義父さん!!混ざらないでよ!!」
「えぇ~?!義父さんも混ぜてよ~。孫の名前つけてるみたいで、義父さんも参加したいよ~!」
「わがまま言わない!!」
「いや待って!サーク!ホノカは悪くないと思う!あの子の柔らかいイメージに合うし!」
ウィルはいつになく真剣で、義父さんの言葉にも俊敏に反応していた。
そして物凄く真剣に考えた後、言った。
「……お義父さん、東の国の言葉で愛らしいって他に言い方ありますか?!」
それを聞いた義父さんはきょとんとした後、こう言った。
「そうだねぇ~。可憐……カレンって言葉があるよ。」
「……それだっ!!意味もぴったりだっ!!」
ウィルはガバッと顔を起こすと、止める間もなく精霊さんの所にすっ飛んでいった。
「カレンっ!!君の名前はカレンにするよ!!」
「本当ですか?!奥様っ!!私、カレンですねっ?!」
抱きしめんばかりに側によってウィルが告げると、精霊さんの体がまた、ぱぁっと輝いた。
異変に気づいた義父さんがすぐ様、祝詞を唱えだす。
「掛けまくも畏き水の大神、地の大神……」
「ウィル、大丈夫だからこっちに来て。」
「うん……カレン、どうしたの?」
「名前を得て精霊としての形が変化し始めたんだ。義父さんがその固定の手伝いをしてるんだよ。大丈夫、すぐ終わるから。」
「大丈夫なのか……?」
「うん。義父さんはああ見えて神仕えの中でもトップクラスの人だよ。カレンはランプ付きの不安な家守りから、この家の守護精霊……つまり家守りになったんだ。その固定がきちんとうまくできるように、義父さんが手伝ってる。だから大丈夫だよ。」
「うん……。」
ウィルは思わず興奮して軽率な行動を取ってしまったとちょっと落ち込んでいたが、輝いていたカレンがだんだんとハッキリした姿になってくると嬉しそうに目を輝かした。
カレンはそれまでの半透明でよく見えない姿形ではなく、はっきりとした形になった。
メイト服を着た、可愛い10代後半くらいの女の子の姿でそこに立っていた。
「……あれ?私……??」
カレンは目をぱちくりさせる。
自分の手を見て、握ったり開いたり……。
「……え??もしかして、実体化してる?!」
「そうみたいだね?」
「ウソ?!実体化って!かなり力のある精霊しかできないんじゃなかったの?!」
「う~ん。どうやら、お前の影響を受けてしまったみたいだねぇ~。」
「ふぁ?!」
「どうも固定化する時に、お前からあふれ出している力を取り込んでしまったみたいだ。」
「あふれ出している力?!」
「うん。やっぱり魂につけてた封が取れてしまっていると、神様に与える影響力が強いねぇ~。」
「……それって大丈夫なの?!俺、もう一度封をしなくて大丈夫?!」
「大丈夫だよ。と言うかそれがなかったらお前、竜の血の呪いと2度も張り合って無事な訳がないじゃないか。」
「えええええぇぇっ?!俺が呪いとやり合って何とか無事だったのって!そういう影響だったの?!」
「そうだよ??普通の人間が神様の呪いに耐えられる訳がないじゃないか??」
「えええええぇぇっ!!」
何か、こんな所でそんな重大な種明かしをされるとは思わなかった……。
て言うか、そんな重要な事なら、先に話しておいてよ…義父さん……。
あまりの事に混乱する俺を、義父さんはきょとんと見ている。
あぁ、そうなんだよね……この人にとったら当たり前の事で、あえて話す必要性を感じてなかったんだよね……。
「……義父さん……今後は俺が普通の人と違う時は教えて下さい……。俺、自分で自分の事、あんまりよくわかってないから……。」
「そうなのかい??」
「うん……。」
俺と義父さんがそんな話をしている横で、ウィルはカレンとハグを交わしていた。
初めて人に抱きしめられたカレンは驚き、そして嬉しそうに笑っていた。
「旦那様!奥様にハグして頂きました!!ハグって温かいんですねっ!!」
そして俺にもしてくれと言わんばかりに両手を広げて駆け寄ってくる。
可愛い……うちの子、可愛い……。
リリとムクといい、カレンといい、うちの家についてくれる精霊はどうして皆、可愛いんだろう?!
ぎゅっとハグすると、無邪気に今度は義父さんのところにも向かって行く。
「大旦那様もハグして下さい!!」
「え?えぇっ?!……サク?!ハグって義父さんがしてもいいものなのかい?!」
東の国にはハグの習慣はないから、義父さんはあわあわと戸惑っている。
それを不思議そうにするカレンに、ウィルが義父さんが東の国の人だと説明していた。
若い娘さんにハグを求められてあわあわする義父さんもちょっと面白い。
俺は笑いながら言った。
「大丈夫でしょ??孫娘みたいなもんだし。」
「……何か……犯罪とか言われないかい?!昨日読んだ雑誌に、若い女性にそういう事をすると訴えられるって書いてあったんだけど?!」
「言われないよ!!て言うか?何を読んだの?!義父さん?!だいたい義父さんが言われるなら!俺も言われるからっ!!」
「えぇっ?!息子が犯罪者?!教会会議にかけられちゃうよ!!」
「だから!!犯罪者じゃないから~っ!!」
何故かよくわからない方に思考が飛ぶ義父さんに振り回される。
それを明るくウィルとカレンが笑う。
予想外の展開だったが、うちにはカレンと言う家守りの精霊がついた。
そんな事もあって、何だかうちは明るい家になりそうだなぁなんて思う。
そして気づいた。
あぁ俺、今日はここが自分の家だってわかる。
あの時おじいさんが渡してくれたものは、たぶん今はこの家にある。
そんな事を思って、俺は誰にともなくありがとうと呟いたのだった。
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