欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

邪な人望

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少ない荷物の運び入れが終わったので、荷解きなどの作業をする事になるのだが、俺は午後から第三別宮に出勤しなければならない。

今までさんざん色々放置しているし、ライルの休みの日程変更でガスパーの休暇の予定が変わってしまった。
隊長のギル、副隊長代理の俺、補佐の一人であるライルが休んでいるからと、休みをずらしにずらしてくれている。
本人は別に休みなんていつでもいいし状況が落ち着いてから取れば良いと言っているのだが、それは俺も同じだし色々無理させて疲れてると思うから、その疲れを取るくらいの連休はちゃんと取らせてやりたい。
なので今日、俺が引き継ぎ作業を受けて、明日からしばらく休んでもらう事になっているのだ。

荷解きの方はそんなに沢山あるわけではないのですぐに殆ど終わり、むしろ新しいキッチンでの昼飯づくりで全員、大騒ぎになった。

「わっ!!最新の自動コンロ!凄いっ!!」

「奥様!これは何の魔法なのですか?!以前のキッチンではこの様な物は見た事がありません!!」

「う~ん、現代に生きているけど、中央王国にはこんな小さくて便利なコンロがあるんだねぇ~。でもご飯は竈で炊いたのが一番美味しいよねぇ~竈でご飯、炊きたいなぁ……竈で炊いたご飯……食べたいなぁ……。」

「義父さん……変な所でホームシックにならないで下さい……。外で良ければ、バーベキュー様に外竈作りますから……。」

「サーク、材料は何があるんだ??」

「あ~、無限バックの中に、ラピット・フッドの肉がまだ残ってたと思うし……野菜も買って突っ込んどいたし~。」

「パンは朝、ウィル君と散歩がてら昨日の洋食屋さんに買いに行っておいたよ~。」

「パンもございますし、この材料でしたらスープは如何ですか??私、お作り致します。」

「え?!カレン、料理できるの?!」

「はい。知識もスキルもあるのですが、以前は何分半透明でしたのでかなりの集中力を使わなければ物に触れませんでした。でも今はこの通り、旦那様のお陰で集中力を使わなくても物に触れますので!!」

「じゃあ、一緒に作ろうか、カレン。」

「本当ですか?!奥様!!凄く嬉しいです!私!以前から奥様と一緒にキッチンでお料理をするのが夢だったんです!!」

カレンが嬉しそうに笑った。
キラッキラの無垢な笑顔。
その直撃を受けてウィルがふらっとした。

「ウィ、ウィル…大丈夫…??」

「か、可愛い……うちの子、可愛い……。」

俺は後ろからウィルを支えた。
わかるよ、俺もリリとムクで経験あるから。
と言うかそれがあったから何とか正気を保ててるだけだし。

カレンでこうなるウィルだから、リリとムクに合わせたらきっと同じ反応をするだろうなぁ。
リリ達は見た目がうさぎなだけに、むしろもっと重症化しそうだ。
カレンの可愛さに耐えきれず、ウィルはまたムギュッとハグしている。

「じゃあ、昼食作りは二人に任せて良いかな?それとも皮むきとかやろうか??」

「ううん、大丈夫。カレンと二人でやるよ。手が欲しかったら呼ぶから。」

「わかった。そう言えば昨日、お風呂はどうしたの?」

「サークが楽しみにしている大きなお風呂を先に使うのは気が引けたから、シャワーで済ませたよ。」

「気にしなくて良かったのに。じゃあ今日は入れるように洗ってくるよ。義父さんはゆっくりしてて。」

「ならちょっと庭を見てくるよ。ウィル君、畑がやりたいって言ってたからね。」

「ありがとうございます、お義父さん。」

ウィルはそう言って笑う。
仲良く調理を始めるウィルとカレンを見守りながら、俺と義父さんはキッチンを離れた。












昼食の後、ウィルと義父さんとカレンは畑作りと庭の手入れ手をすると言っていた。

カレンは家付きの精霊になったので室外には出れないかと思ったら、敷地内は家の範疇と認識されるみたいで庭には出れる事がわかった。
制服に着替えた俺に反し、カレン以外は汚れていい服装に着替えて一緒に庭に出る。
カレンは服込みで実体化しているようで、着替える事もちょっとできないようだった。
と言うか、義父さんがモンペ姿でちょっとおかしい。

俺はそんな三人に見送られながら一人、第三別宮に向かう。

初めて歩く道のりは、何だか長く感じる。
心なしキョロキョロして、ここはこうなっているのかとか思いながら歩いた。

距離的には前のアパートからと変わらないけれど、商店街を抜けて大通りを通って別宮に行っていたので、静かな住宅街を歩いて向かうのはとてもまったりした気分になった。
前は大通りから別宮に入ったのだが、今日からは裏門から入る事になる。

あの時、ウィルが守る為にヴィオールと行く手を塞ぎ、シルクに気絶させられて抜けた裏門だ。
そう思うとちょっと苦笑いしてしまった。






「お疲れ~……って、あれ?!」

「お疲れ様です。サークさん。」

「……何でイヴァン??」

俺が副隊長室に入ると、何故かそこにはガスパーではなくイヴァンがいた。
仕事をしているらしく書類を整理していた。
ぽかんとする俺を見て爽やかに笑う。

「ガスパーは今日の午後から休みに入りました。引き継ぎは僕がしますね~。」

……………。
こいつの爽やかな笑顔は、何気に曲者だ。
何かあるなぁと固まる俺に、ニコニコ笑うイヴァン。

「昨日まではガスパーが引き継ぎするって言ってたぞ?おい?」

「まぁいいじゃないですか。ゆっくり休ませてやりましょうよ。」

「そりゃゆっくり休んで欲しいけど、何??体調崩したりはしてないよな?!」

「むしろある意味元気ですよ??」

「どういう事だよ??」

怪訝そうにする俺に、イヴァンはにっこり笑うだけ。
ただ仕事をしようと椅子に座ると、何故か後ろに回り込んで、いきなり腕を首に回してギリギリ絞めて来やがった。

「おいっ!!苦しいって!!」

「う~ん?頭では納得してるんですけど~気持ちが納得していないと言いますか~??」

「なっ?!何?!何なんだよっ?!」

「ガスパーがサークさんのもう一つの片腕になれたのは嬉しいんですよ、本当。このまま遠くから見てるだけなのかなぁって思っていたんで、ちょっと安心しましたし。」

「は?!」

「でもサークさんはもうほぼ既婚者じゃないですか~??なのにアイツの純情が掻き乱されてるのを見ると~何か納得いかないと言いますか~??」

「は?!俺!ガスパーに何もしてないぞ?!」

「貴方がそのつもりでも純情なうちの妹は、貴方のちょっとした一挙一動に舞い上がったり落ち込んだりと大変なんですよ~。」

にこにこ笑っているが、絞める腕は結構、力が入っている。
え?!何コイツ?!過保護かよ?!
と言うか、その前に……。

「ちょっと待て?!いつからガスパーはお前の妹になったんだ?!」

前々から弟だとかは言っていたが、幼馴染の癖に淡白な関係だっただろうが?!お前ら?!
なのにこのマジ具合は何なんだ?!

「……ガスパーとは言っていないのにそれを言うという事は、自分の一挙一動でアイツの純情を振り回してる自覚があるんですね、サークさん??」

「ねぇよっ!そんなもん!!ガスパーは常にいつも通りだぞ?!そんな舞い上がったり落ち込んだりとかしてねぇよっ!!」

「まぁ、アイツはそう言うの、人に見せませんからね。」

そう言ってやっと首を締め上げるのをやめてくれた。
どういったポイントで着火して、どういったポイントで鎮火したのかよくわからない。

それにしたってこの筋肉馬鹿野郎……。
てめぇの軽く絞め上げるは、洒落になんねぇんだよ!!

俺は首元をさすりながら睨みつけた。
そんな俺にイヴァンは爽やかな笑みを浮かべるだけだ。

「……お前さ?何だかんだ、やっぱガスパーの事、好きなんじゃねぇの??」

よくわからないが、それで腹を立てていたならそれなりの感情があるのだろう。
いつも澄ました顔をしているし妹とか言っているが、ガスパーはそれなりに美人だ。
美人という枠ではコイツの許容範囲に入っていてもおかしくはない。
しかしイヴァンはケロッとした顔で言った。

「いえ、アイツに恋愛感情は全く無いですね。ガスパーかサークはさんのどちらかと恋愛しろって言われたら、サークさんと恋愛しますよ、僕。」

「せんでいい、せんで。」

いきなり着火した割には、やはり恋愛対象ではないらしい。
ただそれを否定する為に、俺を引き合いに出すのはやめろ。
イヴァンはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした俺をゲラゲラ笑った。
なんか俺に対しては無遠慮だよな、コイツ。
ひとしきり笑い終えるとにっこりと笑う。

「ま、サークさんも同室になったせいか仲良くなりすぎちゃったんで、ちょっとそういう目で見るのは厳しいんですけど。元々、僕の趣味と違うし。」

「悪かったな、綺麗なお姉さんタイプじゃなくて。」

お前の好みの範疇じゃないのはありがたいが、何となくムカつく。
どうせ平凡な平均顔だよ、俺は。
なまじイヴァンも顔がいいので腹が立つ。
だが張り合っても仕方ないので俺ははぁとため息をついた。

「……と言うか、お前がガスパーをそういう風に見れないのって、そういうことなのかぁ~。」

「ええ。何か身近になりすぎちゃって。身内感覚なんですよね。」

「前は弟って言ってたもんなぁ。」

まぁわからないでもない。
俺もどんなにシルクが美人でセクシーでも、全くそんな気にならない。
それは俺のちんこが不活発だからではなく、むしろシルクは近すぎて自分の一部の様な気さえするのだ。
たぶんそれが身内感覚ってやつなのだろう。
何となくその感覚を俺が理解したのを感じ取ったのか、イヴァンは笑っていた。

「最近のガスパーは見るからに妹って感じですけどね~。」

「そうだな、なんか最近、やたら綺麗になったもんな、アイツ。」

「粋がってますけど結構乙女ですからね、アイツ。だから恋をして綺麗になったんですよ。」

その相手が俺ってのがどうしてなのかわからないし、問題あるけどな。
とは言え、恋をして綺麗になるのは本当だと思う。
俺は実体験からしみじみと頷いた。

「わかるわそれ……。ウィルも最近、綺麗になりすぎて、俺、外に出すのが辛いもん。」

できればもう、ひと目につかないところにずっと閉じ込めておきたい。
正直、誰にも逢わせたくないし見せたくない。

「……独り身の僕に、惚気けるのはやめてもらえます?サークさん??」

思わず溢れた本音にイヴァンが苦笑した。
そうなんだよな、イヴァンは顔もいいし声もいいし何より性格が良いのに、シルクにフラレて以降てんで浮いた話がない。
俺もちょっと苦笑いしてしまった。

「悪い悪い。……そう言えばさ、お前のその訳のわからんこだわりって、やっぱり男性限定なのか??」

ふと思い出す事があり、そんな事を尋ねる。
イヴァンはきょとんと首を傾げ答えた。

「いえ?僕の絶対領域は美人で年上のお姉さんっぽい人ですよ。男性でも女性でも。しっかりしててちょっと無理して頑張っちゃうような人を甘やかしたいんですよ。外で強がってる分、僕だけには甘えて欲しいと言うか……。」

そこまで言って俺の顔をマジマジと見る。
うん、コイツ、それなりに勘もいいんだよな。
俺はその顔を見返していた。

「……もしかしています?そういう人??」

期待半分疑問半分と言った顔で俺を見ている。
俺もどこまで言っていいのか考えながら答えた。

「う~ん、いる事はいるんだよ。宮廷魔術師の人なんだけどさ。宮廷魔術師総括の仕事してて、なんかこの人イヴァンの好みっぽいなぁって思ってたんだけど、女性だからお前的にはどうなのかなって思ってさ。」

「それはぜひとも紹介してください。」

そして清々しいまでの笑顔を見せる。
おいおい、さっきまで俺の首を絞めていたのはどこのどいつだよ??
俺は笑ってしまった。

「……お前、ガスパーの件からの手のひら返しが早いな?!」

「妹の幸せも大事ですが、自分の幸せも大事ですから。」

イヴァンは悪びれもなくにっこりと笑った。
まぁそうなんだけどよ。

爽やかに微笑んで、いけしゃあしゃあと言うイヴァンは中々図太い神経してる。
爽やかで真っ直ぐな好青年に見えるこいつも、実はちょっと屈折した性格の持ち主だなぁと思った。

それでもフラレたのにシルクを思いやったり、ガスパーを見守りながらさり気なくフォローしたりできるイイヤツには変わりないけどさ。

「わかった。とりあえず向こうにもちょっと声かけてみてからだな。向こうが今は恋愛とかする気がないって言ったり、好きな人がいるとかだったら無理だし。」

「その方がフリーで恋愛OKな事を祈ってます。」

「まぁ、期待しないでおいてくれ。」

俺はそう言いながら、書類の山に軽く目を通した。
イヴァンが引きづぎ作業で説明してくれる。

「で、ガスパーはどうしたんだよ、いきなり。」

「ん~色々、疲れが溜まってるところで、昨晩、半分徹夜みたいな事になったのと、精神状態的に仕事にならなそうだったんで、午前中、どう引き継ぎをするか僕が聞いて、半日早いですが休暇に入らせました。」

「半分、徹夜?昨日だよな??」

「ええ、サークさん達と食事に行った昨日ですよ。」

「半分徹夜??何で??そして何でそれをお前が知ってんだ??」

全く話が見えず、俺は手を止めてイヴァンに聞いた。
イヴァンは笑って俺の前にさらに書類を積んだ。
嫌味か?!

「昨日の夜中に眠れないって言って僕の寮の部屋に襲撃してきたんですよ、アイツ。」

「わぉ、それはお疲れさん。」

俺は無感情にそう言って手を動かした。
くそう……何故、こんなに書類があるんだ?!
ガスパーが所々に説明書きや、見落としがちな所に印をつけてくれてあるのがなんか泣ける。

「本当、お疲れさんですよ~。どっかの誰かが無自覚に刺激するもんだから~。」

「だから!俺、何もしてないっての!!」

ガスパーには多大なる感謝はしているが、そんな舞い上がったり落ち込ませたりするような事はしてないぞ?!
俺も結婚するし、ガスパーの気持ちは知っているから、ちゃんと一線引いて接してるし。

「まぁサークさん的にはそうなんですけどね。」

昨日だろ??
一体何にそんなに動揺したんだよ??
ずっとウィルも義父さんも一緒だったし、迂闊な事を言った覚えもないし、した覚えもない。

俺はとにかくサインが必要な書類に軽く目を通しながらどんどんサインをしていく。
ひとまずサインすれば終わるもんを片付けよう。
考えて結論を出さないといけない書類はガスパーが分けておいてくれてあるので、イヴァンに渡されるままサインしていく。

「何なんだよ!この!ふざけてたら壁に穴をあけちゃいましたからつう、反省文と始末書と修理費用の書類はっ!!」

「隊員の元気が良いのはいい事じゃないですか?」

「そう言う問題かよ?!」

子供か?!子供なのかあいつらは?!
書類がありすぎてちょっと気が立っていた俺は、思わず声を上げた。
だが、笑い飛ばすかと思ったイヴァンは複雑そうに苦笑した。

「あの一件で貴族間の力関係が不安定になりましたからね。どこの家もピリピリしてるんですよ。当然、それは次世代の僕らにも大きく関わってきます。ましてや跡取りの立ち位置の奴なんて尚更です。」

「……そっか。そうだよなぁ……。」

俺はサインし終わった書類を手に少し反省した。
皆、今まで通りに振る舞っているが、本当は色々あるのだ。
領地の配置換えもあったし、うちの隊には一件に関わりがあったとして褫爵された家などはないが、親族の誰かが降爵を受けた者はいる。

以前同様、皆、明るく務めをしているが、その心情は複雑なのだ。
気の合う友人や恋人との間にそういった変化のあったものだっている。

「国を守るにはやるしかなかった事だけど、何気にこっちもダメージでかいよな……。」

皆の内情を理解して俺は押し黙った。
俺に、俺の立場で何かできる事ってあるのかなぁ。
そんな考えが顔に出ていたのか、イヴァンがニヤッと笑った。

「そんな訳で、この状況で皆の心の支えである女神二人が不在なんですから、あいつらの新たな希望であるガスパーをあんまり惑わせないでくださいね?」

「……あいつら……今度はガスパーを信仰する気なのか……?!」

「ここに来て今まで隠されてた美人さが際立たましたからね。これまで悪ぶってた所も含めて、ツンツンしてるのにふとした時に見せる、幸薄そうで儚げな美しさががたまらないらしいですよ~。」

「病気だな、あいつら……。」

前言撤回。
うちの隊の連中は、今日も通常運転だ。
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