欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

思わぬ再会

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「義父さ~ん、そんなに慌てなくても……。」

「何を言っているんだい?!サク?!だって明日、王様にお会いしなきゃならないのだろう?!」

「だからって~。慌てなくてもジュナさんのお店は逃げないから~。」

あの後、当面の間はヘーゼル医務官長とファーガスさんそしてアレックの三人が交代で精神回復の魔法をかけ続け、俺とブラハムさんの二人で凍結魔術の維持管理をする事で現状を維持し、その間に海神への対策を決めて行く事になった。

そして早々に精霊に関する知識を得る為、義父さんを招く事に決まった。
ただ俺の養父とは言え東の国の人なので、どこまで秘密を教えて協力してもらうかは、王様が直々に会って判断する事となった。

そんな訳であの後、直ぐに家に帰ってその話を義父さんにすると、義父さんはびっくり仰天してしまい、王様にお会いするならジュナさんに作ってもらっている服を取りに行きたいと言い出したのだ。

この間買った服か着物で良いと思うのだが、義父さんなりのこだわりがあるみたいだ。
慌てて伝書を出してみたら、もうほぼ出来上がっているから夕方までに仕上げてくれると返事が来て現在に至る。
パタパタ商店街を小走りで進んで行く義父さんの背中を見つめながら俺は小さくため息をつく。

王様って言っても、そんなに緊張しなくてもいいのになぁ……。

何しろ、あのジョシュア国王だし……。
でもガブリエル皇太子にも会うかもしれないから、緊張感は多少あってもいいかもしれないけど。

と言うか俺が思うに義父さんをどこまで信用するか問題は、王様が会って話してみての心象もあるんだろうけど多分、グレイさんに握手させて判断するんだと思うね。
それを思うと、義父さんに変な事を考えてないでくれと教えておきたいが、それをしたらそれもグレイさんにバレるだろうから何も言えない。

何だかんだ王様があんなお花畑な感じでも偉大な国王として通っているのは、グレイさんの存在あってだと思う。
そう思うと、グレイさんが最強すぎて怖い……。

いや、王様もそれなりに凄い人なんだけどさ、周りが凄すぎて何というか、う~ん。
と言うか、周りが凄すぎるから王様、いまだにあんなお花畑な感じなんじゃないだろうか??
でもその凄い人材を集めて従えてしまえる人徳こそが、ジョシュア国王の実力なのかもしれない。

「サク?どうしたんだい??」

「あ、いや何でもないよ。一通り揃って良かったね。」

「ああ。本当にジュナさんたちには感謝しかないよ。」

無事オーダーメイドのスーツを受け取り、ほくほくと買い物袋を抱えて義父さんが満足気に笑う。
取りに行くとカッターシャツから靴下、そしてネクタイや靴までジュナさんとお針子さん達は用意してくれていていたれりつくせりだった。

ステッキもどうかと進められたのだが、義父さんは店内を見渡し、ステッキよりこっちが欲しいと言って、ぴっちりとアイロンのかけられた紳士傘を買っていた。
それを上機嫌に軽く振っているのが見てて面白い。

「義父さん、そんなに傘が欲しかったの??」

「違うよ、サク。紳士は杖より傘が良いんだよ。とっさの雨でパートナーを濡らさない為にね。でも自分一人の時は、どんなに雨が降っても傘をも開いたりしないのも紳士の心得なんだそうだよ~。」

「いや、雨が降ったらちゃんと使ってください。」

何かの本の主人公がそうだったのだろう。
何気に義父さんが読書家である事を今回初めて知った。
しかもウィルと同じで雑食というか、その辺で配られている無料のパンフレットや小冊子なんかでもいいみたいで、街を歩くといつの間にか紙の束を抱えていたりする。

そして何より、中央王国に来たからには憧れの小説の主人公の様な紳士になりたいらしい。
だから服だけでなく、帽子や傘などの小物にもこだわってしまうようだ。
俺には元ネタが何かはわからないが、義父さんが楽しそうだからまぁいいかと思う。

「それならまたカフェに寄ってから帰る?」

「いや、カレンが待っているからね。今日はこのまま帰ろう。」

「そうだね。そういえば俺が帰った時、夕飯、二人で何を作ってたの??」

「それは帰ってからのお楽しみだよ、サク。」

「えぇ~!教えてくれてもいいじゃんか~!」

義父さんはふふふっと笑うだけで教えてくれず、俺は子供のように頬を膨らませた。
でも、夕飯が何か考えながら帰るのも悪くない。

夕暮れ時の街道を足早に歩く。

この昼と夜の境目の時間は独特だ。
昼間の活気あふれる雰囲気から、夜の活気に切り替わるほんの少しの緩やかな時間。

日中の店は店を閉め始め、夜に営業する店は開け始める。
足早に家路に向かう人、飲食を楽しもうと夜の街に繰り出す人、それぞれだ。
いつだってこの時間は、何か暖かく不思議とノスタルジックさがある。

そんな事を考えながら歩いていた時だった。


「……サークっ!!見つけたあぁぁぁぁ~っ!!」


突然、そんな大声が路地に響いた。

びっくりして振り返り、俺は目を丸くして固まった。
そこには、ここにいないはずの小さな人影があったのだ。

「えっ?!えええぇぇぇ~っ?!」

驚きすぎて声が出た。

見た事に対する情報の整理が追いつく前に、それらがこちらに向かって走ってくる。
俺は反射的に両手を広げてそれらを受け止めた。

「お兄ちゃんっ!!」

「サークっ!!」

「えええぇぇぇっ?!何でぇ~っ?!」

ドーンと二つの小さな塊が俺にぶつかった。
何とか抱きとめきったけど、俺はそれがいまだに信じられなくて目をぱちくりさせるしかない。

「ちょっと!せっかく会いに来てやったのに!レディーに対して何かない訳?!サーク?!」

「は?!え?!……リアナ?!ラニ?!」

「久しぶり!お兄ちゃん!!」

「え?!えええぇぇぇ?!何で?!何でお前達、ここにいるんだ?!」

俺は混乱を極めてそう叫んだ。
周りの目も義父さんの存在も気にしている余裕はなかった。

そこにいたのはリアナとラニだった。

竜の谷で別れて以来、会っていない。
そもそも竜の谷にいるはずの二人がここにいる事が理解できなかった。

俺は何が起きたのか訪ねようとした。
でもめちゃくちゃテンションの高かった二人が俺に抱きついた途端、クシャッと顔を歪ませて涙目になったのを見て何も言えなくなってしまった。

「……会いたかった……サーク……っ!!」

「お兄ちゃん!お兄ちゃん……っ!!」

ギュッと俺にしがみついてくる。
俺は黙って二人を抱きしめ、抱き上げた。

ちょっと重くなった気がするのは、気のせいだろうか?
よく見れば髪もボサボサで、服だって汚れている。
荷物らしい荷物もなく、どうやってここまで来たのだろう?

俺は二人を抱きかかえながら、こみ上げる懐かしさに任せて黙っていた。
じきに二人とも落ち着いてきたようだった。

「……久しぶり。リアナ、ラニ。元気にしてたか?」

「元気よ!見ればわかるでしょ?!」

「いきなり来てごめんね、お兄ちゃん。」

「いいよ。……でも何かあったのか?」

「……別に……何もないわよ……。なかったら来たらいけない訳?!」

「ふふっ、心配するような事は何もないよ、お兄ちゃん。……僕達ね、お兄ちゃんに会いたくて勝手に抜け出して来ちゃったんだぁ~。」

「……えぇ?!」

引っ込み思案だったラニが嘘のように、無邪気に笑ってそう言った。

いやいやいや、待ってくれ?!

嬉しいよ?!
俺も二人に会えて嬉しいよ?!

でも待ってくれ?!
勝手に抜け出してきた?!

竜の谷を?!
竜の谷を勝手に抜け出してきた訳?!


「………マジでぇ~っ?!」


俺は叫んだ。

待ってくれ、本当?!
竜の谷だろ?!
あの竜の谷を勝手に抜け出してきたんだろ?!

ウィルを連れ戻すのに、俺が一回人生捨ててやっと行けた場所から?!
その掟というか秘密を守る為に、ウィルが全てを捨てて命を差し出そうとした場所から?!

「か……勝手に……抜け出してきた……?!」

「そうよ。」

「うん、そうなの。お兄ちゃん。」

俺はにこにこ笑う二人を抱きかかえながら、天を仰いだ。

ウィルを連れ去った事は、まだ向こうも納得してくれてたかもしれない。
今まで追手があったなんて事もないし、ウィル自身、竜の血の呪いを解いて、その宝石として消えるはずだった自分を連れ出したのだからその心配はないだろうって言ってたし。

でもだよ?!
リアナとラニは現役の竜の世話役で、谷の民なんだよ?!

調査員だったウィルでさえ、疑わしいと判断されたら、有無を言わさずいきなり谷に連れ帰ってるんだよ?!
呪われたヴィオールでさえ見つけ出されて連れてかれてんだよ?!

絶対、連れ戻そうとされるよね?!

そして二人が向かった先がウィルを連れ去った俺だってわかったら、俺、絶対、竜の谷の民に疑われるし恨まれるし憎まれるし、間違いなく要注意人物としてマークされるよね?!
下手したら殺されるよね?!

「待って~?!俺、幸せの絶頂にいたはずなんだよ~?!何でこんなデンジャラスな状況が次々起こるの~?!」

「デンジャラスって何よ?!失礼ね!!」

「お兄ちゃんは皆が探しに来る事を心配してるんだよ、お姉ちゃん。」

「え?!会いに来てくれたのは嬉しいんだけど、どれくらいで帰るの?!二人とも?!」

「帰らないわよ。」

「帰んないよ、お兄ちゃん。」

「えええぇぇぇっ?!ちょっと?!どういう状況?!これ?!」

俺に抱っこされながら余裕綽々で笑っているリアナとラニ。
俺一人が滅茶苦茶テンパっててパニックになっている。
それまで黙って様子を見ていた義父さんが、にっこり笑って声をかけてきた。

「まあまあ、サク。二人ともとても疲れて見えるよ。いったん帰って、お風呂に入れてご飯を食べさせて、一晩ゆっくり寝てからでも良いだろう?」

そう言われ俺も少しだけ冷静になれた。

確かに何かあるのだとしても、まずはこの子らを休ませてやるのが先決だろう。
は~とため息をつき、俺は二人を下ろした。

「こんにちは、お義父様。」

「こんにちは、久しぶりだね、リアナ、ラニ。」

はじめは俺しか目に入っていなかった二人も、やっと義父さんの存在に気づいたようだ。
少し驚いていたけれど、東の国で一度会っているから笑顔で挨拶を交わす。

「こんにちは、おじさん。でも、どうしておじさんもお兄ちゃんのところにいるの??」

「ん?サクがウィル君と新しい家に招待してくれたから、見に来たんだよ。」

義父さんのその言葉に、キッとリアナが俺を睨む。
そんな顔されてもなぁ~。
俺は頭を掻いた。

「何よ~!!もう結婚した訳?!アタシがいるのに!!」

「いや、リアナの求婚は散々断ってんだろ??俺はウィルしか愛せないの。リアナは他を当たって下さい~。」

「何よ!何よ!何よっ!!」

「あはは、だから無理だって言ってるのに。」

「いいわよ!それなら愛人になるから!!」

「う~ん?俺、ウィル一筋だから愛人は作らない主義だし~。それに愛人になりたいって奴ならもう間に合ってるんで、リアナは他を当たって下さい~。」

「はぁ?!愛人枠まで埋まってんの?!」

「埋まってるね。愛人にはしないけど。」

「なら何なら空いてんのよ?!」

「何も空いてないね??」

「何よそれ~っ!!」

小さなリアナに真剣にそう言われ、ちょっと笑ってしまった。
この子が大きくなって結婚する時が来たら「俺と結婚するとか愛人になるって言ってたのに~」って、ちょっとからかってやろうとか思う。

ムキーッと怒っている小さなレディーの頭をぽんぽん撫でる。
それをいつの間にか手を繋いだ義父さんとラニが笑って見ていた。

「ま、とりあえず、帰ろう。」

俺は諦めてそう言った。
ここで騒いでいても仕方がない。
こうなった以上、なるようにしかならないのだから。
そしてムスッとしながらも伸ばしてきたリアナの手を握る。

「……帰ったらお前ら、まず風呂入れよ?」

「お兄ちゃんのお家お風呂があるの?」

「あるぞ~!デカイやつが!!」

「なら!温泉の時みたいに一緒に入りたい!!」

「私も入る~!!」

「リアナは駄目に決まってんだろ?!レディーを名乗るなら自覚を持てよ~。」

「ケチっ!!」

「とにかく今日は二人で入れって!こっちもお前達の寝る部屋とか色々支度しないとならないんだから。」

そんな話をしながら家路を急ぐ。

急に二人も増えちゃったけど、夕飯、大丈夫だろうか??
まぁ、足りなそうなら適当に作り足せばいいし、何とかなるだろう。

それよりカレンがびっくりしないか心配だ。
でもウィルがいなくなって寂しがっていたから、ちょうどいいかもしれない。

俺と義父さんに手を引かれながら歩くリアナとラニを見つめ、俺は小さく笑った。
夕暮れの空には、いつの間にか星が輝き始めていた。
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