欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

別人格

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サークとライオネルはピアの後を追いかけていた。
その中でサークはふと思考を巡らせる。

考えてみれば殿下にとって、俺もピアも異物だよな??

一人の人間の精神空間の中に、本人とそれと異なる精神体がニつも入っている状態。
だと言うのにライオネルの精神状態は安定しているし、サークやピアの方の精神状態にも何ら影響は出ていない。
確かに海神に比べれば、人ひとり・ちっぽけなひよっこ精霊ひとり、大した事のない精神体だろう。
だが入った側・入られた側、双方どちらにも何の影響も与えないというのは、流石は海神を長い間その身に宿す事さえ可能な「器」の素質の持ち主だ。

とはいえ「器」と言うのは一体何なのだろう?

今向かっている人形も「器」としての機能が備わっているとサークの義父は言っていた。
神仕えは希に精霊を何かの中に封じる事もある。
また、何かを精霊を呼び出すための礎とする事もある。

そういった際、神仕えは依代を使う。
精霊をその場に留める為の疑似核であり、繋ぎ止める楔となるものだ。
依代が人の場合は依童や依巫と言ったりもする。
おそらく依代とできるものが「器」であり、その素質がある人を依童・依巫と言うのだと思う。

そういえば、俺もヴィオールの魂を自分の中に入れたっけ……??

ふと、そんな事を思う。
無我夢中でやった事だが、自分の意識がきちんとした状態で入れていられたという事は、多少なりとも「器」の素質があるのだろうか??
それとも短時間だったから特に影響がなかったのだろうか??

考えてみれば、海神ほどではないが竜の魂を自分の中に入れたのだ。
普通に考えれば尋常ではない。
しかも呪いを伴った魂をだ。

だがあの時、サークは特に自分の意志に異常を感じる事はなかった。

意識は基本、一番強いものがその核の優先権を得る。
肉体を核として持つモノで言うなら、肉体の主導権だ。
多種人格ではその時一番強い精神が主導権を得るし、何かに取り憑かれたり影響を受けた場合、眠るなどして本人の意思が弱まった際に操られたりするのはそのせいだ。

だから、自分より強い意識体を自分に宿して己の意識を保てる・主導権を握り続けるには、自分の中に自己と他を区別し、影響されないよう完全に分けられる才能がなければならないはずだ。
わかりやすく言い換えるならば、自分の中に他者を他者として入れておける別スペース的な機能がなければ不可能なのだ。

だから「器」であり「器の素質」と表現されるのかもしれない。

そしてそれは、大きいものを宿す時に限った話ではない。
宿すモノが自分より遥かに小さい意識体だった場合、強さによって主導権を奪う事により相手の意識を食って消滅させてしまう。
今回のピアがそれに当たる。
だからサークの中に入ったピアがサークの意思に潰され飲み込まれてしまわぬよう、ウニが欠片を使って守ってたのだ。

だがライオネルの様に「器」の素質があれば、自分の中で己と他者を分けたまま保てる性質により、弱い意識体を保ったまま受け入れていられる。

そう考えれば、ピアを飲み込みそうになっていた自分には、そこまで器としての素質はないのだろう。

ウィルだってヴィオールを身の内に持っている。
ただウィルの場合は自分の中に取り込んでいるのではなく、守護精霊としてつけられている。
その精霊が対象に寄り添い守る為、離れないよう結びつけている形なので、厳密に言えば状況が異なっているけれども。
だがそれでも、完全に精霊化したとはいえ、元々は竜の魂だったモノが付いた訳で。
あの時すんなり守護精霊としてつける事ができたのは、ウィルが夜の宝石であり、かなりの魔力があったからだろう。
でなければ分不相応すぎる守護をつけた事により、いずれウィルの方のが疲弊してしまっていたはずだ。

それに、とサークは思う。
自分は知らなかったとはいえ完全な人間ではない。
何か精霊が混ざったもの。
呪いと化したヴィオールや海竜とやり合って無事だったのがその影響なら、同じ様に精霊の気質を持ち合わせていたから取り込む事が出来たという可能性も高く、器としての素質があるかを測る事はできないだろう。

「……サーク??」

「あ、すみません。どうかされましたか?!」

「いえ、意識集中が気薄になっていたので大丈夫かなと思って。ここではさほど問題ないですが、海神の前で気を抜くと意識を持って行かれます。気をつけて。」

考え込んでいたサークにライオネルが声をかける。
それに謝りつつ、ライオネルクラスの「器」になると、入り込んでいる意識体の状態もある程度見えるのだなと思う。

「ありがとうございます。気をつけます。」

サークは申し訳なさげに笑った。
ずっとライオネルの事をぼんやりしたぽわぽわした人だと思っていたが、実はそうではないのかもしれない。
同じ体の中にいる海神に飲み込まれぬよう、内面から意識を決して反らさずにいたので、外側の日常生活がふわふわして見えたにすぎないような気がする。

だとすると……決断力・行動力のある、こうと決めたら梃子でも絶対動かないライオネル殿下の方が本来の殿下って事か?!

ギョッとしたサークはちらりと己の君主を見た。
何か決意を固めているその顔は揺るぎなく、どこか王の風格すらある。
どちらかと言うと王太子であるガブリエル王子に似てると思っていたが、もしも本当の性格がそっちであるなら似ているどころの話ではない。
サークはやっと、ガブリエル王太子があんなにもライオネルを高く買っていた理由がわかった気がした。

あの人、政治は血筋でするより能力でするもんだって考えてる人だからなぁ~。

王族なのだから普通は似たような兄弟がいたら押さえ込もうとするものだが、ガブリエル王太子はライオネルを今後の国の発展に必要な人材だと高く評価していた。

確かにやるとなった時のライオネルの手腕は凄い。
凄いというかちょっと怖い程だ。
猪突猛進。
それに向かって脇目も振らず全力疾走。
他の事は無視というよりふっ飛ばして突き進む。

特に肝の座りようは半端ではない。
周囲の方があたふたしてしまう程なのだ。
常に海神を相手にしてきたライオネルにしてみれば、他のものなど大した事ないと言えるだろう。
そういった揺るぎない決断ができると言うのは誰にでもできる訳ではないが、上に立つものとして必要な素質だ。

だからこそ普通は、次期国王の強力な対抗馬になりかねない相手を排除しようとする。
なのにその本質を理解した上で、ガブリエル王太子はライオネル殿下を評価している。
血筋云々でなく能力のある者達が集まって政治を行い国を導く事こそが、国の発展と安定に繋がると考えるガブリエル王太子ならではだと思った。
そしてかの王太子は今後、中央王国をそういう国にしていくつもりなのだ。

めちゃくちゃ共和国制度の東の国の政治に詳しかったしな……。

今回の件で呼び出された際、ハクマ家の事を軽く突っ込まれた。
そして思った。
おそらくサークを平民から騎士にする際、ライオネルにサークの情報を渡したのはガブリエル王太子なのだと。
本人ではないにしろ、そのツテを使って調べられたのだろう。
でなければあんな短期間に、他国貴族の内情にも関わる情報をライオネルが得る事など出来なかったはずだ。
それほどかの王太子は東の国の政治を学んでおり、情勢にすら精通して理解していたのだ。

王様はあんなにお花畑なのになぁ~。
ライオネル殿下もガブリエル王太子も凄いよなぁ~。
これって王妃様に似たのかなぁ??

王妃のセレーネ様は昔ながらのしきたりに従い、幼少期に王様の婚約者になってそのまま嫁いだらしい。
今は王様の意向で、本人達の意志が確認できない状態で親が幼子の婚約を決める事はすべきでないとお達しが出ている為、そういった婚約は表面的にはなくなっている。
ただ昔からの習慣でもあるし貴族のお家柄や金銭的な問題も絡んでいる事なので、全くなくなったとは言えないけれど。

とはいえだ。
物心付く前の親の取り決めな上、頭花畑だしマダムにうつつを抜かす様な王様の所に、王妃になれるとはいえ嫁いできたなんて可哀想だと思っていた。
けれど王様と一緒にいる王妃様を見ている限り、なんだかんだちゃんと幸せそうだった。
王様のお花畑っぷりはそういうものすら包み込んでしまえるようで、王妃様は王様が大好きな様に見えた。

今回ライオネル殿下の事で話す際、初めて顔の見える位置でお会いした。
王様が大好きで幸せそうなのは見ていてわかるのだけれども、おそろしく控え目な方だ。
いつも穏やかな笑みで、控えめに王様を見つめている。
ライオネル殿下やランスロット第二王子と同じく線の細い美人なのだが、とにかく控え目であまり公の場でも顔を見せたがらないのだ。

表に出てくる事は殆どなく、出てきても王様の後ろで三歩下がって影踏まずみたいな感じで静かに微笑んでいる。
あれだけ控えめで伴侶を立てる事に徹する女性は、中央王国より女性の社会進出が進んでいない東の国であっても今時珍しい。
それが王妃教育の影響なのか元々の性格なのかは、貴族社会の常識に疎い俺にはわからない。

確か元はギルん家と同じ辺境伯、南方貴族のバル侯爵のご令嬢で、その縁でライオネル殿下の幼少期の保養地がバル候の領土の外れにあった田舎街に作られたんだけど、殿下が来た事で交通網が整備され商業が発展したんだよなぁ。

警護部隊副隊長代理になりたての頃、ガスパーに散々叩かれ教え込まれた事を思い出し、サークはブルっと体を震わせた。
スパルタ教育のかいあって、今ではやっとこうやって何となく貴族社会の流れ的なものが思い浮かぶようになったが、あのスパルタ講義はもう二度と受けたくないとげんなりした。

「……サーク?」

「ハッ!!すみません!殿下!!」

注意されたばかりだと言うのに、サークはまた考えこんでしまっていた。

いかんいかん、今はそれどころではないのだ。
何だってこんな今考える必要のない事を考え込んでしまうのだろう?
海神の問題の決着がまだついていないというのに。
集中してないといけない時なのに、何やってるんだ、俺は……。
自分自身の至らなさに頭を掻いた。

そんなサークにライオネルは少し心配そうに眉を窄めた後、落ち着かせるように微笑んだ。

「気にしなくていいですよ、サーク。貴方は今、私の中にいるんです。」

「え??」

「考えていた事は、私に何らかの関わりのある事でしょう?」

的を得た事を言われサークは驚いた。
今、考えなくてもいい事ばかりではあったが、確かに全てライオネルに繋がる事だった。

「……そう言われてみれば……そうですね?!」

「サークは私を警戒していない状態で私の中にいるから、少なからず無意識に影響を受けているんですよ。」

「え?!確かに殿下に警戒心など持ってませんが……警戒せずに相手の精神に入っていた場合、こういう影響を受けるんですか?!」

「詳しい事はわかりません。でも、無防備で相手の中にいる場合や長期間になると、そうやって相手に関係する事を考え始め、やがてそればかり考えるようになり、段々と相手と自分の境が曖昧になっていくようです。そして次第に考えているそれが相手の事なのか自分の事なのかわからなくなっていくんです。」

困ったような悲しそうな顔でライオネルは笑った。

確かにライオネルに対し、サークは海神に対するように警戒していた訳ではなかった。
ライオネル自身もサークに危機感を持っていなかったし、危険を認識してはいなかった。
だから無防備な状態でライオネルの中にいたのだ。

そんなに長い時間ここにいる訳でもない。

けれど言われてハッとした。
確かに今考える必要のないライオネルに関わりのある事を、何故か漠然と考え込んでいた。
それは無意識に相手の精神に影響を受けていた事を示している。

それまでサークが経験してきた精神世界は、自分の夢や固定のない世界精神の中だった。
だから無防備でいても何の影響もなかったが、たとえお互い敵意を持っておらず友好的であっても他者の中に入るというのは、それ相応のガードを意識していなければこんなにも簡単に影響を受けてしまうのだ。

恐ろしい事だとサークは思った。
他人の精神に降りる事がどれほど危険な事なのか、やっと身を持って理解した。

「……海神との共存は一進一退でした……。飲まれぬよう常に目を向け、相手が受けている影響から自分に同じ事が起きていないかを振り返り、気を配ってきました。だから、私の方は自分を保てていたのです……。」

「……殿下。」

言葉にならなかった。
ライオネルはずっとそれを見てきたのだ。
自分の中に降ろされた海神から目を反らさず、ずっと見てきたのだ。

相手がどの様な影響を受けているのかを観察しながら、自分自身が決して飲み込まれないよう注意を払う事で海神からの影響を最小限にし、おかしなところがあれば我が身を振り返り律してきたのだろう。

「今、サークが影響を受けている様に、海神も影響を受けました。……驚きますよね?あれだけ強力で大きな存在である海神なのだから、私が飲み込まれる事はあっても、逆はあり得ないと……。でも、違うんです。海神は私の中に降り、私と共に生きて来ました。私を私と共にずっと経験してきたのです。」

情報。

サークの脳裏にパッとその言葉が浮かんだ。
精神世界では情報が力になる。

日々生きていく中で人間は、その日その日、計り知れない程の情報を取り込んでいく。
その力は膨大で、精霊の王の一人である海神にすら影響を与えてしまう程なのだ。

「それじゃまさか……?!」

「そうです。あんなに大きくて強い海の王ですが、飲まれているのはむしろ私ではなく、海神の方なのです。」

目の覚めるような思いだった。
海神をその身に宿していたライオネルの言葉に、酷く驚き動揺せざる得ない。
なぜならそれは、それまで考えていた事とは真逆の答えだったからだ。

「海神は長い間、私と共に私として生きてきた事で、私と自分の境がわからなくなっているのです。だから今、私から出てその身が自由になっているにも関わらず、私の体と自分の体の区別ができず戻ろうとこれ程までに暴れています。また、私の事を自分の事として感じる為、自分の感情として解決しようとするのです。私の見たもの感じたものを通じ、海神が感じた想いのまま行動しようとします。それが器となった人間にとって恋愛感情なのか深い信頼なのか、器側の感情ではなく自分の感情で理解し、それがこちらの感情だと錯覚します。そして器となった人間の性別に関わらず、女性精神体の海神は自分と相手の違いが区別できない為、男性との間に子をなそうとするのです。」

衝撃的な内容。
あまりの事にうまく言葉が出ない。

だが何故そんな事をと思っていた海神の行動が、カチリと音を立ててすんなり納得できるようになった。

これまでずっと、精霊王である海神の強さと存在の大きさから、ライオネルの精神が一方的に潰されて壊れてしまう事ばかりを想定し恐れてきた。
確かに大きさや強さを考えたらそう考えるのが普通であり、そしてその通りなのだ。

だがその問題はすでに、長い間自分の中に海神を宿してきたライオネル本人が解決方法を導き出していた。
自分の器としての特性を活かし、更に決して相手から目をそむけない事で自分より大きすぎる海神という存在に主導権を握らせないよう制御してきたのだ。

だがやがて、海神の方が自分と相手の区別が曖昧になり、海神は自分とライオネルの区別ができなくなってしまったのだ。

情報は精神世界では力になる。

その意味をサークはやっと理解した。
その力は世界を司る精霊王という凄まじいエネルギーにすら影響を与え、認識を歪めてしまう。

歪んでいたのはライオネルの存在ではない。
大きすぎる海神の存在の方が歪んでいたのだ。

大きな勘違いをしていた。
存在の大きさから、ライオネルが海神の影響を受けているのだとばかり思っていた。

だが精神世界は情報が力になる。

存在は小さくとも、日々、絶え間なく多くの情報を取り込んでいたライオネルの方に強い力があり、それが海神を蝕んでいたのだ。
それによって海神はライオネルの事なのか自分の事なのかの境が曖昧になり、区別して考える事ができず、ライオネルの事を自分の事として自分の場合で理解し行動するようになっていたのだ。

「とはいえ私の方が影響を与えていると言っても、海神の表層意識のごく一部に過ぎません。あれほどの大きな存在ですから、完全に自分自身を見失う事はありません。でも……。」

「……自分と相手の区別がつかなくなり、自分の意識の一部が相手のものだと感じ、殿下に重なっていた……。」

「そういう事です。海神は自分というモノは保ったまま、自分と私の区別がつかなくなった事で「自分の考えで作り上げた私」を本物のように捉え始め、「本当の私」と「自分の考えで作り上げた私」を同じものと認識し始めました。そしてしだいに、自分の感情と同調するそちらを本物だと思う様になっていくのです……。」

「……それが……別人格……。」

ライオネルはコクリと頷いた。

思わぬ事だった。
てっきり海神の大きすぎる意識の影響によって、宿主の精神に異常が現れたものが別人格なのだと思っていた。
もしくは海神自身が乗っ取る形で宿主のフリをしているものなのだと。

だがこの話を聞く限り、海神は自分の生み出した「別人格」と「本当の宿主の意識」を同一視している。

「……だとしたら…海神自身は無自覚?!」

「ええ。海神は悪戯に宿る相手の生活を壊そうとしている訳ではありません。ただ、自分と私の境が曖昧になり、海神は「自分が想像して作り上げた私」と「本物の私」の区別が出来ないんです。むしろ自分の思考と近い「想像した私」を本物だと思っている為、そちらを優先させようとします。」

唖然としてしまう。
だとしたら本当に海神には悪気がないのだ。
宿主に対し、何か無碍な事をしようなどとは少しも思っていないのだ。

ただ宿主の為を思って手を貸している……いや、手を貸しているつもりもないだろう。

海神の想像した宿主は、無自覚であっても海神そのものの一部だ。
だから無意識にその力を使っている。
存在としてエネルギーの強い海神が、自分の一部を宿主だと思い込んで力を使っているのだ。

それにより、それまでは情報によってライオネルが優勢だった肉体の主導権が不安定になり、別人格が表面化したのだろう。
そして別人格は無自覚であっても海神そのものだ。
だから別人格として力を出し始めた海神に対し、宿主の方は抵抗できなくなってしまうのだ。

「……そんな、だとしたら……!!」

それまで考えていた想定と全く異なる状況に、サークは焦りを感じた。

この情報を義父は知らない。
知らない状態で説得を試みているのだ。

海神は別人格が自分だとは思っていない。
宿主その人だと思っている。
だから宿主に影響を与えないで欲しいと話しても、全く身に覚えのない、訳のわからない話をされていると思うだろう。
そしてそれを続ければ、苛立ちを生みかねない。

「……殿下!!」

「ええ、ですから早く私を海神の元に。私と想像上の私が別物だと言う事を、はっきり伝えなければなりません。」

そうかとサークは思った。
何故ライオネルが海神の元に行こうとしたのか?

それは誰よりも海神の現状を理解していたからだ。

このままこちらの計画通りに進めても、海神は納得する事はない。
むしろ破局による危険を高めるだけだ。

「……すみません。お救いしようとしていたにも関わらず、結局、ライオネル殿下にも危険な役割をさせてしまう事になって……。」

助けに来たというのに主君に危険な役割を担わせる事になり、サークは萎縮した。
しかしライオネルは騎士の主として毅然と微笑む。

「いいんですよ、サーク。海神の事は私以外理解していませんでしたから……。それに……。」

「それに??」

「……あの様な破廉恥な事ばかり……!私はサークにそこまでの事は望んでいないというのに……!!だいたい海神はサークの事をちゃんとわかってない!!サークは完全な機能不全なんです!!どうやっても全くをもって無反応なんです!!……だというのに!そんな事どう頑張ってもできないというのに……っ!!」

「あ、あの~??殿下?!」

色々思い出してきたのか、憤慨したようにライオネルはブツブツ呟く。
どうやら今までその身の中で共存してきたルームシェア相手に、色々と鬱憤が溜まっているようだ。

とはいえ内容が内容だ。
サークは苦笑いを浮かべながら聞かなかった事に……出来なかった。

「……何の話かは……深くはツッコみませんが……。俺……こう見えて、結構、気にしてるんですよ……。」

がっくりと肩を落とし、そう呟いて泣きたいのをグッと堪えた。
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