欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
8 / 77
第五章「さすらい編」

大型新人

しおりを挟む
俺はバンズを掴み、並んでいる肉やら野菜やらを乗せ、ソースをかけた。
上にもバンズを乗せてかぶりつく。

うん、旨い。


「……どうしたんですか?」


そんな俺を三人がじーと見つめている。
テストの結果は合格で、俺は見習いとして預かって貰える事になった。
とりあえず昼飯となったので四人でテーブルについたのだが様子がおかしい。
次の瞬間、トムさんとレダさんが同時に話し出した。

「サーク!あれは何だ!?どうやって俺を投げだ!?」

「ちょっと!あなた!どうやって魔術を使ってるの!?」

同時に聞かれ、俺はモゴモゴしながら少し考える。
お手製バーガーからソースが垂れたので指を舐めた。

「え~と。まずトムさんを投げたのは武術です。自分より大きくても投げれます。」

「どうやって!?」

「まず、トムさんは俺に向かっていてました。その力を利用します。それから、さっき言った体幹の問題です。トムさんは少し引っ張ったら体幹ががブレて不安定になったので、後は支点・力点・作用点のノリでひっくり返しました。」

「……ごめん、何いってっかわかんねぇ。」

「まぁ、体術なんて言葉で説明してもわからないですよ。やってみてなんぼですから。」

俺はまたバーガーをかじった。
旨い。

「次は私の質問に答えて?あなた、どうやって魔術を使ってるの!?杖は使ってないわよね?指輪みたいな他の媒体も無さそうだし!?後、身体強化してるのに、シールド使えたのは何!?」

「ああ、俺は杖なしで魔術を使います。この戦い方だと杖持ってると邪魔なんで。」

「杖なしってどういうこと!?」

「だからこう言うことです。ちなみによほど手の込んだ魔術じゃない限り同時に2つ使えます。」

俺はそう言って手を左右に伸ばし、それぞれ公式を解して、右に座っていたレダさんのグラスに氷を、左に座っていたトムさんの顔に風を送って見せる。
レダさんがビックリして立ち上がった。

「えええええぇっ!?何それ!?と言うか2つってどういうこと!?」

「……へぇ~。面白い事するねぇ?」

いつの間にかマダムが横にいて、俺の魔術をしげしげと見ていた。
俺は皿に置いておいたバーガーをまた掴んで食べ始めた。
マダムがちらりと俺を見た。

「そういや一時期、噂があったね?魔術を2つ使う奴の話。確か王子の命を守って平民から騎士になったとかいう。」

「あ、それ、俺です。」

俺はモゴモゴ食べながら答えた。
マダムとレダさんとトムさんがぎょっとした顔で俺を見る。

「……は?マジかい……。」

「ならお前!騎士なのか!?サーク?!」

「はい。でも騎士って言っても、称号をもらって持ってるだけのただの平民ですよ?俺。」

「ちょっと待って!?2つ!?しかも杖なしで!?」

「はい。公式使うだけなんで、ちょっと訓練すれば誰でもできますよ?」

皆がぽかんと俺を見ている。
俺は気にせずバーガーを齧った。
何が問題なのか不思議そうな顔で食事を続ける俺を見、マダムが大きくため息をついた。

「は~。2つ魔術を使う、王子を守って平民から騎士になった男があんただとは……。サーク、あんた情報量多すぎ。」

「そうですか?」

「こりゃ、とんでもない大型新人が入ったもんだ。」

やれやれと肩をすくめるマダム。
そんな大層な事でもないんだけどな??
俺は柑橘類のソーダ水を口にした。
これもさっぱりしてて美味しい。
トムさんはビールを半分ほど飲み干してひと息つくと、俺の顔を覗き込んだ。

「でもよ?それでも一応騎士なら仕事はどうしたよ?どっか務めてるんだろ?何で冒険者なんかやってんだ?」

その言葉に俺は言い淀んだ。
まだ瘡蓋にならない傷を撫でられたような気がした。

「……今、人を探すために休職中です。」

気を取り直そうと二つ目のバーガーを作っていく。
しかし齧り付いてはみたが、1つ目のバーガーよりどうしてだが味がしなかった。
それを機械的に飲み込んでいく。
そんな俺をちらりとマダムが見ていた。

「ちょっと!ヒース!さっきから黙ってないで、何か言いなさいよっ!?」

落ち着いてきたと思ったところで、興奮冷めやらぬという感じでレダさんがずっと黙っているヒースさんに話をふった。

俺はバーガーをかじって、ヒースさんを見る。
相変わらず何か考えているようないないような顔。
本当、何考えてるのかわかんない人だな?ヒースさん……。

そんなヒースさんはじっと俺を見ながら、ポツリと一言言った。


「リスみたいだ……。」


場に沈黙が落ちる。

………………。

全員が言葉の意味がわからず思考停止する。


は?リス??

え?!俺の事!?
頬張ってるからか!?

て言うか、何の話をしてんだ!?
この人!?

そのズレきった言葉に俺は固まる。
ヒースさんから、どこかで嗅いだことのあるヤバい臭いを微かに感じていた。










「レダ、俺は頭がおかしいのだろうか?」

「おかしいんじゃない?」

「サークが可愛いと思う。あれはリスだ。可愛いリスがいるんだ。」

「あんな大きくてガタイのいいリスがいたら怖いわよ!カンガルーは言い過ぎだけど!どう可愛いく見積もっても!ワラビーが関の山よ!!」

「ワラビーか……それも可愛いな?」

「……なるほど。あんたが重症なのはわかったわ……。」

俺がトムさんと銭湯に行って汗を流して戻ると、ヒースさんとレダさんが不毛な会話をしていた。
俺は見習いと言うことで、その日からヒースさんのパーティーと一緒に泊まる事になったのだ。

それにしても……。
この人、まだリスにこだわってるのか!?

俺は少し引いた。
よくわからないが牽制しておいた方が良さそうだ。
俺はヒースさんの前に立ち、完全に無表情になる。

「なんスか?ヒースさん?俺にちんこでも突っ込みたいんスか?」

思わず下世話な話を振ってみると、ヒースさんは真っ赤になった。
そしてアワアワと動揺する。

「なっなっなっ!?なんて事を言うんだ!?俺はそんな事は……っ!?駄目だ!可愛いリスちゃんがそんなこと……っ!!」

ヒースさんはまるっきり免疫が無い人のように慌てふためくと、何か訳のわからないことを言って部屋を飛び出して行った。
何となく思っていた反応と違った。
エロに免疫ないのは、ガスパーみたいだなと思った。

と言うか俺はリスじゃないし。
いい加減リスから離れて欲しい……。

「サーク……。」

ヒースさんへの牽制が終わると、ゆらり、と影が揺れた。
ただならぬ雰囲気に振り返ると、レダさんが俯いてブツブツ言っていた。

ヤバい……。
女性がいたのに、いつものノリでうっかり下ネタ言っちゃたよ……。

「レダさん!ごめんなさい!!ちょっと男ばかりの環境に俺!慣れすぎてて!!」

次の瞬間、レダさんがガシッと俺の手を掴んだ。
こ、怖い……。
逃さんとばかりに顔を寄せるレダさんの目が爛々としている。

「詳しく!!」

「……は?」

「男ばかりの環境についてもっと詳しく!!サークは突っ込まれた事はあるの!?」

……………。

やべぇ、レダさんからも、やはり嗅いだことのあるヤバい臭いがする……。
俺は少し泣きたくなった。

レダさん……こんな美人なのに……。

そしてそんなヤバい匂いしかしないふたりを見ていても、特に気にする様子もなくマイソードをにこにこ磨いているマイペースなトムさん……。

冒険者って癖が凄いんだな……。

それまでにないカオスな雰囲気に、俺は今夜はあの夢を見なくて済みそうだと思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...