欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第五章「さすらい編」

見習いクエスト

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「マンドレイクですか?」

四人で朝食をとりながらクエストの話をしていると、マンドレイク狩りに行こうと言われた。

「そう。常に募集があるし、植物系のモンスターだから、魔術を使える人間が3人もいるからどうかと思って。素材も高く売れるから、四人クエストでも一人ずつちゃんとした額になると思うし。」

「でもな~、サークはモンスター初めてだろ?いきなりマンドレイクはどうなんだ?」

「元々は外壁警備をしていたので、モンスターとの遭遇はよく有りましたよ。マンドレイクは強いモンスターですか?」

「それなりにな。」

俺は少し考えた。
この先、俺は竜の谷を目指す。
竜と戦う事は避けたいが、そんなモノが住んでる場所なら同等のどえらい化物がいてもおかしくない。
だったらそういったモノとの戦い方を知っておかなければならない。

「やりたいです。」

俺は真剣な顔でそう告げる。
しかしヒースさんが少し顔を曇らせた。

「いや、やるとしても次にしよう。初戦があれはどうかと思う。戦力的には問題はなくとも、予想外の自体に陥りやすい魔物だ。仲間を呼ばれるなどしたら、少し危ない。」

見習いとしてついていくクエストに上げられたモンスターだが、どうやら思ったより危ないらしい。

俺は首をひねる。
マンドレイクってあれだよな?
薬になるやつ。
刈ろうとすると叫んで心臓を止めるとか何とか……。
薬の材料としては見たことはあるが、生きてる姿は知らない。

と言うか今日はヒースさんまともだ。
リスはやっと抜けたらしい。
俺は少しホッとした。
変態にそんなにたくさんいられても困る。

「だったら、基礎コース一周やってやんなよ?」

マダムがやって来てそう言った。
いつの間にかそこにいるこの人は多分、それなりの腕の冒険者なのだろう。
こんなところでカウンターに座ってのんびりキセルを吹かしているけれど、ギルドマスターなのだし。

「おはようございます。マダム。」

「おはよう、サーク。あんたはいい子だね。ちゃんと挨拶して。」

マダムはそう言って、手に持っていた小さな林檎をくれた。
真っ赤で硬めの酸っぱい匂いのする林檎。
俺はそれを受け取り、立っているマダムを見上げた。

「基礎コースって何ですか?」

「初期クラスがやるやつを1日かけてやるんだよ。薬草探しとかスライムとか小鬼とか初期クラスでもできるクエスト一通り。馬鹿にする奴もいるけどね?あれにはちゃんとやる意味があるんだ。冒険者になるために必要な知識が詰まってる。特に薬草なんかは後々本人の役に立つ。経験者から学んだ方が早いしね。」

「それともそうだな。」

「でも、それだと皆さんには何の得もないですよね?」

「気にするな、サーク!預かりは後輩を育てる大事な仕事だ!」

「たまには初心に返るのも楽しいしね。」

マダムの提案に乗って今日1日、俺の為に初期クラスが行うクエストを一通り行うことになった。
確かにこういう基礎を知ってるのと知らないのでは全く違うので有りがたかった。











次の日、なんだかんだで結局マンドレイク狩りに行くことになった。
自生地となっている森へ向かう。

「この辺なんだが……。」

ヒースさんがキョロキョロしている。
俺は魔力探査をしてみた。

「無駄よ、サーク。マンドレイクは土の中で休眠状態にあると探査に引っ掛からないの。」

俺が探査を行ったのに気づいたレダさんがそう言った。
レダさんはとても頼れる先輩冒険者魔術師だと思う。
俺がやってみる事を見守り、悪い所や足りない所をこうやって教えてくれる。
だから俺も素直に教えを請う。

「なら、どうやって見つけるんですか?」

「マンドレイク専用の探査方法もあるんだけど~。一番、簡単なのはこれね。」

レダさんはそう言うと、打撃にも使える大きな戦闘用の杖を構えた。
わっと炎が地面一帯に広がる。
俺は反射的にシールドを足元に張った。

「レダ!やる時は声をかけてくれ!靴が焦げたぞ!」

「ごめ~ん!」

ビックリして慌てて足をジタバタさせたトムさんが文句を言った。
ヒースさんはいつの間にかちゃっかり岩の上に立っている。
なるほど。
変な人だけど、一応このパーティーのリーダーって事か。
ちょっと面白くて笑ってしまう。

「探査してみて?サーク。今度は見つかるはずよ?」

そう言われて俺が魔力探査を行うと、さっきは見つからなかった気配を捕らえた。
どういう事だとレダさんの顔を見る。
くすりとレダさんは笑った。

「ああやるとマンドレイクが炎を警戒するから、探査できるようになるの。」

「へ~。勉強になります。」

俺はそう言いながら、探査に引っ掛かった所に行く。
多分、これだよな??
どう見ても普通の雑草だ。
俺はそれをしげしげと眺める。

なんだろ?
どう違うんだろ?
刈るにしても、抜けばいいのか?
まわりを掘るのか?

俺はとりあえず葉の形などを覚えようと思って、それに手を伸ばした。

「……サーク!それにまだ触るな!」

「へ?」

俺の行動に気づいたヒースさんが慌てた声を上げた時、俺の手はすでにそれに触れていた。
その瞬間、いきなり地面が激しく揺れた。

「レダ!サイレスを!!」

ヒースさんがすぐさま指示を出し、トムさんが俺の首根っこを掴んで退避した。
俺はよくわからずぽかんとしてしまう。
激しい揺れと同時に、先程までいた辺りの土が山のように盛り上がる。
同時に物凄い衝撃波が来て俺は目を丸くした。

「ちょっと!サーク!危なかったじゃない!!」

「サイレスが間に合って良かった……。」

「あはは!!下手したら今の声で全滅だったな!!」

俺はまだ状況が飲み込めないが、叱られたのですいませんと小さく呟いた。
どうやら今の衝撃波は、サイレスで声がなかったが、心臓を止めると言われる例のものだったようだ。

だがそれより……。

俺はぽかんと口を開けていた。
目の前の光景に頭がついていかない。

え?
マンドレイクってこんなにでかいの??

目の前の魔物に唖然とした。
三階建ての独身寮とあまり変わらない大きさのものがそこにあった。

「ぼさっとするな!サーク!!」

いつの間にか伸びて来ていた触手をヒースさんが叩き切ってくれた。
その声で我に返る。

「すみません!予想より大きくて!!」

俺は急いで気持ちを切り替え戦闘態勢に入った。
トムさんとヒースさんがバッサバッサと触手を切り刻んでいる。

「いい?サーク。マンドレイクは再生能力もあるの。だから見て?トムが魔術剣で焼き切ったところは再生しないけど、ヒースが切ったところは再生するでしょ?」

レダさんはそう言いながら、ヒースさんの切ったところを燃やして行く。

「植物系のモンスターには火が有効って言うけど、それは正しく使った時よ?いきなり本体を炎で攻撃しても逆に効かないわ。草を燃やす時は乾燥させるでしょ?生の草は水分が多くてかえって燃えにくいから。」

俺は話を聞き頷きながら、レダさんを手伝ってヒースさんの切ったところを燃やした。
そして質問する。

「本体への炎攻撃は無効なんですか?」

「それもちょっと違う。生木でも墨にできるくらいの炎ならとても有効。ただ、そうすると素材としては売れなくなっちゃうけど。それに彼らが火が苦手なのは事実だから、とても炎を恐れてるわ。」

「なるほど。」

「ほら、邪魔な根がなくなって本体が見えて来たわ。ここからが本番ね。頼りにしてるわよ?サーク。」

レダさんがぽんっと俺の背中を押した。
蔦のジャングルみたいだったマンドレイクは、触手を切られまくって、巨大な本体の足元が見えていた。
トムさんが邪魔する蔦を切り、ヒースさんが本体を攻撃している。
流石チームメイト、阿吽の呼吸だ。

そしてやっと気がついた。
魔術師であるレダさんは後方支援なんだ。

魔術兵も一応後方支援の位置付けなんだけど、外壁警備みたいな雑多兵の場合はあまりその辺、厳密じゃない。
特にうちの班は斥候に出て歩兵や騎馬がつくまで足止めをするような前線タイプだったから、魔術師が後ろにいる感覚がなかった。

魔術師って普通はこうなんだなと変なことに感動した。
とはいえ、俺は後方でおとなしくしていられるタイプじゃない。
俺は呼吸を整えヒースさん達の所に向かった。

「遅いぞ!サーク!!」

「蔦は俺が避けてやるから、サークは本体を頼む!」

「わかりました!」

俺は魔力を調整し、身体強化と片手に炎の魔術を纏わせた。
足場を安定させ、体幹をしっかりさせてから一発お見舞いしてやった。

ドーンとマンドレイクの巨体が後ろに押される。

それを見たヒースさんとトムさんはぽかんとした後、笑い声を上げた。

「サーク!お前!モンクに転職した方が良くないか?!」

「始めての戦闘だと、攻撃した反動で自分か武器が吹っ飛ばされるヤツ多いのに、なかなかやるじゃないか!サーク!!」

「事情あって体幹を叩き込まれてますから。」

「よし!このまま押すぞ!!」

ヒースさんがそう言って攻撃を続けた。
このまま優勢で勝負がつくと思われたその時。


「ギャアアァァっ!!」


マンドレイクが叫び声を上げ、その衝撃波で俺たちはレダさんのところまで吹き飛ばされた。

「サイレス破られたのか!?レダ?!」

「ごめん!そうみたい!!」

「まずいぞ!仲間を呼んだ!!来るぞ!」

ただ事ではない雰囲気の中、離れた場所から木をなぎ倒して何かがこちらに向かって来る。

「嘘でしょ……!?」

レダさんが言葉を失う。

そこにはさらに、2体のマンドレイクがそびえ立っていた。
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