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第五章「さすらい編」
故郷
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俺はリアナとラニを連れて湖沿いを進んだ。
この方角に正式な港はないが、俺は覚えていた。
「すみません、東の共和国に行きたいのですが、乗せてもらえませんか?」
そこには漁師の休憩所があり、朝の漁を終えた漁師達が休んでいた。
王国とは同盟があるので、基本的にはフリーで行き来できる。
漁師たちも慣れたもので、気さくに接してくれる。
「おお、いいぞ。昼飯が終わってからでいいか?」
「はい。もちろんです。ありがとうございます。」
「可愛いの連れてるな?おちびちゃん達、魚は好きかい?」
そう言って、串に刺して焼いた魚を渡してくれる。
「ありがとうございます。リアナ、ラニ、ご挨拶して?」
「ありがとうございます。おじさま。」
「……ありがと。」
気取ってお礼を言ったリアナに対し、ラニは俺に隠れながら言った。
そんなふたりを可愛いな~と褒められた。
一人の漁師がじっと俺を見る。
「………お前、もしかしてサークか?」
いきなり名前を呼ばれ、びっくりした。
言葉を失っていると、豪快な笑顔をして強引に俺をハグした。
「サークだ!教会に預けたサークだ!!」
「へ!?何でそれを!?」
「お前を拾った一人だよ!!うわ~!!貴族さんとこに引き取られる前に皆で会い行ったけど、あんまり変わってないな~!!」
そう言われ、俺は体を離して顔を覗き込んだ。
「……ガンさん!?嘘!?めちゃくちゃ変わっててわかんなかった!!」
「おうよ!!男前になっただろう!?」
ガンさんは俺を拾ってくれた傭兵のオッサン達の一人で、オッサンとは呼べない一番若くてひょろっとした感じの人だった。
今や日に焼けたがっしりした漁師となっていて、言われるまで気づかなかった。
「何だ?教会に里帰りか?この子達、もしかしてお前の子供か!?」
「そんな訳ないでしょう!!訳あって預かってて、共和国に寄った後に村まで送るんです!!」
「なんだなんた?!ガンの知り合いか!!なら飯、一緒にどうだ!?」
「おお、食ってけ!食ってけ!」
俺がガンさんの知り合いとわかると漁師達はさらに気前が良くなって、どんどん魚やら握り飯やらを出してくる。
リアナとラニは目を白黒させていたが、食べ物が旨いのでじきに笑顔になった。
物珍しそうに、あら汁を飲んでいる。
それを微笑ましく眺めていると、ガンさんが横に来て言った。
「……名字もらったばっかりに、あんなことになってさ。皆、心配してたんだ……。元気そうで良かったよ……。」
「心配かけてすみません。」
「いいって。あれは俺たちもおじさんも手が出せなくて、どうなるかと思っていたんだ。お前が自分で道を切り開いて逃げたって聞いたときは、かえって安心したよ。」
「………………。」
「顔、見せてやんな。おじさんに。」
「はい。もちろんです。」
「そっか。うん、そっか~。」
ガンさんは急に涙ぐんでしまって、なんだか困ってしまった。
ああ、ここが俺の故郷なんだ。
そう思えた。
ずっとわだかまっていたものは、来てしまえばたいしたことのないちっぽけなもので。
故郷は温かく俺を迎えてくれた。
食事の後、東の国に渡してもらいガンさん達と別れた。
「なんか変~!!」
「何なの?ここ?」
ぽかんとしたふたりがそう言った。
見たことのない建物が多かったのだろう。
まあ確かに独特かもな。
俺は見慣れているのであまり違和感はないけれど、もう王国に住んで長くなるせいか確かに不思議な感じはする。
「リアナ、ラニ。ようこそ、東の共和国へ!!」
俺は少し気取ってそう言った。
俺に手を引かれながら物珍しそうにキョロキョロするふたりに、俺はここの民族衣装のひとつであるジンベエを買って着せてやった。
その際、リアナはちゃっかりパンツを買った。
いちご柄と熊とどっちがいいか見せに来られた時は思わず店の外まで逃げて、店員さんに大笑いされた。
ジンベエを着て歩くふたりは、その辺で遊んでいる子供らと変わらなく見える。
「お兄ちゃん、どこに向かってるの?」
「ん?俺が育ったところだよ?」
「あら、ならしっかり挨拶しなくちゃ。将来、サークのお嫁さんになるんだから。」
「おいおい。俺の嫁さんはもう決まってるんで、他を当たってくれ。」
「嫁さん」と思わず言ってしまい、一人で赤面してしまった。
なに俺、一人で先走ってるんだ!?
そう言うのはウィルの気持ちも確かめた上でだな……。
「なにニヤついてんの?気持ち悪い。」
ぶすっとした顔で、リアナが腕にしがみついてくる。
ごめんな、リアナ。
少なくとも俺の気持ちはもう決まってるんで、他を当たってくれ。
しばらく歩いて、店も家も少なくなって来た頃、懐かしい場所が見えてきた。
ああ、帰って来たんだ。
俺は少し泣きたくなった。
ラニがぎゅっと俺の手を握り微笑んだ。
「サーク、この囲みは何?」
「これは神様の門だよ。だから真ん中を歩いたらいけないんだ。」
「変なの~。」
リアナが興味津々と言った感じで、柱の回りをぐるぐるする。
その時、後ろから懐かしい声がした。
「……サク?サクなのかい?」
俺は振り返り、笑った。
ずいぶん、白髪が増えてしまった。
でも俺の事をサクと呼ぶ人は、この世に一人しかいない。
「……ただいま、義父さん。」
そう言った俺を、リアナとラニが不思議そうに見上げていた。
この方角に正式な港はないが、俺は覚えていた。
「すみません、東の共和国に行きたいのですが、乗せてもらえませんか?」
そこには漁師の休憩所があり、朝の漁を終えた漁師達が休んでいた。
王国とは同盟があるので、基本的にはフリーで行き来できる。
漁師たちも慣れたもので、気さくに接してくれる。
「おお、いいぞ。昼飯が終わってからでいいか?」
「はい。もちろんです。ありがとうございます。」
「可愛いの連れてるな?おちびちゃん達、魚は好きかい?」
そう言って、串に刺して焼いた魚を渡してくれる。
「ありがとうございます。リアナ、ラニ、ご挨拶して?」
「ありがとうございます。おじさま。」
「……ありがと。」
気取ってお礼を言ったリアナに対し、ラニは俺に隠れながら言った。
そんなふたりを可愛いな~と褒められた。
一人の漁師がじっと俺を見る。
「………お前、もしかしてサークか?」
いきなり名前を呼ばれ、びっくりした。
言葉を失っていると、豪快な笑顔をして強引に俺をハグした。
「サークだ!教会に預けたサークだ!!」
「へ!?何でそれを!?」
「お前を拾った一人だよ!!うわ~!!貴族さんとこに引き取られる前に皆で会い行ったけど、あんまり変わってないな~!!」
そう言われ、俺は体を離して顔を覗き込んだ。
「……ガンさん!?嘘!?めちゃくちゃ変わっててわかんなかった!!」
「おうよ!!男前になっただろう!?」
ガンさんは俺を拾ってくれた傭兵のオッサン達の一人で、オッサンとは呼べない一番若くてひょろっとした感じの人だった。
今や日に焼けたがっしりした漁師となっていて、言われるまで気づかなかった。
「何だ?教会に里帰りか?この子達、もしかしてお前の子供か!?」
「そんな訳ないでしょう!!訳あって預かってて、共和国に寄った後に村まで送るんです!!」
「なんだなんた?!ガンの知り合いか!!なら飯、一緒にどうだ!?」
「おお、食ってけ!食ってけ!」
俺がガンさんの知り合いとわかると漁師達はさらに気前が良くなって、どんどん魚やら握り飯やらを出してくる。
リアナとラニは目を白黒させていたが、食べ物が旨いのでじきに笑顔になった。
物珍しそうに、あら汁を飲んでいる。
それを微笑ましく眺めていると、ガンさんが横に来て言った。
「……名字もらったばっかりに、あんなことになってさ。皆、心配してたんだ……。元気そうで良かったよ……。」
「心配かけてすみません。」
「いいって。あれは俺たちもおじさんも手が出せなくて、どうなるかと思っていたんだ。お前が自分で道を切り開いて逃げたって聞いたときは、かえって安心したよ。」
「………………。」
「顔、見せてやんな。おじさんに。」
「はい。もちろんです。」
「そっか。うん、そっか~。」
ガンさんは急に涙ぐんでしまって、なんだか困ってしまった。
ああ、ここが俺の故郷なんだ。
そう思えた。
ずっとわだかまっていたものは、来てしまえばたいしたことのないちっぽけなもので。
故郷は温かく俺を迎えてくれた。
食事の後、東の国に渡してもらいガンさん達と別れた。
「なんか変~!!」
「何なの?ここ?」
ぽかんとしたふたりがそう言った。
見たことのない建物が多かったのだろう。
まあ確かに独特かもな。
俺は見慣れているのであまり違和感はないけれど、もう王国に住んで長くなるせいか確かに不思議な感じはする。
「リアナ、ラニ。ようこそ、東の共和国へ!!」
俺は少し気取ってそう言った。
俺に手を引かれながら物珍しそうにキョロキョロするふたりに、俺はここの民族衣装のひとつであるジンベエを買って着せてやった。
その際、リアナはちゃっかりパンツを買った。
いちご柄と熊とどっちがいいか見せに来られた時は思わず店の外まで逃げて、店員さんに大笑いされた。
ジンベエを着て歩くふたりは、その辺で遊んでいる子供らと変わらなく見える。
「お兄ちゃん、どこに向かってるの?」
「ん?俺が育ったところだよ?」
「あら、ならしっかり挨拶しなくちゃ。将来、サークのお嫁さんになるんだから。」
「おいおい。俺の嫁さんはもう決まってるんで、他を当たってくれ。」
「嫁さん」と思わず言ってしまい、一人で赤面してしまった。
なに俺、一人で先走ってるんだ!?
そう言うのはウィルの気持ちも確かめた上でだな……。
「なにニヤついてんの?気持ち悪い。」
ぶすっとした顔で、リアナが腕にしがみついてくる。
ごめんな、リアナ。
少なくとも俺の気持ちはもう決まってるんで、他を当たってくれ。
しばらく歩いて、店も家も少なくなって来た頃、懐かしい場所が見えてきた。
ああ、帰って来たんだ。
俺は少し泣きたくなった。
ラニがぎゅっと俺の手を握り微笑んだ。
「サーク、この囲みは何?」
「これは神様の門だよ。だから真ん中を歩いたらいけないんだ。」
「変なの~。」
リアナが興味津々と言った感じで、柱の回りをぐるぐるする。
その時、後ろから懐かしい声がした。
「……サク?サクなのかい?」
俺は振り返り、笑った。
ずいぶん、白髪が増えてしまった。
でも俺の事をサクと呼ぶ人は、この世に一人しかいない。
「……ただいま、義父さん。」
そう言った俺を、リアナとラニが不思議そうに見上げていた。
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