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第六章「副隊長編」
おかえりが聞きたくて
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「ただいま~。」
そう言って部屋に入ると、ベッドに寝転がって本を読んでいたウィルがきょとんとした顔をした。
「……何でこっちに帰ってきてるんだ??」
「そこはまず!お帰りって言ってよ~!」
あ~!それを楽しみに帰ってきたのに~!!
何で言ってくれないんだよ~!!
半ばいじけはじめた俺をウィルが笑った。
「ごめん。お帰り。今日から向こうだと思ってたから。」
「ただいま……。明日、森の町に行くから、こっちに帰ってきた……。」
「森の町??」
「あ、魔術本部の事。俺が勝手に森の町って呼んでる。」
「魔術本部に行くのに、ここと別宮はそんなに距離は違わないだろ??」
「ここから直接、森の町に行くから。」
「直接??」
「この鍵を使うと、向こうと繋がるんだよ。」
俺は首から下げている家の鍵を出して、ウィルに見せた。
「それは?」
「魔術本部にある俺の家の鍵。この鍵を差せば、どこのドアからでもその家に帰れるんだ。」
「へぇ。持ち歩けるポータルみたいなものか。便利だな。」
「ただ、人に知られるのは良くないし、行くのはどこからでも行けるんだけど、帰ってくるには出口として指定しているドアからしか出れない。ここの部屋の内ドアがその出口として俺が指定してるドアなんだ。」
「なるほど。」
「偶然だったけど、この家は玄関が一階で、上がってからが部屋だけど、その階段と部屋の間のドアにも鍵がある。だから俺がそのドアでこっちと魔術本部を行き来していても、傍目からは俺は部屋に籠ってるとしか見えない。ここを借り続けていたのは、研究室だった事もあるんだけど、このドアの為でもあるんだよ。」
「要はそのドアがポータルなんだな。石の変わりに鍵があって。」
「ポータルの事はわからないから何とも言えないけど、多分、そんな感じ。」
「秘密にしないといけないんだろ?俺に話して良かったのか?」
「ウィルが他の人に言うとは思えないし。それにシルクも知ってる。まぁ、ウィルとシルク以外には言うつもりはないけどね。」
「ふ~ん。」
ウィルは少し意味ありげに笑った。
何だろう?その含み笑いは??
「あ、ポータルで思い出したんだけどさ~。」
「どうした?」
「谷から帰った時、これがポケットに入ってて……。ウィル、俺のポケットに入れた?」
俺はそう言って、鞄の中から3つの石を出してウィルに見せた。
「迷子の石??いや、俺は入れてないよ?お前、無意識に入れたんじゃないか?」
「やっぱりこれ迷子の石なのか……。う~ん、どうなんだろ?あの時はウィルに会えて有頂天だったからな~。あんまりよく覚えてないんだよね~。」
俺はそう言いながら、石を一つウィルに渡した。
「え?」
「鍵なんだろ?それ。」
「でも……。」
「家の鍵はお守りなんだ。いつでも故郷がそこにあるみたいな。だから持ってて。もう帰ることがなくても、それはウィルと故郷を繋ぐ鍵だよ。」
「………。うん。ありがとう、サーク。」
ウィルはその石を大事そうに握りしめた。
無理やり連れ去って来てしまったけれど、ウィルにもいつか故郷の谷に帰省して欲しい。
俺が東の国へ、故郷へ、長年の蟠りの果てに帰る事ができたように。
ウィルが今、故郷である谷をどう思っているのかはわからない。
でもいつかそんな日が来て欲しいと思う。
それがいつかはわからないけれど、その為に必要な鍵は持っていて欲しかった。
石は後2つあるから、1つはリリとムクに返して、もう1つは予備として俺が保管しておこうと思う。
「ウィル、夕食は食べた?」
「まだだよ?」
「なんかあったけ?それとも食べに行く?」
「そうだな……サーク、デートしようか?」
「えっ!?デ、デートですか!?」
「何だよ?」
「いや、だって、今まで秘密の仲だったから、なんか大っぴらにデートとか言われるとっ!!」
「帰ってから一緒に買い物行ったりしてたのに、デートって言われると挙動不審になるんだな?」
「そりゃ…そう言われると意識しちゃうし……。て言うか、デートって何するの?」
「……何だろね?」
クスッと笑うウィルがなんか色っぽく見えるのは、デートと言う単語の魔力なのか!?
「ほら、行くぞ、サーク。」
「あ、うん。」
簡単に身形を整えて、俺たちは夜の町に繰り出した。
結局、食事は店に入らず、屋台なんかのテイクアウトを買って、橋桁の上に座って食べた。
酒も少しだけ買った。
飲みすぎるとウィルが大変な事になるので、控えさせたけど。
「ウィルってさ。」
「うん?」
「実は魔力あるよね?」
「何それ?口説いてるのか?」
「いや、口説くのもやりたいけど!そうじゃなくて!目の色が本来の色になったせいなのか、長い時間一緒にいたからなのかわからないけど、今はそれがわかるんだ。結構魔力があるよね?」
「あるよ?谷の人間で魔力がない人はほとんどいないし。」
「魔術は使わないの?」
「使えない。魔力はあるけど、俺は使えないんだ。」
「やっぱり。目のせいだよね?」
「目のせいかは知らない。でも夜の宝石は魔力はあるけど、魔術は使えないって言われたし、実際、竜を呼んだりとか限定的な事でしか使えなかった。何でそんな事聞くんだ?」
「使えないのか使わないのか、わからなかったから。後、やっぱり目が気になってた。」
「夜の宝石は、その血に癒しと清めの力があるって言われてた。だからそこに魔力が使われるから、魔術とかは使えないって。本当かは知らないけどな。」
「役目って、やっぱりその……食われるって事だよな?」
「わからない。誰も夜の宝石がどうやって役目を果たすのか見たことがないから。殺されてるのか、食われてるのか、よくわかってないんだよ。何かこの言い方だと、生け贄みたいに聞こえるけど、俺にとってはちょっと違うかな。」
「どう違うの?」
「夜の宝石は、呪いに苦しんでる竜を清め、正しい終わりに導く案内人なんだ。それがどうやってそうなるかはわからないけど、実際、呪いは消えるし、竜に安らかな死を与える事ができる。呪いを終わらせ、夜の中に還すんだよ。新しい朝になれるように。とても誇らしい役目だよ。」
俺にはウィルの言うことは、半分わかって、半分わからなかった。
でも、そのわからない部分が心地よかった。
ウィルの事を不思議に感じるのは、こういうところなのかもしれない。
なんとなく、橋桁に置かれているウィルの手に触れる。
自然に互いの指が絡んで組み合う。
何も言わず、俺達はしばらくそうやって時を過ごした。
街の雑踏を少し離れた川の上。
静けさの中に水音が混じって心地いい。
その中で目を閉じる。
ウィルといると安心する。
ウィルも俺といて安心できるといいなと思った。
そう言って部屋に入ると、ベッドに寝転がって本を読んでいたウィルがきょとんとした顔をした。
「……何でこっちに帰ってきてるんだ??」
「そこはまず!お帰りって言ってよ~!」
あ~!それを楽しみに帰ってきたのに~!!
何で言ってくれないんだよ~!!
半ばいじけはじめた俺をウィルが笑った。
「ごめん。お帰り。今日から向こうだと思ってたから。」
「ただいま……。明日、森の町に行くから、こっちに帰ってきた……。」
「森の町??」
「あ、魔術本部の事。俺が勝手に森の町って呼んでる。」
「魔術本部に行くのに、ここと別宮はそんなに距離は違わないだろ??」
「ここから直接、森の町に行くから。」
「直接??」
「この鍵を使うと、向こうと繋がるんだよ。」
俺は首から下げている家の鍵を出して、ウィルに見せた。
「それは?」
「魔術本部にある俺の家の鍵。この鍵を差せば、どこのドアからでもその家に帰れるんだ。」
「へぇ。持ち歩けるポータルみたいなものか。便利だな。」
「ただ、人に知られるのは良くないし、行くのはどこからでも行けるんだけど、帰ってくるには出口として指定しているドアからしか出れない。ここの部屋の内ドアがその出口として俺が指定してるドアなんだ。」
「なるほど。」
「偶然だったけど、この家は玄関が一階で、上がってからが部屋だけど、その階段と部屋の間のドアにも鍵がある。だから俺がそのドアでこっちと魔術本部を行き来していても、傍目からは俺は部屋に籠ってるとしか見えない。ここを借り続けていたのは、研究室だった事もあるんだけど、このドアの為でもあるんだよ。」
「要はそのドアがポータルなんだな。石の変わりに鍵があって。」
「ポータルの事はわからないから何とも言えないけど、多分、そんな感じ。」
「秘密にしないといけないんだろ?俺に話して良かったのか?」
「ウィルが他の人に言うとは思えないし。それにシルクも知ってる。まぁ、ウィルとシルク以外には言うつもりはないけどね。」
「ふ~ん。」
ウィルは少し意味ありげに笑った。
何だろう?その含み笑いは??
「あ、ポータルで思い出したんだけどさ~。」
「どうした?」
「谷から帰った時、これがポケットに入ってて……。ウィル、俺のポケットに入れた?」
俺はそう言って、鞄の中から3つの石を出してウィルに見せた。
「迷子の石??いや、俺は入れてないよ?お前、無意識に入れたんじゃないか?」
「やっぱりこれ迷子の石なのか……。う~ん、どうなんだろ?あの時はウィルに会えて有頂天だったからな~。あんまりよく覚えてないんだよね~。」
俺はそう言いながら、石を一つウィルに渡した。
「え?」
「鍵なんだろ?それ。」
「でも……。」
「家の鍵はお守りなんだ。いつでも故郷がそこにあるみたいな。だから持ってて。もう帰ることがなくても、それはウィルと故郷を繋ぐ鍵だよ。」
「………。うん。ありがとう、サーク。」
ウィルはその石を大事そうに握りしめた。
無理やり連れ去って来てしまったけれど、ウィルにもいつか故郷の谷に帰省して欲しい。
俺が東の国へ、故郷へ、長年の蟠りの果てに帰る事ができたように。
ウィルが今、故郷である谷をどう思っているのかはわからない。
でもいつかそんな日が来て欲しいと思う。
それがいつかはわからないけれど、その為に必要な鍵は持っていて欲しかった。
石は後2つあるから、1つはリリとムクに返して、もう1つは予備として俺が保管しておこうと思う。
「ウィル、夕食は食べた?」
「まだだよ?」
「なんかあったけ?それとも食べに行く?」
「そうだな……サーク、デートしようか?」
「えっ!?デ、デートですか!?」
「何だよ?」
「いや、だって、今まで秘密の仲だったから、なんか大っぴらにデートとか言われるとっ!!」
「帰ってから一緒に買い物行ったりしてたのに、デートって言われると挙動不審になるんだな?」
「そりゃ…そう言われると意識しちゃうし……。て言うか、デートって何するの?」
「……何だろね?」
クスッと笑うウィルがなんか色っぽく見えるのは、デートと言う単語の魔力なのか!?
「ほら、行くぞ、サーク。」
「あ、うん。」
簡単に身形を整えて、俺たちは夜の町に繰り出した。
結局、食事は店に入らず、屋台なんかのテイクアウトを買って、橋桁の上に座って食べた。
酒も少しだけ買った。
飲みすぎるとウィルが大変な事になるので、控えさせたけど。
「ウィルってさ。」
「うん?」
「実は魔力あるよね?」
「何それ?口説いてるのか?」
「いや、口説くのもやりたいけど!そうじゃなくて!目の色が本来の色になったせいなのか、長い時間一緒にいたからなのかわからないけど、今はそれがわかるんだ。結構魔力があるよね?」
「あるよ?谷の人間で魔力がない人はほとんどいないし。」
「魔術は使わないの?」
「使えない。魔力はあるけど、俺は使えないんだ。」
「やっぱり。目のせいだよね?」
「目のせいかは知らない。でも夜の宝石は魔力はあるけど、魔術は使えないって言われたし、実際、竜を呼んだりとか限定的な事でしか使えなかった。何でそんな事聞くんだ?」
「使えないのか使わないのか、わからなかったから。後、やっぱり目が気になってた。」
「夜の宝石は、その血に癒しと清めの力があるって言われてた。だからそこに魔力が使われるから、魔術とかは使えないって。本当かは知らないけどな。」
「役目って、やっぱりその……食われるって事だよな?」
「わからない。誰も夜の宝石がどうやって役目を果たすのか見たことがないから。殺されてるのか、食われてるのか、よくわかってないんだよ。何かこの言い方だと、生け贄みたいに聞こえるけど、俺にとってはちょっと違うかな。」
「どう違うの?」
「夜の宝石は、呪いに苦しんでる竜を清め、正しい終わりに導く案内人なんだ。それがどうやってそうなるかはわからないけど、実際、呪いは消えるし、竜に安らかな死を与える事ができる。呪いを終わらせ、夜の中に還すんだよ。新しい朝になれるように。とても誇らしい役目だよ。」
俺にはウィルの言うことは、半分わかって、半分わからなかった。
でも、そのわからない部分が心地よかった。
ウィルの事を不思議に感じるのは、こういうところなのかもしれない。
なんとなく、橋桁に置かれているウィルの手に触れる。
自然に互いの指が絡んで組み合う。
何も言わず、俺達はしばらくそうやって時を過ごした。
街の雑踏を少し離れた川の上。
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ウィルといると安心する。
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