56 / 77
第六章「副隊長編」
それぞれの門出
しおりを挟む
「何か、動きにくい……。」
少し前まで来ていた制服が動きにくくて仕方がない。
襟元も絞まっていて苦しい。
どうやらギルが特注してくれた武道型制服に慣れすぎたようだ。
「何か変なの~。」
シルクがそう言った。
それが俺に対してなのか、自分の事かよくわからない。
お互い顔を見合わせて、ため息をついた。
「主、こういうの面倒臭い。」
「同感だ。」
今日、皆を集めて集会がある。
その場で俺の副隊長代理の就任の発表もある。
その為、俺はいつもの武道着みたいな制服ではなく、前着ていた騎士の皆と同じ制服を着て襷をかけていた。
帯剣は適当だとまずいからと、ライルさんが貸してくれた。
何か魔術附与された剣なんだけど、これ……。
多分、また、ご実家の書斎からこっそり借りてきたものだろうと予想ができた。
うん、何も言うまい。
シルクはと言うと、俺がいつも着ている武道着型の制服を着ている。
シルクの立場も俺が連れてきた従者で武術指導をしていると言う非常勤的なものから、正式な警護部隊所属武術指導員となった。
その為制服を着ることになり、抜け目なくギルが用意していた制服に初めて袖を通していた。
何か…体格の差から、同じ形の制服なのにシルクが着ると全然違う感じなのは何なのだろう……。
ベルトの差なのか?
シルクは特別仕様のベルトをつけていた。
そこに細身の三日月刀をクロスさせるように2本、帯剣している。
武道着に帯剣ってなかなか無い光景だ。
どうしたのか聞いたら、いつの間にかは知らないが、ギルと武器屋に言って特注で買ってもらったらしい。
一応値段も聞いたが、シルクはニマ~ッと悪い顔で笑ったので、それ以上は知らない。
怖くて聞けない。
あいつ、恋人に甘すぎないか!?
大丈夫か!?あいつ!?
「主、似合わないね~。帯剣とかおかしい~。」
「うるさいな~。」
逆にお前は武術士の癖に帯剣してんだろ。
まぁ演舞は何でも使うからな。
そんな事を言っていると、ドアがノックされた。
どうぞと言うと、ひょっこりライルさんが顔を出す。
「ウィル来たよ!」
その後ろから可愛い恋人が顔を出した。
ウィルは制服ではなく、一般的な騎馬式の正装をしていた。
ブローチをつけているので、目の色が紺じゃないからちょっと不思議だ。
前はこの色が当たり前だったのにな。
「良かった、服、間に合ったんだ?」
「ああ、昨日の晩、ジュナさんがわざわざ届けに来てくれたんだ。」
「凄くいいよ。似合ってる。」
ウィルの服はオーダーメイドだ。
馬術着と言っても、公の場に出られる正装の物だ。
ちょっと奮発して、新しい就職祝いにプレゼントした。
まぁオーダーメイドって言っても、町の庶民的な仕立て屋さんだけと。
急な話だったけど、ウィルはスタイルも良いから、仕立て屋のジュナさんが目をキラキラさせて張り切ってくれて、3日で仕上げてくれた。
ああ、可愛い……。
その体のラインにきっちりした服を今すぐ脱がせてしまいたい……。
「主……顔が邪な感じになってる……。」
シルクがそう言って俺の耳を引っ張った。
痛がる俺をライルさんとウィルが笑う。
「そう言えば、サムは?」
「ん~、ちょっと具合悪そうだから、ギリギリまで休ませようと思って。」
「つわり?」
「ん~、どちらかと言うとストレスかな~。やっぱり、どうしたって不安だよね……。」
「こればっかりはな~。」
「サーク、ちょっと話して来てよ?」
「俺が?」
「うん。俺には言えない事もあるかもしれないだろ?お願い。」
「わかった。副隊長室?」
「うん。頼んだ。」
「了解。……ウィル、シルク、俺、ちょっとサムのところに行ってくる。もし時間までに戻らなかったら、先に行って。」
ウィルとシルクは何かふたりで話していたが、顔を上げて笑った。
「いいよ、わかった。」
「主は遅刻しないでよ~。」
何だろう…このふたり、仲良しなのか!?
何か意外と言うか……。うん。
美人同士がクスクス内緒話して笑ってると、何か…何だろう…キラキラしてる?
何か見たらいけないものみたいだ……。
俺は妙な気分になりそうだったので、急いで副隊長室に向かった。
「サム、気分はどう?」
「あ~、あんまり良くない。」
「ちょっと見せて?」
俺が副隊長室に行くと、サムはぐったりソファーにもたれていた。
「横にならなくて平気?」
「横になると余計気持ち悪いし、立てなくなりそう。」
結構、辛そうだな。
俺はサムの前にしゃがんで、両手を握った。
全体の流れが乱れてる。
まだ小さいけど存在する新しい気に、サムの流れが上手く繋がれてないんだ。
そこに流したいけど上手くいかなくて、全体的に滞ってる感じだ。
「サム、ゆっくり息を吐いて?ゆっくり吸って?」
サムが呼吸を整える。
俺が演舞の気の流れを魔力に応用したのと同じことをサムにさせてみる。
元々、気の流れを行うものだから、こっちか正しいのかもしれないけど。
「そうそう。体の中の生命力って言うのかな?それをゆっくり水面に息を吹きかけて波紋を作るみたいな感じで、動かすイメージをしてみて?」
サムがゆっくり深く呼吸する。
体の中の気が動き始める。
「いい感じ。その波紋の上に、小さなヨットを置いて、ゆっくり息を吹きかけて、動かしてみて?強すぎたらヨットが沈んじゃうし、弱すぎたら動かないから、そっとゆっくり水面を走らせて?」
意識を一定の方向に流すよう意識させると、気がゆっくりと流れ始める。
いい感じだ。
「そのヨットはこれから世界を旅するんだ。大きな中にいるけど、ヨットはずっとその流れに沿って動くよ?ゆっくりゆっくり動かして?ゆっくりだけど少しずつ進んで世界を一周するんだ。」
そう言っていたら、サムがふふふと笑った。
「サム!」
「ごめん。何か楽しくなってきちゃって。」
「気分はどう?」
「何だろう?凄く楽になった。」
「うん。体の中の気が新しい流れに戸惑って滞ってたんだ。だから流れる事を意識的に考えて、ゆっくり流したんだよ。」
「凄いわね。」
「凄いって、サムが自分でやったんだよ。俺はイメージしやすくしただけ。また気分が悪くなったら、おまじないだと思ってやってみて。」
「ヨットが世界を旅するのね?」
「そうそう。どこにだって行ける。」
サムが俺の手を握り返して、笑った。
「ありがとう。サーク。」
「どういたしまして。」
「少し話を聞いてくれる?」
「もちろん。」
俺はサムの横に座り直した。
少しでも、気持ちが楽になればいいなと思った。
少し前まで来ていた制服が動きにくくて仕方がない。
襟元も絞まっていて苦しい。
どうやらギルが特注してくれた武道型制服に慣れすぎたようだ。
「何か変なの~。」
シルクがそう言った。
それが俺に対してなのか、自分の事かよくわからない。
お互い顔を見合わせて、ため息をついた。
「主、こういうの面倒臭い。」
「同感だ。」
今日、皆を集めて集会がある。
その場で俺の副隊長代理の就任の発表もある。
その為、俺はいつもの武道着みたいな制服ではなく、前着ていた騎士の皆と同じ制服を着て襷をかけていた。
帯剣は適当だとまずいからと、ライルさんが貸してくれた。
何か魔術附与された剣なんだけど、これ……。
多分、また、ご実家の書斎からこっそり借りてきたものだろうと予想ができた。
うん、何も言うまい。
シルクはと言うと、俺がいつも着ている武道着型の制服を着ている。
シルクの立場も俺が連れてきた従者で武術指導をしていると言う非常勤的なものから、正式な警護部隊所属武術指導員となった。
その為制服を着ることになり、抜け目なくギルが用意していた制服に初めて袖を通していた。
何か…体格の差から、同じ形の制服なのにシルクが着ると全然違う感じなのは何なのだろう……。
ベルトの差なのか?
シルクは特別仕様のベルトをつけていた。
そこに細身の三日月刀をクロスさせるように2本、帯剣している。
武道着に帯剣ってなかなか無い光景だ。
どうしたのか聞いたら、いつの間にかは知らないが、ギルと武器屋に言って特注で買ってもらったらしい。
一応値段も聞いたが、シルクはニマ~ッと悪い顔で笑ったので、それ以上は知らない。
怖くて聞けない。
あいつ、恋人に甘すぎないか!?
大丈夫か!?あいつ!?
「主、似合わないね~。帯剣とかおかしい~。」
「うるさいな~。」
逆にお前は武術士の癖に帯剣してんだろ。
まぁ演舞は何でも使うからな。
そんな事を言っていると、ドアがノックされた。
どうぞと言うと、ひょっこりライルさんが顔を出す。
「ウィル来たよ!」
その後ろから可愛い恋人が顔を出した。
ウィルは制服ではなく、一般的な騎馬式の正装をしていた。
ブローチをつけているので、目の色が紺じゃないからちょっと不思議だ。
前はこの色が当たり前だったのにな。
「良かった、服、間に合ったんだ?」
「ああ、昨日の晩、ジュナさんがわざわざ届けに来てくれたんだ。」
「凄くいいよ。似合ってる。」
ウィルの服はオーダーメイドだ。
馬術着と言っても、公の場に出られる正装の物だ。
ちょっと奮発して、新しい就職祝いにプレゼントした。
まぁオーダーメイドって言っても、町の庶民的な仕立て屋さんだけと。
急な話だったけど、ウィルはスタイルも良いから、仕立て屋のジュナさんが目をキラキラさせて張り切ってくれて、3日で仕上げてくれた。
ああ、可愛い……。
その体のラインにきっちりした服を今すぐ脱がせてしまいたい……。
「主……顔が邪な感じになってる……。」
シルクがそう言って俺の耳を引っ張った。
痛がる俺をライルさんとウィルが笑う。
「そう言えば、サムは?」
「ん~、ちょっと具合悪そうだから、ギリギリまで休ませようと思って。」
「つわり?」
「ん~、どちらかと言うとストレスかな~。やっぱり、どうしたって不安だよね……。」
「こればっかりはな~。」
「サーク、ちょっと話して来てよ?」
「俺が?」
「うん。俺には言えない事もあるかもしれないだろ?お願い。」
「わかった。副隊長室?」
「うん。頼んだ。」
「了解。……ウィル、シルク、俺、ちょっとサムのところに行ってくる。もし時間までに戻らなかったら、先に行って。」
ウィルとシルクは何かふたりで話していたが、顔を上げて笑った。
「いいよ、わかった。」
「主は遅刻しないでよ~。」
何だろう…このふたり、仲良しなのか!?
何か意外と言うか……。うん。
美人同士がクスクス内緒話して笑ってると、何か…何だろう…キラキラしてる?
何か見たらいけないものみたいだ……。
俺は妙な気分になりそうだったので、急いで副隊長室に向かった。
「サム、気分はどう?」
「あ~、あんまり良くない。」
「ちょっと見せて?」
俺が副隊長室に行くと、サムはぐったりソファーにもたれていた。
「横にならなくて平気?」
「横になると余計気持ち悪いし、立てなくなりそう。」
結構、辛そうだな。
俺はサムの前にしゃがんで、両手を握った。
全体の流れが乱れてる。
まだ小さいけど存在する新しい気に、サムの流れが上手く繋がれてないんだ。
そこに流したいけど上手くいかなくて、全体的に滞ってる感じだ。
「サム、ゆっくり息を吐いて?ゆっくり吸って?」
サムが呼吸を整える。
俺が演舞の気の流れを魔力に応用したのと同じことをサムにさせてみる。
元々、気の流れを行うものだから、こっちか正しいのかもしれないけど。
「そうそう。体の中の生命力って言うのかな?それをゆっくり水面に息を吹きかけて波紋を作るみたいな感じで、動かすイメージをしてみて?」
サムがゆっくり深く呼吸する。
体の中の気が動き始める。
「いい感じ。その波紋の上に、小さなヨットを置いて、ゆっくり息を吹きかけて、動かしてみて?強すぎたらヨットが沈んじゃうし、弱すぎたら動かないから、そっとゆっくり水面を走らせて?」
意識を一定の方向に流すよう意識させると、気がゆっくりと流れ始める。
いい感じだ。
「そのヨットはこれから世界を旅するんだ。大きな中にいるけど、ヨットはずっとその流れに沿って動くよ?ゆっくりゆっくり動かして?ゆっくりだけど少しずつ進んで世界を一周するんだ。」
そう言っていたら、サムがふふふと笑った。
「サム!」
「ごめん。何か楽しくなってきちゃって。」
「気分はどう?」
「何だろう?凄く楽になった。」
「うん。体の中の気が新しい流れに戸惑って滞ってたんだ。だから流れる事を意識的に考えて、ゆっくり流したんだよ。」
「凄いわね。」
「凄いって、サムが自分でやったんだよ。俺はイメージしやすくしただけ。また気分が悪くなったら、おまじないだと思ってやってみて。」
「ヨットが世界を旅するのね?」
「そうそう。どこにだって行ける。」
サムが俺の手を握り返して、笑った。
「ありがとう。サーク。」
「どういたしまして。」
「少し話を聞いてくれる?」
「もちろん。」
俺はサムの横に座り直した。
少しでも、気持ちが楽になればいいなと思った。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる