欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第六章「副隊長編」

それぞれの門出

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「何か、動きにくい……。」

少し前まで来ていた制服が動きにくくて仕方がない。
襟元も絞まっていて苦しい。
どうやらギルが特注してくれた武道型制服に慣れすぎたようだ。

「何か変なの~。」

シルクがそう言った。
それが俺に対してなのか、自分の事かよくわからない。
お互い顔を見合わせて、ため息をついた。

「主、こういうの面倒臭い。」

「同感だ。」

今日、皆を集めて集会がある。
その場で俺の副隊長代理の就任の発表もある。
その為、俺はいつもの武道着みたいな制服ではなく、前着ていた騎士の皆と同じ制服を着て襷をかけていた。
帯剣は適当だとまずいからと、ライルさんが貸してくれた。
何か魔術附与された剣なんだけど、これ……。
多分、また、ご実家の書斎からこっそり借りてきたものだろうと予想ができた。
うん、何も言うまい。

シルクはと言うと、俺がいつも着ている武道着型の制服を着ている。
シルクの立場も俺が連れてきた従者で武術指導をしていると言う非常勤的なものから、正式な警護部隊所属武術指導員となった。
その為制服を着ることになり、抜け目なくギルが用意していた制服に初めて袖を通していた。

何か…体格の差から、同じ形の制服なのにシルクが着ると全然違う感じなのは何なのだろう……。

ベルトの差なのか?
シルクは特別仕様のベルトをつけていた。
そこに細身の三日月刀をクロスさせるように2本、帯剣している。
武道着に帯剣ってなかなか無い光景だ。

どうしたのか聞いたら、いつの間にかは知らないが、ギルと武器屋に言って特注で買ってもらったらしい。
一応値段も聞いたが、シルクはニマ~ッと悪い顔で笑ったので、それ以上は知らない。
怖くて聞けない。

あいつ、恋人に甘すぎないか!?
大丈夫か!?あいつ!?

「主、似合わないね~。帯剣とかおかしい~。」

「うるさいな~。」

逆にお前は武術士の癖に帯剣してんだろ。
まぁ演舞は何でも使うからな。
そんな事を言っていると、ドアがノックされた。
どうぞと言うと、ひょっこりライルさんが顔を出す。

「ウィル来たよ!」

その後ろから可愛い恋人が顔を出した。
ウィルは制服ではなく、一般的な騎馬式の正装をしていた。
ブローチをつけているので、目の色が紺じゃないからちょっと不思議だ。
前はこの色が当たり前だったのにな。

「良かった、服、間に合ったんだ?」

「ああ、昨日の晩、ジュナさんがわざわざ届けに来てくれたんだ。」

「凄くいいよ。似合ってる。」

ウィルの服はオーダーメイドだ。
馬術着と言っても、公の場に出られる正装の物だ。
ちょっと奮発して、新しい就職祝いにプレゼントした。
まぁオーダーメイドって言っても、町の庶民的な仕立て屋さんだけと。
急な話だったけど、ウィルはスタイルも良いから、仕立て屋のジュナさんが目をキラキラさせて張り切ってくれて、3日で仕上げてくれた。
ああ、可愛い……。
その体のラインにきっちりした服を今すぐ脱がせてしまいたい……。

「主……顔が邪な感じになってる……。」

シルクがそう言って俺の耳を引っ張った。
痛がる俺をライルさんとウィルが笑う。

「そう言えば、サムは?」

「ん~、ちょっと具合悪そうだから、ギリギリまで休ませようと思って。」

「つわり?」

「ん~、どちらかと言うとストレスかな~。やっぱり、どうしたって不安だよね……。」

「こればっかりはな~。」

「サーク、ちょっと話して来てよ?」

「俺が?」

「うん。俺には言えない事もあるかもしれないだろ?お願い。」

「わかった。副隊長室?」

「うん。頼んだ。」

「了解。……ウィル、シルク、俺、ちょっとサムのところに行ってくる。もし時間までに戻らなかったら、先に行って。」

ウィルとシルクは何かふたりで話していたが、顔を上げて笑った。

「いいよ、わかった。」

「主は遅刻しないでよ~。」

何だろう…このふたり、仲良しなのか!?
何か意外と言うか……。うん。
美人同士がクスクス内緒話して笑ってると、何か…何だろう…キラキラしてる?
何か見たらいけないものみたいだ……。
俺は妙な気分になりそうだったので、急いで副隊長室に向かった。











「サム、気分はどう?」

「あ~、あんまり良くない。」

「ちょっと見せて?」

俺が副隊長室に行くと、サムはぐったりソファーにもたれていた。

「横にならなくて平気?」

「横になると余計気持ち悪いし、立てなくなりそう。」

結構、辛そうだな。
俺はサムの前にしゃがんで、両手を握った。
全体の流れが乱れてる。
まだ小さいけど存在する新しい気に、サムの流れが上手く繋がれてないんだ。
そこに流したいけど上手くいかなくて、全体的に滞ってる感じだ。

「サム、ゆっくり息を吐いて?ゆっくり吸って?」

サムが呼吸を整える。
俺が演舞の気の流れを魔力に応用したのと同じことをサムにさせてみる。
元々、気の流れを行うものだから、こっちか正しいのかもしれないけど。

「そうそう。体の中の生命力って言うのかな?それをゆっくり水面に息を吹きかけて波紋を作るみたいな感じで、動かすイメージをしてみて?」

サムがゆっくり深く呼吸する。
体の中の気が動き始める。

「いい感じ。その波紋の上に、小さなヨットを置いて、ゆっくり息を吹きかけて、動かしてみて?強すぎたらヨットが沈んじゃうし、弱すぎたら動かないから、そっとゆっくり水面を走らせて?」

意識を一定の方向に流すよう意識させると、気がゆっくりと流れ始める。
いい感じだ。

「そのヨットはこれから世界を旅するんだ。大きな中にいるけど、ヨットはずっとその流れに沿って動くよ?ゆっくりゆっくり動かして?ゆっくりだけど少しずつ進んで世界を一周するんだ。」

そう言っていたら、サムがふふふと笑った。

「サム!」

「ごめん。何か楽しくなってきちゃって。」

「気分はどう?」

「何だろう?凄く楽になった。」

「うん。体の中の気が新しい流れに戸惑って滞ってたんだ。だから流れる事を意識的に考えて、ゆっくり流したんだよ。」

「凄いわね。」

「凄いって、サムが自分でやったんだよ。俺はイメージしやすくしただけ。また気分が悪くなったら、おまじないだと思ってやってみて。」

「ヨットが世界を旅するのね?」

「そうそう。どこにだって行ける。」

サムが俺の手を握り返して、笑った。

「ありがとう。サーク。」

「どういたしまして。」

「少し話を聞いてくれる?」

「もちろん。」

俺はサムの横に座り直した。
少しでも、気持ちが楽になればいいなと思った。
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