欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第六章「副隊長編」

死にたい奴からかかってこい

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全体を集めての集会とあって、皆、何事だろうと言う顔をしている。
俺がいつもと違う制服なのも目を引くようだ。

「サーク、面白い顔になってるぞ?」

隣にいたウィルが顔を向けないまま言った。
そう言うウィルさんは落ち着いてますね。
なんか本当、何をさせても美形男子だよな、ウィルって。
エッチの時はあんなに乱れるのに。

「痛っ!!」

ウィルがいきなり背中を叩いた。
顔を向けてもそ知らぬ顔だ。

「変な事、考えるな。」

「考えてない。」

嘘です。
考えてましたけど。

「主って結構、むっつりスケベなんだね~。ギルも澄ました顔でたまに凄い事考えてるけど。」

「は?そうなの?」

「可愛いよね~。」

反対隣のシルクがそんな事を言う。
当のギルは皆の前でお話し中だ。

「副隊長であるサマンサ・マニ・ウォーレンはこの程、ライル・ハウ・コーディと正式に婚約し結婚する運びとなった。退職はしないが、両家からの申し出により長期休暇に入る!その間、臨時的に副隊長代理を立てる事になった!副隊長代理はアズマ・サークを任命する!詳しい事は後程説明する!」

ギルが有無を言わせない調子で言い切った。
場は少しざわめいたが、鬼の前で堂々とお喋りできる人間はおらず、皆、顔を見合わせる程度だった。

「それから、2名、紹介する者がいる!シルク・イシュケ!前に!」

シルクは名前を呼ばれて、少し得意気にちらりと俺を見た。
そんなに俺が名前をつけた事が嬉しいのか?何かシルクも可愛いよな。
そしてシルクは早足でギルの横に立って一礼した。

「この程、功績が認められ、名字を得て我が隊の正式な武術指導者となった。同じ警護部隊員として今後もよろしく頼む。以上、下がれ。」

シルクが一礼して、パタパタと戻ってくる。
にやにや笑って俺を見た。

「ギル、怖~い♡」

全く怖がってないよな?お前……。
まぁいいけど。

「次!ウィリアム!前に!」

「はい!」

ウィルは返事をしてから、颯爽と前に出た。
礼を示す姿も凛々しい。
何やっても男前な俺の恋人。可愛い。

「ウィリアム・ロム・クラフト。顔を知っている者もいるかと思うが、元は騎馬隊員で優秀な成績を納めている!諸事情により騎馬隊を除隊したが、その技術は目を見張るものがある!よって本日より、我が隊で馬術戦闘訓練の指導員として来てもらう事になった!よろしく頼む!」

「よろしくお願いします!」

礼に服して戻ってくる。
その顔が笑っていた。

「何か緊張した。」

「そんな風には見えなかったよ。」

「次はサークだな?」

ウィルはくすっと笑った。
俺はほとほと嫌で、大きくため息をついた。
まあもう、当たって砕けろだけど。

「最後にアズマ・サーク!前に!」

「はい。」

一応、返事はしてみる。
ウィルのようにかっこよくは歩けないけど、とりあえず見劣りしないよう、早足で歩く。
ギルの横に立ち、礼を示す。

「この度、王宮会議に呼ばれ、その実績により准男爵の爵位を得、名をアズマ・サークに改めた。覚えておくように。」

さすがにこれにはざわめきが起きた。
王宮会議に呼ばれるのもデカイが、そこで爵位をもらってきたとなると、まぁ、何事だって感じだよな。
元々、平民で騎士の称号をもらってここに来たのだって騒がれる事なのに、さらに王宮会議に呼ばれて爵位をもらってきたとか、何者だよってなるよな。

「静かに!」

ギルの一声で、場が静まる。
お前、どんだけ恐れられてるんだよ?

「先程も話した通り、サマンサが長期休暇に入るに当たり、アズマ・サークを臨時的に副隊長代理に任命した。サーク!挨拶を!」

あ~あ、何で俺だけ挨拶があるの~。
こういうの苦手なのにな~。
まぁそうも言っていられないので、前に出た。

「只今、紹介にありました、アズマ・サークです。ウォーレン副隊長が長期休暇の間のみですが、副隊長代理の任を受けました。よろしくお願いいたします。私は魔術師で、また爵位を得ましたが正式な貴族でもありません。ウォーレン副隊長の休暇中のみの代理とはいえ、私がその任に着くことに反発を持たれる方もいるかと思います。そう言う方は!影でこそこそ言わず!はっきり私に言ってください!!日にちを決め、皆の前できっちり勝敗をつけましょう!!」

そう言うと、さすがのギルもぎょっとした顔で俺を見ていた。
俺はそれを無視して口早に続ける。

「私より自分の方が副隊長代理に相応しいと思う方!とりあえず私に副隊長代理を任せるのが嫌な方!どちらの勝負も受けます!!武術での勝負でしたら!私は一切、魔術は使いません!!剣での勝負の場合はシールドのみ使用させて頂きますが、身体強化含め、一切の魔術も使わないと約束します!!なので!!不満があったら!直接私に言ってください!!きちんと皆の前で!きっちりケリをつけましょう!!勝った方が副隊長代理とします!!ですので!文句のあるヤツは遠慮なくかかってこいっ!!……以上で私の挨拶は終わります。ご清聴ありがとうございました!!」

そして一礼する。
ギルの顔が固まっている。

「以上だ……。下がれ。」

「はい。」

礼に服して下がる。

シルクは口を押さえて爆笑していた。
拳を突き出すと、シルクがそれに拳を合わせる。
ウィルはくすっと笑っていた。
何も言わずにその横に並ぶ。

「さすが、未来の俺の夫だな。」

「惚れた?」

「うん。かなりクレイジーな挨拶だったよ。俺は好きだな。」

「それは良かった。」

ウィルがするりと俺の手に指を絡めた。
一瞬焦ったが、そう言えばもう隠さなくていい事を思い出して、俺も指を絡めた。

前で話すギルが、若干、やりにくそうに見えて、ちょっと可哀想だった。
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