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第六章「副隊長編」
夜の庭園
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二次会がお開きになったのは、月が登った頃だった。
かなり飲んだので、シルクとふたり、酔いざましに庭園を散策した。
花と緑が月明かりの下で静かに息づいていた。
「タッ…タッタタタッ……。」
シルクは何か音楽を口ずさみながら、跳ねるように歩く。
酔って気分が良いらしく、くるりと回る。
池のある開けたスペースに出ると、シルクはそのまま踊り出した。
ギルは黙ってそれを見つめる。
月光を浴び、夜の青さを身に纏って、シルクは踊る。
滑らかに動く指先が、妖艶で美しい。
「ギル~?」
「なんだ?」
「副隊長さん、綺麗だったね~?」
「そうだな。」
「ライルさんも幸せそうだったね~?」
「ああ。」
「来てる人もさ~皆、幸せそうだった~。」
「そうだな。」
「……結婚って、いいものなんだね~。砂漠だとさ~結婚て政略的な貢ぎ物みたいな扱いが多いからさ~、あんまり幸せなイメージなかったんだよね~。結婚式って~。」
躍りながらそう言うシルクを、ギルはただ見つめている。
その姿が池の水面に映る。
水馬が走り、波紋の中にそれが消えた。
幻のような儚い美しさがそこにあった。
シルクにとって、この異国の結婚式はとても斬新なものに見えたようだ。
この国でも、シルクの言うような結婚が無い訳ではない。
むしろ貴族の間では、表向きは違っても、意味合いはそれと同じな事が多い。
それでも、シルクが結婚が幸せなものだと思えたのは、良いことだったとギルは思った。
月の光がシルクが動くたびその髪を滑る。
異国の美しい踊り子が、夜の庭園で静かに舞う。
何故か夢のように消えてしまいそうで、不安が芽生えた。
「………なら、するか?俺と……?」
思わず口に出た。
シルクが不思議そうに動きを止める。
「え?」
「するか?俺と、結婚。」
それがプロポーズだと、言葉にしてから気がついた。
ギルは自分で自分の言葉に驚いていた。
そんな考えが己の中にあるとは気づいていなかったのだ。
がらにもなく、口許を押さえ赤面した。
そして何もこんな形で伝えるべきではなかったと後悔した。
だが、言ってしまったものは仕方がない。
ギルは意を決して、シルクの顔を見た。
「シルク……?」
月明かりの下、シルクは予想とはかけ離れた顔をしていた。
その顔にギルは唖然とする。
シルクは、とても深く傷ついた顔をしていた。
動きの止まった踊り子を、水面の影は波紋を広げて消してしまう。
苦しみに今にも泣きそうな酷い顔だった。
何故シルクがそんな顔をしたのか、ギルにはわからなかった。
お前とは結婚しないと言ったのではない。
結婚したいと言ったのだ。
なのに何故、こんな絶望的な顔をするのだろう?
「……しない。」
夜の闇の中に、静かにその言葉は響いた。
シルクはそれだけ言うと、俯いて足早にその場を離れようとした。
ギルはその後を追う。
シルクはそれが苛立たしかった。
「しない!ギルとは結婚しない!」
「わかった。だから行くな。」
「ついて来ないでっ!!」
「シルク。」
庭園の奥に消え去ろうとする恋人。
ここで逃したら、一生後悔する。
そんな気がした。
ギルは立ち去ろうとするシルクの腕を掴んだ。
「離してっ!!ついて来ないでっ!!」
「シルク。」
「やだ!ギルとは結婚しないっ!!」
「わかった…わかったから……。」
「離してよっ!!馬鹿ぁっ!!」
ギルは暴れるシルクを強く抱きしめた。
シルクがここまで拒絶する理由はわからない。
事を急ぎ過ぎたのか、別の理由か……。
だが、今、手放したら一生後悔するとわかっていた。
「結婚しないっ!!」
「わかった。結婚しなくていい……。だから行くな……。ここにいろ。頼む……。」
「ギルの馬鹿ぁ~っ!!」
「すまない……だから行くな。ここにいろ。」
自分にそんな感情があるとは、ギルは知らなかった。
シルクを手放したくない。
望まれなくてもいい。
どんな形でもいい。
側にいてくれればそれだけでいい。
「愛してるんだ……シルク……。」
口から言葉がこぼれ、それを自覚する。
ただ強く抱きしめた。
どこにもいかないで欲しい。
それを伝える為に。
シルクはやっと、その腕の中で静かになった。
「すまない……。今のは忘れてくれ……。結婚などしなくていい。これまで通りでいい……。いや、これまで通りも嫌なら、何もしなくていい……。だから行くな……。いかないでくれ……。」
すがるように、痛いほど強く抱き締められる。
シルクにはギルの本気が伝わっていた。
伝わっているからこそ、悲しくて苦しくて仕方がなかった。
何故ならそれは無理なのだ。
たとえお互いがそれを望もうと、最後には選べないのだ。
「………ずっとは無理だよ……。」
「どうしてだ?」
「俺は……主について行くから……。」
「シルク……。」
「ギルの事、愛してる……。ずっと一緒にいたい……。でも無理なんだ……。」
「………………。」
「俺は……ギルの隣で死ねない……。俺が死ぬのは、主の隣だ……。そう決めてる……。だから……。」
ギルにはシルクの言わんとしている事がわかった。
シルクが全てを誓ったのはサークなのだ。
その剣となり盾となり生きると誓った。
騎士であるギルにもその意味がはっきりわかっていた。
だから応えられない。
簡単に言ってしまった言葉は、恋人にとってとても重い言葉だった。
苦しんだ上、変えられない決意を持って、苦渋の答えを出したのだ。
「……すまない。軽々しく、お前を追い詰めるような事を言ってしまった……。」
「ごめん……ごめんね……ギル……。」
「いい。俺が悪かった。お前は間違っていない……。」
むしろシルクは誠実だとギルは思った。
誓いに対して、シルクは純真すぎたのかもしれない。
そして、自分に対しても嘘がつけなかった。
そんな風に思った。
シルクはギルの腕を離れ、目を真っ直ぐに見つめた。
揺るがない強さがそこにあった。
「ギル……ごめん。俺はどちらかしか選べない時が来たら、主を選ぶ。」
「知ってる。」
「最期まで、一緒にはいられない。」
「わかってる。」
シルクはその事に気づきたくはなかったのだ。
いずれ出さなければならない答えでも、まだ、恋人と夢を見ていたかった。
でもたった一言が、現実を指し示した。
そして自分の中の答えを知ってしまった。
だからもう、その人を自分の勝手で振り回すことは出来ないのだ。
手を、離す時なのかもしれない……。
だがその手は温かすぎた。
離すことなど考えられないほどに。
これはわがままだ。
わかっている。
それでも言わずにはおれなかった。
「………それでも……その時まで……俺の側に居てくれる…?俺、ギルを選ばないのに…それでも側に居てくれる…?」
風が夜の庭園を揺らす。
真っ直ぐに見つめる先に、黒真珠のような綺麗な人がいる。
愛していると言ってくれたその人。
シルクの問いに、ギルは迷わなかった。
「………いる。お前の側に。」
「選ばないのに!?」
「ああ。」
「何で!?俺、ギルに酷いことするんだよ!?最期まで一緒にはいられないんだよ!?」
「それでも側にいる。」
「何で!?」
「……愛しているから。」
シルクの目から、後から後から涙が溢れ、流れ落ちた。
愛しい人にシルクは手を伸ばした。
その手を受け入れ、ギルはただ強く抱きしめた。
水面に写ったその姿の上を水馬が滑る。
結婚なんてどうでもいいことだ。
形などただの形式だ。
そんなものでシルクを縛ろうとしてしまった事が情けない。
自分達には、自分達の形がある。
それで十分だ。
ギルはそう思った。
泣きじゃくるシルクの顎に手を添え口付ける。
シルクは泣きながらそれに応え、ひとつになった。
全てを分け合ってしまえばいいのだ。
たとえ最期は別の道を歩く事になったとしても。
長い間、溶け合い、そしてお互いの目を見つめる。
「シルク……今夜はうちに来ないか……?」
「え……?」
「寮に帰っても、ひとりだろう?」
「まぁ…多分……。」
「うちに来い。」
「……いいの?」
「ああ。」
シルクにとって、ギルの家に行くのは初めてだった。
彼氏の家だ、行きたいに決まっている。
確か、城下町にある別荘(?)に住んでいると聞いていた。
ギルは貴族だから領土があって、王宮に来るときに使う別荘に常に住んでいると。
それってつまり、お屋敷だよな?
行って大丈夫なものなのか??
シルクの頭は混乱した。
頭をぐるぐるさせるシルクをギルが笑った。
「そんなに気にする必要はない。ただの家だ。」
「う~ん。多分、違う。」
「なら、連れ去るまでだ。」
ギルはそう言ってシルクを抱き上げた。
自分より視線が高くなったシルクを見つめる。
抱き上げられたシルクはおかしそうに笑っていた。
かなり飲んだので、シルクとふたり、酔いざましに庭園を散策した。
花と緑が月明かりの下で静かに息づいていた。
「タッ…タッタタタッ……。」
シルクは何か音楽を口ずさみながら、跳ねるように歩く。
酔って気分が良いらしく、くるりと回る。
池のある開けたスペースに出ると、シルクはそのまま踊り出した。
ギルは黙ってそれを見つめる。
月光を浴び、夜の青さを身に纏って、シルクは踊る。
滑らかに動く指先が、妖艶で美しい。
「ギル~?」
「なんだ?」
「副隊長さん、綺麗だったね~?」
「そうだな。」
「ライルさんも幸せそうだったね~?」
「ああ。」
「来てる人もさ~皆、幸せそうだった~。」
「そうだな。」
「……結婚って、いいものなんだね~。砂漠だとさ~結婚て政略的な貢ぎ物みたいな扱いが多いからさ~、あんまり幸せなイメージなかったんだよね~。結婚式って~。」
躍りながらそう言うシルクを、ギルはただ見つめている。
その姿が池の水面に映る。
水馬が走り、波紋の中にそれが消えた。
幻のような儚い美しさがそこにあった。
シルクにとって、この異国の結婚式はとても斬新なものに見えたようだ。
この国でも、シルクの言うような結婚が無い訳ではない。
むしろ貴族の間では、表向きは違っても、意味合いはそれと同じな事が多い。
それでも、シルクが結婚が幸せなものだと思えたのは、良いことだったとギルは思った。
月の光がシルクが動くたびその髪を滑る。
異国の美しい踊り子が、夜の庭園で静かに舞う。
何故か夢のように消えてしまいそうで、不安が芽生えた。
「………なら、するか?俺と……?」
思わず口に出た。
シルクが不思議そうに動きを止める。
「え?」
「するか?俺と、結婚。」
それがプロポーズだと、言葉にしてから気がついた。
ギルは自分で自分の言葉に驚いていた。
そんな考えが己の中にあるとは気づいていなかったのだ。
がらにもなく、口許を押さえ赤面した。
そして何もこんな形で伝えるべきではなかったと後悔した。
だが、言ってしまったものは仕方がない。
ギルは意を決して、シルクの顔を見た。
「シルク……?」
月明かりの下、シルクは予想とはかけ離れた顔をしていた。
その顔にギルは唖然とする。
シルクは、とても深く傷ついた顔をしていた。
動きの止まった踊り子を、水面の影は波紋を広げて消してしまう。
苦しみに今にも泣きそうな酷い顔だった。
何故シルクがそんな顔をしたのか、ギルにはわからなかった。
お前とは結婚しないと言ったのではない。
結婚したいと言ったのだ。
なのに何故、こんな絶望的な顔をするのだろう?
「……しない。」
夜の闇の中に、静かにその言葉は響いた。
シルクはそれだけ言うと、俯いて足早にその場を離れようとした。
ギルはその後を追う。
シルクはそれが苛立たしかった。
「しない!ギルとは結婚しない!」
「わかった。だから行くな。」
「ついて来ないでっ!!」
「シルク。」
庭園の奥に消え去ろうとする恋人。
ここで逃したら、一生後悔する。
そんな気がした。
ギルは立ち去ろうとするシルクの腕を掴んだ。
「離してっ!!ついて来ないでっ!!」
「シルク。」
「やだ!ギルとは結婚しないっ!!」
「わかった…わかったから……。」
「離してよっ!!馬鹿ぁっ!!」
ギルは暴れるシルクを強く抱きしめた。
シルクがここまで拒絶する理由はわからない。
事を急ぎ過ぎたのか、別の理由か……。
だが、今、手放したら一生後悔するとわかっていた。
「結婚しないっ!!」
「わかった。結婚しなくていい……。だから行くな……。ここにいろ。頼む……。」
「ギルの馬鹿ぁ~っ!!」
「すまない……だから行くな。ここにいろ。」
自分にそんな感情があるとは、ギルは知らなかった。
シルクを手放したくない。
望まれなくてもいい。
どんな形でもいい。
側にいてくれればそれだけでいい。
「愛してるんだ……シルク……。」
口から言葉がこぼれ、それを自覚する。
ただ強く抱きしめた。
どこにもいかないで欲しい。
それを伝える為に。
シルクはやっと、その腕の中で静かになった。
「すまない……。今のは忘れてくれ……。結婚などしなくていい。これまで通りでいい……。いや、これまで通りも嫌なら、何もしなくていい……。だから行くな……。いかないでくれ……。」
すがるように、痛いほど強く抱き締められる。
シルクにはギルの本気が伝わっていた。
伝わっているからこそ、悲しくて苦しくて仕方がなかった。
何故ならそれは無理なのだ。
たとえお互いがそれを望もうと、最後には選べないのだ。
「………ずっとは無理だよ……。」
「どうしてだ?」
「俺は……主について行くから……。」
「シルク……。」
「ギルの事、愛してる……。ずっと一緒にいたい……。でも無理なんだ……。」
「………………。」
「俺は……ギルの隣で死ねない……。俺が死ぬのは、主の隣だ……。そう決めてる……。だから……。」
ギルにはシルクの言わんとしている事がわかった。
シルクが全てを誓ったのはサークなのだ。
その剣となり盾となり生きると誓った。
騎士であるギルにもその意味がはっきりわかっていた。
だから応えられない。
簡単に言ってしまった言葉は、恋人にとってとても重い言葉だった。
苦しんだ上、変えられない決意を持って、苦渋の答えを出したのだ。
「……すまない。軽々しく、お前を追い詰めるような事を言ってしまった……。」
「ごめん……ごめんね……ギル……。」
「いい。俺が悪かった。お前は間違っていない……。」
むしろシルクは誠実だとギルは思った。
誓いに対して、シルクは純真すぎたのかもしれない。
そして、自分に対しても嘘がつけなかった。
そんな風に思った。
シルクはギルの腕を離れ、目を真っ直ぐに見つめた。
揺るがない強さがそこにあった。
「ギル……ごめん。俺はどちらかしか選べない時が来たら、主を選ぶ。」
「知ってる。」
「最期まで、一緒にはいられない。」
「わかってる。」
シルクはその事に気づきたくはなかったのだ。
いずれ出さなければならない答えでも、まだ、恋人と夢を見ていたかった。
でもたった一言が、現実を指し示した。
そして自分の中の答えを知ってしまった。
だからもう、その人を自分の勝手で振り回すことは出来ないのだ。
手を、離す時なのかもしれない……。
だがその手は温かすぎた。
離すことなど考えられないほどに。
これはわがままだ。
わかっている。
それでも言わずにはおれなかった。
「………それでも……その時まで……俺の側に居てくれる…?俺、ギルを選ばないのに…それでも側に居てくれる…?」
風が夜の庭園を揺らす。
真っ直ぐに見つめる先に、黒真珠のような綺麗な人がいる。
愛していると言ってくれたその人。
シルクの問いに、ギルは迷わなかった。
「………いる。お前の側に。」
「選ばないのに!?」
「ああ。」
「何で!?俺、ギルに酷いことするんだよ!?最期まで一緒にはいられないんだよ!?」
「それでも側にいる。」
「何で!?」
「……愛しているから。」
シルクの目から、後から後から涙が溢れ、流れ落ちた。
愛しい人にシルクは手を伸ばした。
その手を受け入れ、ギルはただ強く抱きしめた。
水面に写ったその姿の上を水馬が滑る。
結婚なんてどうでもいいことだ。
形などただの形式だ。
そんなものでシルクを縛ろうとしてしまった事が情けない。
自分達には、自分達の形がある。
それで十分だ。
ギルはそう思った。
泣きじゃくるシルクの顎に手を添え口付ける。
シルクは泣きながらそれに応え、ひとつになった。
全てを分け合ってしまえばいいのだ。
たとえ最期は別の道を歩く事になったとしても。
長い間、溶け合い、そしてお互いの目を見つめる。
「シルク……今夜はうちに来ないか……?」
「え……?」
「寮に帰っても、ひとりだろう?」
「まぁ…多分……。」
「うちに来い。」
「……いいの?」
「ああ。」
シルクにとって、ギルの家に行くのは初めてだった。
彼氏の家だ、行きたいに決まっている。
確か、城下町にある別荘(?)に住んでいると聞いていた。
ギルは貴族だから領土があって、王宮に来るときに使う別荘に常に住んでいると。
それってつまり、お屋敷だよな?
行って大丈夫なものなのか??
シルクの頭は混乱した。
頭をぐるぐるさせるシルクをギルが笑った。
「そんなに気にする必要はない。ただの家だ。」
「う~ん。多分、違う。」
「なら、連れ去るまでだ。」
ギルはそう言ってシルクを抱き上げた。
自分より視線が高くなったシルクを見つめる。
抱き上げられたシルクはおかしそうに笑っていた。
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