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第八章②「敵地潜入」
生贄
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俺はシルクと途中で別れ、カジノの地下に向かった。
出れる場所はいくつかある。
さて、どこから出るか……。
俺は考えた末、舞台下の奈落に繋がる場所に上がる事にした。
もしかしたら、下にも何が痕跡があるかもしれないしな。
俺が地下を抜け、奈落のさらに下の装置部分に入り込むと、上部で人が追いかけっこでもするような足音が響いていた。
こちらに向かってきているようだったので、俺はその場でじっとしていた。
「待ちなさいっ!待てって言ってるでしょっ?!」
足音が重なり、そしてまた離れていく。
音からして男と女のようだった。
言い合いながら男が逃げ、女が追っている。
なんだろう?痴情のもつれかな??
しかしよく声が聞き取れるところまで近づいた時、そうではないとわかった。
「話が違うじゃないっ!どうしてこうなるのよっ!」
ヒステリックに叫ぶその声は、オーソリティー、歌姫モリカ・ベルギルだった。
「何とか言いなさいっ!!」
「知らないっ!!俺は照明の件は知らないっ!!あんたがやったんだろう!!」
「違うわっ!!あんな舞台を潰す様な事!私がする訳ないじゃないっ!!」
「とにかく俺は知らないっ!!俺は言われた通り!奈落を開ける準備をしてたんだっ!!もういいだろっ!!これ以上、関わらないでくれっ!!」
「だったらお願いよっ!!私はあんたにセリの蓋を開けてって頼んだだけだってっ!!ヒギンズに話してよっ!!」
「そんな事!できる訳ないだろうっ!!」
ほほ~う。
揉める声を聞きながら、俺は一人で納得していた。
流れはわからないが、おそらくモリカはあの事故の主犯として内々に槍玉に上がっているようだ。
ヒギンズは事故と主張していたが、事が事だけに、内々には処分者を出さざる負えないのだろう。
それにしたって、オーソリティーを処分するとは大きく出たな??
だが、あの事故の黒幕はモリカではない。
モリカは本人が言っている通り、セリを開けて奈落に落とそうとしただけなのだろう。
全く馬鹿だな~セリが開いた程度じゃシルクは落ちないし、落ちてもわざとだし、無傷で面白がって登ってくるぞ??
まるで演出の一つみたいな顔して。
「お願いよっ!!このままじゃ私はっ!!」
モリカは必死に男に縋っている。
だが男だって今の職と生活を失いたくはないだろう。
聞いてる感じ、モリカを愛していてやったって感じじゃない。
大方、カネを握らせてって所だろう。
だったら、自分を犠牲にしてまでモリカを守ろうとはしない。
「くどいんだよっ!あんたっ!!どうせ俺が何をしたって無駄さっ!あんた、俺以外にも声をかけてただろう?!そして今までの事だってある!誰もあんたの言う事なんか信じないし、力になろうとも思わないさっ!!」
男がそう言った瞬間、パシンッという乾いた音が響いた。
おそらくモリカが男をひっぱたいたのだろう。
「ケッ!お高く止まってられるのも!今のうちだけだぜ?!モリカさんよ?!あんたはオーソリティーを降ろされた!!今まであんたにおべっか使ってた奴らも離れていくだろうよっ!!今までさんざん、他人を引きずり降ろしてきた報いを受けるんだなっ!!」
男はそう吐き捨てると、足早に去って行った。
モリカはまだそこにいるようだ。
荒い呼吸がだんだんと啜り泣くように変わっていく。
ふ~ん。
ひとまずオーソリティーを下ろされたか……。
まぁ、妥当な処置だろうな。
そして今までの行いの反動で、後は誰かが手をかけなくても転がり落ちて行くって寸法だな。
俺は黙ってそのままそこでじっとしていた。
やがて啜り泣く音は弱まり、幽霊のような微かな呟きが響いた。
「……大佐……大佐に会わなくちゃ……。」
そう、ブツブツ呟きながら、重い足音が去って行った。
何も聞こえなくなるのを待ってから、俺は奈落下から這い出す。
そしてため息をついた。
「なるほどね~。黒幕はそっちですか……。手に入れられない華なら折ってしまえって事かな~?あ~、執念深いじじいって怖いわ~。」
なんか地下を抜けて来てみたら、思い切り真相を暴露されてしまった。
わざわざ羽虫を飛ばして見張らせておく事もなかったな、なんて思った。
シルクはサークに教えられた通りに進み、カジノのVIP用裏口から潜入した。
したのだが、そのまま歩き回る訳にも行かない。
じっと身を潜めながら動くのも性に合わなかったので、シルクはカジノの外壁にへばりついた。
VIP用の裏口や表口は建物の中のような外のような作りになっていて、そこに馬車などを入れて内部で乗り降りする事で人目や危険から守られる様な作りになっている。
シルクはそこの外壁にくっついていた。
豪華な作りに見えるよう飾りが多いので、そこまで大変な事でもない。
のんきに夜空に浮かぶ月を眺めた。
「う~ん。満月を過ぎて肥大した赤い月~。ちょっと不気味だね~。」
そんな事を呟いてすこし笑った。
ふと、視界の端に何か動くものを見た。
スッと真顔に戻り、音も建てずに壁を移動していく。
そしてそれが誰かわかった瞬間、思わずげっ!と声が出そうになった。
その外でもあり建物内でもある場所の影にパーマーがいた。
ニマニマと上機嫌にふんぞり返り、笑っている。
何を話しているのだろう?
シルクは慎重に近づいた。
「ハハハッ!俺は運がいいっ!!そうなれば、全て欲しいものが俺のものになる!!」
何が手に入るのかは知らないが、じじいの癖に強欲だな、歳を取ったら謙虚に生きるべきだって俺の死んだばあちゃん言ってたぞ?!
ギラギラと欲望を剥き出しにしているパーマーを見て、シルクはげんなりした。
よく見れば、近くに誰かいる。
建物の影に入っていてよく見えない。
だが、パーマーよりは若い男で、そしてVIPルームにいるような雰囲気の男ではなかった。
「いいか?!この事はよそには漏らすな!お前と俺でやるんだっ!!」
「はい、大佐。」
「ハハハッ!大佐はお前もだろう!」
パーマーはやたら上機嫌だ。
話の感じから、どうやら相手は現役軍人で現大佐のようだ。
なんで軍人がこんな所でパーマーと話しているのだろう??
よくわからないなと思っていたシルクは、パーマーの発した次の言葉に、自分の血が沸騰する事になるとは思っていなかった。
パーマーは言った。
「まさか、王太子がお探しの竜の血を持つ者がこんなに近くにいるとはっ!!」
ざわっと全身の毛が逆立つ。
シルクは瞬時にそれが何を意味しているのか理解した。
糞じじい……っ!!
激しい怒りが全身を巡り、すぐさまその喉元を掻き切ってやりたかった。
いや、すっぱり殺してやるなど手ぬるい。
どうかいっそ殺して欲しいと懇願するまで苦しめてやらねばとすら思う。
「しかし……本当にその者なのですか?大佐?どちらにも会われた事はないのですよね?」
「何、違っていたら違っていたでいいではないか?他にも違う人間を連れてきた奴はいるのだろう?」
「それはそうですが……もし違っていたら、ホテル、もしくはカジノに損害を与えただけになります。そうなった場合……。」
「何、国のためにした事だ。大丈夫に決まっている!それに……違っていても、あの華は手に入る……それだけでも十分だ……。」
シルクは自分が冷たく、冷たく冷えていくのがわかった。
ほんの少しの情も持たないほど、冷え切っているのだ。
この糞じじいは、己の主だけでなく、自分も欲望のまま手に入れようと企んでいる。
本当に、言い様がないほど、冷え切っていた。
いい、殺してしまえ。
そんな風に思った。
自分の手がナイフの柄に手を掛けたのを意識していた。
「何者だっ!!」
突然、パーマーの連れが声を上げる。
その為シルクは次の行動に出なかった。
息を殺し、その場を見守る。
ふらりと建物の影から、何者かが現れた。
現大佐の方が腰の剣に手をかける。
しかしパーマーはそれを見て、ニタリとした気色の悪い笑みを浮かべた。
「……いい、オークレー。お前はもう行け。大丈夫、あれは死にかけのゾンビさ。」
パーマーの言葉に、オークレーと呼ばれた現大佐はスッと姿を消した。
パーマーはニヤニヤと笑いながら、どことなく足元のおぼつかない相手と向き合う。
「これはこれは、オーソリティーの歌姫。このような所に何をしに??ああ、失礼。もうオーソリティーではなかったな、モリカ?」
ニヤッと笑ってパーマーは言った。
その言葉に、シルクはびっくりした。
そして現れた人物をよく見た。
確かにモリカだった。
しかし、言われなければわからないほど、風貌が変わっていた。
何があったんだ?!
もうオーソリティーではない?!
ガツンと頭を殴られたような気分になりながら、シルクは状況を伺った。
「あんたね……パーマー……あんたがハメたのね……っ!!」
全く違う人のように、モリカは怒りに震えながら言った。
パーマーはニタニタ笑うばかりだ。
「何の事かな?モリカ?そもそもお前は俺に礼を言うべきであって、文句を言われる覚えはないぞ?!」
「ふざけないでっ!!」
「ふざけてなどおらん。俺は寝話の約束通り、お前に金をやったじゃないか??何をそんなに怒っている??美人が見る影もないぞ?!」
パーマーはそう言って下品にゲラゲラ笑った。
モリカの目は血走りパーマーに飛びかかる。
しかしたかだかステージの歌姫が、引退したとはいえ元軍人に敵う訳もない。
いとも簡単に、取り押さえられてしまう。
「離せ……離しなさいよっ!!」
「ありがとな、モリカ。お前がいつも通りの行動をしてくれたお陰で助かったよ。」
「糞じじいっ!!」
「何故か計画通りには行かなかったが、それはお前もだろう?残念だったな?利用しようとして、逆に利用されるとは思わなかったろう?ん??」
「殺してやるっ!!」
モリカが騒いだ事で、カジノの警備が駆けつけ、取り押さえられて連れて行かれる。
それをパーマーは楽しそうに見ていた。
そして自分は悠々と、建物に入っていく。
シルクはそれを黙って見ていた。
グッと握っていた拳は皮膚に爪が食い込み、血が滲んでいる。
シルク以外誰もいなくなったそこには、虚無に近い静寂が落ちた。
「………主に……主に会わなきゃ……。」
シルクは自分を落ち着けるよう、そう呟いた。
出れる場所はいくつかある。
さて、どこから出るか……。
俺は考えた末、舞台下の奈落に繋がる場所に上がる事にした。
もしかしたら、下にも何が痕跡があるかもしれないしな。
俺が地下を抜け、奈落のさらに下の装置部分に入り込むと、上部で人が追いかけっこでもするような足音が響いていた。
こちらに向かってきているようだったので、俺はその場でじっとしていた。
「待ちなさいっ!待てって言ってるでしょっ?!」
足音が重なり、そしてまた離れていく。
音からして男と女のようだった。
言い合いながら男が逃げ、女が追っている。
なんだろう?痴情のもつれかな??
しかしよく声が聞き取れるところまで近づいた時、そうではないとわかった。
「話が違うじゃないっ!どうしてこうなるのよっ!」
ヒステリックに叫ぶその声は、オーソリティー、歌姫モリカ・ベルギルだった。
「何とか言いなさいっ!!」
「知らないっ!!俺は照明の件は知らないっ!!あんたがやったんだろう!!」
「違うわっ!!あんな舞台を潰す様な事!私がする訳ないじゃないっ!!」
「とにかく俺は知らないっ!!俺は言われた通り!奈落を開ける準備をしてたんだっ!!もういいだろっ!!これ以上、関わらないでくれっ!!」
「だったらお願いよっ!!私はあんたにセリの蓋を開けてって頼んだだけだってっ!!ヒギンズに話してよっ!!」
「そんな事!できる訳ないだろうっ!!」
ほほ~う。
揉める声を聞きながら、俺は一人で納得していた。
流れはわからないが、おそらくモリカはあの事故の主犯として内々に槍玉に上がっているようだ。
ヒギンズは事故と主張していたが、事が事だけに、内々には処分者を出さざる負えないのだろう。
それにしたって、オーソリティーを処分するとは大きく出たな??
だが、あの事故の黒幕はモリカではない。
モリカは本人が言っている通り、セリを開けて奈落に落とそうとしただけなのだろう。
全く馬鹿だな~セリが開いた程度じゃシルクは落ちないし、落ちてもわざとだし、無傷で面白がって登ってくるぞ??
まるで演出の一つみたいな顔して。
「お願いよっ!!このままじゃ私はっ!!」
モリカは必死に男に縋っている。
だが男だって今の職と生活を失いたくはないだろう。
聞いてる感じ、モリカを愛していてやったって感じじゃない。
大方、カネを握らせてって所だろう。
だったら、自分を犠牲にしてまでモリカを守ろうとはしない。
「くどいんだよっ!あんたっ!!どうせ俺が何をしたって無駄さっ!あんた、俺以外にも声をかけてただろう?!そして今までの事だってある!誰もあんたの言う事なんか信じないし、力になろうとも思わないさっ!!」
男がそう言った瞬間、パシンッという乾いた音が響いた。
おそらくモリカが男をひっぱたいたのだろう。
「ケッ!お高く止まってられるのも!今のうちだけだぜ?!モリカさんよ?!あんたはオーソリティーを降ろされた!!今まであんたにおべっか使ってた奴らも離れていくだろうよっ!!今までさんざん、他人を引きずり降ろしてきた報いを受けるんだなっ!!」
男はそう吐き捨てると、足早に去って行った。
モリカはまだそこにいるようだ。
荒い呼吸がだんだんと啜り泣くように変わっていく。
ふ~ん。
ひとまずオーソリティーを下ろされたか……。
まぁ、妥当な処置だろうな。
そして今までの行いの反動で、後は誰かが手をかけなくても転がり落ちて行くって寸法だな。
俺は黙ってそのままそこでじっとしていた。
やがて啜り泣く音は弱まり、幽霊のような微かな呟きが響いた。
「……大佐……大佐に会わなくちゃ……。」
そう、ブツブツ呟きながら、重い足音が去って行った。
何も聞こえなくなるのを待ってから、俺は奈落下から這い出す。
そしてため息をついた。
「なるほどね~。黒幕はそっちですか……。手に入れられない華なら折ってしまえって事かな~?あ~、執念深いじじいって怖いわ~。」
なんか地下を抜けて来てみたら、思い切り真相を暴露されてしまった。
わざわざ羽虫を飛ばして見張らせておく事もなかったな、なんて思った。
シルクはサークに教えられた通りに進み、カジノのVIP用裏口から潜入した。
したのだが、そのまま歩き回る訳にも行かない。
じっと身を潜めながら動くのも性に合わなかったので、シルクはカジノの外壁にへばりついた。
VIP用の裏口や表口は建物の中のような外のような作りになっていて、そこに馬車などを入れて内部で乗り降りする事で人目や危険から守られる様な作りになっている。
シルクはそこの外壁にくっついていた。
豪華な作りに見えるよう飾りが多いので、そこまで大変な事でもない。
のんきに夜空に浮かぶ月を眺めた。
「う~ん。満月を過ぎて肥大した赤い月~。ちょっと不気味だね~。」
そんな事を呟いてすこし笑った。
ふと、視界の端に何か動くものを見た。
スッと真顔に戻り、音も建てずに壁を移動していく。
そしてそれが誰かわかった瞬間、思わずげっ!と声が出そうになった。
その外でもあり建物内でもある場所の影にパーマーがいた。
ニマニマと上機嫌にふんぞり返り、笑っている。
何を話しているのだろう?
シルクは慎重に近づいた。
「ハハハッ!俺は運がいいっ!!そうなれば、全て欲しいものが俺のものになる!!」
何が手に入るのかは知らないが、じじいの癖に強欲だな、歳を取ったら謙虚に生きるべきだって俺の死んだばあちゃん言ってたぞ?!
ギラギラと欲望を剥き出しにしているパーマーを見て、シルクはげんなりした。
よく見れば、近くに誰かいる。
建物の影に入っていてよく見えない。
だが、パーマーよりは若い男で、そしてVIPルームにいるような雰囲気の男ではなかった。
「いいか?!この事はよそには漏らすな!お前と俺でやるんだっ!!」
「はい、大佐。」
「ハハハッ!大佐はお前もだろう!」
パーマーはやたら上機嫌だ。
話の感じから、どうやら相手は現役軍人で現大佐のようだ。
なんで軍人がこんな所でパーマーと話しているのだろう??
よくわからないなと思っていたシルクは、パーマーの発した次の言葉に、自分の血が沸騰する事になるとは思っていなかった。
パーマーは言った。
「まさか、王太子がお探しの竜の血を持つ者がこんなに近くにいるとはっ!!」
ざわっと全身の毛が逆立つ。
シルクは瞬時にそれが何を意味しているのか理解した。
糞じじい……っ!!
激しい怒りが全身を巡り、すぐさまその喉元を掻き切ってやりたかった。
いや、すっぱり殺してやるなど手ぬるい。
どうかいっそ殺して欲しいと懇願するまで苦しめてやらねばとすら思う。
「しかし……本当にその者なのですか?大佐?どちらにも会われた事はないのですよね?」
「何、違っていたら違っていたでいいではないか?他にも違う人間を連れてきた奴はいるのだろう?」
「それはそうですが……もし違っていたら、ホテル、もしくはカジノに損害を与えただけになります。そうなった場合……。」
「何、国のためにした事だ。大丈夫に決まっている!それに……違っていても、あの華は手に入る……それだけでも十分だ……。」
シルクは自分が冷たく、冷たく冷えていくのがわかった。
ほんの少しの情も持たないほど、冷え切っているのだ。
この糞じじいは、己の主だけでなく、自分も欲望のまま手に入れようと企んでいる。
本当に、言い様がないほど、冷え切っていた。
いい、殺してしまえ。
そんな風に思った。
自分の手がナイフの柄に手を掛けたのを意識していた。
「何者だっ!!」
突然、パーマーの連れが声を上げる。
その為シルクは次の行動に出なかった。
息を殺し、その場を見守る。
ふらりと建物の影から、何者かが現れた。
現大佐の方が腰の剣に手をかける。
しかしパーマーはそれを見て、ニタリとした気色の悪い笑みを浮かべた。
「……いい、オークレー。お前はもう行け。大丈夫、あれは死にかけのゾンビさ。」
パーマーの言葉に、オークレーと呼ばれた現大佐はスッと姿を消した。
パーマーはニヤニヤと笑いながら、どことなく足元のおぼつかない相手と向き合う。
「これはこれは、オーソリティーの歌姫。このような所に何をしに??ああ、失礼。もうオーソリティーではなかったな、モリカ?」
ニヤッと笑ってパーマーは言った。
その言葉に、シルクはびっくりした。
そして現れた人物をよく見た。
確かにモリカだった。
しかし、言われなければわからないほど、風貌が変わっていた。
何があったんだ?!
もうオーソリティーではない?!
ガツンと頭を殴られたような気分になりながら、シルクは状況を伺った。
「あんたね……パーマー……あんたがハメたのね……っ!!」
全く違う人のように、モリカは怒りに震えながら言った。
パーマーはニタニタ笑うばかりだ。
「何の事かな?モリカ?そもそもお前は俺に礼を言うべきであって、文句を言われる覚えはないぞ?!」
「ふざけないでっ!!」
「ふざけてなどおらん。俺は寝話の約束通り、お前に金をやったじゃないか??何をそんなに怒っている??美人が見る影もないぞ?!」
パーマーはそう言って下品にゲラゲラ笑った。
モリカの目は血走りパーマーに飛びかかる。
しかしたかだかステージの歌姫が、引退したとはいえ元軍人に敵う訳もない。
いとも簡単に、取り押さえられてしまう。
「離せ……離しなさいよっ!!」
「ありがとな、モリカ。お前がいつも通りの行動をしてくれたお陰で助かったよ。」
「糞じじいっ!!」
「何故か計画通りには行かなかったが、それはお前もだろう?残念だったな?利用しようとして、逆に利用されるとは思わなかったろう?ん??」
「殺してやるっ!!」
モリカが騒いだ事で、カジノの警備が駆けつけ、取り押さえられて連れて行かれる。
それをパーマーは楽しそうに見ていた。
そして自分は悠々と、建物に入っていく。
シルクはそれを黙って見ていた。
グッと握っていた拳は皮膚に爪が食い込み、血が滲んでいる。
シルク以外誰もいなくなったそこには、虚無に近い静寂が落ちた。
「………主に……主に会わなきゃ……。」
シルクは自分を落ち着けるよう、そう呟いた。
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