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本編

三角にはなりたくない

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放課後、俺は迷っていた。
あんな言い方するんじゃなかった。
これでは何だか行きにくい。
今日は塾もないってのに……。

「あ~も~何な訳~!?」

机に机に突っ伏す。
て言うか、そこまで気にしなくても良くないか!?
友達とはちょっと口論になったって、次の日普通に顔を合わせて、何でもなく話すじゃないか!?
何も気にせず、行けばいいんだよ!!

「でもな~。」

また来るか聞いた霖の控えめな声。
わからないと言ったら、困ったように笑った。

「あ~~っ!!」

何を悩んでいるんだろう?俺は??
幽霊相手に……。

「だ、大丈夫…!?柘植くん……。」

「大丈夫じゃねぇ……。」

「悩み事?」

「まぁ……。」

「俺で良ければ聞くよ?」

「霖に話してもな~。……え!?霖!?」

俺はガバッと起き上がった。
まさかと思ったが霖だ!
俺の机の横に立って、顔を覗き込んでる。

「霖!?何やってんだよっ!!」

「ご、ごめん!!柘植くん来ないから、帰ったのかな~て、ちょっと教室見に来たら、突っ伏して何か唸ってて……。」

「いやいやいやっ!!何でここに!?出てきたら駄目だろっ!!」

「ごめん!!来るまではちゃんと意識して消えて来たから!!」

俺は慌てて周囲を見渡す。
幸い教室には誰もいなかった。
ほっと胸を撫で下ろすと同時に、さっきまで悩んでいた気持ちが消えていた。
やっぱり、会ってしまえば何て事ないんだな。

「霖。ごめんな?」

「え?何が??」

「昨日、何かイライラして、態度悪かったから……。」

「え?そうなの?わかんなかった!」

わかんなかったのかよ、それもムカつくな。
きょとんとした霖に俺はまたムスッとしてしまった。

「もしかして今もイラッとしてる?」

「してる。」

「そっか~。」

霖は何故か嬉しそうに笑った。
何なんだよ、それ、反則だろ!?

「何が嬉しいんだよ!?」

「え?だって柘植くんの事、まだよく知らないけど、これはイラッとした顔なんだな~ってわかったからさ~。」

「………だから、反則だから。それ。」

「反則??」

「何でもない。とにかくここにいたら、また誰かに見られるだろ!?化学室に戻れよ。俺も行くから。」

「あれ?塾は?」

「今日はない。」

「そっか。なら、先に行って待ってるね?」

「……うん。」

霖はそう言って消えた。
俺はまた、ばたんと机に突っ伏した。
何だよあれ!?本当、反則だろっ!?
何なんだよ、俺。
一喜一憂、幽霊に振り回されてないか!?
霖は幽霊だ。
梅雨時にしか見えない幽霊だ。
幽霊だから、ちょっと興味があるだけだ。

「あ~。何か変かも、俺。」

複雑な感情がよくわからない。
とは言え、行くと言ってしまったんだ。
俺は鞄を掴んで、化学室に向かった。








「教室でいじけてたんだって??」

化学準備室のドアをノックすると、キネセンが顔を出して、ニヤニヤ笑った。
俺はその言葉を無視する。

「化学室、ドア、開いてっから。帰る時、声かけろよ。」

キネセンはかったるそうに言うと、準備室のドアを閉めた。
何だよ、開いてんのかよ。
そしてお前はこっちにいるのかよ!?
なんとなく変な感じがしながら、化学室のドアを開ける。
いつもの奥まったところの実験台に、霖が座って待っていた。

「霖!お待たせ!」

「いいよ~。ちゃんと来てくれたんだし。」

そう言って霖はにっこり笑う。

天気は当然、雨。
しとしとと雨垂れが聞こえる。
薄暗い空の色とは違い、霖の笑顔は明るかった。










準備室の机でテスト問題の原案を作っていた玄人は、隣から響く笑い声に顔を上げた。
いいねぇ、青春だね~。
そんな事を思う。
多分言ったらまた、霖にオヤジくさいと言われるのだろう。
まぁ、事故みたいな感じだったが、年の近い友達が出来て、霖にも良かった事だろう。
柘植の方は、あれだな、うん。
やだやだ、甘酸っぱいものはオジサンには刺激が強すぎるっての。
そんな事を思いながら、デスクの缶から飴を取り出して口に入れた。
甘酸っぱい青春より、脳の栄養になるただ甘い飴の方がいい。

「また飴食べてる。」

ギクッとして後ろを振り向く。
いるとは思わなかった。

「……霖、何でこっちにいるんだ?柘植はどうした?帰ったのか?」

「まだいるよ?杵くんが来ないからどうしたのかなって思って……。」

はにかんだように笑って、霖は言った。
勘弁してくれ。
アオハルにオジサンを巻き込まないでくれよ。
もうそんなんに耐えられるほど、若くないんだから。

「テスト作ってっから、霖も入ってくるな。いいな?」

「俺はテスト受けないのに~。」

「柘植に教えるかもだろ!?いいからこっち来んな。わかったな?」

「は~い。」

しゅんとして霖は消えた。
玄人ははぁとため息をついた。
口の中の飴をがりっと噛む。

「……ちょっと懐きすぎだよな、あいつ。」

今まで他に喋る相手がいなかったのだから仕方がないが、霖は自分に依存しすぎるところがある。
まぁこれからは柘植がいるから大丈夫だろう。

「だといいんだが……。」

自分で自分に突っ込んで、玄人は面倒そうに大きく伸びをした。
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