あらたな世界

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春爛漫

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2120年、春になって、僕らは高校生になった。
幼馴染で気心の知れた一真(かずま)とあかり、さくらの3人と僕、新(あらた)は高校も同じだ。
6歳の頃から今までずっと一緒に過ごしてきた3人と学生生活最後の3年も過ごすことなる。
日本の人口は100万人になっていた。僕たちの高校も全校生徒は100人に満たない。わずか100年前はこの国にも1億人以上の人間が暮らしていたという。
僕たちの学校はビルの2階にある。全校生徒100人にとって広すぎる校舎だ。
1階は野球、サッカー、ラグビーなどのスポーツにも利用できる大きなイベントホールとそれよりだいぶ小さな劇場があって、コンビニ、カフェも併設されている。3階は学生寮と病院になっていて、屋上は、緑豊かな公園のように作られていた。桜や梅、かえでなどの灌木が自然に配置されていて小川さえ流れている。人工的に作られたと思えないこの場所で、僕たちは昼食をとったり休み時間を過ごすことになるだろう。透明のドームでおおわれたこの空間は浄化された空気で満たされていた。時折、さわやかな風さえ吹いて、プログラムされた空間であることを忘れてしまう。その上、昆虫だけでなく小鳥やリスがいて100年以上前の田園風景を切り取ったような空間になっている。
建物全体は四角い箱の様な形でデザイン的に優れているとは言えなかった。ただ、塗装は温度や湿度によって微妙に変化する。春は少し赤味を帯びたような色で夏になると熱を吸収しにくい白になり、気温の下がる冬には黒っぽいレンガ色になって見た目も温かそうになる。こうして建物の無味乾燥な外観の欠点は補われている。大人も出入りする空間で学ぶことに始めは少し緊張し、今は子供時代から少し卒業したような気がしている。

今日の入学式には父兄も来ることになっている。一真は父、あかりは母と祖母が来ていた。さくらは祖父母と執事の田中、僕は母と秘書の佐藤が来ている。さくらと僕は最期の入学式だから、父が来てくれるのではないかとひそかに期待していた。
期待が外れてさくらもやや寂しげな様子だった。
「新のお父様は鈴木グループの総裁ですもの、時間が取れなくても仕方ないわ。」
「さくらのご両親も忙しいのは同じだろう。」
「代々受け継いだものを管理しているだけ。それほど忙しいとは思えないわ。」
さくらは形の良い唇を尖らせ目を伏せた。
入学式は退屈なものだった。校長、来賓の祝辞これだけは何百年も前から同じらしい。式が終わるとそれぞれのクラスへ向かう。と言っても15人ずつ2クラスしかない。
一真とさくらは違うクラスだった。あかりは一真と同じクラスになりたかったらしい。一真とあかりが付き合っていることを僕はつい最近知ったばかりだった。さくらと同じクラスになった一真に僕は少し同情した。
さくらは黙っているとはかなげな雰囲気さえあって小柄で華奢な美少女だ。ただ自分の思い通りにならないとすぐかんしゃくを起こした。些細な一言で色白の顔がピンク色になって怒りだす。僕たちはさくらの機嫌を取るのに苦労した。その点あかりはおおらかで一緒にいても安心だった。女子にしては大柄で一真と並ぶとほとんど身長差がないようにさえ感じられる。小麦色の肌に黒髪のシュートカットが似合っていて、理知的な切れ長の目している。笑った時の整った口元が愛らしかった。ただ、昆虫が大好きでその話になるとあかりは夢中になった。さくらとあかりは意外にも気があったらしい。さくらの気性を受け入れる度量のある女の子はあかりぐらいだった。
一真は「あいつら、俺たちの交友関係まで把握してやがる。」といまいましそうに言った。
あいつらとは大人たちの事だ。確かに僕たちは細部まで把握され操られているような気になることがあった。思いおこすとある時から大人に対する不信感が芽生えそれは次第に大きくなっていた。けれど、子どもだった僕たちはどうすることも出来なかった
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