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新学期
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英語に数学、中学の時と違って授業の内容は急に難しくなって進行も早かった。美緒は部活に入ったことを少し後悔し始めていた。
同じクラスのユリがため息をつきながら、
「ほんと、朝練はきついよね。私、朝練の後、午後の授業は眠くなっちゃうの」
ユリは家も近くて小学校の頃からの友人だ。濃い栗色のショートカットが健康的な小麦色の肌に合っていた。どちらかといえば大柄で大きな瞳は少し目じりが上がっている。笑うと片えくぼができた。
妹がいて面倒見が良いユリは美緒にとって時には姉の様な存在だった。
――双子の姉妹ってこんな感じだろうか。
美緒の弟健太が亡くなったあの日もユリは駆けつけて黙って隣にいてくれた。健太のいなくなった空間を埋めるように寄り添ってくれたのがユリだ。
「部活、辞めよか」ユリが目くばせして笑った。
ようやく高校生活にも慣れて、今朝は七時から練習を始めた。約一時間の練習をすませ、ネットを片づけ終わった時だった。美緒はすぐ近くに岩井先輩を見つけた。朝日の中で見る岩井先輩は、やはり入学式の日の少年によく似ていて朝の光の中で髪もちょうどあの少年のように金色に輝いていた。
美緒は好奇心を押さえることができずに思わず駆け寄って声をかけた。
「先輩、弟とかいらっしゃいますか」
話しかけるなんていつもの自分らしくないと思ったが、後悔はしなかった。
「弟とかって」
驚く岩井に変わって
「兄さんがいたけど亡くなって、今は一人っ子」
隣にいた山口が答えた。
「亡くなった」と聞いて美緒は思わず、頭を下げた。
「あ、すみません」
――亡くなった兄弟を思い出させるなんて
美緒は後悔した。
亡くなった家族の事を思い出すのは辛いものだ。
美緒には三つ違いの弟がいた。生きていたらもう中学生だ。
亡くなった弟の事はいつも気になっていて六年経った今でも弟の笑顔や甘えてくる様子が目に浮かんだ。
「西原さん、何をあやまっているの」
その時、山口の声が聞こえた。
その言葉をさえぎるように岩井が慌てて言った。
「いいんだ、早く教室にもどろう」
悲しいことを思い出させたと美緒が後悔していることに岩井は気づいていた。
「本当にごめんなさい」
「美緒、授業に遅れるよ」
ユリの声がした。美緒はもう一度頭を下げ、急いでその場を立ち去った。
「西原さん」
呼び止める山口の声が背後で聞こえた。振り返ると、岩井が山口を制止している。当惑したような岩井の顔だけが美緒の記憶に残った。
お昼になって雨が降り出した。美緒たちはいつも中庭や屋上でお弁当を食べることにしている。今日のようにたくさんの生徒たちのいるざわざわした教室で食べるお弁当はなんとなくいつもより味気なかった。
「美緒のお弁当,今日も美味しそうだね。」
美緒の祖母は料理が好きだった。時には二人でキャラ弁に挑戦したりと美緒も一緒に弁当を作ることもある。今日は伝統的な家庭料理といった感じでおかずも落ち着いた取り合わせだった。
すりごまをまぶしたカジキの照り焼きに出し巻き卵、にんじんのきんぴら、粉チーズをかけたブロッコリーのおかか和えだ。チーズの好きなユリに美緒はブロッコリーをおすそ分けした。
「おいしい。美緒、いいなあ」
「そうそう、今朝はどうしたの」
急に真顔になって問いかけるユリに美緒は入学式見た少年の話をした。
「その人、そんなに岩井先輩に似ていたの。」
美緒は小さくうなずいた。次の瞬間、ユリの唐突な言葉が聞こえてきた。
「岩井先輩のお兄さん、一年くらい前事故で亡くなったらしいの」
「駅に向かう坂道の途中で急に飛び出して事故にあったらしいわ。あんなところで事故に あうなんて自殺かもってうわさもあったくらい」
「自殺?」
「そう、でもね、特に自殺するような事もなかったし。うわさはすぐおさまったの。だけど、今でも何故あんなところで事故にあったのか今でも不思議に思われてるみたいよ」
事故の現場はちょうど初めて美緒が少年を見た場所だった。学校から駅までの長い坂道はひっきりなしに車が走っている。ただ、歩道と車道は柵で区切られていて安全が保たれている。岩井の兄はちょうど途切れた柵と柵の間から飛び出したらしい。あんなところに飛び出せば事故にあうのは当然だったから自殺じゃないかとうわさされたのだ。ただ、テニス部のエースで成績も良好、快活な彼は自殺する動機が見当たらなかった。
事故の話を聞いて美緒はあの日の事を思い出した。そして、兄弟を亡くしてまだ1年程しかたっていない岩井先輩がそのころの自分と重なって涙がこぼれた。
それに気づいたユリはぽつりと言った。
「ごめんね。思い出させるようなこと言って」
同じクラスのユリがため息をつきながら、
「ほんと、朝練はきついよね。私、朝練の後、午後の授業は眠くなっちゃうの」
ユリは家も近くて小学校の頃からの友人だ。濃い栗色のショートカットが健康的な小麦色の肌に合っていた。どちらかといえば大柄で大きな瞳は少し目じりが上がっている。笑うと片えくぼができた。
妹がいて面倒見が良いユリは美緒にとって時には姉の様な存在だった。
――双子の姉妹ってこんな感じだろうか。
美緒の弟健太が亡くなったあの日もユリは駆けつけて黙って隣にいてくれた。健太のいなくなった空間を埋めるように寄り添ってくれたのがユリだ。
「部活、辞めよか」ユリが目くばせして笑った。
ようやく高校生活にも慣れて、今朝は七時から練習を始めた。約一時間の練習をすませ、ネットを片づけ終わった時だった。美緒はすぐ近くに岩井先輩を見つけた。朝日の中で見る岩井先輩は、やはり入学式の日の少年によく似ていて朝の光の中で髪もちょうどあの少年のように金色に輝いていた。
美緒は好奇心を押さえることができずに思わず駆け寄って声をかけた。
「先輩、弟とかいらっしゃいますか」
話しかけるなんていつもの自分らしくないと思ったが、後悔はしなかった。
「弟とかって」
驚く岩井に変わって
「兄さんがいたけど亡くなって、今は一人っ子」
隣にいた山口が答えた。
「亡くなった」と聞いて美緒は思わず、頭を下げた。
「あ、すみません」
――亡くなった兄弟を思い出させるなんて
美緒は後悔した。
亡くなった家族の事を思い出すのは辛いものだ。
美緒には三つ違いの弟がいた。生きていたらもう中学生だ。
亡くなった弟の事はいつも気になっていて六年経った今でも弟の笑顔や甘えてくる様子が目に浮かんだ。
「西原さん、何をあやまっているの」
その時、山口の声が聞こえた。
その言葉をさえぎるように岩井が慌てて言った。
「いいんだ、早く教室にもどろう」
悲しいことを思い出させたと美緒が後悔していることに岩井は気づいていた。
「本当にごめんなさい」
「美緒、授業に遅れるよ」
ユリの声がした。美緒はもう一度頭を下げ、急いでその場を立ち去った。
「西原さん」
呼び止める山口の声が背後で聞こえた。振り返ると、岩井が山口を制止している。当惑したような岩井の顔だけが美緒の記憶に残った。
お昼になって雨が降り出した。美緒たちはいつも中庭や屋上でお弁当を食べることにしている。今日のようにたくさんの生徒たちのいるざわざわした教室で食べるお弁当はなんとなくいつもより味気なかった。
「美緒のお弁当,今日も美味しそうだね。」
美緒の祖母は料理が好きだった。時には二人でキャラ弁に挑戦したりと美緒も一緒に弁当を作ることもある。今日は伝統的な家庭料理といった感じでおかずも落ち着いた取り合わせだった。
すりごまをまぶしたカジキの照り焼きに出し巻き卵、にんじんのきんぴら、粉チーズをかけたブロッコリーのおかか和えだ。チーズの好きなユリに美緒はブロッコリーをおすそ分けした。
「おいしい。美緒、いいなあ」
「そうそう、今朝はどうしたの」
急に真顔になって問いかけるユリに美緒は入学式見た少年の話をした。
「その人、そんなに岩井先輩に似ていたの。」
美緒は小さくうなずいた。次の瞬間、ユリの唐突な言葉が聞こえてきた。
「岩井先輩のお兄さん、一年くらい前事故で亡くなったらしいの」
「駅に向かう坂道の途中で急に飛び出して事故にあったらしいわ。あんなところで事故に あうなんて自殺かもってうわさもあったくらい」
「自殺?」
「そう、でもね、特に自殺するような事もなかったし。うわさはすぐおさまったの。だけど、今でも何故あんなところで事故にあったのか今でも不思議に思われてるみたいよ」
事故の現場はちょうど初めて美緒が少年を見た場所だった。学校から駅までの長い坂道はひっきりなしに車が走っている。ただ、歩道と車道は柵で区切られていて安全が保たれている。岩井の兄はちょうど途切れた柵と柵の間から飛び出したらしい。あんなところに飛び出せば事故にあうのは当然だったから自殺じゃないかとうわさされたのだ。ただ、テニス部のエースで成績も良好、快活な彼は自殺する動機が見当たらなかった。
事故の話を聞いて美緒はあの日の事を思い出した。そして、兄弟を亡くしてまだ1年程しかたっていない岩井先輩がそのころの自分と重なって涙がこぼれた。
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