《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから

ヴァンドール

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4話(お義姉様にばれてしまいました)

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 私は一人で食事を始めた。
 すると、しばらくして食堂の扉が再び開く音がした。

「失礼いたします」

 入ってきたのは執事のエリックさんだった。
 その後ろには、腕を組んだお義姉様の姿もある。どうしてお義姉様が?

「エリック。アナスタシアの前で、あなたに聞きたいことがあるの」

「何でございましょうか」

 エリックさんは一瞬だけ私の方を見て、すぐに視線を外した。嫌な予感がするのは気のせいかしら?

「この子、毎日のように教会だの何だのと出歩いているでしょう? 家のことは使用人任せ。弟の妻として、どう思う?」

「それは……」

 エリックさんは言葉が続かない。
 明らかに困っている。私は慌てて口を挟んだ。

「お義姉様、別に私はやましいことなどしていません」

 けれど、エリックさんがそれを遮り、はっきりと言ってしまった。

「奥様は、遊び歩いておられるわけではございません」

 お義姉様の眉が、ぴくりと動く。

「それはどういう意味かしら?」

「奥様は、教会に行き、写本と挿絵のお仕事をされております。そして、その対価としていただく礼金は、すべてこの家のために使われています」

 まずいわ。私は思わず立ち上がりそうになったが、言葉が出なかった。

「は? なんなの? どういうつもりかしら」

 お義姉様が、信じられないものを見るようにエリックさんを睨んだ。

「それはお金を稼いでいるということかしら?」

「はい。王宮からの手当てだけでは不足する分、使用人たちの給金、屋敷の維持費、社交に必要な出費、それらを奥様が補ってくださっています」

 エリックさんは私に向かい、一礼した。

「本来、旦那様がお背負いになるべき部分を、奥様は何も言わずに、この私に口止めまでして働かれています」

 食堂は、しんと静まりかえった。

 お義姉様は、しばらく何も言わなかった。
 それから、私の方をゆっくりと見た。

「あなた……」

「は、はい」

「それ、本当なの?」

 私は一瞬迷った。でも、ここまで来て誤魔化しはきかない。私は頷いた。

「はい。でも、内緒にしていただきたいんです。
だって、旦那様のプライドを傷つけたくありませんので……」

 お義姉様は、額に手を当てた。

「あなた、本当に、どうしようもないわね」

「す、すみません」

「謝るところじゃないでしょう!」

 声を荒げたあと、お義姉様は大きなため息をついた。

「弟はね、昔から不器用なのよ。いざとなれば実家を頼ればいいのに……きっとそんなこともできないと、だからこんなに働いているのかもしれないわ」

 そして、私をまっすぐ見る。

「でもそれを、あなたが一人で支えているなんて、私は知らなかった。きっとアランは自分の働きだけで、何とかなっていると思っているはずよ」

 エリックさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。

「奥様に口止めされていたので、旦那様に足りているのか聞かれる度に、大丈夫だと答えていました」

「あの子はあまりお金のことは分からないから、本当に自分の給料だけで足りていると信じているのでしょうね」

 お義姉様は私に向かって、怒り出した。

「自分だけ満足していればいいわけ? 全部一人で抱え込むのはやめなさい。それ、優しさじゃなくて、ただの自己犠牲よ」

 私は何も言えなかった。
 お義姉様はそれだけ言うと、食堂を出て行った。

 残された私は、胸の奥が少しだけ、ちくりと痛むのを感じながら、冷めかけたお料理をそっと口に運んだ。

 私は、ただ支えたいだけなのに。
 それが、そんなにおかしなことなのかしら。

「奥様、本当に申し訳ありませんでした。つい出過ぎた真似をしてしまいました」

「いいのよ。私も悪かったの。気にしないでちょうだい」
 
 エリックさんは頭を下げて出ていった。
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