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13話(夫の告白)
舞踏会のざわめきが少し落ち着いた頃。
王女殿下は、楽しげにアランに微笑みかけていた。
「先ほどは驚いたわね。あなたの奥方、随分と話題の方だったのね」
アランは、しばらく何も答えなかった。
彼の脳裏には、人々に囲まれながらも、毅然とした態度のアナスタシアの姿しかなかった。
暫くして、彼は決心したかのように口を開いた。
「殿下。私は妻を誤解していました。私たちはもう一度、きちんと話をしなければなりません」
「あら、それはどういう……」
「ですのでこれからは、今までのように殿下のお誘いにお応えすることはできません」
殿下の言葉を遮った。
空気が変わった。
王女殿下はじっと彼を見た。
「そう」
殿下はそれ以上は何も言わなかった。
アランは一礼し、黙ったまま去って行った。
ーーーー
その夜。
屋敷に戻ると、私は真っ直ぐにアナスタシアの部屋を訪れた。
扉の前で、ほんの一瞬だけ足が止まったが、
一度深呼吸をしてから意を決してノックをした。
「少し、話がしたい」
部屋に入ると、アナスタシアは驚きを隠しながら近くにある椅子を勧めてくれた。
それから暫く、沈黙が続いた。
それでも彼女は何も言わずに待っていてくれた。私は覚悟を決めて口を開いた。
「今までのこと、すべて、話す」
アナスタシアを見つめ、言葉を選びながら話し始めた。
「結婚してすぐの頃、同僚に言われたんだ。私の給料だけでは、今の生活は維持できるはずがないと」
アナスタシアは黙って聞いていた。
「私は金銭に無頓着だった。その時、初めて疑問に思ったんだ、本当にそうなのかと」
一瞬の沈黙が落ちた。
「ある日、たまたま早く帰宅したことがあった。その時、見てしまったんだ。君が、執事のエリックに金を渡すところを。そして聞いてしまった」
私は彼女から思わず顔を背けた。
「旦那様には内緒でと。旦那様のプライドを傷つけたくないからと。君が懸命にエリックに言っていたんだ」
静かな部屋に、また沈黙が落ちた。
「その日からエリックは、生活費は私の給料で足りていると言い続けた。嘘だと分かっていたが、問いただすことができなかった。真実を聞かされたところで、私にはどうすることもできないのだから」
自分の声が、震えているのがわかる。
「それが、ただ情けなくて、悔しかった。だから、とにかく出世しようと決めたんだ。朝から晩まで働き、王女殿下の呼び出しにもすべて応じた」
これこそが私が伝えたい言葉だった。
「出世して、もっと稼いで、君が働かなくてもいいようにしたかった。それが、私の本心なんだ」
部屋の空気が、明るくなったように感じた。
アナスタシアは、優しく微笑んでくれた。
「旦那様、私は、本当に好きで描いているのです。それどころかそれを許してくださっている旦那様に、ずっと感謝していました」
「それは、舞踏会場で聞いた。だからそれを聞き、本当に驚いたんだ」
「学ぶ時間をいただき、描く時間をいただき、私はとても贅沢な日々を過ごしていたのです。だからどうか、ご自分を責めないでください」
「しかし、ずいぶんと君を傷つけてしまった。卑屈になって、酷い態度ばかりとっていた。最低だな、私は」
「いいえ、もっと早く私自身が本当に心から好きでやっていることを伝えるべきでした。旦那様がこんなに苦しんでいたなんて……気づけなくてごめんなさい」
「君が謝る必要なんてないんだ。全てはこの私の不甲斐なさが招いたことだ。すまなかった」
「旦那様……」
静かな夜だった。
長くすれ違っていた二人の距離が、ほんの少しだけ近づいた夜でもあった。
王女殿下は、楽しげにアランに微笑みかけていた。
「先ほどは驚いたわね。あなたの奥方、随分と話題の方だったのね」
アランは、しばらく何も答えなかった。
彼の脳裏には、人々に囲まれながらも、毅然とした態度のアナスタシアの姿しかなかった。
暫くして、彼は決心したかのように口を開いた。
「殿下。私は妻を誤解していました。私たちはもう一度、きちんと話をしなければなりません」
「あら、それはどういう……」
「ですのでこれからは、今までのように殿下のお誘いにお応えすることはできません」
殿下の言葉を遮った。
空気が変わった。
王女殿下はじっと彼を見た。
「そう」
殿下はそれ以上は何も言わなかった。
アランは一礼し、黙ったまま去って行った。
ーーーー
その夜。
屋敷に戻ると、私は真っ直ぐにアナスタシアの部屋を訪れた。
扉の前で、ほんの一瞬だけ足が止まったが、
一度深呼吸をしてから意を決してノックをした。
「少し、話がしたい」
部屋に入ると、アナスタシアは驚きを隠しながら近くにある椅子を勧めてくれた。
それから暫く、沈黙が続いた。
それでも彼女は何も言わずに待っていてくれた。私は覚悟を決めて口を開いた。
「今までのこと、すべて、話す」
アナスタシアを見つめ、言葉を選びながら話し始めた。
「結婚してすぐの頃、同僚に言われたんだ。私の給料だけでは、今の生活は維持できるはずがないと」
アナスタシアは黙って聞いていた。
「私は金銭に無頓着だった。その時、初めて疑問に思ったんだ、本当にそうなのかと」
一瞬の沈黙が落ちた。
「ある日、たまたま早く帰宅したことがあった。その時、見てしまったんだ。君が、執事のエリックに金を渡すところを。そして聞いてしまった」
私は彼女から思わず顔を背けた。
「旦那様には内緒でと。旦那様のプライドを傷つけたくないからと。君が懸命にエリックに言っていたんだ」
静かな部屋に、また沈黙が落ちた。
「その日からエリックは、生活費は私の給料で足りていると言い続けた。嘘だと分かっていたが、問いただすことができなかった。真実を聞かされたところで、私にはどうすることもできないのだから」
自分の声が、震えているのがわかる。
「それが、ただ情けなくて、悔しかった。だから、とにかく出世しようと決めたんだ。朝から晩まで働き、王女殿下の呼び出しにもすべて応じた」
これこそが私が伝えたい言葉だった。
「出世して、もっと稼いで、君が働かなくてもいいようにしたかった。それが、私の本心なんだ」
部屋の空気が、明るくなったように感じた。
アナスタシアは、優しく微笑んでくれた。
「旦那様、私は、本当に好きで描いているのです。それどころかそれを許してくださっている旦那様に、ずっと感謝していました」
「それは、舞踏会場で聞いた。だからそれを聞き、本当に驚いたんだ」
「学ぶ時間をいただき、描く時間をいただき、私はとても贅沢な日々を過ごしていたのです。だからどうか、ご自分を責めないでください」
「しかし、ずいぶんと君を傷つけてしまった。卑屈になって、酷い態度ばかりとっていた。最低だな、私は」
「いいえ、もっと早く私自身が本当に心から好きでやっていることを伝えるべきでした。旦那様がこんなに苦しんでいたなんて……気づけなくてごめんなさい」
「君が謝る必要なんてないんだ。全てはこの私の不甲斐なさが招いたことだ。すまなかった」
「旦那様……」
静かな夜だった。
長くすれ違っていた二人の距離が、ほんの少しだけ近づいた夜でもあった。
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