《完結》財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり

ヴァンドール

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20話(遠ざかる距離)

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 あれ以来お兄様からは何の連絡もない。『それはそうよね。あんな酷い態度を取ってしまったのだから』

 それにお兄様は最後に『美優が気が向いたら連絡をしてくれ』と言っていたから、もしかしたら私が連絡するまでお兄様からは連絡をするつもりはないのかもしれないわ。

 だったら私は勇気を出してお兄様に会って謝ろうと思った。でもどんな顔をして会えばいいのかしら? それにお兄様の顔を見たらまた素直になれず酷い態度をとってしまいそうで気が重たい。そして会ってこれ以上惹かれていくのも怖かった。だって二人の関係性が変わるわけはないのだから。

 ただ、だからといってこのままでいいわけではない。やはり気持ちを隠してこの先も兄妹の関係を続けていかなければいけない。どこまで耐えられるか分からないけれど私はお兄様に連絡を取ると決めた。

 そして心を決めてLINEで『お兄様の都合がよい日にお食事でも行きませんか?』と送った。するとすぐに返信が来て、『では今夜はどうだ?』と返ってきたので『では六時に寮の前で待ってます』と送った。するとお兄様から『じゃあ、今夜楽しみにしている』と返信がきた。

ーーーー


『あーやっと美優からの連絡がきた』あれ以来、こちらからの連絡はずっと我慢をしていた。
 しつこいと思われたくなかったからだが、あまりにも長くて、もしかしたらこのまま連絡がこないのではないかと不安に思っていたところだったのでどれほど嬉しかったことか。

 今夜は久しぶりに美優の顔が見られると思うと居ても立っても居られない思いだった。
 我ながら最近の自分は以前の自分とはまるで別人だなと思ってしまった。 

 私はあの後、自分なりに考えた。今はまだ美優に自分の気持ちを伝えるのは早すぎるのではないのかと。
 焦らずとも来年からは美優は寮を出て私の住まいから大学に通うことになる。そうなればいくらでも伝える機会はある。ただ、もし伝えて美優が私の住まいを出て行くと言われたらと考えると臆病にはなるのだが。
 しかし、今日はあまり深くは考えず美優との食事を楽しもう。そう心に決めて美優を迎えに行くことにした。
 
 時間が来て寮の前まで車で行くと既に美優は一人で待っていてくれた。

「美優、久しぶりだな。元気そうで良かった」

「お兄様もお元気そうですね」
 
「今夜は美優の好きな料理の店を予約してあるんだ」

 そう言って、スマホでその店の雰囲気とメニューが載っている写真を見せた。

「私はこのようなお料理が好きだったんですね。だからお兄様はいつもこのようなお料理を選んで下さるのですね」 

 少し驚いた返事をされたが、表に出さないようにした。

「そうだな、もし口にあわなければ言ってくれ」
 
 それから店に向かいながら車の中で話しかけた。

「大学の方は楽しくやっているのか?」
 
「まあ、それなりにお友達もできましたので」

 つれない返事が返ってきた。そんな言葉に落ち込みながら店に着き、席に案内され、頼んでおいた食事が運ばれてきた。美優は食事を口にしたとたん笑顔を向けてくれた。

「美味しい。お兄様これ初めてです。本当に美味しいです」
 
「口にあって良かった。どんどん食べなさい」

 『元々美優はこのような料理が大好きだったのにな。初めてか……』と心の中で思いながら美優自身が好きな食べ物も忘れてしまっていることに驚いていた。それでもそれを隠すように話を変えた。

「そういえば美優、入学から一年したら寮を出て二年目からはそれぞれ外から通うことになる。だから来年からは私の所から通うことになるのだが、何か用意して欲しい物があれば言ってくれ」
 
「え、そうなのですか?」
 
「忘れてしまったのか? あ、ごめん」
 
「大丈夫です。きっと忘れてしまったのかもしれませんね」

 だったらと、私は説明を始めた。 

 新入生は、大学生活に慣れるため、友人を作るため、大学コミュニティに溶け込むために寮生活が義務付けられているが、二年目以降はキャンパス外のアパートや他の住居に移り、そこから通うことになると。

「だったらアパートを借りて一人暮らしでは駄目なのですか?」
 
「女性の一人暮らしは心配だ。私の住まいだったら世話をしてくれるマーサーもいるし部屋も空いている」
 
「それは既に決まっていることなのですか?」
 
「両親も私も初めからそのつもりだったが」
 
「ごめんなさいその件は少し考えさせてもらってもいいですか?」 
 
「分かった。美優の好きにするといい」

 私はつい、格好をつけてしまった。しかし心の中は落ち込んでいた。それでもそんな姿を見せないように振る舞った。

「美優、他にも食べたい物はないのか?」

 私は話を変えた。

ーーーー

 お兄様の話に内心驚いていた。
 大学二年目となるとそういうことになるのかと。何も知らなかった私は突然お兄様と二人で暮らすことになると告げられ動揺していた。  
 そしてそれを隠すためにまた可愛げのない態度を取ってしまった。
 私は自己嫌悪に陥ってしまい、その後は食事もろくに喉を通らなくなっていた。それなのにそんな私に相変わらずお兄様は優しい。

 その後はなんとなく気まずい雰囲気になってしまい、お兄様は私を寮まで送って下さった。 
 そして別れ際にはいつもの笑顔を向けてくれる。

「まだ大学生活は始まったばかりなんだ、今を楽しみなさい」

 そう言って、去って行かれた。
 今日こそはお兄様にこの前のことを素直に謝ろうと思ってきたのにまた何も言えなかった。
 私は心の中でお兄様に謝りながら『どうしたら素直になれるのかしら』と呟いていた。
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