《完結》財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり

ヴァンドール

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45話(分かり合えた心)

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 その後、わたくしはもやもやした気持ちを紛らすように仕事に没頭していた。
 それでも頭の中は常に『今ならまだ間に合うかもしれない』との言葉が巡っていた。

 そんなある日、王妃様から先触れが来た。それには、すぐに王宮に来て欲しいと書いてあった。

 早速王宮に出向くと、そこには王妃様と一緒に妹君でもある王女様もいらした。

「忙しいのによく来てくれたわ。実は妹のメアリーが先日の歓迎会で貴女が着ていたドレスと同じ様なドレスを、今度のお祝いの席で着たいと言うのでお願い出来ないかしら?」

 すると王女様が興味深そうに言った。

「先日のドレス、見たことのないデザインで、とても素敵なドレスだったわ」

 そして王妃様は笑顔を向けながら話される。

「今度のお祝いの席で着たらとても目立つし、素敵だと思うわよ」

 わたくしは頭の中で『お祝いの席? 何のお祝いの席かしら』と思ったが、聞くことは何だか怖くて出来なかった。

 そしてわたくしはその依頼を断ることなど出来るはずもなく、お受けした。だけど王女様の採寸をわたくしがすることは何故か躊躇われた。

「早急にこちらから採寸のためのスタッフを派遣させていただきます」

 そう言ってその日は、それで王宮を後にした。
 そうして帰るため、馬車乗り場に向かいながら心の中で『殿下が偶然、現れないかしら』と期待していた。
『そんなふうに思うということは……』
 そんな自分に苦笑しながら、そんな偶然があるわけもなくわたくしは帰路に就いた。


 その後、わたくしは子会社へと寄り、アレン・マーク氏の元に先触れを出し、今日の依頼内容と共に王宮へ王女様の採寸のためのスタッフを向かわせるよう指示を出した。
 そして、わたくしは頼まれたドレスのデザインに取り掛かった。しかし、王女様をイメージしたデザインを考えるのはとても複雑な思いで、中々思うようには進まず、こんなに時間がかかるのはわたくしにしては珍しかった。
 きっと心の中で作りたくない気持ちと葛藤していたせいだと、自分でも自覚していた。
 それでもやらない訳にもいかないので、なんとか仕上げることだけに専念して、自分が着たらとイメージをしながらなんとか仕上げた。

 その後、デザイン画をマーク氏の元に届けてもらい、わたくしはそれ以上関わることは避けてしまった。そして『お祝いの席とは何のお祝いなのか』とそのことがずっと頭の中を離れなかった。

 それから暫くして、侯爵邸に突然殿下が訪ねて来られた。
 なんの先触れもなかったのでかなり驚き、動揺したが、わたくしはそんな素振りは隠して対応をした。

「メアリー嬢のドレスはとてもよく似合っていた。王妃様も大変喜ばれていて、これをお礼にステーシア嬢にと預かってきた」

 そう言われ、プレゼントのような物を渡された。

 驚いたわたくしは、それを殿下に返そうとした。

「それなりの対価はいただいておりますので、これはいただけません」

「それほど大層な物ではない、王妃様のお気持ちだ、受け取ってくれないか」

 そういうことなら、お返しするのも失礼かと思った。

「それでは有り難く頂きます」

 そう言って受け取った。
 
 そしてわたくしは気になっていたことを殿下に尋ねてしまった。

「そういえばお祝いの席で着用すると伺っていましたが、何のお祝いだったのですか?」
 
「メアリー嬢の誕生祝いだよ」

 それを聞いたわたくしはとてもホッとした気持ちになり、思わず笑みが浮かんだ。

「何だ、そうだったのですか」

 その瞬間、わたくしは何にホッとしたのかしら? と自問自答した。そんなこと、とうに分かっているはずなのに。

 この時わたくしは自分の気持ちに観念した。そして突然殿下に話しかけた。

「わたくし自分の気持ちに答えが出ました」

 殿下は驚きを隠さない。
 
「それはどう答えが出たのだ?」
 
「まだ殿下のお気持ちは変わってはいませんか?」
 
「私はあの日からずっと君からの言葉を待ったままだ」
 
「わたくしやっと自分がどれだけ殿下のことが気になっているのか、今回の王女様によって実感しました」
 
 すると殿下は不思議そうにしている。

「メアリー嬢?」

「わたくし王女様のお祝いと聞かされた時にもしかしたら殿下との婚約の発表かもしれないと勝手に思い込むほどに殿下を意識してました」

 素直に白状した。するととても嬉しそうなお顔をなさった。

「それはつまり、私を一人の男として好きだと気づいた、ということだろうか」

「はい、間違いなくわたくしは殿下のことが好きなのだと自覚しました。」

 すると、殿下はわたくしの目の前に来て、そっとわたくしを抱きしめた。

「ありがとう、とても嬉しい。こんな幸せな気持ちは初めてだ」

 暫くそのままでいると突然扉が開いて、お兄様が入って来られた。
 わたくしたちはパッと離れた。

「すまない、まさか二人がここにいるとは知らずに」

 そう言ってから、少し寂しそうに言った。
 
「やはりそういうことか、薄々は感じていたが。
ここは男らしく諦めるよ」
 
 そして伯父様と伯母様も続いて入って来られた。

「やっと素直になれたようね」

「色々とご心配をおかけしましたが、お陰でこうして分かり合えました。ありがとうございます」
 
 殿下が伯父様たちにお礼を言う。
 伯父様は大きな声で叫んだ。

「めでたい、めでたい! 実にめでたい!」
 
「少しもめでたくなんかありませんよ」
 
「ジャン、これも経験だ。そのうちこれも役立つものだよ」
 
「こんな経験しなくてすむならしたくはありません」

 すると伯父様と伯母様はそれを笑いながら聞いていた。


 わたくしと殿下はその後、陛下と王妃様にご報告に上がった。そして、そこで驚くことを聞かされた。

 実は今回の王女様の登場は王妃様が仕組まれたことだと言う。王妃様は悪戯っぽく言う。

「だって二人とも見ていられなかったんですもの。これだけ鈍感な人間はそうそういないわ」

 そう言いながら、笑顔を向けてくださった。その隣で陛下も一緒に微笑んでいる。

「こればかりは周りが言うより本人が自覚しないと、どうにもなりませんもの」

「ステーシア嬢には随分と世話になったし、二人には幸せになって欲しかったからな」

 そんなおふたりのお言葉に、わたくしたちは顔を見合わせながら、ただ苦笑していた。

 それからは早いもので、二人の婚約は程なく発表された。

 そんな中、わたくしたちは毎日のように会って、結婚の準備に追われていたが、充実感も感じていた。
 人を好きになるとはこういうことなのかと幸せを感じながら、相手を思いやる気持ちを知った。
 今なら分かる、あの時に感じた心のときめきや心の痛み、これが恋なのだと。

 殿下はわたくしの仕事を気遣ってくださる。

「君が続けたいならいくらでも協力するよ」

 決してやめろとは言わなかった。わたくしは心の中で『流石、わたくしの好きになった方だわ』と嬉しく思った。

 こうしてわたくしたちは慌ただしさの中でも幸せに浸りながら日々を過ごしていた。

 殿下は前にも増して、わたくしを気遣い、優しくして下さった。そんな殿下をわたくしは愛おしく感じていた。
 恋とはこんなにも心がときめくものだと初めて知った。
 前の世界にいたならきっと今でも知ることなどなかった感情だと思えた。

『あーこれが本当の幸せというものね』

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