《完結》財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり

ヴァンドール

文字の大きさ
44 / 47

44話(本当の気持ち)

しおりを挟む
 殿下のお気持ちを伺ってから、わたくしは自分の気持ちはどうなのかずっと考えていた。

 あの告白から大分経つが、まだ答えを出せずにいる。

 確かに殿下のことを、好ましいと思う気持ちはあるけれど、これが恋だの愛だのと問われたら何に当たるのかは、まだ自分でもわからない。
 だからもう少し時間をかけるしかないとわかってはいるし、殿下もゆっくりでいいと仰ってくれた。
 しかし、何ぶん身分のあるお方だ、いつまでもお待たせは出来ない。それに殿下だっていつまでもお一人というわけにはいかないはずだ。
 だったらやはりここは辞退すべきではないかと結論付けた。

 わたくしは先触れを出して今、王宮に着き、殿下を待っている。
 するとすぐに殿下が駆けつけてくださり、わたくしは自分が出した結論を殿下に説明させてもらった。
 そんなわたくしに殿下は優しく微笑んだ。

「何も焦る必要はない、気長に待つから気にしなくていい」
 
「中途半端にどうなるか分からないのにお待たせするのは心苦しいので、どうかこのお話は無かったことにして下さい」

 わたくしは引かなかった。すると殿下は肩を落とされた。

「そのように気が重く感じているようなら、この話は一旦取り下げよう。しかし、君の気が変わったら、その時はもう一度会いに来て欲しい」

 わたくしは流石にそれ以上は何も言えなかった。

「分かりました」

 一言だけ返した。
 何だか殿下のお顔が寂しそうで気が引けた。でもこれは結果的には殿下の為だと自分に言い聞かせ、王宮を後にした。

 一月後、隣国の王女様が視察と両陛下へのご挨拶を兼ねてこの国にしばらく滞在されることになり、王宮で歓迎会が開かれることになった。

 王女様は王妃様の妹君なので、よって隣国の国王陛下の妹君でもあるお方だ。王妃様は三人兄妹で妹君と年は離れているが、大変仲がよろしいと聞いていた。兄君である隣国の国王陛下には以前、お会いしているが、妹君は今回、初めてお目にかかる。

 わたくしも伯父様、伯母様、そしてお兄様との参加となる。

 このところ仕事に少々根を詰め過ぎていたので、久しぶりにお洒落をして出掛けられることを楽しみにしていた。

 あれからアレン・マーク氏とは多少の仕事の関わりは持ちながらも、敢えて距離を取っていたが『今回のドレスの選択や前回お世話になった女性スタッフの力をお借りして完璧なドレスアップをしてみますか』と気合が入った。

 マーク氏は何かとわたくしに関わりを持ってこようとしたが、わたくしは極力彼との接触は避けた。
 彼が仕事のできる人間だということは認めていたが人間性についてはわたくしの直感が関わるなと言っていた。
 流石にあれだけ避けられては彼のプライドも許せなかったのか最近ではあまり絡んでこなくなって安心していた。
 ただ仕事上は使えそうなので切ることはしなかった。

《神様はひとりごとを呟いた。アレン・マーク、君が思っているよりも彼女は一枚も二枚も上手なのだよと。》

 当日はお兄様が張り切っていた。

「今回もエスコートは私がしよう」

 だけどわたくしは殿下が気にしていたマーク氏やお兄様とはあれ以来何となく距離をおくことにしていた。
 これはわたくしなりの殿下への配慮だった。 
 だからお兄様のお誘いは断ることにした。

「今回はエスコートは必要ありませんわ」

「どうせ四人での参加なのだから同じことではないか」

 お兄様は不服そうに仰ったが、わたくしは、はっきりと言うことにした。

「殿下に不快な思いをさせたくはありませんので」
 
「そこまで気を遣うということは、殿下のことが本当は好きなのではないのか?」

 そう言われ、わたくしは何故か返す言葉が見つからなかった。


 こうしていよいよ王女様の歓迎会、当日を迎えた。わたくしは女性スタッフのお陰で前回同様、完璧に仕上げてもらい王宮へと向かった。

 会場に入ると大勢の視線を浴びるのを感じた。わたくしは思った。
『今回の新作のドレスの売り上げも期待出来そうだわ』

 暫くすると王族の方々もお出ましになり、国王陛下のご挨拶が始まった。
 そして壇上には久しぶりに見る殿下のお姿があり、その隣には隣国の王女様であろうお方の姿も見受けられた。

 とても可愛らしい方で、殿下と楽しげにお話をされている光景を見て、何故かしらわたくしの胸がチクリと痛んだ。この感覚はいつだったかしら、前にも感じたことがあったわ。どんな場面だったのかしら? 考えを巡らすと、そうだ、やはりその時も何故か殿下が関わっていたことを思い出した。あの時は確かこの痛みとは少し違うが心の動揺というてんでは同じに感じた。
 この感覚の正体がわからぬまま、わたくしはまたもや深く考えることはしなかった。

 暫くしてから伯父様たちについて陛下の元にご挨拶を申し上げに向かうと、殿下が声をかけてくださった。

「ステーシア嬢、暫くだな。元気そうで安心したよ」

 わたくしも殿下にご挨拶申し上げた。

「恐れ入ります。殿下がお元気そうで、わたくしも安心いたしました」
 
「君には私が元気そうに見えるのかな?」
 
「どこかお悪いのですか?」
 
「相変わらず鈍感だな君は」

 と、なにやら失礼なことを言われた。

 すると王妃様が殿下に声をかけた。

「ウエスタント公爵、妹のメアリーとファーストダンスを踊って下さらないかしら」

 殿下は王妃様のお願いを断るはずもなく……

「ではメアリー嬢」

 と言って、王女様に手を差し伸べた。

 何故かその場に居づらく感じたわたくしは、そっとその場を離れた。

 二人は観衆の見守る中、優雅なダンスを披露した。
 わたくしはそんなお二人の姿を遠目で見ながら、また胸がチクリと痛むのを感じた。流石にここまで来ると、この胸の痛みの正体に殿下が関係していることは否定出来なかった。

 そして周囲の方たちはそんなお二人を見ながら囁いた。

「隣国の王女様は殿下の婚約者になられるのかしら?」
 
「本当にお似合いだわ」

 皆、口々に言っている。それを聞いていたわたくしの元にお兄様がやって来た。

「ステーシア、私と踊ってくれないか」

 わたくしは何となくその手を取った。そしてダンスを踊りながら、お兄様は心配そうに尋ねる。

「ステーシア、何か顔色が悪いぞ。大丈夫か」
 
「そんなことはありません」

 何故か強がって見せた。本当は落ち込んだ気持ちになっていたのに。 

 そしてふと殿下の方に視線を移すと、こちらを見ている殿下と目が合った。わたくしは無意識にその視線から逃れていた。

 王宮からの帰りの馬車の中で、伯父様に言われた。

「ステーシア、そろそろ自分の気持ちと向き合う時が来たんじゃないのかな?」

 わたくしはその言葉の意味を今なら理解出来る。
 するとお兄様が寂しそうにポツリと言う。

「やはりそういうことなのか」

 すると今度は伯母様に声をかけられた。

「貴女のその鈍感さはお父様ゆずりね。手遅れにならないうちに行動出来るわね、今の貴女なら」

 わたくしはこんな時なのに、心の中で呟いた。
『伯母様、わたくしはそのお父様を知りません。勿論、血の繋がりもありません』
 そして一人で苦笑していた。


 その夜、わたくしは珍しく寝つきが悪く、頭の中は殿下のことばかりを考えていた。
『まだ今なら間に合うのかしら』と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...