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12話
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アリーシャ視点
朝の光が、侯爵邸の白いカーテンを透かして差し込んでいた。
テーブルの上には、一通の封書が置かれていた。
アムール商会からの封書だった。それを見た瞬間、心の奥で何かが微かにざわめいた。
侍女のカンナが言う。
「奥様、今朝、リチャードさんの使いが直接お届けになりました。『侯爵様ではなく、夫人にお渡しを』と」
「そう、ありがとう」
「奥様、このところ雰囲気が随分と変わりましたね。何かありましたか?」
「そうね、初めは旦那様を少し懲らしめ、私たちの生活が脅かされなければいいと思い、社交界に参加したけれど、いざ参加してみて、段々と私の中に眠っていたものが目覚めたという感じかしら」
「そんなことが……でも私は今の奥様の方が好きです! 何か堂々してらしてとても格好いいです」
「カンナ、揶揄(からか)わないで、でもそう言ってもらえて嬉しいわ。私ね、今とっも充実してるのよ。これから必ず、今以上に変わって見せるわ、だからカンナ、見ていてね。
あなたのおかげでおしゃれをして社交界に飛び込めたのだから」
「そんな風に言われると照れちゃいますね。奥様、微力ながら応援させてください」
そう言ってカンナは下がって行った。そして
その後ろ姿がほんの少し幸せそうに見えた。
私は、扉が閉じられる音を確認してから、封書を開けた。
手紙の文面を読み進めると
(財団の件)(話し合いの場所)(侯爵邸ではなく)
一行ごとに、言葉の裏に潜む意味が浮かび上がる。
これは、ただの相談ではない。
私はそっと封書を畳み、お茶の香りを吸い込んだ。
だけど、騒つく心は収まらない。
(あの夜の彼は、私の変化を、見抜いていた)
舞踏会で交わした、あの短い視線。
あれは、言葉以上に確かな『約束』のようだった。
だけどあの旦那様の前で、私が再び彼と会うことは、許されるはずもない。
今の旦那様は私を飾り物として扱いながらも、他人の手が触れることを決して許さない。
それが愛情か、支配か。
今の私には、もうどうでもよかった。
私はまた、すぐにカンナを呼び、静かに告げた。
「午後、アムール商会へ馬車を。旦那様には、ロビンソン夫人のお茶会とお伝えして」
「かしこまりました、奥様」
そう言いながらカンナはニコリと笑った。そんな彼女に私も笑顔を返した。
その後はいつものようにカンナに支度を手伝ってもらった。
鏡に映る自分の姿を見つめる。
淡いグレーのドレスを纏い、真珠のイヤリングを選んだ。
控えめで、けれど一切の隙を見せないそんな女性の姿を作り上げてもらった。
鏡の中の私が、静かに囁いた。
『あなたは、もう侯爵夫人ではなく、《アリーシャという一人の女性》として歩むのよ』
馬車の車輪が石畳を踏みしめる音が、遠くから聞こえてくる。
私は封書をバッグに入れ、ゆっくりと立ち上がった。
『リチャード・アムール。貴方が描く理想がどんなものか、確かめましょう』
(そしてそれが、私自身の理想と同じなら)
その先の言葉を、胸の奥で飲み込む。
侯爵邸の扉が開かれる。
外の世界に一歩、踏み出した瞬間、背中に冷たい雨が落ちた。
(朝はあんなに晴れていたのに……)
それはまるで、過去の自分を断ち切るようなそんな冷たい雨だった。
朝の光が、侯爵邸の白いカーテンを透かして差し込んでいた。
テーブルの上には、一通の封書が置かれていた。
アムール商会からの封書だった。それを見た瞬間、心の奥で何かが微かにざわめいた。
侍女のカンナが言う。
「奥様、今朝、リチャードさんの使いが直接お届けになりました。『侯爵様ではなく、夫人にお渡しを』と」
「そう、ありがとう」
「奥様、このところ雰囲気が随分と変わりましたね。何かありましたか?」
「そうね、初めは旦那様を少し懲らしめ、私たちの生活が脅かされなければいいと思い、社交界に参加したけれど、いざ参加してみて、段々と私の中に眠っていたものが目覚めたという感じかしら」
「そんなことが……でも私は今の奥様の方が好きです! 何か堂々してらしてとても格好いいです」
「カンナ、揶揄(からか)わないで、でもそう言ってもらえて嬉しいわ。私ね、今とっも充実してるのよ。これから必ず、今以上に変わって見せるわ、だからカンナ、見ていてね。
あなたのおかげでおしゃれをして社交界に飛び込めたのだから」
「そんな風に言われると照れちゃいますね。奥様、微力ながら応援させてください」
そう言ってカンナは下がって行った。そして
その後ろ姿がほんの少し幸せそうに見えた。
私は、扉が閉じられる音を確認してから、封書を開けた。
手紙の文面を読み進めると
(財団の件)(話し合いの場所)(侯爵邸ではなく)
一行ごとに、言葉の裏に潜む意味が浮かび上がる。
これは、ただの相談ではない。
私はそっと封書を畳み、お茶の香りを吸い込んだ。
だけど、騒つく心は収まらない。
(あの夜の彼は、私の変化を、見抜いていた)
舞踏会で交わした、あの短い視線。
あれは、言葉以上に確かな『約束』のようだった。
だけどあの旦那様の前で、私が再び彼と会うことは、許されるはずもない。
今の旦那様は私を飾り物として扱いながらも、他人の手が触れることを決して許さない。
それが愛情か、支配か。
今の私には、もうどうでもよかった。
私はまた、すぐにカンナを呼び、静かに告げた。
「午後、アムール商会へ馬車を。旦那様には、ロビンソン夫人のお茶会とお伝えして」
「かしこまりました、奥様」
そう言いながらカンナはニコリと笑った。そんな彼女に私も笑顔を返した。
その後はいつものようにカンナに支度を手伝ってもらった。
鏡に映る自分の姿を見つめる。
淡いグレーのドレスを纏い、真珠のイヤリングを選んだ。
控えめで、けれど一切の隙を見せないそんな女性の姿を作り上げてもらった。
鏡の中の私が、静かに囁いた。
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『リチャード・アムール。貴方が描く理想がどんなものか、確かめましょう』
(そしてそれが、私自身の理想と同じなら)
その先の言葉を、胸の奥で飲み込む。
侯爵邸の扉が開かれる。
外の世界に一歩、踏み出した瞬間、背中に冷たい雨が落ちた。
(朝はあんなに晴れていたのに……)
それはまるで、過去の自分を断ち切るようなそんな冷たい雨だった。
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