とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール

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70話

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 王宮に戻ったわたくしは、あまりの喜びからサインの入った本を抱きしめ、浮かれた気分に浸っていた。
『あー、初めて書かれたサインをわたくしがもらえるだなんて』

 元々この国に来た目的はお父様の思惑の、隣国の王妃になるということよりも、わたくしは憧れのアリーシャ・ポートランド先生にお会いすることだった。わたくしにとって先生は崇拝すべき作家だった。
 
 わたくしが自国で疎外感に悩まされていた時、この方の小説がどれほどわたくしの心を満たしてくれたことか。
 それなのに、なぜ陛下の想い人がその崇拝すべき人物なのかと、はじめは憤りさえ感じた。

 それでもやはり本人を目の前にすると嬉しさの方が勝り、ついニヤけてしまいそうになった。
 それを悟られないよう必死に隠したが、あのまま居たら、ばれてしまいそうだったので慌てて王宮に戻ってきた。 
 しかし『あー、もっと一緒に居たかったな。お話だってもっとしたかった』と思わずにはいられない。
 だって、この国に来たらぜひ会ってお礼を言いたかったのだから。
 そしてまだ自国には届いていなかった最新刊を買って帰ろうと思っていた。

 だけど先生のペンネームが亡くなられたお母様の名前だったなんてそんな大事なお話が聞けただけでもわたくしにとっては嬉しいことだから、やはりこちらの国に来た甲斐があったわ。

 正直、陛下やクリス様よりも、わたくしにとっては特別な存在なのだから。
 でも、本人を前にするといつもの自分が出てしまい、素直になれないもどかしさ。
『素直になるってどうすればできるのかしら』そう呟いても、誰も答えてはくれない。
『わたくしは今度あの方にお会いできたらどうしたら良いのかしら』と、また一人呟いた。
 今のわたくしは、ただ最後に一言だけでいい、先生にお礼が言いたいだけなのに。

 いつまでもこちらに、とどまることはできない。そろそろ自国へと戻らなくては。
 名残惜しいけれど、来週にはここをあとにすることにいたしましょう。
 寂しい時には、このサインを見れば元気が出るはず!
 わたくしも自国に帰って誰か素敵な人でも探しましょう。潔(いさぎよ)くあのお二人のことは諦めよう。
 やはり人のものを奪うのは良くないことだわ。そんなことをして先生に嫌われたくないのが本音なんだけれど。
 そう、わたくしにはこの先生からの直筆のサインがあるのだから、辛い時にはこれを見ればきっと大丈夫、元気がもらえるわ。
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