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19話
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その日、ルシアンは所用のため、久しぶりに街へ出ていた。
外に出るのは、気分転換になると思っていたが、人が多すぎて、どこか落ち着かない。
そう思いながら歩いていた時、ふと、視界に見覚えのある姿が映った。
(あれは確か……)
落ち着いた雰囲気の女性。
以前、ランガー様の事務所で見かけたルイノール侯爵の未亡人?
思わず足が止まってしまう。
そして、その隣にいる人物を見て、心がざわつく。
若い貴族の男性。
二人は肩を並べ、親しげに話しながら歩いている。
距離は近く、二人の視線は絡み合う。
どう見ても恋人同士。
(そんな……)
無意識のうちに、息を呑んでいた。
気づけば、ほんの少しだけ、後を追っている。
自分でも理由が分からないまま。
二人は、通り沿いの店先で立ち止まり、笑顔を交わす。
その様子は、どう見てもやはり、恋人同士だった。
胸の奥に、強い感情が込み上げる。
(ランガー様の恋人ではなかったの?)
だとしたら今、目の前にある光景は、それを裏切るものだった。
(なんて、ひどい)
胸が、きりりと締め付けられる。
ランガー様が裏切られている。
そう思った瞬間、強い怒りが湧いた。
だけど、それと同時に嬉しさを感じる自分がいた。
私ったら、何を期待しているの? そんな想いを断ち切るように首を振る。
私はもう、見合いを受け入れた身。
彼の人間関係に、心を乱す資格はない。
そう、分かっているのに。
(どうして……)
自分でも理由が分からない。
ただ、理不尽に胸が痛む。
ルシアンは、踵を返した。
これ以上、見てはいけない。
その日の夜。
彼女は、兄、ロイドの執務室を訪れていた。
「ルシアン?」
書類から顔を上げたロイドは、妹の表情を見て、すぐに異変を察した。
「お兄様、少し話せますか?」
「ああ」
椅子に腰掛けても、すぐには言葉が出ない。
それでもロイドは、黙って待った。
「今日ね、街で」
ようやく、口を開く。
「以前、ランガー様の仕事場に出入りしていた侯爵家の未亡人の方を見かけました」
ロイドは、黙ったまま頷く。
「その方が、別の貴族の男性と、とても親しそうで……」
ルシアンは、下を向いた。
「あれはどう見ても、恋人同士でした」
「それで、お前はそれを見てどう思った?」
ルシアンは指先を強く握った。
「許せない、と思ってしまったんです」
自分でも驚くほど、はっきりした言葉だった。
「ランガー様は、あの方を信頼していたはずなのに……裏切られているように見えました」
その瞬間。
ロイドは、はっきりと理解した。
(ああ……)
妹は、誤解しているのか。
「ルシアン、その未亡人と、ランガー殿は仕事上の付き合いだけだ」
一瞬、空気が止まった。
「え?」
「私が把握している限り、私的な関係はない」
淡々と告げると、ルシアンは、呆気に取られていた。
「お兄様が知らないだけではなくて?」
「ああ間違いない」
ロイドは、妹の顔を見つめた。
ルシアンの表情には、動揺、安堵、そして隠しきれない感情が見て取れた。
その全てで、ようやく確信する。
(そうだったのか)
彼女は、最初から、ランガーのために身を引こうとしていたのだ。
だから、見合いを受けると言い出した。
だから、理由を語らなかった。
ロイドは、溜息を吐いた。
「全く、お前というやつは……」
ルシアンは、何も言えなかった。
「それは、優しさかもしれないが、同時に、とても残酷でもある」
ロイドは、はっきりと言った。
「勘違いの上で選んだ道なら、考え直す資格はある」
ルシアンは、胸に手を当てた。
(私の心はずっと変わっていなかった。変えようとしただけだった。だから今、こんなふうに……)
初めて、真正面から、自分の心と向き合わされた気がした。それでも不安が消えたわけではなかった。
(お兄様は知らないだけで本当はランガー様の心はあの方に……)
外に出るのは、気分転換になると思っていたが、人が多すぎて、どこか落ち着かない。
そう思いながら歩いていた時、ふと、視界に見覚えのある姿が映った。
(あれは確か……)
落ち着いた雰囲気の女性。
以前、ランガー様の事務所で見かけたルイノール侯爵の未亡人?
思わず足が止まってしまう。
そして、その隣にいる人物を見て、心がざわつく。
若い貴族の男性。
二人は肩を並べ、親しげに話しながら歩いている。
距離は近く、二人の視線は絡み合う。
どう見ても恋人同士。
(そんな……)
無意識のうちに、息を呑んでいた。
気づけば、ほんの少しだけ、後を追っている。
自分でも理由が分からないまま。
二人は、通り沿いの店先で立ち止まり、笑顔を交わす。
その様子は、どう見てもやはり、恋人同士だった。
胸の奥に、強い感情が込み上げる。
(ランガー様の恋人ではなかったの?)
だとしたら今、目の前にある光景は、それを裏切るものだった。
(なんて、ひどい)
胸が、きりりと締め付けられる。
ランガー様が裏切られている。
そう思った瞬間、強い怒りが湧いた。
だけど、それと同時に嬉しさを感じる自分がいた。
私ったら、何を期待しているの? そんな想いを断ち切るように首を振る。
私はもう、見合いを受け入れた身。
彼の人間関係に、心を乱す資格はない。
そう、分かっているのに。
(どうして……)
自分でも理由が分からない。
ただ、理不尽に胸が痛む。
ルシアンは、踵を返した。
これ以上、見てはいけない。
その日の夜。
彼女は、兄、ロイドの執務室を訪れていた。
「ルシアン?」
書類から顔を上げたロイドは、妹の表情を見て、すぐに異変を察した。
「お兄様、少し話せますか?」
「ああ」
椅子に腰掛けても、すぐには言葉が出ない。
それでもロイドは、黙って待った。
「今日ね、街で」
ようやく、口を開く。
「以前、ランガー様の仕事場に出入りしていた侯爵家の未亡人の方を見かけました」
ロイドは、黙ったまま頷く。
「その方が、別の貴族の男性と、とても親しそうで……」
ルシアンは、下を向いた。
「あれはどう見ても、恋人同士でした」
「それで、お前はそれを見てどう思った?」
ルシアンは指先を強く握った。
「許せない、と思ってしまったんです」
自分でも驚くほど、はっきりした言葉だった。
「ランガー様は、あの方を信頼していたはずなのに……裏切られているように見えました」
その瞬間。
ロイドは、はっきりと理解した。
(ああ……)
妹は、誤解しているのか。
「ルシアン、その未亡人と、ランガー殿は仕事上の付き合いだけだ」
一瞬、空気が止まった。
「え?」
「私が把握している限り、私的な関係はない」
淡々と告げると、ルシアンは、呆気に取られていた。
「お兄様が知らないだけではなくて?」
「ああ間違いない」
ロイドは、妹の顔を見つめた。
ルシアンの表情には、動揺、安堵、そして隠しきれない感情が見て取れた。
その全てで、ようやく確信する。
(そうだったのか)
彼女は、最初から、ランガーのために身を引こうとしていたのだ。
だから、見合いを受けると言い出した。
だから、理由を語らなかった。
ロイドは、溜息を吐いた。
「全く、お前というやつは……」
ルシアンは、何も言えなかった。
「それは、優しさかもしれないが、同時に、とても残酷でもある」
ロイドは、はっきりと言った。
「勘違いの上で選んだ道なら、考え直す資格はある」
ルシアンは、胸に手を当てた。
(私の心はずっと変わっていなかった。変えようとしただけだった。だから今、こんなふうに……)
初めて、真正面から、自分の心と向き合わされた気がした。それでも不安が消えたわけではなかった。
(お兄様は知らないだけで本当はランガー様の心はあの方に……)
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