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彼の話
絶望
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そうして、神を辞めると宣言して1年が経った頃・・・
その日は、ララベルが初めて俺に『愛してる。』と言ってくれた日だった。
俺が神だと知ってから、ララベルは何時も遠慮がちで、なかなか俺の気持ちに応えてくれず、1年かけてようやく口説き落とした・・・と思っていた。
だから上機嫌で、この国の王と呼ばれる者の呼び出しに応え、王の住処へと出向き、王の退屈な話しにも、その横でピィピィと鳴く、姫と呼ばれる者の話しにも耐えた。
それなのに・・・
「何故だ・・・」
「どうかされたのか?」
王と呼ばれる者の、胡散臭い声が聞こえる。
「気分が優れないのでしたら、お部屋で休まれた方がよろしいですわ。」
ねっとりとした声を出しながら、姫と呼ばれる女が近づいてくる。
けれど、そんな事はどうでも良かった。
ララベルの気配が遠ざかって行く。
それは肉体の距離の問題では無い。
魂が遠ざかって行く。この世界から遠ざかって行く。
俺を置いて行かないで・・・
俺は、王の側に控えている男を見ると、その腰に下げられた剣を引き抜いた。
「なっ何をなさるつもりですか!!」
王の声が聞こえる。
何を? 何故そんな事を聞くのだろう?そんな事決まっている。
しかしその前に、一応聞いておこう。
「何故ララベルを殺した。」
「なっ、何の事でしょう。」
明らかに動揺した声と共に男の感情が見えてくる。
王の娘が俺に恋をした。娘を溺愛する王は、ララベルを悪女として殺してしまえば、俺が娘を選ぶと本気で思っていた様だ。
そして、それに俺の住処で暮らしていた者達も便乗した。俺の住処で暮らす者達は、俺が人になると宣言してから俺の恩恵を受ける事が出来ず、権威を失いかけており焦っていた様だ。
そこで、ララベルを悪女として殺し、俺を神という存在に戻そうと思っていた様だ。
彼女は、きっとそれらの事に気付いていた。自分が殺されるだろう事に。だから今朝『愛してる』と言ってくれたのだろう。
あの言葉に嘘偽りは無かった。ララベルの心からの言葉だった。だからこそ俺は上機嫌になったし、何の疑いもしなかった。
ならば俺がやる事は一つだけだ。ララベルが俺を『愛して』くれているのなら、やる事は一つだけ。
「そうか、分かった。」
そう言って俺は、自分の胸に剣先を向ける。
俺が消滅する方法は、二つだけ。
一つは、人々が俺の事を完全に忘れた時。
そして、もう一つは俺が自分でこの世界から去ると決めた時。
「なっ何をする気ですか!」
「何?見ていて分からないのか?」
「どうして??」
俺の行動が、予想外だったのだろう。慌てる王と姫に、最後だからと返事をしてやる。
「何故そんな事を聞く?ララベルが居なくなったこの世界に興味など無い。だから去るだけだ。」
ララベルと出会う前であれば、自分から消滅する事は無かっただろう。存在し続けたいという気持ちを持った事は無かったが、消滅したいという気持ちも無かったから。
しかし、ララベルと出会って変わった。ララベルが俺の存在理由だった。
存在理由が無くなった世界に何の意味があるのだろう?
「そんな・・・神である貴方を失って、私達はどうすれば良いのですか?」
「何故俺に聞く?お前達は今までだって好きにやって来ただろう?まあしかし、生きる目的が欲しいと言うのなら仕方がない。」
ララベルの居ない世界に興味はなかった。それよりも直ぐにララベルを追いかけたかった。
しかし、目的が欲しいのなら喜んでやろう。
「ならば、お前達が生き続けるために、狩り続けなければならない命をやろう。」
「それは、どういう意味でしょう?」
「この世界に魔物をやろう。狩らなければ、お前達を狩に来る魔物達を。」
「なっ、なんという事を。」
この世界に魔物は存在しなかった。物語の中だけに存在する彼らは、子供の躾の為に生み出された架空の存在。悪い事をすれば、魔物が来る。夜に出歩けば、魔物に連れ去られる。
そんな話を、この世界の者達は聞かされて育つ。
「お前達は、俺から大切な者を奪ったのだ。ならば奪われる覚悟も出来ているのだろう?」
そう言い残し、俺は俺の胸元に剣を突き立てた。
俺の身体から魂が抜け、ララベルの後を追う。
一瞬だけ振り返れば、俺の身体だった物から、黒い新たな魂が無数に生まれ出ていた。
その日は、ララベルが初めて俺に『愛してる。』と言ってくれた日だった。
俺が神だと知ってから、ララベルは何時も遠慮がちで、なかなか俺の気持ちに応えてくれず、1年かけてようやく口説き落とした・・・と思っていた。
だから上機嫌で、この国の王と呼ばれる者の呼び出しに応え、王の住処へと出向き、王の退屈な話しにも、その横でピィピィと鳴く、姫と呼ばれる者の話しにも耐えた。
それなのに・・・
「何故だ・・・」
「どうかされたのか?」
王と呼ばれる者の、胡散臭い声が聞こえる。
「気分が優れないのでしたら、お部屋で休まれた方がよろしいですわ。」
ねっとりとした声を出しながら、姫と呼ばれる女が近づいてくる。
けれど、そんな事はどうでも良かった。
ララベルの気配が遠ざかって行く。
それは肉体の距離の問題では無い。
魂が遠ざかって行く。この世界から遠ざかって行く。
俺を置いて行かないで・・・
俺は、王の側に控えている男を見ると、その腰に下げられた剣を引き抜いた。
「なっ何をなさるつもりですか!!」
王の声が聞こえる。
何を? 何故そんな事を聞くのだろう?そんな事決まっている。
しかしその前に、一応聞いておこう。
「何故ララベルを殺した。」
「なっ、何の事でしょう。」
明らかに動揺した声と共に男の感情が見えてくる。
王の娘が俺に恋をした。娘を溺愛する王は、ララベルを悪女として殺してしまえば、俺が娘を選ぶと本気で思っていた様だ。
そして、それに俺の住処で暮らしていた者達も便乗した。俺の住処で暮らす者達は、俺が人になると宣言してから俺の恩恵を受ける事が出来ず、権威を失いかけており焦っていた様だ。
そこで、ララベルを悪女として殺し、俺を神という存在に戻そうと思っていた様だ。
彼女は、きっとそれらの事に気付いていた。自分が殺されるだろう事に。だから今朝『愛してる』と言ってくれたのだろう。
あの言葉に嘘偽りは無かった。ララベルの心からの言葉だった。だからこそ俺は上機嫌になったし、何の疑いもしなかった。
ならば俺がやる事は一つだけだ。ララベルが俺を『愛して』くれているのなら、やる事は一つだけ。
「そうか、分かった。」
そう言って俺は、自分の胸に剣先を向ける。
俺が消滅する方法は、二つだけ。
一つは、人々が俺の事を完全に忘れた時。
そして、もう一つは俺が自分でこの世界から去ると決めた時。
「なっ何をする気ですか!」
「何?見ていて分からないのか?」
「どうして??」
俺の行動が、予想外だったのだろう。慌てる王と姫に、最後だからと返事をしてやる。
「何故そんな事を聞く?ララベルが居なくなったこの世界に興味など無い。だから去るだけだ。」
ララベルと出会う前であれば、自分から消滅する事は無かっただろう。存在し続けたいという気持ちを持った事は無かったが、消滅したいという気持ちも無かったから。
しかし、ララベルと出会って変わった。ララベルが俺の存在理由だった。
存在理由が無くなった世界に何の意味があるのだろう?
「そんな・・・神である貴方を失って、私達はどうすれば良いのですか?」
「何故俺に聞く?お前達は今までだって好きにやって来ただろう?まあしかし、生きる目的が欲しいと言うのなら仕方がない。」
ララベルの居ない世界に興味はなかった。それよりも直ぐにララベルを追いかけたかった。
しかし、目的が欲しいのなら喜んでやろう。
「ならば、お前達が生き続けるために、狩り続けなければならない命をやろう。」
「それは、どういう意味でしょう?」
「この世界に魔物をやろう。狩らなければ、お前達を狩に来る魔物達を。」
「なっ、なんという事を。」
この世界に魔物は存在しなかった。物語の中だけに存在する彼らは、子供の躾の為に生み出された架空の存在。悪い事をすれば、魔物が来る。夜に出歩けば、魔物に連れ去られる。
そんな話を、この世界の者達は聞かされて育つ。
「お前達は、俺から大切な者を奪ったのだ。ならば奪われる覚悟も出来ているのだろう?」
そう言い残し、俺は俺の胸元に剣を突き立てた。
俺の身体から魂が抜け、ララベルの後を追う。
一瞬だけ振り返れば、俺の身体だった物から、黒い新たな魂が無数に生まれ出ていた。
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