【完結】《今世は、彼と出会わない》何度死んでも愛してる

のんびり歩く

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彼の話

彼女のいない世界

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そうして、村に到着した俺が目にした光景は、信じ難いものだった。
家は焼け落ち、村に残っている者は一人もいない。彼女の姿も何処にも無い。
それどころか人一人、家畜一匹残っていない。
しかも焼け残っている家が一軒も無い。
まるで証拠を一つも残すまいと丁寧に焼かれたかの様に・・・山賊がやったにしては不自然なほど丁寧に・・

しかし、彼女が居ない事に変わりない。
それは、この場所に・・・ではない。
この世界に・・・・


俺は知っていた。
村が焼かれたのは、俺が城で王位継承の手続きをしていた時では無い。
彼女がこの世界を去ったのは、俺が城で仕事の引き継ぎをしていた時では無い。

村が焼かれたのは
彼女がこの世界から去ったのは
俺が村に着く前日、全力で馬を走らせている時だった。

馬の上で突然、俺の身体が・・・魂が悲鳴を上げた。
それは絶望と恐怖心。
けれど、それは俺からでは無い。彼女・・・彼女が感じた恐怖心。
そして、直ぐに俺の中から温もりが消えて行く。

前にも一度味わった感覚・・・
もう二度と味わいたくないと思っていた感覚・・・

あぁ、もう彼女は行ってしまった。また俺を置いて行ってしまった。
けれど、それでも確認せずにはいられなかった。彼女の姿がその場に無いと知っていても、自分の目で確認するまでは・・・そう思い村まで馬を走らせた。



「兄上・・・。」

心配そうな男の声が聞こえてくる。
どうやら俺が村に着いてから随分と時間が経っていたらしい。男の声に振り返れば、豪奢な馬車と騎士達。そして見覚えのある男が立っていた。

「兄上・・・帰りましょう。そして、今度こそこんな過ちが起きない様な国を・・・」

何を言っているのか、分からなかった。
この男が何を言っているのか、分からなかった。

「それは、お前を殺せと言う事か?」

俺の口から、感情の無い声が漏れる。

怒り?そんなもの今更何の役に立つ?
悲しみ?そんなもので、何か変わるのか?
憎しみ?だからどうした?

「何を言ってらっしゃるのですか?兄上。」

男の顔に微かに動揺が滲むが、それでも声色は普段と同じ。

「村を燃やしたのはお前だろう?彼女を殺したのはお前だろう?何故殺した?」

「兄上、錯乱しているのですか?」

「違う・・・俺は錯乱している訳でも、怒っている訳でも無い。ただ純粋に聞きたいだけだ。何故彼女を殺した?」

俺の質問に、男は小さく溜息を漏らす。

「はぁ・・・兄上はこれからも王として、国を治めていただかなくてはいけません。たった一人の村娘の為に王位を譲られては困るのです。」

「お前が、きちんと治めれば良いだけだろう?」

「私では駄目なのです。兄上でなければ駄目なのです。この国の王は兄上だけです。それに彼女は兄上に相応しくない。田舎の村娘では、兄上には釣り合わない。」

「俺と、父・・・前国王との約束は知っていただろう。」

「はい。ですが父上も同じ考えでした。兄上の見つけた相手が兄上の妻として・・・国母として相応しく無ければ、秘密裏に殺せと。」

「彼女を殺された俺が、王を続けるとでも?」

「殺したのが私だと気付かれなければ、適当な者を犯人に仕立て上げ、その者に怒りをぶつけていただき、私だと気付かれたなら、喜んでこの命を差し出そうと思っておりました。」

そんなもの差し出されたところで、何の意味もない。

「そうか・・・。」

俺の口から意識せずとも漏れ出した言葉とともに、俺の側に立っていた騎士の腰にある剣を引き抜いた。
剣を抜かれた騎士は、近衛騎士団の一人のはずなのに何の抵抗も見せない。多分ここに来る前に、俺が剣を抜こうとも抵抗してはならないと言われているのだろう。

俺は剣を片手に、俺の事を兄上と呼ぶ男の前に立つ。
男は俺の姿に少し寂しそうに笑い、覚悟を決めた様に頭を垂れるが、剣が男に向く事はない。

「陛下あぁぁぁ」
「なんて事を!!」
「どうして!!」

男達の野太い動揺の声が響き、遅れて男の金切声が響いた。

「兄上えぇぇああああぁぁぁぁぁ。」

その声を、かつては心地良く感じていた筈なのに、今はただ煩いと感じるだけ。
俺の事を呼ぶ者達の声が、今はもう雑音としか聞こえない。

彼女の居ない世界など意味がない。
彼女の居ない国など何の興味もない。
彼女を殺した者達など一欠片の感情さえ向けたくはない。

そんな事よりも、彼女の側に一秒でも早く行きたい。
一秒でも長く居たい。

彼女と俺の魂は繋がれている。迷う事などない。
早く彼女の元へ・・・
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