【完結】《今世は、彼と出会わない》何度死んでも愛してる

のんびり歩く

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番外編

未来の2人

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小さくて、ぷにぷにとした手が、私の服を強く掴み泣いている。
離れたくないと泣いている。

で?私にどうしろと?

私の視界には、真っ白でぷくぷくとした体型に、柔らかな金色のフワフワとした髪、ふっくりと膨らんだ頬を赤く染め、茶色くて大きな目からポロポロと涙を流す幼子が見えている。

そしてそんな彼は、最近ようやくお座りが出来る様になった、私の婚約者、アベルです。

「ふわっ・・・ふあぁ・・・わあああああぁぁぁぁん。」

全力で泣いているアベル。
私だって、別に好きで放置しているわけではない。
私だって、大好きな彼を泣き止ませてあげたいとは思っている。
けれど、私が彼を泣き止ませてあげる事は出来ない。

その理由は二つ・・・

一つ目は、彼が泣いている理由が『私から離れたくない。』だから。

「アベル。そろそろ帰る時間よ。」

彼のお母様がそう言った瞬間に、彼は私の服を強く掴み、泣き出し、絶対離れないと主張しはじめた。

傍から見れば、幼子がお気に入りのおもちゃを手放したくない程度の執着に見える事でしょう。
けれど私は知っている。
彼の執着が、そんな軽い執着心では無いと。次の瞬間には忘れてしまい、他のおもちゃで遊ぶ様な、軽い執着心では無いと。

それはもう、4回の転生によって、痛いほど知っています。

最初の人生で私は、巫女でした。
神殿で暮らし、神に祈りを捧げ、神に身も心も捧げる巫女でした。
そんな日々の中で私は、一人の青年に出会いました。見た目は普通の人。けれど彼の本当の姿は神様ダッタ ノデスゥゥゥ・・・はぁ。

夢物語では、神に愛された少女が神様と幸せになる事も可能でしょうが、それが現実になると、都合の悪い人、妬む人、裏切られたと嘆く人・・・・いっぱいいましたね。おかげで、私は神を誑かした悪女として殺されました。

二度目の人生では、私は農家の娘でした。
毎日畑を耕し、季節の移り変わりと共に生きていく。楽な生活ではなかったけれど、穏やかな日々。
そこへ彼が現れました。その世界で彼は、賢王と名高い立派な王様ダッタ ノデスウウゥゥゥ・・・はぁぁ。

しかし、あまりにも優秀過ぎました。そんな彼が私に出会った事で、王を辞めると言い出してしまえば・・・・私は王を惑わす悪女として殺されてしまいますよね。

三度目の人生で、私は平民でした。
父は役所に勤め、母は内職というごく平凡な家。家族の仲も良く、平凡過ぎる平凡な日々。
そこへ彼が現れたのです。赤黒く、硬い皮膚で覆われた巨大な身体に、風を掴む巨大な翼をもつドラゴンとして。

彼は私を見つけると、私を拐いました。
最初と2回目の人生で、私が殺されてしまったので、とても臆病になったのでしょう。
ですが、子供を攫えば当然・・・討伐されますよね。
そして、彼が討伐されそうになっているのを見て、私は咄嗟に彼を庇い死にました・・・・つまりは、無駄死にです。
ドラゴンが簡単に死ぬはずなんて無いのに、彼が傷つけられそうになるのを見て、咄嗟に彼を庇ってしまったんです。

そして四度目の人生・・・今の私から見て前世での私は、男爵家のお嬢様でした。
家族に愛され、殆ど家から出ない引き篭もりでしたが、何故か疎まれる事も無く、大切に大切にしてもらいました。そして、そんな人生が後10年程で終わるなぁ。なんて考えていたある日・・・・彼が現れました。
しかも、小さな少年の姿で・・・
老婆と少年。釣り合わないにも程があります。
勿論、犯罪になる様な事は何もありませんでしたが、代わりに彼は私に愛を囁き囁き囁き・・・耳から砂糖が出せる様になりそうなほど、囁き・・
砂糖漬けにされた私は、寿命を全うして死にました。

そうして、現在の私は・・・
王様、貴族、平民、奴隷と、身分制度が存在する世界の、伯爵家の令嬢でございます。
ちなみに私の服を掴んで泣いている彼こそが、私の婚約者様であり、三度の人生での恋人で、四度目の人生でわたしを砂糖漬けにした方です。

つまり、転生を繰り返したにも関わらず、私に愛を囁いてくる、すっごい執着心の塊の様な方です。

だから彼を慰め、お家に帰る様に説得出来る自信なんてありません。
ええ、全くありません。 
私では無理ですから、とっとと連れて帰ってください。

そして、二つ目の理由ですが・・・
私も彼と同じくぷにぷにほっぺの幼子なのです。
栗色のフワフワとした髪に、栗色の瞳をした、最近ようやくお座りが出来る様になったばかりの幼子なのです。
幼子が幼子を泣き止ませるなんて、出来ません。

なのでお母様達、困った様な表情で助けを求める様に、私を見ないでください。

「困ったわね。二人とも離れてくれないわ。」

二人ともって何ですか?
服を掴んで泣いているのは、アベルで・・・・・。

「ほら見て、レイラもアベルちゃんの服を掴んでる。可愛い。」

気付けば、私の小さな手も彼の服をしっかりと掴んでいた。
仕方がない。私だって彼と離れたいなんて思ってないのだから。

二人の女性が、私とアベルを見て楽しそうに笑っている。

だけどきっと、笑って居られるのは今だけ。

彼女達の顔が疲れた顔に変わるまで、後1時間。

そして、彼の一家が疲れた顔で私の家に引っ越して来るまで後2週間。

彼の執着を舐めてはいけない。
そして、私の執着も。

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