4 / 6
愛は重い様です
「殿下、いい加減にしてくださいませ。本当に婚約破棄いたしますわよ。」
まるでこうなる事が分かりきっていたかの様に、会場の入り口に馬車が停められていて、その事に驚くでもなく、二人は馬車に乗り込んだ。、
「そんな事を言われては、流石に私も傷付くぞ。」
「そう思うなら、時と場合と、言い回しを考えて下さいませ。」
「何を言うんだ、私は、ただずっと探していた諜報員向きの人間を見つけただけだぞ。あの存在感の無さは、なかなか居ない。」
「サミュエラ様もそんな所を認められても、嬉しく無いとおもいますけれど。それならば、小声で教えてくだされば良いでしょう。何故大声で、あんな紛らわしい言い方をするのですか。」
「勝手に勘違いしたのは、あそこに居た者達だろう?私は一度も愛人など言っておらん。」
「ですが、『探し求めていた女性に出会えた』と言いましたわよね?」
レイラの言葉に、ユドルフはニヤリと不敵な笑みをうかべる。
「それは、俺の勘違いだったな。サミュエラには、悪い事をした。」
口ではそう言っているが、悪いとは思っていないと、レイラは知っている。
「ユドルフ様。」
名前で呼ぶと、ユドルフの顔がパッと華やぐ。
「私は、ユドルフ様が王位に就かれても大丈夫な様に、王妃教育をきちんと受けてきたと自負しておりますし、教師の先生方にも太鼓判を押していただいております。ですから、わざわざ馬鹿な真似をするのは、お辞めくださいませ。」
その言葉に、ユドルフは大きく目を見開き、次の瞬間には、ニヤリと笑っていた。
ユドルフは幼い頃、一眼見たレイラに恋をし、既に決まりかけていた婚約を破棄し、かなり強引にレイラを婚約者としていた。
レイラの家は、家柄的には何も問題無かったのだが。その頃病弱で、貴族社会で全く名の知られていなかった娘の、突如降って湧いた王太子との婚約に、同じ年頃の娘達から反発は凄まじく、加えて厳しい王妃教育もあり、レイラは一度だけ、ユドルフを責めた事があった。
『私は王妃になど、なりたくないのに・・・ユドルフ様が王子でなければ、こんな思いしなかったのに・・。」
泣きながら言うレイラに、ユドルフは困った顔をしながらも、泣き止むまで側に居てくれた。
それからユドルフは変わってしまった。
王太子としての振る舞いはどこへやら、自由奔放に振る舞うようになってしまい。おかげで最初は、レイラと婚約したせいだと攻撃は激しくなってしまった。しかし、時がたち、レイラの王妃教育が進むにつれ、しだいに周囲の反応は変わり、今では馬鹿な王太子に見初められた可哀想な婚約者という、哀れみの目で見られる様になっている。
「おや、気付いていたのか。」
「気付かれないと思っていらしたの?」
レイラは知っている。
本来のユドルフが他のどの王子達よりも王に向いている事を。
彼が国を治めれば、この国は今まで以上に安定し、潤うだろう事を。
しかし、ユドルフは、きっと王にはならないだろう。
「レイラを王妃にしたら、今まで以上に君の姿が、他人の目に映る事になるだろう?そんな事、私には耐えられない。だから、もうしばらく付き合ってもらうぞ。」
ユドルフは、クスクスと笑いながら、レイラの腕を強引に引っ張ると、倒れ込んできたレイラを強く抱き寄せ、その背を意味有りげに、ゆっくりと撫で上げた。
最初にレイラの涙を見た時、ユドルフは王位継承権の放棄をしようとした。しかし、優秀過ぎた為に許されなかった。その為、わざと奇行を起こし、王位継承権から外れようとしたのだ。しかし、やり過ぎてはいけない。馬鹿だと思われれば、今度は丁度いい傀儡として、王位に就かせようとする者が現れる。
今後のレイラとの平穏な暮らしの為に、悪評ばかりを広める訳にはいかなかった。
そうしてユドルフは、外では奇行を度々起こしながらも、王太子としての仕事はキチンとこなし、城内と城外で極端な評判を確立した。
二つの極端な評判は、貴族達や民達に馬鹿王子が王になる事の不安を植え付け、それと同時に傀儡には成り得ない能力を示し続けている。
しかしそれも、もうすぐ終わる事だろう。
ユドルフの愛はとても重たい。
王位を放棄するほどに・・・
レイラはきっと、婚姻を結べばユドルフに囲われ、今までの様な自由は無くなるだろう。
しかし、レイラはきっと受け入れる。
そんなユドルフさえも愛しているのだから。
愛していなければ、いくら王太子としての仕事を完璧にこなしているとはいえ、馬鹿王子と呼ばれている相手の為に、辛い王妃教育など続けられない。
「なあ、知っていたか?サミュエラとリオレット、ずっと好き合っていたのに、サミュエラの家がそれを許さなかった事を。」
「ええ、ですが今回の事で、サミュエラ様の名誉を回復した女性として、大切に迎えられるでしょうね。」
そうして、私達はお互いの顔を見てクスクスと笑い合います。
「ユドルフ様、愛していますから、何者になろうと私を妻にして下さいね。」
「レイラ、愛しているから、私が何者になろうとも、見捨てないで一生側にいてくれ。」
「もちろんですわ。」
「もちろんだ。」
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています