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彼との出会い
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練習室の鏡の前で、私は汗を飛ばしながらダンスを続けていた。
そこへ突然、扉が開き、社長とひとりの青年が入ってくる。
「失礼するよ」
「しゃ、社長!」
白髪交じりのオールバックに、獲物を狙うような鋭い目。
その圧だけで空気を支配する男が、不敵に口角を吊り上げた。
胸がざわつく。息が苦しい。
「愛ちゃん。これから君のプロデュースは、大和が担当することになった。同い年の練習生だ。よろしくな」
社長に紹介された青年は、細身の体を縮こまらせながら顔をのぞかせた。
黒縁メガネに隠れた視線は、まるで人目を避けるように落とされている。
背筋は丸まり、リュックをぎゅっと前に抱え込むその姿は、プロデューサーというより、学校帰りの中学生にしか見えなかった。
――この人が私のプロデューサー?
同い年とは思えないほど頼りなく、口から絞り出した言葉は「…は、はい」だけ。
まるで壊れた機械のように。
けれど私はすぐに知ることになる。
彼の音楽だけは、誰よりも雄弁で、力強いということを。
黒いリュックを背負ったまま、ぎこちなく頭を下げる。
「や…ま…とです。よろしくお願いします」
「お前、そんな声じゃ聞こえねぇだろ」
社長に叱られ、大和はさらに口をつぐんだ。
社長は肩をすくめる。
「ごめんなぁ、愛ちゃん。コイツ、ほんとシャイでさ。でも音楽に関しては天才だから。じゃあ、大和、しっかり打ち合わせするんだぞ」
そう言い残して、社長は去っていった。
静まり返った練習室に、気まずい空気だけが残る。
「や、やまとくん?よろしくね」
「は、はい」
「練習生なんだ?」
「は、はい」
会話は途切れがちで、まともに続かない。
(え…この人、隠キャすぎる…)
10年も練習しているのにデビューできていない彼に、私の未来を託すなんて。——社長に期待されていないのかもしれない。そう思った。
だがその直後、すぐに気づかされる。彼の本当の凄さに。
大和はリュックからノートパソコンを取り出すと、迷いのない手つきで操作を始めた。
「それ、私のデビュー曲?」
「は、はい」
「どんな曲?」
口ごもるかと思いきや、大和の目が一瞬だけ鋭く光った。
「愛さんは、オーディション番組を拝見する限り、パワフルなボーカルが最大の魅力です。だから洋楽的な要素を入れて、ラップを組み込みました。女性ソロでラップを入れる人は少ないので、強いインパクトを残せるはずです」
「大和くん、めっちゃ喋るじゃん!」
「こ、これは…仕事なので」
「仕事だと喋れるんだ」
「当たり前です。プ、プロなので」
思わず笑ってしまった。
「ふふふ。おもしろいね、大和くん」
イヤホンを受け取り、愛は曲を聴いた。
——その瞬間、時が止まった。
初めて聴くのに、どこか懐かしい。胸の奥がじんわり熱くなり、涙が込み上げてくる。
「な、泣ける…なんでこんなに泣けるんだろう」
気づけば大和の肩を両手でつかみ、叫んでいた。
「大和くん!すごいよ!天才だよ!天才すぎる!」
真っ赤になって慌てる大和。
「わ、わかったから。もうわかったって」
それでも小さな声で呟く。
「…俺も、自分に自信がなくなってたけど。少し、自信がついた。ありがとう」
「違うよ。こちらこそありがとう。大和くんの曲なら絶対売れる。ねぇ、ずっと私の曲を作ってよ。約束だよ」
「…うん」
——そこから始まった快進撃は、まさに奇跡だった。
デビュー曲は100万枚を突破し、YouTube再生回数は1億回を超えた。
翌年には新人賞、さらにその次の年には最優秀アーティスト賞。
私は華々しく駆け上がっていった。
だが、デビュー3年目の年。
運命は、大きく狂い始める——。
そこへ突然、扉が開き、社長とひとりの青年が入ってくる。
「失礼するよ」
「しゃ、社長!」
白髪交じりのオールバックに、獲物を狙うような鋭い目。
その圧だけで空気を支配する男が、不敵に口角を吊り上げた。
胸がざわつく。息が苦しい。
「愛ちゃん。これから君のプロデュースは、大和が担当することになった。同い年の練習生だ。よろしくな」
社長に紹介された青年は、細身の体を縮こまらせながら顔をのぞかせた。
黒縁メガネに隠れた視線は、まるで人目を避けるように落とされている。
背筋は丸まり、リュックをぎゅっと前に抱え込むその姿は、プロデューサーというより、学校帰りの中学生にしか見えなかった。
――この人が私のプロデューサー?
同い年とは思えないほど頼りなく、口から絞り出した言葉は「…は、はい」だけ。
まるで壊れた機械のように。
けれど私はすぐに知ることになる。
彼の音楽だけは、誰よりも雄弁で、力強いということを。
黒いリュックを背負ったまま、ぎこちなく頭を下げる。
「や…ま…とです。よろしくお願いします」
「お前、そんな声じゃ聞こえねぇだろ」
社長に叱られ、大和はさらに口をつぐんだ。
社長は肩をすくめる。
「ごめんなぁ、愛ちゃん。コイツ、ほんとシャイでさ。でも音楽に関しては天才だから。じゃあ、大和、しっかり打ち合わせするんだぞ」
そう言い残して、社長は去っていった。
静まり返った練習室に、気まずい空気だけが残る。
「や、やまとくん?よろしくね」
「は、はい」
「練習生なんだ?」
「は、はい」
会話は途切れがちで、まともに続かない。
(え…この人、隠キャすぎる…)
10年も練習しているのにデビューできていない彼に、私の未来を託すなんて。——社長に期待されていないのかもしれない。そう思った。
だがその直後、すぐに気づかされる。彼の本当の凄さに。
大和はリュックからノートパソコンを取り出すと、迷いのない手つきで操作を始めた。
「それ、私のデビュー曲?」
「は、はい」
「どんな曲?」
口ごもるかと思いきや、大和の目が一瞬だけ鋭く光った。
「愛さんは、オーディション番組を拝見する限り、パワフルなボーカルが最大の魅力です。だから洋楽的な要素を入れて、ラップを組み込みました。女性ソロでラップを入れる人は少ないので、強いインパクトを残せるはずです」
「大和くん、めっちゃ喋るじゃん!」
「こ、これは…仕事なので」
「仕事だと喋れるんだ」
「当たり前です。プ、プロなので」
思わず笑ってしまった。
「ふふふ。おもしろいね、大和くん」
イヤホンを受け取り、愛は曲を聴いた。
——その瞬間、時が止まった。
初めて聴くのに、どこか懐かしい。胸の奥がじんわり熱くなり、涙が込み上げてくる。
「な、泣ける…なんでこんなに泣けるんだろう」
気づけば大和の肩を両手でつかみ、叫んでいた。
「大和くん!すごいよ!天才だよ!天才すぎる!」
真っ赤になって慌てる大和。
「わ、わかったから。もうわかったって」
それでも小さな声で呟く。
「…俺も、自分に自信がなくなってたけど。少し、自信がついた。ありがとう」
「違うよ。こちらこそありがとう。大和くんの曲なら絶対売れる。ねぇ、ずっと私の曲を作ってよ。約束だよ」
「…うん」
——そこから始まった快進撃は、まさに奇跡だった。
デビュー曲は100万枚を突破し、YouTube再生回数は1億回を超えた。
翌年には新人賞、さらにその次の年には最優秀アーティスト賞。
私は華々しく駆け上がっていった。
だが、デビュー3年目の年。
運命は、大きく狂い始める——。
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