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別れと再会
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私は気づくと、事務所の社長室にいた。
「人気ボーイズグループDanger13のメンバー、田中大和容疑者(23)が大麻取締法違反の容疑で逮捕されました。交際相手の女性による証言が、今回の発端となった模様です——」
社長がテレビをつけると、そこには彼の姿が。
刑務所から出てきた彼が報道陣のフラッシュを浴びながら頭を下げる。
「大変申し訳ございませんでした」
土下座をする彼の姿。
押し寄せる記者たち。
「大和さん!大麻を所持していたのは事実ですか?」
「交際相手の女性と使用していたとありますが、認めますか?」
彼はひたすら下を見ながら、立ち去ろうとしていた。
「現在カムバック中の愛さんと共演予定でしたが、それについては?」
大和は、足を止めて言った。
「……それは、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
愛は反射的にリモコンを押した。テレビの画面が暗転する。
——申し訳ない?どういうことよ。何に対する申し訳なさなの?浮気してたこと?カムバ前に逮捕されたこと?
私の脳内はパンク寸前だった。
「愛」
隣にいたマネージャーが、真剣な顔で見つめた。
「これからは必ず、僕と一緒に行動してほしい。大和と直前まで活動してた君も、薬物使用を疑われてる。警察もメディアも君を見てる。どこへ行っても囲まれるかもしれない」
「わ、わかりました」
「念のために確認するけど……愛、薬物は絶対やってないな?」
「はい。絶対にありません」
声が震えた。
「それより……大和、本当に使ってたんですか?私、ずっと一緒にいたのに、気づかなかった」
「そうなんだよなぁ。大和、タバコすら吸ってるの見たことなかったし。取り調べでも、沈黙を貫いているらしい」
「そうなんですね…」
事務所の外に出た瞬間、フラッシュの光が降り注ぐ。
一斉にマイクが突き出される。
「愛さん!事件に関与されているのですか?」
「大和さんと共に薬物を使用していたのでは?」
「発覚直前まで一緒に過ごしていたそうですが?」
「交際されていたというのは事実でしょうか?」
足が止まる。
「二股をかけられていたという噂がありますが、本当ですか?」
一瞬、心臓が止まった。
マネージャーが割って入る。
「そのような事実はございません。大和と愛は、ビジネスパートナーです。アーティストとプロデューサー。それ以上は決してありません。通してください!」
彼に守られるように車へ押し込まれる。
外から叩きつけるようなフラッシュ。
——信じていた世界が、一瞬で瓦解していく音がした。
車内は重たい沈黙に包まれていた。
フロントガラス越しに流れる街の光景も、どこか色を失って見える。
運転席に座るマネージャーが、バックミラー越しに愛を見つめて口を開いた。
「愛、気にするなよ。明日、無実を証明するために念のため尿検査をする。それが終わったら、マスコミも徐々に減るはずだ。それまでの辛抱だ。」
その言葉は優しかったが、どこか遠くから響いてくるようで、愛には実感が伴わなかった。
それでも彼女は小さく頷いた。
「はい。分かりました。」
その声は、か細く震えていた。
――後日、私は無事に尿検査を受け、結果は陰性だった。
無実は証明された。けれど、彼と共にステージに立ち、彼と共に歌った事実は消えない。
「交際相手」「薬物」――テレビやネットに飛び交う言葉は、まるで棘のように胸に突き刺さった。
久しぶりのカムバックだった。大切に準備してきた舞台。
だけど、それはあっけなく失敗に終わった。
私は新たなプロデューサーと手を組み、再出発を図った。
ありがたいことに曲はそこそこ売れ、アーティスト活動は軌道に乗った。
人は過去を忘れる。私自身もそうだった。
彼のことなんて、いつしか思い出すことすらなくなっていた。
――気づけば三年。
季節が巡るごとに、痛みも薄れていった。
すっかり心の奥に沈めたはずだった。
だからこそ、彼が目の前に現れたとき、息が止まるほどの衝撃を覚えた。
忘れかけていた声。
忘れかけていた瞳。
忘れかけていた、あの人。
「……大和?」
時が巻き戻るような錯覚に、私は立ち尽くしていた。
「人気ボーイズグループDanger13のメンバー、田中大和容疑者(23)が大麻取締法違反の容疑で逮捕されました。交際相手の女性による証言が、今回の発端となった模様です——」
社長がテレビをつけると、そこには彼の姿が。
刑務所から出てきた彼が報道陣のフラッシュを浴びながら頭を下げる。
「大変申し訳ございませんでした」
土下座をする彼の姿。
押し寄せる記者たち。
「大和さん!大麻を所持していたのは事実ですか?」
「交際相手の女性と使用していたとありますが、認めますか?」
彼はひたすら下を見ながら、立ち去ろうとしていた。
「現在カムバック中の愛さんと共演予定でしたが、それについては?」
大和は、足を止めて言った。
「……それは、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
愛は反射的にリモコンを押した。テレビの画面が暗転する。
——申し訳ない?どういうことよ。何に対する申し訳なさなの?浮気してたこと?カムバ前に逮捕されたこと?
私の脳内はパンク寸前だった。
「愛」
隣にいたマネージャーが、真剣な顔で見つめた。
「これからは必ず、僕と一緒に行動してほしい。大和と直前まで活動してた君も、薬物使用を疑われてる。警察もメディアも君を見てる。どこへ行っても囲まれるかもしれない」
「わ、わかりました」
「念のために確認するけど……愛、薬物は絶対やってないな?」
「はい。絶対にありません」
声が震えた。
「それより……大和、本当に使ってたんですか?私、ずっと一緒にいたのに、気づかなかった」
「そうなんだよなぁ。大和、タバコすら吸ってるの見たことなかったし。取り調べでも、沈黙を貫いているらしい」
「そうなんですね…」
事務所の外に出た瞬間、フラッシュの光が降り注ぐ。
一斉にマイクが突き出される。
「愛さん!事件に関与されているのですか?」
「大和さんと共に薬物を使用していたのでは?」
「発覚直前まで一緒に過ごしていたそうですが?」
「交際されていたというのは事実でしょうか?」
足が止まる。
「二股をかけられていたという噂がありますが、本当ですか?」
一瞬、心臓が止まった。
マネージャーが割って入る。
「そのような事実はございません。大和と愛は、ビジネスパートナーです。アーティストとプロデューサー。それ以上は決してありません。通してください!」
彼に守られるように車へ押し込まれる。
外から叩きつけるようなフラッシュ。
——信じていた世界が、一瞬で瓦解していく音がした。
車内は重たい沈黙に包まれていた。
フロントガラス越しに流れる街の光景も、どこか色を失って見える。
運転席に座るマネージャーが、バックミラー越しに愛を見つめて口を開いた。
「愛、気にするなよ。明日、無実を証明するために念のため尿検査をする。それが終わったら、マスコミも徐々に減るはずだ。それまでの辛抱だ。」
その言葉は優しかったが、どこか遠くから響いてくるようで、愛には実感が伴わなかった。
それでも彼女は小さく頷いた。
「はい。分かりました。」
その声は、か細く震えていた。
――後日、私は無事に尿検査を受け、結果は陰性だった。
無実は証明された。けれど、彼と共にステージに立ち、彼と共に歌った事実は消えない。
「交際相手」「薬物」――テレビやネットに飛び交う言葉は、まるで棘のように胸に突き刺さった。
久しぶりのカムバックだった。大切に準備してきた舞台。
だけど、それはあっけなく失敗に終わった。
私は新たなプロデューサーと手を組み、再出発を図った。
ありがたいことに曲はそこそこ売れ、アーティスト活動は軌道に乗った。
人は過去を忘れる。私自身もそうだった。
彼のことなんて、いつしか思い出すことすらなくなっていた。
――気づけば三年。
季節が巡るごとに、痛みも薄れていった。
すっかり心の奥に沈めたはずだった。
だからこそ、彼が目の前に現れたとき、息が止まるほどの衝撃を覚えた。
忘れかけていた声。
忘れかけていた瞳。
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「……大和?」
時が巻き戻るような錯覚に、私は立ち尽くしていた。
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