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偽りの婚姻
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石畳の回廊を駆け抜ける足音が響いた。
上手の廊下から侍女のひとりが走りこんでくると、緊張を帯びた声で叫んだ。
「みんな、大変よ!」
「どうしたの、そんなに慌てて」
別の侍女が眉をひそめて問いかける。
「へヨン様が、トリカブト王国の皇太子と……ご結婚なさるそうよ」
一瞬、沈黙が落ちた。
それを破ったのは、控えめな口調の侍女だった。
「……あなた、本当に言っているの?」
「トリカブト王国って……私たちの土地を侵略しようとしてるって噂じゃない」
侍女の一人が、不安を含んだ声で言う。
「そんな危険な場所にへヨン様を行かせて大丈夫なのかしら……」
そのつぶやきに、もう一人が重ねた。
「でも、ジェヒョン様もご一緒されるんですって」
その名を口にした瞬間、場の空気がまた少し揺れた。
「それなら……安心……かもしれないわね」
「安心なのかしら? だって、ジェヒョン様は国王様に自分の父親を殺されたのよ。命を助けられたとはいえ、恨んでいないわけがないわ」
その時だった。
ふと足音が近づき、へヨンとジェヒョンが姿を現した。
侍女たちは驚き、慌てて頭を下げる。
「あなたたち、何を話しているの?」
へヨンの澄んだ声に、侍女の一人が恐る恐る口を開いた。
「へ、へヨン様……し、失礼いたしました。ご結婚の噂を耳にいたしまして……誠でございましょうか?」
「お父様がお決めになったことよ。私は、生まれた時から、父の決めた人と結婚する運命。覚悟していたことよ」
そう言い残し、へヨンはジェヒョンと共にその場を去っていった。
しばらく歩いたあと、へヨンはふと立ち止まり、静かに振り返った。
「そういえば、まだあなたの考えを聞いていなかったわ」
ジェヒョンがきょとんとした顔をする。
「……何のことでしょうか?」
「私が、トリカブト王国の皇太子と結婚すること。あ、あなたはどう思うの?」
一瞬の沈黙の後、ジェヒョンは言った。
「トリカブト王国はカルミヤの土地を狙っているという噂がございます。危険は伴いますが、私は命を懸けてへヨン様をお守りいたします」
「そ、そういうことを聞いているんじゃないわ」
へヨンの声に、思わずジェヒョンは黙り込んだ。
目を伏せる彼を、へヨンはじっと見つめる。
「またあなたは黙るのね。いつもそう。そしてその鋭い目。あなたは、私を憎んでいるのね」
「……いいえ。憎んでなど、おりません。私はあなた様の側で仕えることができて幸せでございます」
「う、嘘よ。父はあなたの父を裏切り、殺した。あなたは弟の命を助けるために、嫌々私に仕えている。そうでしょう?」
「へヨン様……」
「もういいわ。あなたが私のことを恨んでいることなど今に始まった話じゃないわ。私は、生まれた時から敵国に嫁ぐ運命だったの。責務を果たす日が来た。それだけのことよ」
へヨンがその場を離れようとすると、ジェヒョンが声を張った。
「へヨン様、お待ちくださいませ!」
「しばらく……一人になりたいの」
その言葉を残し、へヨンは静かに背を向けた。
その背中を、ジェヒョンは追いかけることができなかった。
「……へヨン様。あなた様は、分かっていらっしゃらない」
かすれた声が、風に溶けていく。
「僕が、あなたをどれほど……お慕いしているのか」
上手の廊下から侍女のひとりが走りこんでくると、緊張を帯びた声で叫んだ。
「みんな、大変よ!」
「どうしたの、そんなに慌てて」
別の侍女が眉をひそめて問いかける。
「へヨン様が、トリカブト王国の皇太子と……ご結婚なさるそうよ」
一瞬、沈黙が落ちた。
それを破ったのは、控えめな口調の侍女だった。
「……あなた、本当に言っているの?」
「トリカブト王国って……私たちの土地を侵略しようとしてるって噂じゃない」
侍女の一人が、不安を含んだ声で言う。
「そんな危険な場所にへヨン様を行かせて大丈夫なのかしら……」
そのつぶやきに、もう一人が重ねた。
「でも、ジェヒョン様もご一緒されるんですって」
その名を口にした瞬間、場の空気がまた少し揺れた。
「それなら……安心……かもしれないわね」
「安心なのかしら? だって、ジェヒョン様は国王様に自分の父親を殺されたのよ。命を助けられたとはいえ、恨んでいないわけがないわ」
その時だった。
ふと足音が近づき、へヨンとジェヒョンが姿を現した。
侍女たちは驚き、慌てて頭を下げる。
「あなたたち、何を話しているの?」
へヨンの澄んだ声に、侍女の一人が恐る恐る口を開いた。
「へ、へヨン様……し、失礼いたしました。ご結婚の噂を耳にいたしまして……誠でございましょうか?」
「お父様がお決めになったことよ。私は、生まれた時から、父の決めた人と結婚する運命。覚悟していたことよ」
そう言い残し、へヨンはジェヒョンと共にその場を去っていった。
しばらく歩いたあと、へヨンはふと立ち止まり、静かに振り返った。
「そういえば、まだあなたの考えを聞いていなかったわ」
ジェヒョンがきょとんとした顔をする。
「……何のことでしょうか?」
「私が、トリカブト王国の皇太子と結婚すること。あ、あなたはどう思うの?」
一瞬の沈黙の後、ジェヒョンは言った。
「トリカブト王国はカルミヤの土地を狙っているという噂がございます。危険は伴いますが、私は命を懸けてへヨン様をお守りいたします」
「そ、そういうことを聞いているんじゃないわ」
へヨンの声に、思わずジェヒョンは黙り込んだ。
目を伏せる彼を、へヨンはじっと見つめる。
「またあなたは黙るのね。いつもそう。そしてその鋭い目。あなたは、私を憎んでいるのね」
「……いいえ。憎んでなど、おりません。私はあなた様の側で仕えることができて幸せでございます」
「う、嘘よ。父はあなたの父を裏切り、殺した。あなたは弟の命を助けるために、嫌々私に仕えている。そうでしょう?」
「へヨン様……」
「もういいわ。あなたが私のことを恨んでいることなど今に始まった話じゃないわ。私は、生まれた時から敵国に嫁ぐ運命だったの。責務を果たす日が来た。それだけのことよ」
へヨンがその場を離れようとすると、ジェヒョンが声を張った。
「へヨン様、お待ちくださいませ!」
「しばらく……一人になりたいの」
その言葉を残し、へヨンは静かに背を向けた。
その背中を、ジェヒョンは追いかけることができなかった。
「……へヨン様。あなた様は、分かっていらっしゃらない」
かすれた声が、風に溶けていく。
「僕が、あなたをどれほど……お慕いしているのか」
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